超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「では私達が手術しますので皆様方は退室をお願いしてもよろしいでしょうか」
「任せたぞ、二人とも」
「はい。夕飯までには済ませておきますので、それまでどうぞ」
「夕飯……どうするの?」
「ふぁいふぁいふぁーい! モゴモゴ」
「壁に埋まったまま喋らない。何言ってるのかわからないから」
頭を壁から引っ張りだそうとおしりを振りながら、カルネが壁に手をつくと壁の穴を広げながら顔を抜いて首周りの瓦礫をふるい落とす。
「ぶるぶるぶる。はい! そこでこのカルネちゃん天才的な閃きがあります! ほら、私達メイドですし夕飯作りとか任せてもらえちゃったりすると就職先アッピルできるかなとか考えてたりしますが如何でしょうか!」
「いかがわしい臭いしかしないんだけど」
「何を言いますかブランちゃんさん! これほど自分の腹を割って話している私をこれ以上疑うというのですか何でですか」
「一周回って怪しさしかないのよ」
「激しく同意。そこまで裏表がないと確かに何か怪しい気がする」
ブランとチーカマの二人から向けられる猜疑の視線に、カルネがたじろぐ。そこへ見かねたスピカが助け舟を出した。
「お待ち下さい、ブランちゃんさん!」
「どっちなんだよ! っていうかやっぱりお前わたしのこと普通にバカにしてんだろ!」
「失礼な! そのようなことありませんですわよ!?」
「語尾が安定しませんわね……」
「すいません、夏だからといいますか。バカンスでハメ外してると言いますか。……コホン。ご安心ください、ブラン様。このダメイド。もとい最高傑作のポンコツメイド、カルネは裏表があまりになさすぎてむしろ思ったことを口にしているダダ漏らしのバカなだけです!」
「いくらなんでもホントのこと言い過ぎじゃありませんかスピカ姉ー! びゃー!」
「いいから早くエヌラスを治療してやってくれないだろうか」
アーサーの一言によってどうにか事態は収拾し、スピカとカルネの二人を置いて退室する。
二人は改めて、ベッドに横たわるエヌラスの顔を眺めていた。寝息を立てて静かに眠る姿に、妙な既視感を覚える。はて、と首を傾げる。不思議なことに、初めての経験であるにも拘らずこの状況を何度も経験しているかのような錯覚。
「……」
「カルネ?」
「なんか、前もこんなことあったような気がするんだけど」
「奇遇ですね。私もですよ、カルネ。大魔導師の顔より見慣れた光景であると、そんなはずはないのですけれどね」
九龍アマルガムに現れたエヌラスという旧神の顔を、初めて会った時から二人は知っていた。そんなはずはないと言い聞かせ、慣れ親しんだ殿方との交流はどうしてか心が安らいだ。それはそれとしても、だ。大魔導師から渡された治療器具を広げる。
「ま、そのへんはどうでもいいのです」
「全くです! 思い出話でお腹は膨れない! 就職先も見当たらないこんな世の中毒沼ポイズン! 目の前の事態に全力で取り組んだ勤勉者だけが人生の勝利者。よって、今私達に求められていることは」
「如何に我々がどれほどぐぅ有能であるかを、この世界を牛耳る女神様方にまざまざと見せつけて押し付けがましく就職先を凱旋してもらうこと!」
「そうと決まれば全力ファイヤー! オペを開始します!」
完全爆睡を決め込むエヌラスに麻酔など投与するはずもなく、スピカの手には電極。カルネの手には銀色に光るメスが握られている。
コスプレ用に用意されたなんちゃって医務室で本格的な魔導式医療が繰り広げられている頃、ブラン達を含めたビーチフラッグ争奪戦に参加した女神達は旗を探し求めてR18アイランドを歩いていた。
森林の中を歩いていたノワールとユニの二人は、その中で解体作業途中の大砲を発見する。
「お姉ちゃん、これって」
「ええ。二年前にR18アイランドに運び込まれた砲台ね。わたしが壊してからずっと放置状態だったのかしら?」
周囲には安全帯が張り巡らされており、立入禁止の立て札が置かれていた。とはいえ、あれから完全に放置されていたわけではないらしい。
「……」
「どうかしたの?」
「アーマードソウルスがR18アイランドにいるってことは、多分これも企業から解体の依頼が来てたってことかしら」
難しい顔で悩むノワールだったが、ふと見上げた先の砲身に粗末に括りつけられているビーチフラッグを発見した。
「あ! あんなところにあったのね。ちょっと取ってくるわね、ユニ」
「うん。気をつけてね。わたしも周囲を見張っておくから」
「ええ、お願い。よいしょ」
ノワールが砲台に上り、ビーチフラッグを回収する。
「まずはこれで一つね。ネプテューヌ達に先を越されたら堪らないもの。ユニ、早く戻るわよ」
「それにしても、さっきの衝撃ってなんだったんだろう?」
「そういえばホテルの方だったわね……わたし達は旗を回収したし、エヌラス達の様子でも見に行ってみる?」
この旗を奪われないかぎりはビーチフラッグ争奪戦で次のステージに進めるのは確実だ。ならば、まだ余裕はある。
「できれば、そうしたいかな……お姉ちゃんが旗を持ってるなら、落とさない限り安心だし」
「そうね。わたしも、無理矢理エヌラスを連れてきた手前、ちょっと責任感じてるし」
ホテルへと向かう二人と入れ違う形でブランとチーカマが出てきた。手に旗を持っていないところを見るに、どうやらハズレだったらしい。それを見送るベールとアーサーもノワールの顔を見て首を傾げていた。
「あら? ノワールまで。まだビーチフラッグ争奪戦の途中ではありませんですの?」
「そうなんだけど、わたしはもう見つけてきたし。ブランはまだのようね」
「ちょっとしたトラブルに見舞われてそれどころじゃなかったのよ。これから探しに行くところなの」
「なにかあったの? さっきすごい衝撃だったみたいだけど」
「……なんて言えばいいのかしら」
「ええ。なんと言えばいいのか……」
「二重の意味で、すごい衝撃でしたわ……」
「えーっとあんまり聞きたくないけれど聞かなきゃいけない気がするから聞くわね。何があったの?」
ノワールの問いに、ベール達が言葉を選ぶために悩んでいる。
「空から、メイドが降ってきました」
「どういう状況!?」
「でかいコントラバスのケースを持ったメイド……以前、ネプテューヌ達と一緒に戦ったことのある相手よ。なんて名前だったかしら。確か――スピリチュアル的な名前よ。もう一人は確かカルボナーラみたいな名前のメイド」
「なんでハッキリと覚えてないのよ、ブラン」
「しょうがないでしょ。インパクト強すぎたんだから……」
「うむ。だが、エヌラスの知り合いらしい」
「……もしかして、スピカとカルネ?」
名前を出されてブラン達が驚いていた。
「え、ええ。そういう名前のはずよ。知ってるの?」
「わたしも深くは知らないけれど。ロングスカートとミニスカのメイドでしょ?」
「ノワールも知っているのでしたら、何かあった時はお願いしますわ」
「ちょっと、貧乏くじこっちによこすのヤメテよぉ!? あの二人が絡んできたら流石にわたしだってどうしようもないんだから!」
デコボココンビのスピカとカルネ、人呼んで最高傑作のダメイドコンビ。あのエヌラスと主従関係を結んでいたにも拘らず、主人であるはずのエヌラスが頭を抱えていたほどのポンコツっぷり。それを自分が手綱を握れるかと聞かれたら自信はない。出来ることならご遠慮願いたいものである。
「それでさっきの衝撃なわけね……」
「驚きましたわ。左腕に巨大なボウガンを着けた西洋騎士が落下してきたと思ったらまさかの可憐な野良メイドだったんですもの」
「野良?」
「なんでも、職場をクビにされたらしい」
「就職先を探しにゲイムギョウ界に来たの!? アグレッシブ過ぎるでしょ」
「まぁ、大魔導師の人選とユウコの案内なら仕方ないんじゃないか?」
どうやら今回のアダルトゲイムギョウ界に関しては心配はいらないようだ。
それはそれとして、ベールがどこか落ち着きがなさそうにしていることにノワールは眉根を寄せる。
「どうしたの、ベール」
「実はリーンボックス近辺に謎の機影が現れたそうですわ。今はハァドラインの方が対処にあたっているそうですが……やはり心配ですわね」
「そうね。もしかすると新手の邪神かもしれないし」
「ですが、それはそれ。うまく共倒れになっていただければこちらとしては漁夫の利が狙えるので一任するべきですわね」
「大人の対応って、非情なのね」
「言うな、チーカマ」