超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ゲイムギョウ界では、三人の女神がリーンボックス奪還の為に共同戦線を張っていたが、海上に展開しているハァドラインの前衛艦隊によって進行を阻まれていた。
無数の飛行型ドローンに、艦隊からの機銃による弾幕。さらにはそれぞれの武装企業の管理者達が行く手を阻んでいる。
「クソッ! これじゃ近づけねぇぞ!」
ホワイトハートが怒り心頭、と言った様子で小型ドローンを撃墜。
「流石はリーンボックスね、ベールが治めてなりを潜めているとはいえ軍事国家というだけあるわ! というか、全力で艦隊を展開しすぎじゃないかしら!?」
ブラックハートの感心と驚愕と呆れが混じった声。リーンボックスの陸地までが果てしなく遠く見える。ざっと見渡しただけでも数十隻は並んでいた。時折、大型の砲弾が飛んでくるのは後方に配置されている戦艦、メガベースからだ。
「この物量はさすがにわたし達でも厳しいわね」
パープルハートも苦い顔をしている。切り抜けるにはあまりに厳しい。集中砲火の只中を切り抜けたとしても、まだ陸上にもハァドラインが随所に展開していた。戦力と体力を温存するにしても難しい話。女神候補生を含めても、海上突破が関の山。
「チッ。ここらで敵の戦力を削っておきたかったが、これじゃジリ貧でこっちが負けちまう」
「それにしても変ね。妙に敵が強い気がするわ」
「レベル的なものかしら?」
「メタいぞ、ネプテューヌ」
「じゃあ敗北イベント?」
「ちょっとネプテューヌ! そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
ブラックハートの眼下、接近してきているロボットがいた。
《やはり来たか。守護女神》
「来たわね、ハァドラインのロボット!」
「テロボット、リーンボックスを解放しなさい!」
「お前のネーミングセンスはどうにかならねーのかよ!」
全身が白く塗装された機体は背中に一対の羽根のようなスタビライザーを背負っている。
《リーンボックスの解放もなにも、我々は束縛などしていない。プレジレントの放送を聞いていなかったのか》
「ええ、聞いていたわ。あなた達が武装蜂起して、ルウィーを目指しているということは」
「なんでルウィーなんだ、答えやがれ!」
《……それはプレジレントが知っている。ゲイムギョウ界最古参として名を馳せるルウィー、そしてホワイトハート》
「知りたきゃお前達を倒していけってことか。元からそのつもりだ!」
「落ち着きなさい、ブラン。ここは退くわよ。いくらなんでもこれ以上は無理だわ。あれを見なさいよ」
ブラックハートの視線の先。帰港していた艦隊が続々と集結しつつある。これ以上まだ更に増えるというのか。
「くそ、今のアタシ等じゃどうしようもねーってのか……」
「今回は様子見のはずでしょう? 無理は禁物よ。作戦の練り直しが必要ね」
「そこまで言うなら、わかった……」
高速飛行で遠ざかる女神達の背中を見送り、胸を撫で下ろす。
たった三人でこの損害――無力化された艦は決して少なくない。グリーンハートが加わればこれに拍車がかけられていたと思うと、ゾッとする話だ。今回だけで被害総額に頭が痛む。
《こちらジェラルド。三女神は退いてくれたようだ》
《はは、肝が冷える! それで、そちらはどうだ》
《駆逐が十五隻、巡洋艦が七隻。加えて、武装企業が三隻無力化された。まったく、女神というのはつくづく呆れるほどの戦闘能力だ》
《一体いくらかかると思っているんだろうなぁ、アハハハハハ!》
プレジレントの底抜けに明るい笑い声。事後処理をどうするか尋ねると、回収班を回す手配をしてくれた。
《しかし、こちらにこれだけ戦力を割いていいのか? 本土防衛戦力は残されているか?》
《グレートウォールにアブラ艦、付け加えりゃ本社がある。十分すぎるくらいさ。難があるとすれば旧式ってことぐらいだ! 改修するにしても時間がなくてな!》
《致し方ないことだ。帰投する》
救いがあるとするなら、これだけのことをしているにも関わらずリーンボックスでは概ね通常運転ということぐらいか――。
アダルトゲイムギョウ界、ユノスダス教会ではベールがユウコによって起こされていた。
「おはよー、べるちゃん。よく眠れた?」
「ん、ん~……! ええ、おかげさまで。おはようございますわ」
「朝ごはんは作ってあるから、顔を洗って冷めないうちに食べちゃおっか」
「そうさせていただきますね」
朝食を摂って、それがユウコの手作りであるということを知らされる。職員が作ると言っても聞かず「私のお客様なんだから私が作るんだよ、きしゃー!」と、厨房でひと暴れしたとか。気のせいか、ユウコに声を掛ける職員も恐る恐るという感じだ。
「おいしー?」
「ええ、とても」
「いやー、お客様もてなすの久しぶりだなー。こっちの仕事も昨日で一段落ついたし」
「えっ」
「久しぶりに徹夜しちゃった、あはは」
「……いつ寝ているんですか?」
「基本的にー……朝? とか?」
「なんで疑問形なんですか」
ほんとうにいつ寝ているのか。ベールはユウコが作ったモーニングセット・洋を綺麗に食べ終える。終始その様子をにこにこと笑顔で見ていたユウコはこれから就寝するようだ。
「いやー、私も忙しいからさ。朝やる仕事と昼の仕事と夜の仕事があるからね。余裕があるのは朝から昼の仕事の合間なんだよね」
「多忙なのですね」
「まぁねー。そこで、べるちゃんにお仕事!」
ビシッと人差し指を突きつけてから指を鳴らし、アイルを呼ぶ。
「はい、お呼びでしょうか国王様!」
「よくきたアイル! 口の周りにお弁当ついているから」
「はい、すいません!」
「あらあら。こちらですわよ」
「ほひぃ、ありがとうございます!」
ベールが朝食中だったアイルの口に付いたパンくずを取ると、それに耳を立てて頬を紅くしていた。
「それで、何用でございますか! はい!」
「べるちゃんにお仕事を手配しようと思って。そこで、私が就寝している間にユノスダスの警備をしてもらいたいの」
「かしこまりました!」
「じゃあ、よろしくねアイル! 私はお風呂入ってお布団だから! みんなー、今日も頑張ってねー! おやすみー!」
大きく手を振って教会食堂を後にするユウコに、職員たちは元気に手を振り返す。
「おやすみなさーい!」
「ごゆっくり、国王様ー!」
「良い夢をー!」
「よーし、みんな今日も頑張るぞー!」
『うおおおおおーー!!』
熱気と活気と士気向上。一体なにが職員達のモチベーションに繋がっているのか。少なくともベールはリーンボックスの教会でここまで職員達がやる気に溢れている姿を見たことがない。
「す、すごいですわね……」
「そりゃもう、みんなユウコ様大好きですから!」
「それは見ればわかりますが、一体なにが皆さんをここまで?」
参考までに。ベールはアイルに尋ねる。傾いた軍帽を直しながら、アイルは照れくさそうに笑いながら答えた。
「え、えー。だってほら、ユウコ様ってすっごくかわいいじゃないですか。疲れた顔してる職員には一声掛けてくれますし、休暇の申請は通してくれますし、残業代は出ますし深夜手当も出してくれますし。雇用手当も年金もストレートに通してくれます」
「えーと……行政手当が厚い、ということでしょうか?」
それならリーンボックスだってそうだ。しかし、一体なにが違うのだろうか。
「頑張ったら褒賞、失敗したら激励。たまに手作りお菓子を振る舞っての親睦を深める懇親会。ただし参加は任意かつ、会食はユウコ様持ち。ここまで私達のために頑張ってくれるホワイトどころかシャイニング企業、ありませんって!」
その他手厚い保険等。厳しいところは厳しいが、成績を出せば出してくれた分だけ褒めてくれる――はて、これはなにか既視感が……? ベールが思案して、ハッと思い当たった。
(保護者……! バブみですわこれ!? 親から子への愛情表現、育児なのでは!?)
うつ病患者の引きこもりもユウコにかかれば一週間で中小企業の新米くんに。老若男女問わず母性愛の前には赤子同然。そんな国王様のスローガンは『働かざるもの食うべからず』――私がみんなの為にめちゃくちゃ頑張ってるんだからみんなも出来る範囲で頑張れ。そんなエネルギッシュな原動力で運営される商業国家は爽快感溢れる健やかな完全非戦闘区域。
それに比べて自分ときたら――治世国はテロ屋によって教会占拠という体たらく。
「ど、どうかしたんですかベールさん! お腹痛いですか、ぽんぽんぺいんですか!」
「うぅ、違いますわ。なんだかわたくし完全敗北した感が半端ないですわ……」
「大丈夫ですよベールさん。ユウコ様ばりのオッパイの持ち主じゃないですか、母性の証! 大きい人は損しない、小さい人は得をする! ユノスダスで職業体験すれば気持ちも切り替わりますよ!」
「そうなのですか? ぐすん」
「はい! そんなわけでユノスダスの警備員として頑張りましょう!」
肩に手を置いたアイルは明るい笑顔でサムズアップする。涙を拭って、ベールはそれにならってサムズアップした。くよくよしない、失敗は振り返らない、立ち止まらない。光陰矢のごとし――過ぎたことは、気にしない。折り合いがつかなければ誰かに相談してスパッと終わらせる。
「と、いうわけで! ベールさんもこちらにお着替えお願いします」
「これは……軍服、ですわね?」
「はい! ユノスダス警備職員の制服です! あ、腕章も忘れずに」
アイルから更衣室で手渡されたのは、緑の軍服。サイズは、胸の辺りが気になるものの袖を通してみてばちょうどバストを下から持ち上げるようにベルトを通す穴があった。
「――ん、しょ。こちらでよろしいですか?」
「やっぱりお似合いですね、色合いもバッチリです!」
「で、ですがこの胸元は強調しすぎなのでは?」
「何を仰いますか! その胸下ベルトは巨乳の味方、その名も『ササエル』君ですよ! 背中までグルっと回すので姿勢矯正ベルトの役割も果たしてくれる、言わばお手軽コルセット! キツくもなく緩くもなく、それでいて胸の動きを抑制かつサポート、クーパー靭帯への負担も四割カット、当社比込み! そんなササエルくんを邪険に扱わないでください、ベールさん!」
「やけに力説しますが、そんなに凄い代物なのですか?」
「ユノスダス売上ランキングじゃトップ10に毎年食い込んでくるくらいには」
競争倍率の激戦区であるトップ10に食い込んでくるということは――それが即ち、ユノスダスにおける需要と供給を示している。……同時に、巨乳の女性が多いことも。
ベールは、改めて姿見の前で自分の格好を見直す。
その警備制服のデザインは、なんでも軍事国家アゴウからの案が採用されていると。なるほどと思う。第三帝都制式採用の軍服に多少のアレンジが加えられている。着用してみれば、フィット感も悪くない。むしろ着ているだけでどことなく高揚感があった。
「なんだか、コスプレをしている気分ですわ」
「形から型にハマるっていうのは大事ですもんね。ちなみ、この服。以前エヌラスさんに着せた時がありましてね? いやー、あの時は大変でしたよ」
「と、いいますと?」
「その服装に勘違いしたアゴウの守護女神様がですね――『まだ生き残りがいたか、チェストー!』とか言いながら切りかかって、そりゃもうえらい騒ぎに」
死人と負傷者が出なかっただけ奇跡だ。
そうではなく、守護女神? アダルトゲイムギョウ界にも?
「軍事国家アゴウの守護女神と言いました? ぜひお会いしてみたいですわ」
「あー……えー、うーんとですねぇ。辞めておいたほうがいいと思います。本当に」
「あら、なぜですの? 同じ守護女神ですのに」
「だからこそです。あの御方が、守護女神に出会ったと聞いたら――とんでもなくはしゃぐか、すごい勢いで喜んで斬り合うかのどっちかです」
「お祭りと血祭りの二択ですの!?」
「なので。アダルトゲイムギョウ界の住人として忠告できるのは。アゴウの守護女神とは会わないでください、としか……いや、この発言聞かれたら私も何されるかわかりませんが……」
とにかく、大魔導師に次いで――或いは、一二を争う程の危険人物らしい。そうまで言われるとやはり会ってみたくなる。
(ふふ、アダルトゲイムギョウ界では新発見がいっぱいですわね)
「それはさておき。ユノスダスの巡回に参りましょう、ベールさん! 不肖ながらこのユノスダス教会警備職員のアイルがご教授いたしましょう、食べ歩きスポット!」
「すでに期待と不安が織り交ぜですわ」
新鮮な気分でベールはアイルと共にユノスダス教会から、街へと繰り出す。