超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
九龍アマルガム滞在時間、一時間足らずですでに満身創痍のエヌラスが半自動運転のハンティングホラーによって大魔導師の隣を並走する。ゆったり走行速度、時速一キロ。大魔導師の顔を見た瞬間、国民は蜘蛛の子を散らすが如く逃げ出していた。
「それで、何をしに戻ってきた。エヌラス」
「時間が惜しいから手短に話すと――七日以内に鍛え直してくれ、師匠」
「――は?」
「いや、自分でも頭悪いこと言ってると思うんだが、頼む」
「出来ないとは言っていないがな」
「鬼かよアンタ! いや悪い、何も言うな。鬼が逃げ出す国王だったわ!」
国民が怯えているが、九龍アマルガムの国王である。
「別にお前を鍛え直すのは構わないが、死ぬほど辛いぞ」
「覚悟の上だ」
「いっそ死んだ方がマシなレベルだが」
「いや、いいから」
「むしろ今死んだほうが得をするんじゃないかお前?」
「脳味噌がエラー吐いてんぞ、来世で出直せ大魔導師」
「はははお戯れを」
「俺の台詞なんだよなぁクソッタレがぁぁぁ……!」
取っ組み合いを始める二人だったが、すぐに飽きたのか大魔導師が手を離した。エヌラスがバランスを崩すものの、ハンティングホラーに身体を預ける。ぐでーっと、まるで玉子のように。
「それで。具体的には何か計画はあるのか?」
「最近、銀鍵守護器官に頼りっきりであるということをアンタに痛感させられた。それと、両手の魔術刻印が壊されて使い物にならない。ドラッグシガーもしばらく禁煙する」
「一つ、三日で終わる。二つ、まずは身体を休めろ。三つ、禁煙はお前次第だ」
話が早くて助かる反面。一週間のところを三日で済ませる算段が既に大魔導師の中で出来ているというところに恐怖を感じた。今回は一体どんな無茶振りをさせられるのだろうか。
「教会に着いたらまず魔術回路の調整に入る。アーウィルを呼んでおくぞ」
「あのクソジジィの顔見ないといけないのかよ……」
「俺が直接やってもいいぞ? 当然麻酔抜きだが」
「ジジィで頼む……」
のんびりとした歩調で廃病院のような外観の九龍アマルガム教会へと到着した大魔導師とエヌラス。相変わらず蒐集品の展覧会と化している大広間を抜けて、執務室に。
「あ、エヌラスだ。久しぶりー!」
「おまえはなんでいるんだよぉでかいネプテューヌー!?」
「いやー、なんだかんだ居心地良くって! それにそれに、クロちゃんも羽根を伸ばしてのんびりしてるからさー。珍しい昆虫もたくさん捕まえたんだよー、わたしの充実のねぷノート見せてあげてもいいよ?」
「ファッキン解説大魔導師!」
「別に害も他意もないから居座らせた。――以上」
「余計なことしでかしてくれやがってくれてありがたくもねーよ」
「人類に理解できる言語で話せ」
「うるせー半人外」
「驚きの事実、俺は人間だ」
ハハハ、ナイスジョーク。エヌラスは聞き流した。大きいネプテューヌが九龍アマルガムに滞在していることについてはこの際水に流すとして。
教会に着いた以上は特訓の開始と同義。エヌラスは気合を入れ直した。
「うっし、大魔導師。早速だが特訓に向けて何かすることはあるか?」
「今から飯食って半日寝てろ」
「正気かよ」
「寝ろ。時間になったら叩き起こす。食事はこちらで用意する」
大魔導師の一見無茶振りだが、理に適っている。ろくに休めなかった生活が続いていた。それを少しでもリセットするために満足な食事と多少大げさな睡眠時間を摂取しろというのだ。ゲイムギョウ界ではそうもいかなかった魔力の補充も兼ねて。
「渡すものがあるなら今のうちによこせ。こちらで手配しておく」
「んじゃあ、そうだな。実はD-Phoneも壊れた。直しといてくれ。魔術回路の調整は」
「寝てる間にやっておく。携帯はこちらで預かるぞ、向こうに戻る頃にはアップデートも加えておくから楽しみに待ってろ」
「恐怖しかねぇよ。人の携帯を勝手に悪魔のパンドラボックスに改造するなよ大魔導師」
「なら俺に預けるな」
「改造すんな!」
悪戯をしない選択肢はないらしい。
「特訓? エヌラス、大魔導師に特訓してもらうの?」
「ああ。その為にこっち戻ってきたんだよ。ネプテューヌにはあんまり関係ない話だから気にすんな」
「ふーん、わかった。頑張ってね、エヌラス!」
「ああ。死なないように応援してくれ……」
「特訓なのに!?」
過去に漬物石を背負わされて無人島まで泳いで往復させられたこともある。しかも人間大サイズのフナムシと格闘込みで。ふざけろ大魔導師。ちなみに正攻略方法は水面を歩いて帰ってくる方法だと教えられてブチギレたことがあるが、返り討ちにあった。当然だが。
エヌラスが執務室を後にして、食堂に向かった後、大魔導師はソファーに寝転ぶネプテューヌ(大)を見てから「ふむ」と唸った。
「俺の暇潰しのネタが出来たな」
「なんかちょっと嬉しそうだね、大魔導師」
「そうか? ……そうか。嬉しいのか、俺は……」
いつぶりだろうか――あの男の口から“師匠”などという言葉を聞いたのは。だから、少しばかり反応が遅れて聞き返してしまった。
退屈ばかりで億劫だった時間が、少しだけいつもと変わって感じられるのはきっとそのせいだろう。
「さて。特にすることもなかった時間から、少しだけやることがある時間にランクアップだ。ネプテューヌ、お前もいつまで俺の仕事部屋に居座るつもりだ?」
「だって他の部屋に行くとサヤちゃんおいかけてくるんだもーん。ふしゅるー、とかかわいい声で鳴きながら」
「懐かれてるな」
「何故か身の危険も感じるんだよねぇ……」
「捕食対象なんだろう」
「なんで!?」
サヤ。大好物、お肉。――何の、かは敢えて伏せておく。
大魔導師の言いつけ通り、エヌラスは教会で雇っている大量のメイド達が作る料理を山ほど平らげていた。回転寿司の勢いで積み上げていくが、山盛りパスタ、山盛りサラダ、チョモランマ炒飯、羊の黒焼き定食など――少なくとも一人前どころか二人前三人前の皿を空にしている。皿を並べているメイド達も感心しながらせっせと皿を運んできていた。
「っぷはー、食った食った。山ほど食った、もーたくさんだわ、人並みの食事できるって素晴らしいな!」
「あの、教会の食料庫が半分ほど消えたのですが……」
「さーて風呂入って寝るか! ごちそーさまでしたー、あっはっはっはっは!」
聞こえない聞こえなーい。大魔導師に飯食って寝ろと言われたもーん。エヌラスはメイド達の途方に暮れた顔から目を背けて寝室に向かって歩き出した。
――翌朝。
「起きろバカ」
「どぅおぉぉぉっ!?」
予告もなしにデッドコースター間違い無しのモーニングコール、数秒前まで自分が寝ていたベッドが極々低音の刃によって焼滅した。第六感に従っていなければ今頃身体が消し飛んでいる。
早鐘を打つ心臓に、臨戦態勢を整えて大魔導師へ銃を向けたエヌラスだったが――思い返せば修行する時はいつもこんな調子だった。
「目は覚めたか?」
「寝起きぽっくりとか洒落にならん」
「シャワーで寝汗流して顔洗って飯食って一休みしたら特訓開始だ。急げよ、時間が惜しいならな」
「ああ、わかった」
悪びれる様子もなく淡々と話を進める大魔導師に言われた通り、寝間着を脱いでシャワーを浴びると、熱湯で残っていた眠気を流し落とす。
改めて服を着替えようとして、腰にタオルを巻いた状態で部屋に戻るとそこにはメイドが一人立っていた。手には替えの服。
「おはようございます、お目覚めの加減はいかがでしょうか?」
「寝起きで死ぬかと思った」
「それはなによりです」
(こいつ人の話聞いてねぇな?)
「大魔導師より特訓に向けた衣装を預かってまいりましたので、こちらにお着替えを」
「ああ、サンキュー」
「朝食のご用意は出来ています。冷めないうちにお召し上がり下さい。それでは後ほど」
エヌラスは用意されていた服に着替えることにした。袖を通して着心地に頷く。流石は暇神、することがないやつは仕事が違うなとエヌラスは驚いた。
「お前なにか俺に失礼なことを考えていないか?」
「飯食った開口一番なんのことか分からない」
「人の顔見て飯を食うな」
「いや、食わねぇのかなと思って……」
「お前が来る前に済ませた。そのおかげで、こうして俺は食事中のお前に嫌がらせができるというわけだ。そーら貴様の目玉焼き目掛けて重力弾」
「あぶっ、てめっ、やめろぉ! 飯ぐらい静かに食わせろぉ!」
賑やかな朝食に、大きなネプテューヌは飛び交う重力弾を目で左右に追いながら食事を口に運んでいた。クロワールもフワフワと飛びながらパンの耳をかじっている。
「なーにやってんだか」
「大魔導師ってあんな風にはしゃぐんだ。ちょっと子供みたい」
「どっちもどっちだろ」
「よーし大魔導師、表に出ろ! いい加減頭にきちまったよ! 身体の調子も絶好調だから相手してやる!」
「お前が寝ている間にアーウィルの爺さんと魔力回路の調整をしてやったからな。それにまったく気づかず爆睡決め込んだ間抜け面だったが。写真撮ってあるぞ、ばら撒かれたいか」
「その前に手首から上をふっ飛ばしてやる、覚悟ぉぉぉっ!」
チュドーン。
エヌラスが教会の玄関前まで蹴り飛ばされた。
地獄の修行、開幕である――。