超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
エヌラスがプラネ地獄へ足を踏み入れている頃、スピカは廊下の修繕に精を出していた。というのも、エヌラスの命令でカルネを足止めした際に多大な損害を出してしまったからである。ああ見えてカルネは運動性能だけはスピカの一歩も二歩も飛び越えていた。伊達に軽量化はしていない。
お掃除ロボットくん達がスピカの周りにたむろっていたが、そのカブトガニのようなずんぐりとしたフォルムの前面に『ジェットスィーパーα』を装着して整列すると、細々とした埃から床の汚れまで高水圧ジェット噴射で洗剤を撒きながらみるみるゴミひとつ無い清潔な廊下へと早変わりさせていた。スピカは大きなゴミ袋の口を縛り、両手に一つずつ、両肩と頭に乗せて合計5つのゴミ袋をまとめて片付ける。
フロントでは、水着姿のユニがテーブルにライフルを分解して整備していた。それを見かけたスピカは興味を惹かれたのか、様子を見守る。口を出す必要もないほど手慣れた様子で部品の一つ一つに手入れをしていくユニも、スピカの視線に気づいたのか顔を上げた。
「あの、なにか?」
「私も銃器には思うところがあるので。よろしければご覧になります? 私の銃も」
「いいんですか? こう見えて結構細かいですよ」
「では、こちらを」
そう言ってスピカがユニに見せたのは、クリスヴェクター・コンバットカスタム。トップヘビーのカスタマイズは明らかに違法だ。出回るような代物ではない。銃器は鈍器とでも代弁しているかのような違法改造に、ユニは苦い顔をしていた。
「お気に召しませんでしたか?」
「いえ、なんというか正気を疑いますね……」
「私もそう思います」
ユニがものは試しと構えてみる。分類は短機関銃のはずだが、装着されているバヨネットの重量でやはりどうしても銃口が下がってきた。両手で構えないとろくに照星も合わせられない。使い物になるのだろうか、と思ったがそれと対になるように、もう一丁。ユニは目を丸くした。
「へ?」
「これ、二丁持ちが基本なんです」
「えぇぇぇ!?」
「後はそうですね……古臭いマスケット銃とか、中折のショットガンとか、まぁ殆どがブラックマーケットから押収した品ですが。よろしければコレクションも見ます?」
闇市場から入手とか押収した、とかは置いといて……ユニとしてもひと目見たい。昨今のゲイムギョウ界ではめっきりそういうコレクト品は見かけなくなった。控えめに頷くと笑みを浮かべてスピカはロングスカートの裾を掴み――持ち上げる。
「よい、しょっと」
「…………――――」
それは武器庫だった。そうとしか形容し得ない。スカートの裏地、縫い付けられているホルダーの数々。マスケットからショットガン、グレネードランチャーその他重火器。スカートは乙女の武器庫――パンツも丸見えだが特に恥ずかしがる様子もない。ちなみに水色である。
「いかがです?」
「いかがというか、いかがわしいというか……あの、取り出してもらえると助かります」
「あら。これは失礼致しました。私としたことがお恥ずかしい」
そしてテーブルに並べられるスピカの武装の数々。それらは、本来収まるはずのないスカートの空間から取り出されている。どういう原理なのかと疑問に思うユニの表情に、スピカが「ああ」と相槌を打った。
「実は私が着ているこのメイド服、九龍アマルガムの教会職員正装でもあるのです」
「その、メイド服がですか?」
「そうなのです。あ、別に国王の趣味とかではありませんので悪しからず」
「ぶぇっくしょい。あ、やべ」
国王のくしゃみ一つで発生する災害のメイルシュトローム。ついうっかり術式付与の手元が狂いビルが一つ異次元空間に飲み込まれたが、犯罪国家九龍アマルガム故に仕方ない。労災も下りない。店舗経営者の共通理念はただ一つ――店を出すのは自己責任。
「夏は涼しく、冬は暖かく、それでいて汚れも目立たず撥水性も抜群。返り血浴びても水洗いオーケー。エプロンドレスには防弾性能のみならず防刃繊維も編み込まれております。それだけではありません。なんと、ポケットにはン次元空間による空間拡張が施されており、見た目以上の収納スペース! ほらこの通り」
「ポケットから涼しい顔で手榴弾取り出すのはちょっと」
「乙女の嗜みですもの」
乙女とは。しかも白燐弾。
「そうですね。もしよろしければ、ユニ様のメイド服も仕立てておきますが如何ですか?」
「でも、高いんじゃ……そんなに多機能だと。それに教会の正装ですし」
「ご安心ください、レプリカ品なんて九龍アマルガムでは当然のようにお店で売られていますので安くお求めできますよ」
「それ正規品の意味ないんじゃ!?」
「犯罪国家ですから。正規品として加工する場合は、流石に私の手では難しいですね」
「そうなんですか」
「えぇ。やはりそういったものはエヌラス様にお任せするべきですね」
「……エヌラスさんに?」
「実はここに並べた重火器の数々。エヌラス様がご用意してくれたものなんですよ」
「器用なんですね」
「困ったことに、まっとうな生活をする上ではまっっったく役に立ちませんけど。こういった技術でしたら大魔導師に匹敵する腕前の持ち主なんですよ? ご入用であれば、ユニ様もよろしければエヌラス様に発注してみるのもいいかもしれませんね」
「そうですね。頼りにさせてもらいます。スピカさん、ありがとうございました」
スピカの視線の先にはユニのライフル。話の合間に手を動かして組み立てた銃を見つめて、スピカは無骨なマスケット銃を一丁ホルダーから外した。
「では、よろしければこちらをどうぞ。お近づきの印にプレゼントです」
「え、いいんですか!?」
「構いません。飾るも良し、使うも良しです」
「ありがとうございます。わぁぁ……」
目を輝かせながら受け取ったマスケット銃をじっくりと見つめる。見慣れない装飾も見受けられるが、アダルトゲイムギョウ界製品だからだろうか?
「火薬の方がよろしいですか?」
「普通、火薬なんじゃないですか?」
「いえ。魔導方程式とか色々あるのですが」
「えっ!? 銃で魔法使えるんですか!?」
身を乗り出すユニにスピカは頬に手を当てて首を傾げていた。
「その辺りも詳しいことはエヌラス様に。大概聞けばご教授していただけますよ。ホント、炊事洗濯その他家事全般は壊滅的であるというのにこういった事は天才的なのですから」
「……あの、聞いてもいいですか?」
「はい」
「スピカさんって、エヌラスさんのこと好きなんですか?」
「そうですが?」
あっけらかんと答えられて、ユニは反応が遅れてしまう。エヌラスの何処が好きなのか、それを聞こうとして――思い出すのは大魔導師との血戦。師弟関係にありながら血で血を洗うような衝突。本気でどちらかが命を落としかねない戦いを間近で見た光景が脳裏に蘇る。
「――だって、放っておけないですし。放っておかないでしょう? 少なからず母性本能を持ち合わせている人種は。あの人類最底辺生活水準更新中の穀潰し、エヌラス様を」
「とても好意を抱いているとは思えない、ボロ雑巾より下の罵倒ですね……」
「汚れを落としてきただけボロ雑巾のがマシでは?」
どこまで罵れば気が済むのだろう。エヌラスがいたたまれない。とはいえ何か抗議しようにも材料があまりに少ない。ネズミ食う人だし――ユニの中では。
しかし、放っておけない理由はなんとなく分かる。あの人は、自分を大事にしていない。自殺願望にも似たあの無鉄砲さは見過ごすにはあまりに危なすぎる。勘定に入れていないのではないかと思うほどに。
「ユニ様は?」
「あたしですか? まだ、よくわかんないです。最初は、お姉ちゃんが取られたって思っちゃいました。ネプギアも。悪いとは思いますけど、あんまりいい印象ではなかったです。だけど、あの人の本質って普通とか日常では決して見せてくれないんだ、って知ったら……」
「十割大魔導師の責任ですけどね、それが露呈したの」
スピカとカルネも動員されていた。ちなみにしっかりその日のタイムカードはカウントされていなかった。流石は九龍アマルガム、教会もブラック企業である。
「――なんだか、やっぱり放っておけないなって思っちゃいますね。目を離したらコロッとどこかに行ってしまいそうで」
「ふふ、そうでしょうね」
はにかみながら、ユニは照れくさそうに自分の気持ちを口にした。スピカもそれに笑みを返して、思い出したように耳打ちする。
「ああ、でもユニ様? エヌラス様が本当に凄いところもあるのですよ?」
「どういうところですか?」
「夜の方です」
「……あの、」
「チャンスですよ?」
「……あのぉ、」
「大人の楽園、R18アイランドと聞き及んでますよ?」
「いえ、ですから……」
「思う存分ハメを外していっそハメ――いえ、なんでも」
「ほぼ言いかけてますよね!?」
「余計でしたか?」
「ぁ、あー……その……」
――実を言うと、お礼も満足に言えていなかった。助けてもらっておきながら恩知らずなことに。言うタイミングを逃している、というか言うタイミングがない、というか引っ張りだこになっていてエヌラスと話す機会がなかった。それが気づけば今の状況である。そうと知ってしまえば奉仕種族であるメイドの本能が黙っていない。
「そういうことであれば私におまかせ下さい、ユニ様。最悪腕の一本や足の一本もいででもエヌラス様を必ずやユニ様の前に連れてきてみせますとも」
「なんでアダルトゲイムギョウ界の人達ってナチュラルに暴力的なんですか!? こわい!」
五体満足でお願いします、と涙ながらにお願いするユニだった。