超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
背面武装、並びに両腕にマウントしている銃器から臨戦態勢が見て取れる。
「……ならば、これは一体どういうつもりですか?」
《決まっている。女神の代理戦争の下準備だとも》
「女神の代理戦争……?」
《我々が慕う守護女神こそがゲイムギョウ界の覇権を握ると信じて止まぬ者達による戦争だ。我々にはそれが必要なんだ》
「そんなものに何の意味が! それではリーンボックスが一方的に和平協定を破棄したと思われても」
《いいや》
ジョッシュはベールの抗議の声に食い気味に否定した。
《これは、我らハァドラインによる、我らの為の戦争だ。女神同士の実力は遺憾ながら拮抗している。それならば我々が戦えばいいだけのことだ。我らの信奉する女神こそが最強であると》
「しかし、既にプラネテューヌのハァドライン、B2AMは――」
《我々の原型となったラステイションのハァドラインが残っている。B2AMもまた残党が生存している。我らの代理戦争は始まってすらいない》
「それでしたら。ここで根底から覆すのはいかがかと」
「はげどうい!」
スピカとカルネがジョッシュに向けて踏み出そうとした瞬間、大きく地面が揺れる。出鼻を挫かれ、体勢を崩した5pb.ちゃんをベールが支えた。ユウコの手を取り、エヌラスもドミネーションをジョッシュに向けている。
「今の振動は――?」
――リーンボックス。アームドソウルス本社、執務室。
『社長。ジョッシュ様より入電が』
《ハハハ! バカンス旅行から戻ってきた途端にバレちゃったかぁ! まー仕方ないね》
『どうされますか?』
《起動させるっきゃないだろう? こっからは時間との勝負だ! シロトラ、いいか?》
《構わんさ――遅かれ早かれこうなるというのなら》
プレジレントの振り返る先、白銀の機械騎士はそこに立っていた。そして、もう一人。足を組んでソファーに腰を下ろしている黒髪の人間――無貌の邪神。
《そちらも?》
「好きにしろ」
《キャロりん、例の品は?》
『キャロラインです。既に予定の過半数の製造を終えています。先遣隊に配備させますか?』
《実践も兼ねて六割だ! 残りはテスト結果次第で調整を加えて順次実装!》
その様子を黙って見守っているシロトラは首だけを邪神に向ける。
「……俺を疑っているのか?」
《いいや……お前は、俺の目を覚まさせてくれた。その一点だけは感謝している。このゲイムギョウ界は俺のいるべき場所ではない。
「それは重畳」
《お前に協力するのは》
「わかっている。そこまで自惚れちゃいない」
プレジレントの指示通りにキャロラインは通信越しに動く。それは、空中ライブ会場で待機していた部下達であり、リーンボックスの教会に襲撃する二組に向けた命令だった。
『聞こえていますね、ジョッシュ。対象を排除してください。深追いせず、あくまでも撤退させることが目的です。こちらで“アンサー”の起動は確認しています』
《キャロりんからの命令どおりに頼むぜ、ジョッシュ》
相手からの快諾に、プレジレントは頷く。
《なぜ教会を襲撃する》
《ハッハッハ。そいつはな、シロトラ。これはあくまでも女神の代理戦争だ。だからコイツは女神が潔白であることを証明しなければならない。その為に俺達が教会を占拠してゲイムギョウ界に声明文を発表しなきゃならないのさ! これはハァドラインによる戦争! 女神への狂信が招いたテロ行為! ご安心下さい、ってな!》
腕を組み、重量級の巨体が振り返るだけでも床が抜けそうな金属音が室内に広がる。
《とはいえ本社は手薄に出来んわけだ》
「それなら俺が護衛を引き受けてもいいが?」
《いや。いやいやいや、アンタはVIPだ。万が一にでもおもてなしに不備があったらいけない。そちらが持ち込んできた技術の支払いも済んでいないことだ》
「律儀なことだ、ビジネスマン」
《機械らしく基本に忠実なだけさ。交渉は常に対等に――》
『社長。アンサー、問題なく起動しました。ご命令を』
《オーケイ、オーケイ。HEY! 聞こえているか愛国者諸君! ちょいと早いが予定の時間だ、盛り上げていこうぜ! ショウッタイムだっ!!!》
戦闘用ロボット、軍事ロボット、警備ロボ――リーンボックスのあらゆる技術力が牙を剥く。愛国心一つで戦争を蜂起する。どれほど愛しても伝わらない、それならばいっそゲイムギョウ界に残せればいい。
時代を揺るがす一つの事件として――女神の代理戦争を。一心不乱の愛国心を証明する。
空中ライブ会場が揺れる。間もなくして会場全体に響き渡る駆動音に、エンジンが点火したのだと気づく。
「正気か、テメェ等」
《元より狂っているとも。そうでなくてはハァドラインの甲斐がない》
「流石だよ、狂信者」
エヌラスは舌打ちする。だが、駆動音に混じってロボットの足音が近づいてくるのが分かると数の不利を察した。数の不利もそうだが、何よりもこちらにはユウコと5pb.ちゃんがいる。加えて足手まといが一人。
「ベール、退くぞ」
「どうしてですの。ここで悪事を見過ごすわけには」
「気持ちは分かる。俺も腸煮えくり返ってるが、状況が悪い」
《ここで手を引くというのであればこちらも助かる。不要に拠点を破壊したくはないからな》
空中要塞を破壊する術はある。だが、万一にでも仕損じればその時は……思い出される魔術回路の焼き切れる感触に、背筋が寒くなった。
(二度とあんな無茶はしねぇって、決めた以上は……)
もう、自分ひとりの戦いではないのだ。
「スピカ、カルネ! 最小限を相手して退散だ! ここから脱出するぞ!」
「了解です、エヌラス様」
「お任せくださいご主人様! カルネ、愛のバーニングで何とかしたりできたらいいと思います!」
「その意気込みでもうちょっと踏み込め! ユウコ、逃げるぞ」
「マジで?」
「マジだよ!」
手を引いて逃げようとして――嫌な記憶が蘇る――ユウコの顔を盗み見てから手を離す。
「……走れるな?」
「うん? 当たり前じゃん?」
「よし。ベール。行くぞ!」
「不服ですが、そこまで言うのでしたら分かりましたわ」
ジョッシュは両手のライフルを向けてくるだけで引き金を引く様子はない。しかし、警備ロボット達が通路を埋め尽くす勢いで増加中だ。エヌラスは背後をスピカに任せて、カルネに先陣を切らせる。
走り去って遠ざかる一団の背中が見えなくなってから、ジョッシュは手を下ろした。
《――許しは請わん、恨めよ》
スピカが背後から迫るビット達に向けて銃火器から容赦なく火花を放つ。スカートを翻しながら手榴弾のピンを外し、追撃してくるガードロボの足元で爆ぜた。爆炎と爆風、そして飛散する部品の山に足止めを食らっている内に距離を引き離す。
「スピカさん、物騒ではなくて!?」
「おほほ、銃器は乙女の嗜みですもの」
「私は銃器を嗜んでないから、か弱い乙女!」
「テメェはそれをまだ引きずるかユウコ!」
「当たり前でしょ! 乙女心は複雑なの! 鉄くず邪魔ぁ!」
パカァン! フライパンで追いかけてきたビットが一匹、ピンポン玉のように壁をバウンドして後方へと遠ざかっていった。
「鉄くずって言ったよなお前!?」
「溶かせば全部ガラクタですー!」
「商業国家国王が聞いて呆れるわ!」
「和気藹々に混ざりたいですがカルネさんは先頭なので細心の注意を払いながら切り進むのでしたー、とやー!」
カルネの緋太刀で進路を妨害するロボット達は無力化されていく。エヌラスが設計図を広げ、非常口へのガイドをしていた。
「見えてきましたわ! 大丈夫ですか、5pb.ちゃん」
「は、はい。何とか。少し、息が苦しいですけど」
「――?」
息苦しい? 確かに相当な距離を走ってきたが、5pb.ちゃんはトップアイドルだ。肺活量ならば平均よりあると思うが……そこまで考えてエヌラスは不意に思った。
空中ライブ会場の非常口。その先のことを。
「少々手荒にいきますわよ!」
ベールの魔法によって非常口の扉が破壊される。そこはバックヤードも兼ねた広い通路だったが、左右からロボットの集団が迫ってきていた。遮二無二、蛍光案内に従って外部へと通じる扉を更にカルネが切り破り――。
ゲイムギョウ界を見晴らせる程の高々度へと生身で放り出された。
『きゃあああぁぁぁぁ――――――!?!?』
「チクショウやっぱりかぁぁぁぁぁっ!!」