超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――エヌラスは室内に備え付けられているバスルームへとネプテューヌとプルルートを担いで入る。シャワーだけで済ませようかと思ったのだが、プルルートがお風呂に入りたいと言うので湯船に浸かる。思ったよりも広い湯船はエヌラスが足を伸ばしても十分余裕があるスペースが確保されていた。……問題があるとすれば。
「くっつきすぎだ、お前ら」
「えぇ~?」
「いいじゃーん」
ネプテューヌは首に手を回してくっつき、プルルートは足を伸ばすエヌラスに背中を預けてもたれかかっていた。ネプテューヌに至っては頬ずりしてくる始末。
「いいか、俺は。休みたいんだ。休憩させろ」
「してるじゃん」
「してるよぉ」
「……」
あのね、オンナノコ。オトコノコが言いたい休憩ってそうじゃないのよ。エヌラスは目頭を押さえた。なんと言えばいいのだろうか。なんて言えばこの二人は休ませてくれるだろう。もうこの際ガッツリいただきますして気絶でもさせてやればいいだろうか? よーしそういうことならおにいさん頑張っちゃうぞーふふふー。――エヌラスは疲労感からか若干、思考が不安定になっていた。今なら黒塗りの高級車を廃車同然にしてしまうかもしれない。
湯船の縁に身体をぐったりと預けてエヌラスは全身の力を抜いた。それにピッタリと身体を寄せてくるネプテューヌとプルルートに気が散る。そのせいでこちらも否応なしに身体が反応してしまう。さっきまで抱いていた身体が密着してくる、というのは余りよろしくない。
「……むぅ」
さて、どうしたらよいものか。身体を寄せてくるプルルートの頭を撫でながら考える。
「えへぇ~。くすぐったぁい」
跳ねた髪の毛は湯気を吸ってしなやかに指先に絡みついてくる。それを引っ張らないよう、傷めないように細心の注意を払いながらエヌラスはプルルートの髪を梳くように撫でていた。それにすっかり大人しくなってしまっているのを見て、ネプテューヌは悔しそうに頬を膨らませる。
「いつもぷるるんばっかりズルいぞー! エヌラス、たまにはわたしも甘やかしてくれてもいいじゃーん!」
「あーハイハイ。ほれ」
「んもー、そう言っていっつも蔑ろにしちゃうんだから。たまにはわたしも主人公らしくねっぷねぷにしてくれてもいいのに!」
「おー? そこまで言うならこうしてやるぞおらー! ねっぷねぷねぷねぷー!」
「あはははははは!! くすぐったい! くすぐったいってばー、笑い死んじゃうー!」
脇の下や足の裏など思いつく場所をくすぐると、これは辛抱堪らんとばかりにネプテューヌが笑い転げて湯船の縁に身体を預けて離れた。それに満足するとようやくエヌラスは深く息を吐き出す。
「そういや、他のみんなは大丈夫なのか?」
「う~ん、どうだろう? 結構媚薬入りご飯食べちゃってたし……」
厨房で見た限りではそれほどの量があったようには思えないが、塵も積もればなんとやらだ。こうなってくるとノワール達が気がかりになってくる。今頃大女神乱交祭りになってなければいいが……いや、それはそれで見てみたい。むしろ参加したい。いや何を言っているんだ。エヌラスは頭を振った。どうやら自分も多少なりとも頭が惚けているらしい。
「よいせ、っと」
「あれ? もう上がっちゃうの?」
「ん? ああ。ほれ、お前らもスッキリしたみたいだし」
「言われてみれば……」
「なんかぁ、ちょっと気分イイかもぉ」
「そういうわけなので俺は早々に部屋を抜け出したい」
「それってぇ~……?」
「つまりは、他の女神もこの調子でズッコンバッコンぎっしんあんき! 目指せハーレム王、ゲイムギョウ界アダルティックにフルコンプ目指しちゃうー!?」
「んじゃちょっとノワール達の様子見てくる」
「安定と信頼のネプスルー! ネタの投げっぱなしジャーマンスープレックスとかダメだぞー、伏線とかの回しゅ」
「なげぇ。三秒」
「ごろにゃーん、かまってよ~」
「…………すまん、ケモミミは今ちょっと遠慮したい」
あまり良い思い出がない。いや確かに見たいし凄く見たいし似合うだろうしものすごくモフりたい。改めて物凄くモフりたい、おもっくそ撫で回したい。嫌がられてもモフりたい。だが、そう都合よくケモナールなんて代物が出回っているはずもないので胸に秘めておく。
「とにかく、俺は先に上がるからな。頼むから部屋から出るなよ」
これ以上面倒なことになるのは勘弁願いたい。エヌラスはまだくっついてくるプルルートを下ろし、脱衣室で身体を拭くと湯冷めする前に上着を羽織った。それを見送る二人が顔を見合わせる。
「ねー、エヌラスー!」
「なんだー」
「身体の傷、大丈夫なのー?」
脱衣室から悲鳴が聞こえてきた。
ビッグボックスカッコカリの廊下を歩く。エヌラスは歯を食いしばりながら壁に手をついていた。そういえばそうだ。我ながら忘れそうになっていたが、これでも瀕死の重傷を負った身で来ている。それをバカメイド一号×二号=馬鹿げた大惨事による手術で快復に向かっているとはいえそれとこれでは話が違う。
言うなれば全身擦り傷で海水浴するようなものだ。ぶっちゃけ似たような体験をしている。自分でも単純な頭をしていると思うと泣きたくなってきた。
「いてぇ……全身いてぇ……! 沁みるようにいてぇ……!!」
なんで湯船に浸かった自分、バカなのか。半べそかきながらエヌラスは何とかエントランスのソファーまで戻ってきた。そこで身体を横たえるなりカエルのような鳴き声をあげる。
「げぇー……」
「あらエヌラス様、どうされましたか死にかけて」
「あららー、ダメですよ。そんな風にだらしないとジュルリぐへへへ」
「うわキメェ。オンナとしてしちゃいけない顔してヨダレ垂らしんじゃねぇよ夢に出るだろ」
「寝なけりゃいいんですよ!」
「永遠に寝てればいいのになお前……いいから何か飲み物持ってきてくれ」
「私の涎で良ければ!」
右ストレートで鎖骨の辺りを全力で殴っておいた。
「ふぃぎゅ!?」
「スピカ」
「かしこまりました。ほら行きますよカルネ」
「あぅぅ……私が欲しいお仕置きこういうマジなのじゃないぃ~……あ、でもこれはこれで新世界開拓……うへへ……」
もうアイツ無人島で首から上だけ埋めておこう、廃棄処分の方向性が決まったエヌラスはグッタリと天井を見上げる。
「……平和だ」
その平穏を乱すバカメイドが二人ほどいる以外は。
「どーしてこう、あのバカどもは余計なことしかしねぇんだ……?」
「飼い犬は飼い主に似ると言うではありませんか」
「おいそれはどういう――どぉぉぅベール!?」
「わたくしの名前を犬みたいに言うのはどうかと……」
「ビックリさせんな」
一体いつの間に来たのやら、エヌラスは危うくソファーから転げ落ちそうになった。
「……ん、ベール。その水着」
「あら。気づきました?」
「なんでわざわざ着替えたんだ」
「いくらなんでも一日中同じ水着を着ているわけにはいきませんもの」
「まぁそりゃそうか……」
替えの水着くらいは用意しておくのは当たり前の話だ。
「どうです? 似合ってますか?」
言われてエヌラスはベールの水着をザッと眺める。大人びたベールらしい、パレオの付いたビキニはまるでセレブの令嬢。気品漂う佇まいに比べて――エヌラスは自分の身格好を改めて見下ろす。ファッションを後回しにした明らかに一人だけ浮いているような格好。
「……似合ってるな、ベールらしく優雅な雰囲気って言ったらいいのかどうかわからんが」
「お褒めに預かって嬉しいですわ」
「話し変わるけどな、ベール。お前あの夕飯食べて大丈夫だったか?」
「大丈夫じゃありませんわ」
「…………」
「…………」
サラッと笑顔で発せられた怖い言葉を聞き流した気がする。
「えーっと。そ、そうだ! 何か用か!」
「せっかくのリゾート地なのですから、騒がしいお昼のイベントからは一変した静かな夜の海でも眺めにいきませんこと?」
「あー、そりゃあいいな。行くか、正直もうやかましいのは疲れた……」
「そうと決まれば――あら、スピカ?」
エヌラスが身体を起こすと、タイミング良く戻ってきたスピカとカルネがトロピカルジュースを持っていた。透き通る青い液体と、カルネの持つ――いや何色だそれ。名状しがたい虹彩を放つ神秘を通り越したおぞましい液体がグラスの中で揺れている。
「あ、飲みますかベールさん? カルネ特製シャイニングトラペゾウムニャルラごじゃっぺカクテルジュース」
「お前今噛んだだろ。絶対に噛んだだろ。あと原材料にさり気なく自分の原動力使うんじゃねーよ、人体に致死量の猛毒だろうが」
「女体の神秘ならなんとか!」
「スピカ、コイツ海底に生き埋めにしてこい」
「ちなみに私の作ったトロピカルジュースはチェレンコフカクテルですがいかが?」
「テメェ等海底神殿に沈めるからちょっとツラ貸せ! それが嫌ならそれ飲め」
「とか言いながら本気じゃ――」
左手に光球を構えるエヌラスを見た瞬間、二人がトロピカルジュースを飲み干した。その後口を押さえながら全力で廊下を走り去っていく。
「もういい、行こうベール。頼む、もう俺の精神力が平静を保つのつらい」
「語彙力も危険域ですわね……」