超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
そして、残されたノワールとエヌラスの二人の間に走る沈黙は気まずいものだった。昼ドラの様相を呈して今や彼の社会的地位は落ちるに落ちて最低辺である。洒落や冗談で言っていいことと言って悪いことがあるが、プルルートの発言は間違いなく死刑宣告だった。
改めて――お互いに心を落ち着けて顔を見合わせる。
――考えてもみれば、そうだ。最強と呼ばれるアルシュベイトとの一騎打ち。バルド・ギアとの戦いを終えて何回の神化を残すかという瀬戸際で相手を選んでもいられない。そう考えると、まぁ、性癖云々やどうのうではなく、文字通りエヌラスは死ぬ瀬戸際に立たされていた。少しキツく言い過ぎたかも……。
ノワールは身体を起こすエヌラスの顔を見て、謝ろうかと思った。
――ハンティングホラーを使って戻ってきたということは、トライデントは無事にインタースカイへ送り届けたということだろう。そして、これをノワールに預けたということはバルド・ギアが信用したという証拠に他ならなかった。何より一緒にいたはずのネプテューヌとネプギアがいないのは、ゲイムギョウ界に無事に戻ったということ。プルルートを連れ戻しに来た、というのもウソではないはずだ。当の相手がアレでは苦労していることだろう。
エヌラスもまた、ノワールの顔を見る。
「えっと、エヌラス」
「なぁ、ノワール」
名前を呼んだのは同時だった。会話を切り出すタイミングを逃し、またも奇妙な沈黙が二人の間に流れる。
「あの。えっと……その、宿――なのよね。ここ?」
「えっ? あ、あぁ……」
「家一軒貸し出すサービスなんて、赤字じゃないのかしら」
「そうでもないらしい。宿を借りない限りは電気もガスも水道も、全部カットされてる」
宿泊日数に応じてやはり値段も上下するが、一日中電気点けっぱなしのガス使い放題、水道垂れ流しにしても黒字になるよう調整がされていた。その辺りの料金設定もまたユウコの匙加減で変わってくる。宿を取って、鍵を差し込まない限りは死んでいるも同然。当然そのメンテナンス費用も莫大な金額だが、このサービス自体がユノスダスでは“副業”として取り扱われている。
「ただ、飯とかそういうのは全部自前で用意しろ。らしい」
「どうして?」
「働かざるもの食うべからず、仕事ならごまんとあるからな。その日の飯にありつきたけりゃ、自分の足で仕事見つけて働いた金で食えってことだ」
「へ~、そうなのね」
どうにか話題を繋いで、台所で嬉しそうに料理をしているプルルートの鼻歌が聞こえていた。
「――あの、ね……エヌラス」
「ん?」
「アナタが最初に言っていた、その……変神するためにシェアエネルギーを消耗するって話。最初は冗談だと思ってたわ。それに――え、エッチなことしないとダメって……」
モジモジと股を擦り合わせ、顔を真赤にしながらノワールは続ける。
「だ、だけどやっぱり納得いかないのよ。どうしてそれでシェアが得られるの?」
現にプルルートは目の前で変身して見せた。だが、ノワールとしては明確な理由がわからずにそうそう身を乗り出す気にならない。もう少し確証の持てる話を本人の口から直接聞き出す必要があった。
それに、エヌラスも最初こそ黙秘を通していたが、やがて口を開く。
「シェアって言うのは、基本的に大勢の人間から得るものだ。だがそれは上辺だけの信仰心の話に帰結する。例えば、そうだな……流行の一品、とか話題のゲーム、とかな。そういうのは最初の内は注目を集めて大勢の人間が求める。コイツをシェアと仮定しよう」
「……ええ」
「それが長引けば、当然飽きる人間も出てくるわけだ。そうなると、人気が落ちるな。シェアの低下ってわけだ」
「でも、それならどう回復するのよ」
「――さっきも言ったように、シェアは信仰心だ。こいつを揺るがないものにするには、命を預ける。身体を預ける。「コイツの為なら死んでもいい」ってくらいに深い信頼関係を築く必要がある。“量”より“質”ってわけだ。だから、つまりは」
「裸の付き合いで、回復する……?」
「……そういうことなんだよ。納得、できたか」
はぁ……という重苦しいため息は苦悩の色がにじみ出ていた。それは決して疲労だけで現せる吐息ではない。エヌラス自身もそれにまた、悩んでいるのだ。しかし、それでもまだノワールの猜疑は晴れなかった。量より、質。それは理解できた。夜空の星より月明かり、そういうことだろう。
「でも、それでどうして私達は女神化出来るの?」
「…………」
「アナタに身体を預ける意味は分かるけど、それはあくまでもアナタが“シェアを得る側”であって、女神の“シェアを得られる側”の理由にはなってないじゃない」
そもそも今の説明では、女神としての素質を持つものが変身するだけのシェアが得られる理由が不足していた。エヌラスが得る側としての理由だけで終わっている。それについての言及にも、エヌラスは重そうに息を吐いた。
「命を預ける。身体を預けるっていうのはな、それだけで終わらないんだよ……」
「と、いうと?」
「行為そのものだけで済むならそこらで金叩いて女買ってりゃ済む話だろ。言い方はアレだが」
「そうね、最低ね」
「ノワール、お前の物をハッキリと言うところは嫌いじゃない。で、だ。それでどうしてかと聞かれたら――俺が、その相手に、命を預けるだけの価値があるってことなんだよ」
「…………――――」
「だから、プルルートが変身できるのは俺がアイツに命を懸けるだけ信頼してるってことだ」
照れ臭そうに、言っていられない愛の告白だとでも言うようにエヌラスは頬を赤らめてそっぽを向いた。つまりは、女神化出来るだけの信頼をエヌラスから供給してもらう。相互関係を築く。
「身体を重ねた相手を、俺が命を投げ打ってでも守らなきゃならんのは、そういうことだ。そういう関係でなくとも俺はお前達をこの戦争に巻き込むつもりなんてなかったんだよ。もし俺がプルルートのことを疑いでもしたら、アイツは変身できなくなって、巻き込まれて死ぬかもしれん。それは、俺が許さねぇ。俺が“自分を疑った俺を赦さねぇ”。まぁ、俺のこといじめて満足してるだけなら、別にいい……ん、だ……けど……な――」
まるでゼンマイの切れた機械のように言葉が途切れていくエヌラスの視線。その先をノワールが追っていくと、いつの間にか鼻歌が止んでいた。
「………………」
顔をこれ以上ないほど真っ赤にして、出来上がった遅い夕飯を載せたトレイを持って、プルルートがリビングの入り口で固まっている。半笑いの口が一体何を言いかけていたのかは分からない。だが、まるで茶汲み人形の如くぎこちない動きでテーブルの上にトレイを置くと、そのまま熱病に冒されたような危うい足取りでまた台所へ消える。
「…………聞かれてた、みたいね」
「……右手と右足、同時に出てたぞ」
カチャカチャと食器の擦れる音が聞こえてきた。それにホッと胸を撫で下ろした。
「でもまた、なんでそんな話したんだ?」
「――――それ、は。その、それよ。あれなわけよ、うん」
「いや、どれがそれでなんなのか全くわからん」
「だから、その――私も、このまま変身出来ないとアナタの迷惑になるだろうし、シておこうかなって……べ、別にそういう関係になりたいとかじゃなくて、足手まといになりたくないだけなんだからね!?」
「いや、そこまで自惚れてねぇよ……でも、プルルートは連れて帰らなくていいのか?」
「本人があれじゃ、無理やり連れ帰っても意味ないわ。私もしばらくこっちに居座るわよ。今の話聞いてたら、ふたりきりにしとくのも危険だし」
「おーうテメェどういう意味だぁこら。後できゃんきゃん鳴かすぞツンデレめ」
「…………や、優しくよ」
「そこで反論されねぇと俺が困るんだよッ!! ボケてんだよツッコめよ頼むから!」
胸を隠しながら恥ずかしがるノワールに、なぜかエヌラスは無性に自分が情けなくなって泣きそうになっている。
「プルルート、ちょっと大丈夫? 顔真っ赤よ?」
「ふぇ~?」
「……ほんとに、大丈夫なの?」
のぼせているかのような、惚けた反応にノワールは不安を覚えた。
「えへ、えへへへへぇ……あたしぃ、おかしくなりそ~」
はたから見ればもうとっくにおかしくなっているであろう恍惚とした表情で両手を頬に当て、身体をくねらせるその姿はもう病んでいるとしか言い様がないほど不安が押し寄せてくる。
ピッタリとエヌラスにくっついて晩御飯を食べるプルルートと、なんとも気まずい表情で淡々と食べるエヌラスに、落ち着かない様子のノワール。妙な緊張感で折角のハンバーグの味がまるで分からない。美味しい、はずだ。美味しいはずなのに、まるで味が分からない。なんの肉なのかも分からないくらいに今の三人は心ここにあらずといった様子で黙々と晩御飯を胃に落とし込んだ。
『ごちそうさまでした』
両手を合わせて合掌。片付けは三人で手早く済ませ、一段落――。
「…………」
「…………」
「…………」
の、はずだったのだが……誰も口を開かない。時計を見れば十一時を回っていた。時計の針の音がやけにうるさく感じる。
「風呂……入るか」