超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
各国の女神達は自分達の治める国への帰路に着いた。5pb.ちゃんは事務所がリーンボックスにあるということなのでベールと一緒に行動している。ユウコもまだ仕事が残っているのか留まっていた。エヌラスもハァドライン関係とあれば急ぎ足でアダルトゲイムギョウ界に戻るわけにはいかない。スピカとカルネも暫定ご主人様であるエヌラスについてきていた。
「……過剰戦力ではなくて?」
「相手は一大企業。むしろ少数精鋭で崩壊させる最適解」
「どうして戦うことが前提なのですか」
「どうせなんやかんやで戦うことになるんだ。俺は知っている」
「そういうことを言っていいのはネプテューヌだけですわよ?」
道ですれ違うリーンボックスの住人が、ユウコの顔を見ると明るい笑顔で手を振っている。それに応じるファンサービス旺盛な国王様は手を振っていた。
「きゃーユウコ様ー!」
「ユウコ様だー!」
「マッマーー!」
「おかーさーん!」
黄色い歓声に、ユウコは笑顔を見せている。その人気にベールも驚いていた。
「アハハー、イエーイ。みんな元気してるー? あと私のことをお母さん呼ばわりしたやつ誰だー? 私そんな年じゃねーぞーこらー」
「笑顔でキレんな。でも満更でもないんだろ」
「それとこれとじゃ話が違う。赤の他人からお母さん呼ばわりされるのと少年少女からのお母さん呼ばわりは違うのだ」
「そういうものか?」
「ではユウコ様。エヌラス様から母親と呼ばれるのは?」
「鳥肌レベルで気持ち悪い」
「死んでも言わねぇ」
ユウコの案内で到着したのは、空中ライブ会場建設現場。リーンボックスの中でも教会管轄に入る敷地での建設により、一般人では立ち入り出来ない場所での作業のようだ。しかし、それを越えて違法と思わしき動きを察知したのがアダルトゲイムギョウ界の商業国家国王。王様は伊達ではない。
「……建設現場、と聞いていたからてっきり重機がガッシャンガッシャン動いているのかと思ってたんだが」
「はい。予想以上に静かですね」
「本当に作業してるのか、ベール?」
「ええ、そのはずなのですが……おかしいですわね。もしかすると中の機材をセッティングしているのでは?」
「そうならそれで、何か運搬車なりあると思うんだが」
エヌラスが周囲を確認する。しかし、まったくの無人であった。教会管轄敷地内、というのもあるのだろう。だが、リーンボックスのハァドラインもロボット集団だ。何かしらの作業をするにしても人気くらいはあるはずだ。ますます疑問が強まる。
「スピカ、カルネ。戦闘の用意だけはしておいてくれ。正直俺は戦力外通告しておく」
「あら」
「どうしてですかエヌラス様」
「疲れてんだよ……」
二泊三日、身体を休めていたとしてもだ。駄目なものは駄目である。満足に魔術の扱えない自分は正直なところ、女神化しない女神よりも役に立たない穀潰し。自衛手段としてドミネーションは携行しているが、反動を抑えきれるかも怪しい。自分の身ぐらいしか守れそうにないが、多少無理をすればいけるだろう、という程度の見通しだ。それにスピカとカルネは頷き、ユウコは腕を組む。
「まぁ、いざって時は私が守ったげるよ?」
「ベールに頼むからいい」
「わたくしも5pb.ちゃんで手一杯なのですが」
「すいません……」
「あぁいえ、謝るようなことではございませんわ。守護女神として当然のことですもの」
立入禁止の横断幕を乗り越え、中へと入る。通路はまだ電源が通っていないのか、暗く冷たい空気が身体を冷やす。通路に機材が置かれている様子はない。一通りの工事は終えているようだが、それにしても妙な話だ。通電するにせよ、なんにせよベールに報告ひとつ無いというのは。それとなく尋ねる。
「わたくしが企業から聞いていた話では難航しているという話だったのですが」
「そもそも、どういうコンセプトでの建設だったんだ?」
「いつも式典が執り行われるのはプラネテューヌではありませんか。ですから、わたくしもリーンボックスでなにか目立つ物を作りたい、と考えてのことですわ。通常のライブと同じようにチケット販売で席を確保して、観客を動員した上でゲイムギョウ界を見晴らしながらのトップアイドルによるライブ」
「興行収入ランキングトップ間違い無しだね。そういうことなら」
「はいはい商売の話に飛びつくなユウコ」
「あーれー儲け話が逃げていくー」
エヌラスに首根っこを掴まれ、ユウコが引きずられてベールから引き離されていた。
ベールの言い分では、ゲイムギョウ界のイベントはプラネテューヌが会場であることが多く、それに不満があったらしい。その為、リーンボックスで最先端技術を用いての会場建設に乗り出したとのこと。しかし、それにハァドラインが噛んでいるとなれば見過ごすわけにはいかない。
「しっかし、随分と長い廊下だな」
「まぁ、いざという時は避難場所としても使えるように設計しましたし」
「ざっと広さとしては――」
「私の見立てでは恐らくですが、教会敷地とほぼ同等かと」
「そうなのか、スピカ」
「音の反響からして」
そこまで広いとなれば流石に案内板のひとつでも無いと迷う。そう思っていたエヌラスに、ユウコが丸めていた書類で肩を叩いた。
「なんだこれ?」
「ライブ会場の設計図。視察に行くってことで教会から預かってきた」
「お前用意いいな」
設計図を広げる。会場の全体図としては――雑感、傘。
「ベール。これ、空中ライブ会場なんだろ? どうやって飛ぶんだ?」
「設計図の中心を見てくださいませ」
むにっと、腕に当たる大きくて柔らかいものが二つほど。わざわざくっつくほどの距離でもないだろうにベールはなぜか胸を当ててくる。
「この会場の真ん中から下に向かって伸びているシャフト。下層部はすべて動力部として、外側に広がる巨大パネルはそれぞれ補助翼の役割を果たしてますわ。リーンボックスのシェアエネルギーを補助動力源として、後はロケットエンジンで」
「……要は、シャトルの原理か?」
「ええ。離陸する時が一番エネルギーを使うことになりますが、後は問題ありませんわ」
この巨大建造物を飛行させるだけのシェアエネルギーとなると、相当量を使うのではないだろうか? エヌラスの心配をよそに、ベールは嬉しそうな表情を浮かべていた。
「その辺りは設計図に目を通した時に私は理解したからいいんだけれども、べるちゃん」
「はい?」
「設計図と現物、若干仕様違くない?」
「そうですか?」
ユウコに言われて、エヌラスは自分達がいる通路の造りを見てみる。特に違いがあるようには見えないが、スピカは顎に手を当ててなにかを考える素振りを見せていた。
「……少し失礼させていただきます」
「スピカ?」
「ちょいやっさ」
壁に手を当てて、軽く殴りつける。くぐもった音の反響に、エヌラスが違和感を覚えた。
音が重すぎる――。
「なるほど。ユウコ様が仰りたいことが分かりました。防音或いは安全面から鑑みても、この施設全体の施工が厚い、ということでございますね?」
「そういうこと。いやー、有能な部下っていいね、うんうん」
「空中分解とかされちゃたまんねぇしな」
歩きながらライブ会場の中心。目玉のコンサートホールにようやく辿り着いた。
ドーム型の天井は現在閉じられているのか、灯り一つない。静寂に包まれた無人の会場。作業をしている機体は何処にもなかった。広大なホールの中心。いつの日か5pb.が立つことになる壇上には様々なライトが用意されていた。
建設途中からか、動力パイプが床に張り巡らされている。
「……」
ここまで来れば、流石にエヌラスも違和感に確信を抱く。それは恐らく、ベールも。
ユウコの不信感も尤もだ。
彼らは表向き、確かにライブ会場を建設していたのだろう。だが、完成された内装にわざわざ動力パイプをあちこちに残しておく意味が無い。壁の内側に隠すなり配置するなりあっただろうに、そうしなかった。
会場に満遍なく歌声を響かせるスピーカーも、大画面スクリーンも、アリーナ席もスタンド席も完璧に設置されている。しかし、それらを一掃するかのように物々しい資材の山が用意されていた。
「これは――」
「ベール。あいつらが作っていたのはどうも空中ライブ会場じゃないらしい」
「そのようですわね。これでは、まるで空中要塞ですわ」
「どうされますか、エヌラス様。破壊します? それとも爆破工作いたしますか? それとも盗聴器でも仕掛けましょうか」
「黙ってろスピカ」
「なんなら証拠写真撮って企業に突きつける? 今から工事取りやめて納期引き伸ばしてお金せしめる? 全力でやるよ?」
「自分の国でやれ、ユウコ」
リーンボックスのハァドライン、アームドソウルスの軍事拠点としてライブ会場は改造されている。
「まさかテロリストの拠点引き当てるとか、ユウコすげぇな……」
「どやー」
「で、どうすんだこれ?」
「当然ながら言及いたしますわ」
《その必要はない、守護女神――過ぎたるは及ばざるが如し。全ての行いは女神の眼に晒されたのだから》
背後からの電子音声に、スピカ達が武装を構えて振り返る。
アームドソウルスの副官、ジョッシュがそこには立っていた。