超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――リーンボックス近海・洋上。
ベールの心配事は的中していた。現在、リーンボックスのハァドライン『アーマードカンパニア』がリーンボックス領海に出現した謎の機影を追撃。交戦中。名前通りの『武装企業』は会社そのものが軍事施設の側面を持ち、自衛行動が可能となっている。
海上を移動する機影――もはや要塞のような巨体はその身体に大量の砲弾が降り注いでいたが回避行動をするだけの機動力を持ちあわせていないのか、装甲で受け止めていた。
《撃て撃てー! 撃ちまくれー!》
《会社が火の車になっても金を稼ぐために働くのは俺達なんだ、撃ちまくれー!》
《でもって後でメチャクチャ怒られるのも俺達だ! 撃ちまくれー!》
会社の予算などいざ知らず。海洋浮上企業『メガフロート』からは景気よく砲弾を撃ち続けていた。どうせ放っておいても会社の倉庫で肥やしになるだけの重石。それならばいっそぶっ放してしまおう、というのが彼らの意見。大企業に合併されたしがない中小企業で働く者達のささやかな意思表示だった。
《援護はまだか!》
《管制室、ちゃんと援護しろよぉ!!》
《してんだよ!! 旧型の砲弾と大砲でどうにかなるわけないだろ!》
《あ、おい。こっちに向かってきてないか?》
《……ちょっと待て。俺達、先月の耐水診断受けたっけ》
《来週じゃなかったか?》
甲板に集まっていた社員達が間を置く。彼らは旧型の機体であり、当然ながら防水加工などされていない。それでも近年における技術力の進展はめざましく、古臭い機体であっても海上で勤務するに当たり障りない程度の加工を受けることができる。――が、それは来週の話。
もしこのまま、百八十度回頭している巨大な要塞じみた機影がメガフロートをひっくり返そうものならば勤務している社員、数十名が海中に没することとなる。
《だ、誰かー!!》
《管制室、何をしてるんだよ! 援護しろよー!!》
《だからしてるって言ってんだろうがーー!》
《うぉーい、言い争ってる場合か! 離脱だ、離脱するぞ!》
《馬鹿野郎お前知らないのか! 海には河童がいるんだ、俺達が近づくだけで水底行きなんだからな!》
《言ってる場合かぁー!》
甲板で右往左往している社員たちが各々の判断で離脱するか最後までの抵抗を試みていた。だが、その奮闘も虚しくメガフロートは機影の体当たりによって大きく船体を傾ける。輸出入の物資や社員たちがなんとか踏ん張ってこらえるものの、何名かはそのまま海中へと没していった。
《ゴボボボボボ……》
《ブクブクブク……》
《お前らー! 大丈夫かー! 最悪メモリだけでも回収出来ればなんとかなるけど!》
《ロボットの命ってマジ安い》
彼らの人権問題はさておき、このままではアーマードカンパニアが経済的打撃を受けると共に突如現れた謎の機影によって大赤字。破産となってしまうかに思われた。
《――フン、貴様ら。空気にもなれんか》
《こ、この何処か鼻につくけれどもエリート気質を漂わせる声は!》
接近する新たな友軍の機影。それは、本社から派遣された援軍。
《王子! 王子ではありませんか!》
《ここは私達に任せろ。いけるな、シロトラ》
上空を飛行する機影と、もう一つ。大海原の上を滑る白い機影があった。純白の機体は巨大な剣をサーフボード代わりに背面のブースターを吹かして波を切り裂いて進軍している。
《人使いの荒いことだ》
《まぁ、空気で構わんがな。やるぞ》
(……あの機影は)
シロトラは海上をゆっくりと面舵一杯を取りながら旋回する巨体に、奇妙な既視感を覚えていた。それは、自分が知るはずもないはずの相手。見覚えなどないはずなのに――どうしてか、搭載されている武装の数々のデータが脳裏を駆け巡る。
(やはり、なにか妙だ)
あの男――仮面を着けた男と出会ってから、何かがずれ始めている。自分の知っている世界が徐々に崩れていく感覚に、シロトラは速度を上げた。
《気をつけろ、テルミ――》
《メインブースターがイカれただと!?)
《おい、話を最後まで聞け)
どうも、水難の相があるらしいとは聞いていたがこれほどまでとは思わなかった。シロトラは早々に離脱して無事なメガフロートに着艦するテルミを見送る。最初からあてになどしていなかったが“アレ”を沈めるともなると一苦労だ。
だが、やるしかない。今の自分は古巣を捨てた。気構えるシロトラにノイズが走る。
――手伝ってやろうか?
(……余計なお世話だ。黙っていろ、邪神)
――そう邪険に扱わなくてもいいだろう。喜べよ。アレはお前の為に用意したんだ。
シロトラの、無いはずの記憶が引きずり出される。あれは、そう。確か――機動要塞『ヤグランデ』だ。装甲と火力に物を言わせた大艦巨砲主義の権化。言うなれば時代遅れの遺産。で、あるがゆえにオーソドックスな質量攻撃はほぼ無駄だ。生半可な火力では装甲を撃ち抜くことなど出来やしない。
《あの程度の鉄クズ、邪神ですらない。ガラクタのポンコツだ》
背面の一対のブースターが更にバーニア炎を噴いた。加速する。大海原の上を駆け抜ける一条の流星となって、シロトラはものの一撃でヤグランデを正面より粉砕した。
《俺のブルース・ザ・リッパーを止められるものか》
前時代の遺産――。……前時代? シロトラは困惑した。なぜ、あんなものを知っているのだろう。なぜあんなものを仮面の邪神は用意したのだろう? どうやって用意したのだろうか。
様々な疑問を胸に、振り返ったヤグランデは浮力を失って沈んでいく。アーマードカンパニアの被害は多少出たものの、まだ想定の範囲内と言えよう。
メガフロートに着艦したシロトラの目の前で空間が歪んだ。そこに現れたのは、やはり黒づくめであり仮面を着けた邪神だった。それに剣の切っ先を突きつける。
《答えろ。貴様は何者だ》
「ただの“絶望”さ。お前にはどうでもいいことだろうがな」
《アレをなぜ差し向けた》
「そうだな。ただのテストだよ。お前が本物かどうか。俺としても慎重に越したことはない」
《どういう意味だ……》
「――――■■■■■■を識っているな? いいや、知らないはずはない」
《――――――――――――――――》
「お前はまさか、自分が信仰していた女神の名前すらも忘れたのか? どうでもいいことだが、俺としても戦力が多いのは嬉しいことだ」
切っ先を突きつけたシロトラが後ずさる。
「手を組まないか。お前は女神を殺せる。俺は、ある男を殺したいだけだ。テストは合格だよ、シロトラ。お前たちの戦争に手を貸してやる。責任者と話をさせてくれ」
《……な、ぜ。その、名前を……》
「答えは簡単だ。俺が、彼女と、一緒にいるからだ。確かめたければ俺の手を取るといい。道案内してやる」
無防備に差し出した仮面の邪神の手を見下ろして、シロトラは硬直していた。
「お前が忘れて、誰からも忘れ去られた歴史の国にな」
――ビーチフラッグ争奪戦の事の顛末については、日が暮れたホテルへとやってきたネプテューヌ達の疲弊具合を見て容易に察することが出来る。結局のところ、優勝したのはトップシェアの意地とでも言うべきか、ノワールだった。残す競技はキャットファイトのみだったのだが、海上の設営に思いの外時間を要しているらしい。加えて、リーンボックス周辺でのアクシデントも込みでスタッフの確保が難しいことから中止となっていた。5pb.ちゃんもまた、撮影スタッフの到着が遅れるとの連絡に肩を落としている。多少休暇が伸びたと思えば多少は前向きになれるだろう。
ホテルのフロントロビーへとヘトヘトになりながらやってきたネプテューヌ達を出迎えたのは、スピカとカルネの二人だった。深々と頭を下げて咳払いをひとつ挟む。
「コホン。本日は当ホテル、オープン前にも拘らず既にちょっと壊れた箇所が目立つビッグボックスカッコカリへと遠路はるばるご来訪頂きましてありがとうございます。ホテルのスタッフの到着が遅れているそうなので僭越ながら私、スピカとカルネの二人が皆様達の身の回りをお世話させていただきます」
「よろしくおにゃーしゃー。堅苦しい挨拶嫌いなのでしゃっしゃっしゃーす」
「挨拶軽っ!?」
「わーい、スピカとカルネだ! 久しぶりー、元気にしてた?」
「わほーい、ねぷちゃんさんだ! そりゃもう四六時中私は無駄にハッスルマッスルしてるよー、昼も夜も朝まで! 主にベッドの上で」
「ちょいやっさ」
バギゴン!
ノーモーションのハイキックがカルネをフロントの壁に叩きつけた。沈黙数秒、復帰二秒という驚きの回復力で何事も無くスピカの隣に並ぶと会釈する。
「そういうわけでよろしくお願いします!」
「エヌラスの治療はどうなったの?」
「あ、終わりましたよ? それと夕飯の支度の方ももうじき終わるので、それまで疲れをゆっくりと癒やしていってください。お風呂、とか。混浴、とか。マッサージとかエステとか。なんならふわふわベッドの上で大運動会朝まで第二回戦とか――」
「しぇいらっしゃ」
今度はカルネがきりもみ回転しながらガラスを突き破って外まで蹴り飛ばされた。
「では皆様。鍵はこちらとなります。個室でも相部屋でもご自由にどうぞ。ベール様」
「ええ。こちらがルームキーとなりますわ」
最新テクノロジーによる防水性のブレスレットキー。腕にはめて扉の側に備え付けられた端末で認証することで解錠と施錠が出来るらしい。これならば無くす心配もない。
「ご安心ください。いつものことですので、みなさまはハメを外してのびのびとハメハメ……ゲフン、ゲフンゲフン。失礼しました。ごゆるりと」
――不安だ……! ものすごく……!
その場にいた全員の心境が一致した。