超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「と、とにかくだ。アーサー、どこか隠れられる場所はないか?」
「それならわたしの部屋にでも入るか? なぁに、カルネには適当に話を合わせておこう」
「助かる!」
「ほら、こっちよ」
チーカマに招かれて部屋で待機するエヌラス。聞き耳を立ててしばし様子を見たが、カルネは遠ざかっていったようだ。それに、胸を撫で下ろす。
「ふぃ~、一時はどうなるかと思ったわ」
「追われるような真似してるからでしょ」
「身に覚えしかないってのが困りものだ」
むしろ刺されずによく今まで生きていたものだと我ながら感心する。今しがた先っちょまでぶっ刺されそうになっていたが。
「カルネなら去っていったぞ。なんとかなったようだな」
「ああ、サンキュー。アーサー」
「なに、気にすることではない。王の務めだ。だが、当然ながら無償で、とまではいかない」
「そうなるよなぁ。仕方ない」
「聞き分けが良いとわたしは非常に喜ばしいぞ!」
助けてもらった手前、エヌラスはアーサーの頼みを聞くことにした。
「頼みというのは他でもない。武器を貸してほしい」
「武器? なんでまた」
「わたしの王冠なのだが……よっと」
「ただのアクセだと思ってたが違うのか、それ」
「うむ。召喚器にもなる優れものだ! これで騎士を召喚できるわけだが、そのために縁のある品が必要になる。まぁ早い話が当人の使っていた武器だな」
「なるほどなるほど。つまりそれを使えば」
「“複製型エヌラス”が出来上がる、というわけだ!」
腰に手を当てて、胸を張る。本日のお召し物は赤のビキニスタイル。チーカマもワンピースの水着でハイビスカスの髪留めをしてささやかなオシャレをしていた。見比べて、ふむ。眼福と納得していたエヌラスだったが頬を膨らませたチーカマにつねられる。
「いふぇふぇふぇ」
「人の水着姿をジロジロといやらしい目で見ない」
「ふまんかった」
「なに、不満?」
「ちゃうねん」
むしろ満足というか。いや、そうじゃない。
「いや、チーカマの水着も可愛いなと思ってな」
「かわいいって言ってくれるのは嬉しいけど、お世辞として受け取っておくわ」
「……スク水も捨てがたいな」
「ちょっと、変質者」
「スク水! そういうのもあるのか!」
目を輝かせるアーサーに、チーカマが頬を膨らませる。
「ちょっとー、もう。アーサーが変なスイッチ入っちゃったでしょ」
「すまんかった」
「なぁなぁ、着てみないかチーカマ。きっと似合う、絶対似合う。付き合いの長いわたしが言うのだから間違いない!」
「なら貴方が着ればいいでしょうに、アーサー」
「犯罪臭しかしない」
主にエヌラスから。気を取り直して、アーサーが召喚器にエヌラスの倭刀を投入して複製型エヌラスを召喚してみる。
部屋をまばゆい光が照らし、治まったかと思えばそこには瓜二つのエヌラスが立っていた。
まるで鏡写しのように。
「おぉ……なんというか自分の姿を客観的に眺めるとかちょっと恥ずかしいな」
「…………」
複製型エヌラスは自分の身体を確かめるように手を握ったり開いたり、自分の身だしなみを確認していた。
エヌラスが右手を挙げる。一拍、間を置いて同じように右手を挙げる。
右、左、右、左、フェイント左、右、左、バンザイ、ハイタッチ――流れるような一連の動きに一切の乱れなし。
『イェーイッ!』
「さ、流石同一人物。この短い間に意気投合してしまうとは」
『そりゃそうだ、俺だもん!』
「仲良く肩を組んで親指立ててるところ悪いんだけど、傍から見ると結構こわい」
しかし、エヌラスがなにか思いついたのか、複製型の肩を叩く。
「ところで俺よ、早速だが頼みがある」
「なんだ俺」
「実はカルネに追われてる。本物に代わってなんとか出来ないか。ほら、本物は今療養中だから……」
「そうなのか。なら仕方ねぇ、アレの相手は骨が折れる。物理的に」
「それなー、ホントどうにかならねぇかなアレ……」
「どうにもなんねぇもんなーあいつ」
「混乱しそう」
「というか、あそこまで複製された自分と難なく会話していることに驚きなのだが」
「んじゃあちょっと行ってくる! 無事を祈ってくれ、俺!」
「おう、頑張れ複製された俺! 健闘を祈る!」
複製型エヌラスが廊下へ飛び出し、残された本物のエヌラスは胸を撫で下ろす。
「はぁー、よかった。これでようやく休める……」
「自分を囮に使うとかちょっとにわかに信じがたいんだけども」
「九龍アマルガムじゃこの程度朝飯前の異常事態だからな!」
胸を張れることではないのだが、何しろ教会がメイルシュトロームの発生源だったりするのでおちおち修行もしてられない。
「まぁなにはともあれ、助かった。刀は預けておくから、壊さないでくれよ」
「いいのか? それなら遠慮なく預からせてもらうぞ」
本物のエヌラスも部屋から出ていき、アーサーは改めて倭刀をまじまじと見つめる。
「アーサー、言っておくけど悪用したらどうなるかわかってるわね?」
「言われずともそれくらい承知しているとも。なぁに安心してくれ、わたしだけで楽しむわけにはいかないだろう」
「ちょっとぉ!?」
エヌラスがホテルを歩き、ふと温室プールがあるということを思い出す。誰も利用していないであろうそこで今日は一日のんびりと過ごすことにした。どうせ海岸ではしゃぐだろう――と、思っていたのだが、意外なことに先客がいた。
プールサイドに運び込まれている機材を前に憂鬱そうにしている青い髪のトップアイドル、5pb.ちゃんだ。そういえば新曲の特典として撮影に来ていたということを言っていた気がするのだが、トラブルが起きてスタッフが到着できない。人見知りが一人で観光地に放り込まれれば楽しむものも楽しめないだろうに。
フリル付きのビキニで、シンデレラバストのトップスに、下は通常のビキニスタイル。
「あ……」
「ひとりで何してるんだ、5pb.」
「えっと、撮影しないで遊んでばかりなのも気が引けて……でも、女神様たちも旅行に来てるのに写真撮影なんて頼むのも悪くて」
「なんだ、そんなことか。それくらいなら手伝うぞ?」
「え、でも、そんな悪いですよ」
「心配するな。こう見えてブロマイド写真の撮影は経験ある。般若のお面つけたマネージャーの下でバイトしてたことあるしな!」
「どういう事務所なんですかそこ!?」
修行の一環として社会勉強という名目のバイトをしていた下積み時代。思えば色んなバイトをやらされたものだ。アイドル事務所で見習いカメラマンに始まり、キャビアの密輸に、戦闘用サイボーグの運搬に、サーカスの雑用と……そこで思い返せば、八割方が裏社会のお仕事だったことに気づいたエヌラスが少しへこんだ。無知って怖い。
「あ、あのぉ。どうかしました……?」
「なんでもない、なんでもないんだ……ただちょっと昔の古傷が傷んだだけだ……」
あの国王、帰ったら一発ぶん殴っておこう。代わりに百発分ぐらい殴られそうだが。
撮影機材を一通りチェックして、これなら十分商材として使える写真の一枚や二枚撮れるであろう。
「とりあえず、照明とか撮影の用意をしておくか」
「は、はい。何枚か撮って、後でスタッフの人達と打ち合わせして決めますね」
「セッティング、少し手を貸してくれると助かる。案外重い。言っておいて情けないが」