超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
階段で昇ったスピカが頬に手を当てる。どうやら考えるときの手癖のようなものらしい。
「はて、この階層は確か……」
「ネプギア達がいますね」
「そうですね。ここにいればいいのですが……」
プラネ部屋へ寄ろうとしたが、既に廊下まで響く騒音。顔を見合わせ、スピカとユニは扉の前に立つ。中から音が漏れているということは、現在室内は相当な大荒れ警報注意報。
「ちょっとネプギア、どうしたの!? 中で何かあったの!?」
「ネプテューヌ様、ネプギア様、プルルート様。扉を開けてくださらない場合、強制的に突入いたしますがよろしいでしょうか。なお、この発言の後三秒以内に解錠されない時は突入します。よろしいですか、よろしいですね、わかりました突入!」
「えぇぇぇ、きっかり三秒で突入するんですか!?」
「必殺!
スラグ弾装填、ロングスカートの中から取り出されるのはオフソードショットガン。ドアノブに向けて引き金を引くと、綺麗な風穴が出来上がった。手早くブレイクオープンからトリガーガードに指を掛けたまま回転させて排莢と同時に弾薬を装填、一回転する頃には発射態勢を整えている。
左足を軸にしたスピカの回し蹴りが扉を蹴破ると、頑丈なはずの扉はべっこりと凹んで室内に飛び込んだ。ユニがよく見ると、ヒールの踵から硝煙が漂っている。
「あの、スピカさん」
「不審者撃退用のパイクヒールですが、なにか?」
弾数一発。超至近距離用のベアリング弾が扇状に打ち込まれるという殺傷兵器。スピカは全身にこういった武装を内蔵している為に油断ならない。
突入したスピカとユニが見たのは、ベッドに拘束されたエヌラスとそれにライドオンしているアイリスハートとパープルハートの姿。ネプギアは驚いてシーツを身体に巻いていた。何をしていたってそりゃもうナニをしていたとしか弁明できない現場である。
「――ハッスルしてらっしゃいましたか?」
「お前は、この状況下で俺に聞きたいのはそれだけか……スピカ」
流石のエヌラスも疲労が見られる。既に何回戦目だろう。出力低下中の銀鍵守護器官に栄養剤を投与しても、結局は体力が追いつかなければ意味がない。そんなわけで、ヒートアップするネプテューヌとプルルートの一方でエヌラスは活力を搾り取られていた。
「あらぁ、残念ねぇ? どうかしらぁ、ふたりも」
「コホン。失礼ですが、プルルート様。私、重症人かつ病人を手荒に扱うような淑女ではございませんので――お退きいただけますか」
ショットガン片手に深々とお辞儀するスピカであるが、エヌラスの顔は青ざめている。なんというか、考えうる限りでは最悪な組み合わせの衝突。
「嫌、と断ったらどうするつもりかしら」
「そうですね。例え貴方が女神であろうとも、私の全性能を持ってして“お掃除”させていただきます」
「メイドが大きく出たわねぇ」
「ええ。メイドというのはそういう種族なので。特に――ご主人様候補には」
「あー、二人とも落ち着け? あとプルルートは俺の上から退いてくれ? 助けろ、ネプテューヌ」
「そこでわたしに振られても」
「一応言っておくがお前加害者側だからな!?」
ネプギアは自分に非があることを認めているのか、おとなしくしている。アイリスハートはまだエヌラスに跨ったままだ。
「実力行使もやぶさかではございませんので悪しからず。……ちらり」
「怒られたんじゃ仕方ないわ。ぷるるん」
「んもう、ねぷちゃんまで。多少の障害があった方が盛り上がるじゃなぁい?」
「あ、あのプルルートさん。わたしもお姉ちゃんと同じ意見です」
「ぎあちゃんまでそんなこと言っちゃうのぉ」
「ご、ごめんなさい! でも、その」
「わかってるわよ、んもう。エヌラスを独り占めするのって難しいわねぇ」
「俺としては天にも昇る気持ちで昇天してたまるかって感じだったけどな……」
エヌラスの拘束をユニが解き、部屋から連れ出す。スピカは裸のネプテューヌとプルルートに説教を始めていた。正座させて叱りつけている。
「うぅ~、スピカの怒り方、いーすんそっくりだよぉ」
「ご安心下さい。場合によっては体罰も辞さない構えですので」
「いーすんより酷い!」
「私、こう見えて珍獣猛獣の類の教育には覚えがあるんです」
主にとても身近な存在のせいで。
「鞭でしばいたり、首輪を付けたりとかそういった趣味はございませんよ? 安心してくださいネプテューヌ様」
「よかった~。でもスピカ、わたし達、服を着たいんだけど……」
「は?」
「ひぃ、ごめんなさい!」
「あらあらまったくほんとうにもう、ネプテューヌ様? ご自分の立場がおわかりですか?」
「こわい! スッゴクこわい! 笑ってるはずのスピカ見てると背中が寒いんだけど!?」
「笑ってるだけで中身は想像の何倍も怒りの炎でバーニング中ですがなにか」
「スピカこわいよぉ~……仲間はずれにされたの怒ってるぅ」
「別にそういう意味で怒っているわけではない気が……」
全裸説教という謎のシチュエーションで叱られるプラネテューヌの女神たち。
その頃、救出(?)されたエヌラスはと言うと、ユニに医務室へと担ぎ込まれていた。
「もういやだ……俺は静かに傷を癒やしたかっただけなのに、こき使われたり搾り取られたり量産されたり食糧の調達に行かされたり……旅行じゃねぇよこれただの懲罰だよ。刑務所の模範囚になりたい」
「色々と大変なのは理解できますけど、そこに結論が行き着くのはどうなんですか?」
「だって刑務所最高だろ! 問題を起こさなければ衣食住全部揃ってて残業もないし平和だろ!? ホワイト企業を極めてんだぜ!?」
「収監されている時点で問題だって言っているんですけど!?」
「ムショ送りなんて慣れてる」
「もういやこの神様!」
忘れがちではあるが、この人一応アダルトゲイムギョウ界を救った神様である。ネズミ食ったりヒエラルキー野良犬以下だったり牢屋送りにされたりしているが、念を押して言わせてもらうが、神様である。魔人でもある。ゲイムギョウ界においては女神に匹敵する実力の持ち主ということを頭からすっぽ抜けそうなほど、生活能力が死んでいる。
「はぁ……もう、しっかりしてくださいエヌラスさん。貴方がそんなんじゃお姉ちゃんも困るんですから。仕事を増やさないでください」
「すいませんでした」
「……年下の少女に怒られて恥ずかしくないんですか?」
「むしろなんか目覚めそう」
「変態なんですか!?」
「男は総じて変態の探求者だよ!」
「開き直ってませんか?」
エヌラスの身の回りにいる常識人が指折りで数えられるほどもいないのが原因だ。それはさておいて、千載一遇のチャンス到来。ユニはため息をついて呼吸を整える。
「あの、エヌラスさん」
「ん?」
「まだわたし、お礼言ってませんでしたよね」
「……俺、なんかしたっけ?」
「本気で言ってます? 助けてくれたじゃないですか」
「あー……………………大魔導師の」
「はい」
「いや、あれはなんつーか、身から出た錆というか、俺の不手際っつーか……お礼言われるほどじゃない」
「それでも、助けてくれたのは事実なので。納得いきません。あの時は、ありがとうございました。エヌラスさん」
「……」
ユニが頭を上げると、エヌラスは少し困った顔をしていた。
「不満ですか」
「あー、いいや。違うんだ。なんか、改まって礼を言われると俺も照れ臭くてな。なんて言えばいいのか」
唇を尖らせて、詰め寄る。顔を近づけて睨みつけていた。
「ユニ、近い」
「わたしとじゃ嫌ですか」
「そういう意味じゃない。なんていうか、その――」
どことなく、その姿がどうしても――ずっと探し続けている妹に重なる。繰り返されるリセットの度に探して、それでも見つからなくて。今もまだ諦めていない。この手で殺した。だが、きっといるはずだ。“全てが無かったこと”にされているのなら――。
「俺にとって、ユニは妹みたいなものでさ」
「……――ま、まぁ? お姉ちゃんだけじゃなくて、お兄さんっていうのも悪くはないかもしれません、けど? まんざらでもないんじゃないんですか?」
「ちなみに俺は、年下の少女から「兄様」って呼ばれるとブチギレ手前まで沸点が下がる面倒くさい男だから気をつけろ」
「ほんっっっとうに面倒くさい人ですね、エヌラスさんは!!」
しかし――お兄さん。お兄ちゃん……ユニは自分の中で繰り返し呟いてみる。咳払いを一つ。深呼吸。出来るだけ頭の中をクリアにして、決意を固める。
「エヌラスさん、一回だけしか言いませんからよく聞いてください」
「はい」
「そこで敬語を使われると調子が狂うんだけど……すー、はー……」
「?」
首を傾げ、疑問符を浮かべるエヌラスの前でユニの顔が赤くなっていた。
「ぁ――ぉ、お……」
「あお?」
「――ありがとう、お兄ちゃん」
エヌラスは死んだ。意識が途切れた。気絶して医務室のベッドに倒れ込んだ。
ユニが赤面しながら上目遣いにお兄ちゃん等と言われて、脳味噌がパンクした。恥ずかしさのあまり、当の発言者は心臓の鼓動に急かされて医務室から逃げて自室に走るなりベッドに飛び込んで枕に顔を埋め、悶絶している。
「うにゃあぁぁぁっ!! あたしのバカァァァッ!!! なにこれ!? なにこれ死ぬほど恥ずかしいんだけど!」
絶対、二度と、言うもんか。お兄ちゃんなんて。ユニは固く心に誓った。