超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「なぁ、アイエフ」
「あら。なにかしら?」
「ふと思ったことなんだが――」
ネプテューヌとプルルートのいる部屋の前まで来て、エヌラスは腕を組む。そう、このホテルの施錠システムのことをすっかり忘れていた。腕に着けたブレスレットの認証コードによって開閉、自動ロック式。なので現状、中から開けてもらわなければ部屋に入ることは叶わない。逆に考えれば、だ。要はそれさえどうにかしてしまえばいいわけで。
「俺が軽く“
「入国審査の時点で既にやらかしてるんだから、もうそういうことしちゃダメよ。今度やったらしょっ引くからね」
「お前休暇中だろ。な?」
「な? じゃなくて。あたかも見逃してくれとでも言わんばかりのニュアンスで言わないの」
これだから良識人は。そう考えて、自分が随分と“本国”寄りの思考になっていることにエヌラスは自分の事ながら驚きつつも、気を取り直して軽くドアをノックする。
「おーい、ネプテューヌ。プルルートー、朝飯だぞー」
「まだ寝てるのかしら?」
「その可能性が高いな」
「……」
「なんだよ、その「アンタが頑張ったからじゃないの?」みたいな視線は」
「そんなこと思ってないし考えてもいないしそんなつもりじゃなかったんだけど」
「じゃあどういうつもりだったんだ?」
「えーっと……まぁ、そうね。うん、元気なのは良い事よ」
はぐらかしやがった。そう思いながらもエヌラスはどうするかと腕を組んだまま考える。すると、ネプギアが駆け寄ってくる。
「あ、エヌラスさん。アイエフさん。おはようございます」
「おはよう、ネプギア」
「よう。おはようさん」
「もしかしてお姉ちゃん、まだ起きてなかったんですか……?」
「そうじゃなかったら起こしに来てないんだよ」
ネプギアは別室で泊まっていたようで、さーてこれはいよいよ持って打つ手なしか? とも思ったが、マスターキーの存在を思い出した。確かベールが持っていたような気が……。
「ネプギア。ベール呼んできてくれるか」
「はい、いいですよ」
「多分まだ食堂にいると思うから、お願いね」
そして部屋の前で立ち往生のエヌラスとアイエフの二人。ネプギアが戻ってくるまで数分の猶予がある。
「……」
「……」
「アイエフ」
「なに?」
「そのパーカー、似合ってるな」
「ありがと」
「結構良さげだな。どこで買ってきたんだ?」
「プラネテューヌでよ。ちょっと知り合いに紹介してもらった服屋でね。高かったのよ、コレ。完全防水でポケットも多いから携帯も持ち運べるし」
「この現代っ子め」
そもそも携帯を九個も必要なのか? というよりも自分の持ち運んでいる携帯電話の用途が用途だけに他人と価値観がズレているのだと考えると――いや、それでも九個は多い。多すぎる。
「そういうエヌラスもそのパーカーはどこで買ってきたの?」
「あぁ、コレか。大元はラステイションで」
「大元って、市販品でしょ?」
「いや、そっから俺が手を加えた」
急拵えではあるものの、魔術的加護を施してある。簡単に説明すれば自動回復だ。着用していれば非常にゆっくりではあるものの傷が癒えていく。アイエフに言われて、改めて自分の着ている黒のパーカーを見直すと、なんともずさんな設計である。確かに服飾としては申し分ない機能性なのだが、魔術礼装として見れば三流以下だ。研修生かと笑われるレベル。誰に言われたわけでもないのだがエヌラスは無性に腹が立った。
「……後で作り変えるか」
「え、作り変える? 服を?」
「ああ」
人形工学師の資格を持ち合わせているエヌラスにはその素体の服飾を形作る技術も同時に要求される。だがそれだけならば一般的な服屋と変わらない。裁縫技術がそれなりにあれば事足りるのだが――ここからが犯罪国家の本領発揮。魔術礼装の製造技術となると、もうお手上げだ。
「適当な服を買ってきて、それを一度分解する。んでもって固定概念を付与する」
「…………」
「もちろん物質的にも魔術的にも。端折って説明すれば、生地に魔術を編み込むって考え方で良い」
その最たる例が、ハウンドスーツ。大魔導師が一昼夜で作り上げ、編み上げた超理論を縫い込まれた衣装。生半可な鎧などよりもよほど強力だ。興味津々といった様子でアイエフが頷いていた。
「面白そうね、それ」
「だからポケットの中の空間広げて、多次元ポケットとかも作れたりする――らしい」
そこまでの技術は残念ながらエヌラスにはない。せいぜいが三属性に対する強力な耐性付与くらいのもの。即ち、電気、水、炎。得意とする電導、クトゥガ、イタカ。そのせいかやたらめったらに頑丈なのがスピカとカルネのメイド服だったりする。大魔導師が手がけたとはいえ、流石に職員の着用する衣装。オーダーメイドとまではいかない。それこそエヌラスの着ているハウンドスーツのようには。
「それって服ならなんでもいいの?」
「本来は服飾に使う技術じゃないんだけどな……」
誰だよこんな技術を服飾に転用した
「ま、とにかく俺にはそういうことが出来る。あくまでも補助的なものだけどな」
「そういう技術があるなら、それで真っ当に食っていけるんじゃない?」
「…………」
「珍しいじゃない、そういうの。ゲイムギョウ界でもギルドでクエストを受ける人達は多いし、ルウィーなんてハンター達も最近増えてるんだから需要はあるわよ」
成る程、とも思う。アイエフはそれについて好意的なようだ。だがエヌラスはと言うとそうではない。まるで他人事のように。ああ、そういう生き方も“あった”のかと感心してしまった。そもそもにしてそんな技術を自分が持っているのだと再認識した程だ。自分の事を言われてから気付くというのは、何というかあまりにも間抜けが過ぎる。
「いやな、アイエフ」
「なに?」
「……元・犯罪国家国王に向かって、真っ当に生きるとか。無理だからな?」
「どうしてそこで諦めるのよ、そこで!? 出来るでしょ、やれば出来るでしょ!? 何事も挑戦よ、ほら頑張りなさいって」
「いやぁ俺プラネテューヌで指名手配されてるしなぁ……そんなやつが匿名で服売っても売れるわけねぇんだよな」
「なんでそういうところだけ真面目なのよアンタは!」
ことさらに、損得勘定で言えば頭は回る方だ。何故ならユノスダスで嫌というほど時間は金である事を学ばされている。体に染み付いている労働時間の利益換算。言っては何だが賃金には口うるさい。
「自業自得って言うだろ」
「悪い方向で考えるんじゃなくてもうちょっとこう、ポジティブになれないのかしら」
「ネット販売?」
「匿名販売の最たる例を挙げれるんならそっちでいいでしょうが!」
何故かアイエフにめちゃくちゃ怒られていると、ネプギアがベールを連れて戻ってきた。
「お待たせしました! って、アイエフさん。どうして怒ってるんですか?」
「気にしないで。この社会不適合者をどう社会復帰させてやろうかと頭を勝手に悩ませていただけだから」
「夜の街なら支配者になれそうですわね」
「闇市場……そういうのもあるか!」
「な・い・わ・よ!」
無いらしい。ゲイムギョウ界マジ平和。