※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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エピソード181 それは斯くも悪夢のような一夜(後編)

 

 

 砂浜で遊んでいたエヌラスの妹が、ふと大海原に目を向けて細める。手をかざして血のように赤い魔法陣で爆風を防ぐと、大魔導師が砂埃を払い落としていた。

 

「ああ、すまんな。飛ばしすぎた」

「ひどいわ、大魔導師。兄様が師と呼んでいなければ絶殺ものよ?」

「それは恐ろしいな。何を作っているんだ」

 大魔導師が、砂浜に形を作りつつあるソレに目を向ける。砂で形作られていく、少女らしい可愛らしく丸みを帯びたフォルムで簡略化されているソレは一つや二つではない。

 

「ねぇ大魔導師? これは本当に兄様の為の修行? もし、そうでなければ私は貴方を許さないわ。ええ、許さない。決して、絶対に」

「アイツの為の修行だ。聡いお前ならば気づいているだろう」

「ふふふ、そうね。ふふっ、ひどいひどい大魔導師」

 エヌラスはこれを知らない。だが、大魔導師が仕向けたのには理由がある。九龍アマルガムから生まれた物ではない。何故なら神と崇め奉られる存在は、大魔導師達神格者のはずなのだから。ならば何故、絶海の孤島は邪教崇拝を始めたのか。

 それは、エヌラスの妹こそが造る砂の偶像が物語っていた。

 

「果たして本当に非道なのはどちらだろうな。俺の為にアイツを利用する俺と」

「私の愛の為に利用する私。ああ、兄様……可哀想な兄様……」

 トロンとした笑みを浮かべて、エヌラスの妹は砂浜に造り上げた偶像を整える。

 

「でも、全ては貴方の出不精が元凶なのよ? 大魔導師。忘れていないでしょう? 私と兄様は同じなの」

「お前の方が面倒だ。下地はあった、認めよう。元となる場所もある。これは仕方のないことだ。しかし、だ。それでもなお、汚染するとはな」

 その手に浮かぶのはゼロクリスタル。シェアクリスタルと同列の奇跡の結晶。

 

「この力は、そういう力だもの」

「まぁいいがな。歪んだ兄妹愛(かぞくあい)に俺が口を挟むことなどない」

 大魔導師は顎に手を当てて、考え込む。

 

「……たまには釣りでもするか」

「いってらっしゃぁい」

 振り向きもせず、エヌラスの妹はペタペタと砂遊びに興じる。

 

 

 

 ――エヌラスは、孤島に到着してから感じていた違和感の正体に早速出くわしていた。この島には人の気配がない。その代わりに割拠しているのは、人とも魚ともつかぬ生命体。聞くに堪えない声を発しながら、のっそりとした動きで包囲していた。

 

「これじゃ調査もクソもねぇぞ師匠!」

 無手の格闘は九龍アマルガム仕込み、大多数相手ならば尚更。体力を温存しつつ、相手の急所を狙いながら移動する。邪教崇拝、ともなれば、教会があるはずだ。彼らにとっての神殿が。

 人間相手の急所は効果が薄い。ならば、とエヌラスは首元。そのエラに向けて鋭い蹴撃を見舞う。予想通り、血液混じりの泡を吹きながら一匹が悶絶死を遂げる。弱点がわかればこちらのものだ。

 一匹、また一匹と倒れていく。組みかかる相手を引き寄せ、逆に上空高くへ投げ飛ばす。サイボーグマフィアの事務所にカチコミさせられた時に比べればこの醜悪な怪物の群れなど楽なものだ。

 

「っしゃオラァ!」

 水かきの付いた鋭い爪を受け止め、鼻っ柱を殴り、逆の拳で頬に強烈な拳を打ち込む。絶え間なく打撃を打ち込む。全身を強固な鱗で覆われた半魚人は滅多打ちにされ、五臓六腑に甚大なるダメージを与えられたことによりその場で崩れ落ちる。むせる度に口から吐き出されるのは体内で砕かれた臓腑の欠片だった。凄惨かつ酸鼻極める殺人に、さすもの怪物達は慄き、後退った。

 

「おらどうした! こちとら修行の一環でこんな絶海の孤島の片田舎に放り出されてんだ! 半日以内に片付けっぞ!」

 敵わないと見たのか、次々とその場から逃げ出していく半魚人にエヌラスが深く息を吐く。

 これでしばらくは襲ってくることはないだろう。そう踏んで、島の中を歩いているうちに不自然に舗装された洞窟を見つけた。これ見よがしにと用意された場所は、隠すつもりも無かったのだろう。大魔導師が用意したアトラクションなのではないかと勘ぐってしまうくらいには。

 他に誰が造ることができるのかもわからない禍々しく、悪趣味で荘厳で、石造りの階段を降りていくだけで精神が摩耗していくかのような暗黒神殿。自我を保ち、ふと右手の痛みに目を向ける。下に降りるにつれて痛みが増していた。

 

「……」

 神殿の地下、恐らくは邪教崇拝の中枢。そこには所狭しと密集していた半魚人達が何かに祈りを捧げていた。祀られていたのは、民族風の衣装に身を包んだ少女。神気を纏うその少女が九龍アマルガムに新しく生まれた神格者であるのだろうか――その答えは、断じて否。何故ならば、こうも明確に大魔導師から譲り受けた右手の焔が敵意を示している。

 素肌を晒した少女が、ゆっくりとした動きで両手を掲げた。小さく息を吸い込み、一言だけ言葉を漏らした。

 

「る――」

 エヌラスは、その瞬間には既に半魚人の群れへ向けて全速力で駆け出していた。壇上へ一刻も早く駆け上がり、祀られている少女を殺さなければならない。アレは、敵だ。理由は分からないが、九龍アマルガムに新しく生まれ、無意識のままに邪神として崇められている。放置しておけば必ずこの先、アダルトゲイムギョウ界に被害をもたらす。

 主に大魔導師が出しゃばったらシャレにならない規模で。

 

「ド畜生がッ! 結局は俺が師匠の尻拭いに駆り出されてるだけじゃねぇかこの修行(?)!」

 右手の痛みに耐えかね、形を与えぬまま振るう神性の焔が半魚人を骨ごと焼き尽くす。指向性を持たない魔術の行使は無駄な魔力の消費を招くが、今のエヌラスにはそこまで気を回す余裕がなかった。

 

「いあ。いあ――」

 跳ねるように階段を登る。そして、少女へと手を伸ばす――だが、その手が命を奪うことはなかった。溶けるように背後の壁へと消えていく。

 

「逃げ」

 られた、そう思ったエヌラスだったが。次の瞬間、神殿内全てが胎動した。全身から冷や汗が吹き出る。怪物の胃の中に飛び込んだような、一転した絶体絶命。

 目の前の壁が動き出す。むき出しの岩盤だと思っていた壁面は、よく見れば、何か――巨大な“何か”だった。エヌラスの知らない生き物だった。よく似た生物は知っているが、こんな、見上げるほどの。それこそビルを見上げるようなサイズではない。

 

「お、おぉ? うぉおおおおおおお!?」

 器用にも、エヌラスは急制動をしながら反転して階段を飛び降り、神殿から脱兎のごとく走り去った。

 

 外に出ると同時に、神殿が崩壊する。地鳴りと共に現れたのは、石像だと思っていた甲殻虫。人間大サイズの昆虫ですら戦車に匹敵する固さを持つというのにそれが見上げるほどのサイズともなれば、脅威は計り知れない。エヌラスは半ば絶望的に見上げた。

 

 ――勝てるのか?

 そんな疑念が降って湧いた。倒せるのだろうか。いや、勝つ手段はある。だが、それは。自分が大魔導師の弟子ではなく、絶望の魔人としての自分だ。今の自分は以前とは違う。

 今までのようではダメだ。大魔導師も、いつかは越えなくてはならない壁だ。

 勝てない相手がいる。妹は“自分が守らなくちゃいけない”のだから。

 

(いや、ダメだ。逃げるわけにはいかねぇ! アイツはここで、俺が潰さなきゃならねぇ! コイツは修行だ、面倒な仕事ぶん投げられてるんだとしてもこれは修行! 普通の修行! 大魔導師流の、特訓の一環! 俺は生きて戻って、スク水拝むまで死ねるか!!)

 限りなく邪な欲望ではあるが、渇望こそが最も生に執着する。飢え、餓え、渇いた命を潤す為に人は満たされない。

 

「クソッタレがぁぁぁっ!!」

 エヌラスの右手に召喚するのは、偃月刀。歪んだ刃を投擲する。だが、表皮に触れた途端に乾いた音を立てて弾かれた。

 

「うっせやろ!? 何食ってりゃそんな固くなるんだよ!」

 身体を大きく仰け反らせて、全身を振りかぶった巨大なフナムシが孤島に身体を叩きつける。それだけで島全体が沈んだような衝撃に襲われ、エヌラスは瓦礫と共に蹴り飛ばされた小石の如く吹き飛んだ。

 

 

 

 大魔導師は桟橋に腰をおろして釣りに興じていた。その手元から釣り竿が浮いていたとしてもツッコミが入らないほどに無人で、静かな波の音。竿の先端が揺れ、獲物が食らいついたところで引き上げると、魚?が釣れた。

 

「二足歩行の魚とは珍しいな」

「…………」

 何かを察した半魚人が、ギョロリと開いた目玉を白黒とさせている。この後、間もなく瞬きする間に訪れるであろう死期を悟ったかのように。

 

 

 

「……ゲホッ! くそ……どうしろってんだ、あんなバケモノ……」

 機神召喚は使えない。かといって自前の魔術では歯が立たない。借りた魔術は、使いこなせそうにない。しかし、巨大フナムシはまだ蠢いている。とても元気な虫だこと、エヌラスは他人事のように思考を切り替え、頭をクールダウンさせた。

 アレが内陸に入り込む前に、此処で仕留めなくては――! 銀鍵守護器官の出力を上げれば上げるほど、呼応するように右手の痛みが酷く明確に魔術回路に焼き付く。神経を焦がすような拷問にも似た感覚に否応なしに感情の抑制が効かなくなっていた。

 

「あぁぁぁ! イッテェェ、クソ! チクショウ、アホかよ! どうしろってんだよ! いっそ機神召喚して“プチッ”と潰してやりてぇ!」

 問題があるとするなら――それができるサイズではない。機神と同等のサイズということだ。

 

「怒りで脳みそ沸騰しそうだっつうの! こうなりゃもう当面の被害なんぞ知ったことかァッ! この島諸共に、消し飛ばしてやらぁ! 諸悪の根源なんぞ滅して当然だよなぁ!?」

 誰に向けたわけでもない咆哮に、エヌラスは勝手に承諾を取ると右腕に魔力を集中させる。本来であれば、大魔導師のように指向性を持たせて使うのが正しいはずだ。しかし、自らの未熟さを棚に上げてエヌラスは、ぶっ放した。

 正確に言うならば暴走させた。制御を放棄している。それは、結果として言えば孤島に蔓延る瘴気と邪念を全て消滅させた。邪教崇拝の神殿ごと、その偶像も一緒に灰も残らず。

 

「……人が貸してやった魔術を暴走させてその挙句に全身大やけどで島に半日放置されていたクソ情けない九龍アマルガム国王大魔導師の一番弟子が醜態を晒しているわけだが、何か反論の余地はあるか」

「国王仕事しろ」

 エヌラスは、地表がガラスのように溶けた島の中心で仰向けに倒れていた。

 

「海は怖いだろう?」

「アンタのが怖い」

「ちなみに、お前が相手したのは海によくいるフナムシという生き物だ」

「あんなのがよくいるのか!?」

「ちなみに一番怖いのはタコだ。俺ですら手こずる」

「タコ!?」

「他にも色々な海の生き物がいてだな――」

「海こえぇぇー!」

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