超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
《……いー、もしもしぃ~》
「眠そうだな」
《当たり前だろー……私吸血鬼やぞー、朝はねむねむなのよ》
朝のモーニングテロをやっている国王が何を言っているのか。それはともかく。
「あー、まぁ……とりあえず。おはよう」
《……おはやう。ん~~……!》
身体を伸ばしているのか、大きな欠伸も聞こえてきた。ピーシェも一緒に寝ているのか、寝息が微かに聞こえる。
《はぁ。どうしたんだよぅ、朝っぱらから》
「いや、大した用事じゃないんだが。そっちの調子はどうかと思ってな」
《私プラネテューヌの国王になりたい》
「なにほざきやがんだコイツ……」
《だぁってお仕事簡単で平和なんだもーんー、やーだー、私ここの女神様になりたいぃー》
確かにアダルトゲイムギョウ界に比べれば赤子の手を捻るが如く。
「そういうこと言うな。プラネテューヌの女神はネプテューヌで、お前はあくまで不在の間の代理人なんだから」
《お前なんでこういう時にばかりまともなこと言うんだ》
「いや、そんなん言われても」
《お前のせいで朝からテンションガン下げなえぽよなんだけど》
「何語だ」
《大した用もないのに電話掛けてきた挙句に人のテンション下げるとかなんだよう、新手の嫌がらせかなんかか! 私に恨みでもあるのか!》
山ほどあるのだが、言わないでおく。それを圧倒的に上回るレベルで世話になっている。
「そっちの方がまだ問題なさそうならいいんだ。悪いな、寝てる所起こして」
《まったくだ。お前帰ってきたら覚悟しとけよこんにゃろ》
「んじゃ、切るぞ」
《あー、うん……》
「……なんだよ」
《いや、なんつーか……ね? エヌラスから電話かかってくるの珍しくて。ま、まぁ、たまにならモーニングコールしてくれてもいいよ》
「……寝ぼけてろバカヤロ」
《うん、そうする。んじゃ、そっちもしっかり楽しんできてね》
「あぁ」
そのまま通話を終えてエヌラスは深く息を吐いた。ホワイトボードの文字を消していたアイエフが横目で盗み見る。
「隣で聞いてて少し恥ずかしくなるような夫婦ぶりだったわよ」
「やめてくれ」
自分でも少しそう思っただけに気恥ずかしい。
「さて、それじゃ朝のブリーフィングも終わったんだし。今日はどうするの」
「特に考えてないんだよな。あの二人のおかげで身体の調子は悪くないし……のんびり観光でもするか」
「それがいいんじゃないかしら。ここ一応は観光名所なわけだし」
じっと見つめてくるアイエフの視線に、眉をひそめる。何処かその視線が柔らかい、気を許したような視線にエヌラスは顔を背けた。
「……なんだよ」
「いえ。別に? なんだか機嫌良さそうだから。というよりは、憑き物が落ちたって感じね。安心したわ」
「憑き物が落ちた、ね……たしかにそうかもな」
自分に課した誓約――諦めない。諦観を捨てた生涯に意味があったのか。それはまだ分からない。だが、少なくとも漸く少しだけ救われた。
「アイエフも。ネプテューヌのお守りは程々にしてしっかり休めよ?」
「そうね。言われるのはちょっと癪だけど、そうさせてもらうわ。できるだけ面倒は起こさないで」
「善処する」
本日のエヌラスはノワールが独占。そのため、二人きりで行動するということになった。プルルート達からあれやこれやと言われながらもそういう約束だったので仕方ない。一応マスターキーはエヌラスがベールから預かる形となり、ベールもハメを外して今日は遊び倒すつもりらしい。ビッグボックスでネット回線が確認された途端に部屋に篭もる辺り色々ともう、女神として大丈夫なのかと不安はあったが。自分が気にしても仕方のないことなのでネプギアに気に留めておくようにと一言入れて浜辺へと。
旅行客の大半が利用しているビーチだけあるが、流石に朝から利用する人々は少ない。まばらな人だかりを避けてノワールは突然森の中へと進路を向けた。
「どうした?」
「いいから。ついてきて」
「ああ」
森の中に何かあるのだろうか? エヌラスは疑問に思いながらついていくことにした。
しばらく歩いていると、開けた場所に出る。しかし、周囲には立入禁止の看板と工事中のテープが張り巡らされていた。ノワールがそれを平然と乗り越え、エヌラスも続く。聞けば、それは何年か前にゲイムギョウ界を騒がせた事件の際に使われた砲台であるらしい。聞けば驚くことにピーシェがイエローハートとしてネプテューヌ達の前に立ちはだかったという。
「でもそれ、昔の話なんだろ? 今更なんでこの壊れた大砲に」
「ちょっと気になる事があるのよ。もしかするとハァドラインの手がかかってるかもしれないじゃない」
ふむ、言われてみれば。気にはなる。むざむざ放置しておくわけがない。仮に解体作業があるにしてもこうも長年置かれているものだろうか? その調査を手伝って貰いたい、ということらしい。なら、断る理由も無かった。
エヌラスは周囲の安全と内部の様子を見て、ノワールの手を引いた。
「薄着なんだから、気をつけろよ」
「わかってるわよ」
流石に破壊されただけあって中はメチャクチャに荒らされている。しかし、完全に放置というわけでもない。ある程度機材は片されていた。
「電源は……そりゃ死んでるか」
物は試しとコンソールを叩いてみるが、反応はない。ノワールもあちこち触ってみるが、やはり反応は返ってこない。
「こっちもダメね。せめて何か資料とか置いてないかしら」
「いいのか、女神がこんな事して」
「何言ってるのよ。女神だから良いのよ」
「職権乱用っていわねぇかそれ……」
さながらロールプレイングの勇者様。ゲイムギョウ界の女神様。火のない所に煙は立たないが、確かにきな臭さがある。重油の臭い、嗅ぎ慣れた鉄の香り。エヌラスが暗い室内を見渡す。
「……妙だな」
「どうしたの?」
「いや、人の気配がしないんだよ。この部屋」
「当たり前でしょ。私達二人しかいないんだから」
「そうじゃなくてだな。なんというか……人が手を加えたと思えないんだよ」
砲台の内部に入った時から感じていた冷たさ。無機質に凍りついた室内。しかし、片付けられた機材。気になって、張り巡らされている配線を確認する。千切れた物もあるが、繋がっているものも多少は確認出来た。
「配電盤は……見当たらないな」
「……怪しいわね。なにか無いかしら」
「どうにでも出来るがな。こういうのはな、こうやって」
エヌラスが足を振り上げ――紫電を纏わせる。
「こうすりゃあ大抵どうにかなる」
そして、振り下ろすと室内全体に電撃が奔り、電源ランプが赤く点滅した。ボタンを押すとまだ生きている機材が起動していく。ノワールはそれに目を丸くしていた。
「手慣れてるわね」
「廃墟とか探索する時にこれで凌いでたからな」
「勝手に?」
「電力は自前だ」
不法侵入については触れずにおいておく。