超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
なんせアダルトゲイムギョウ界から送られてくる刺客、それも大魔導師が選んだ相手だ。どんなバケモノが送られてくるというのか。人間以外でも驚かない自信がある。
「そちらの方はどうだ?」
《こっち? 特に異常はないかな。大魔導師の野郎はこっちに来ないみたいだし、その二人が問題起こさないとも限らないけれど――ああ大丈夫。何かあったら素っ首社会的に切り落とすから無問題無問題ー》
あっはっはと電話の向こうで笑うユウコの口からさりげなく恐ろしい言葉が出てきた気がするが、言及は避けておくのが懸命だろう。何故なら背筋が寒い。君子危うきに近寄らず。いずれ国政を担う立場となることを目指すアーサーからすれば当然の対応だ。
「そうか、何事も無ければいいんだ」
《そっちはどう? 楽しんでる?》
「ああ。中々に快適だ。ユウコも来ればよかっただろう」
《いやー、吸血鬼に日光浴とか海水とか水着はねー》
「そうだ忘れていた。ユウコは吸血鬼だったな。そんな素振りなど見せないものだから」
《ま、そんな私の気苦労は置いといて。そういうことだから、エヌラスのバカはそっちに任せちゃうよ。じゃーねー》
通話を終えて、アーサーはユウコからの事情を話す。
「……どうやって来るんですの?」
「さ、さぁ?」
「飛んで来るんじゃない?」
「まさかそんな。夕方頃に到着予定と言うなら、船でも……」
そうは問屋が卸さないのが、大魔導師の人選である。アダルトゲイムギョウ界では人呼んで歩く超常災害。天変地異など退屈しのぎに起こして死者数百人を叩き出す。それに選ばれた相手は現在、ゲイムギョウ界洋上。
R18アイランドへ向けて騎行する影があった。
《ユウコ様が仰っていたR18アイランドとはあの島のことでしょうか?》
「多分そうだと思うぞーい!」
方や、左腕に巨大なボウガンを括りつけた鎧武者。西洋騎士のようなフォルムではあるが、背中にロケットを背負っていた。高度二千。常人なら呼吸もままならないであろう高度と速度でかっ飛びながらも二人の声はいつもの調子を保っている。
「おほー、楽しそう! バカンスとかやっちゃう? 聞けば大人の為のリゾート地とか!」
《こらこら。カルネ、私達の目的をお忘れですか》
「ちょっとだけ! ちょっとだけだから!」
《振り落とされて泳ぎたいですか。全く仕方がありませんねー》
「さーせんっしたっしゃっしゃっしゃどーん!」
ぶら下がる形でミニスカメイドが一人。肩から下げているバッグには着替えと医療品その他諸々が入っている。
《はて、困りました》
「唐突にどうしたのスピカ姉?」
《今朝、突然大魔導師に「お前らクビにするから四十秒で支度しろ」と言われたものですから身分証明できるものを何一つ持ちあわせておりません》
今頃部屋ごと処分されているだろう。クビにされた理由が「優秀すぎた」では二人も言葉を失った。四十秒以内に退室しなかった場合、永久凍土と化した室内ごと焼却されていたことだろう。今思い出すだけでも背筋が寒くなる光景だった――必要最低限の物をカバンに詰め込んで滑りこむように抜けだした直後、大魔導師の魔術によって部屋が白銀の世界と化した。そして、次の瞬間には空間ごと瓦解。
《ゲイムギョウ界の市役所とかで住民票申請しないと保険とか受けられませんよ?》
「いや、そもそも私達ガイノイドだし」
《ダメですよカルネ。そういう怠慢が私達の労働環境の改善を滞らせるのですから》
「……ていうか、公安局の給料とかどうしようね」
《……確か通帳振り込みでしたね。こっちで下ろせるでしょうか》
ヒュゴォォォ……。背中のロケットから噴射されるバーニア音だけが虚しく潮風と共に流れていく。無一文、身分証明書無し。絶体絶命の状況に投げ出された二人だが、次の瞬間。
『まぁいいか! バカンスだ/です!!』
全てを投げ出して遊ぶことに没頭した。入島審査? 知るか。空を飛んでいるんだこっちは。不法入国? 知ったことではない。こちとら犯罪国家職員(元)だ。失うものなど何もない!
二人は半ばヤケクソ状態で突っ込んできた。その眼下、ちょうどよく目印になっていたホテルの前。
そこへ無防備に出てきたベール達と目が合った。
『あっ』
二人が言う間に、空を見上げたベール達も全く同じ反応をしたコンマ秒後にはホテル前に盛大な土煙が上がる。
大惨事と波乱がいっぺんにやってきた状況にアーマードカンパニアのロボット二体は頭を抱えていた。
《あぁぁ……まだオープン前なのに……》
《せっかくここまで俺達頑張ったのに……》
まるで完成直前の砂山を崩された子供のようにがっくりと項垂れる二体を余所に、スピカとカルネはメイド服の汚れを払い落としている。
「ぺっ、ぺっ。砂が口の中に入ったぁ」
「あらまぁ、立派なホテルですね」
その二人にブランが身構えた。以前、自分とネプテューヌの前に立ちはだかったメイド達だ。
「あなた達……」
「あら? 大人の楽園と聞いていましたが小さい子も」
「オイ! テメェなんつった今! わたしのこと小さいって言ったか!? どこ見て言った!」
「……はっ、もしや噂に聞くロリババァ! 大変ご無礼を!」
「ナチュラルに地雷を踏んでいきますわね……」
ブランが早速スピカの洗礼を受けて半ギレになりながら噛みつく。それを尻目にして、カルネはベールに頭を下げた。
「どーも初めまして! 最高傑作のポンコツメイド、二号の方カルネでっす! あっちは一号のスピカ姉!」
「コホン。どうも初めまして皆様方。ポンコツではない方の最高傑作、スピカと申します。こちらはポンコツな方のカルネ」
「いやいやさっき自己紹介したからね? なんで改めて私をポンコツ扱い?」
「頑丈さだけが取り柄でしょう貴方」
「あぁもうポンコツだろうが凡骨だろうがどっちでもいい! 今度は何しに来やがった!」
「なんでもユウコ様曰く、こちらにエヌラス様がいらっしゃると聞いて馳せ参じた次第ですわ。別に今回は女神様を相手にしに来たわけではありませんのであしからず」
「むしろ私達に就職先をください……ぐすん」
「え、えーと……」
とりあえず、その場にいるメンバーだけで自己紹介だけを済ませる。
《あのーグリーンハート様》
「なんですか?」
《いや、実はですね。つい先程、本社の方から連絡がありまして》
「なにかありましたの?」
《実はこちらに到着予定だったホテルのスタッフが急遽来れなくなりまして》
「なんですって!?」
《なんでも……リーンボックス近辺に突如として謎の機影が現れて、その迎撃に我々アーマードカンパニアの社員が出た所、その戦闘に巻き込まれて船が沈んだとのことです》
「お前らのせいじゃねぇか!?」
ブランのツッコミにぐぅの音も出ない。しかし、そうなると当面の問題が出てくる。そう、特に食糧問題。女神達は当然ながら料理など出来るはずがない。一部を除いて。その他のメンバーに関しても危ういところはある。出来るメンバーもいるが、ハプニングが起きないはずがない。
《それで、その機影を追うために緊急招集が掛けられまして……》
《我々は此処を離れなければならないんです。戸締まりとか任せてしまってもよろしいですか》
「ええ、構いませんわよ。ですが、それならわたくし達も遊んでいる場合では――」
《何を仰ってますか! バカンスなのでしょう!?》
《思う存分、身も心もリフレッシュ! そのための旅行! そのためのプラン! 我々が送り届けたチケットはその為!》
《ここは我々アーマードカンパニアにお任せください!》
「そ、そこまで言うのでしたら……」
熱意に押されて、ベールはサベージからホテルのマスターキーを受け取る。フロントのカウンターにあるキーボックスの説明を受けて、飛び去っていく二人を見送った。
「流石女神様、愛されていますね」
「さすめがですわ」
「いえ、それほどでも……それよりも。エヌラスの治療、ですわね?」
「あ、ついうっかり」
「エヌラスが聞いていたら半ギレだぞ」
うっかりで殺されてたまるか、と叫びながら起き上がりそうである。ベールとアーサーがなんちゃってコスプレイ医務室へスピカとカルネを案内した。その中に用意されている医療品の数々をざっと眺めて、スピカは不満そうに小さく唸る。
ベッドに横たわり、寝息を立てているエヌラスの顔を見て5pb.が声を漏らした。
(あれ。この人、確か……)
「身体が特殊でな。わたしの回復魔法では傷口の応急処置が精一杯だった。頼めるだろうか」
「お任せください、そのための私達なのですから」
「あ、スピカー。媚薬あったよ? 盛っとく?」
メギャンッ!
カルネが壁に頭を埋め込まれ、沈黙する。
「ご安心くださいませ?」
満面の笑みを浮かべてウフフと笑うスピカに、冷や汗を流しながら全員が頷いた。カルネは動かなかった。