超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ユノスダスの活気は朝から絶好調だ。というのも、この国が商業国家であるのなら必然と言える。輸送用フォートクラブは昼夜問わず背中の荷物を集荷場に向けて運搬するし、燃料補給もセルフガソリンスタンドで自らの手で行う。優秀な自律行動に見惚れていたベールに、アイルが相槌を打った。
「フォートクラブ。或いは要塞ガニです。軍事国家アゴウ、電脳国家インタースカイの両国ならばまだしも……犯罪国家九龍アマルガムが共同制作したという汎用大型支援ユニットです」
「大きなカニですわね。お店の看板でもこうはいきませんわよ?」
給油中のフォートクラブは動きを止めて燃料の補給が終わるのを待っている。なんだかその様子がペットのようで、見ていて可愛らしいとさえ思えてしまった。
「ネプギアちゃんが好きそうですわね。ですが持って帰るにはちょっと大きすぎる気が……」
「ミニチュアサイズなら新車くらいのお値段で取引されてますよ?」
「ゲイムギョウ界の残高が使用できれば考えるのですが、厳しそうですわ」
「あなた守護女神ですよね。それ国家予算なのではー?」
「(他人の)妹が買えると思えば安い買い物です!」
「(フォートクラブを)妹!? あなた妹を購入する気なんですか!?」
「わたくしの買い物を止めないでくださいませ!」
「あなたの趣味をどうこうする気はありませんが、今はお仕事中ですー!」
財布を片手に銀行に向かおうとするベールをアイルが引き止める。
「申し訳ありませんわ。わたくしとしたことが……」
「い、いえ。それにしても奇特な趣味をお持ちなんですね」
「それはもう(妹)大好きですもの」
「は、はぁ。そうなんですか。(機械が)大好きなんて変わってますね……」
微妙に食い違いながらも、二人はユノスダスを巡回した。
「警備、と聞いておりましたが具体的には何を?」
「そうですねー。警備職員の仕事としては、迷子の道案内とか、信号を渡るご老人の手を引いたりとか、交通整理とかですかね」
「……不躾なことをお聞きしますが、お暇なのでは?」
「あっはっは、何をまさか。充実した時間ですよ、さぁ。張り切って参りましょう!」
やっぱり暇なのでは? ベールとアイルがユノスダスの観光名所を歩き回っている四時間の間は特に何事もなくお昼休憩の時間となった。
「おや、お昼休憩ですね。せっかくですのでおいしいドーナツのある喫茶店に参りましょう」
「楽しみですわ」
「その地区、インタースカイの方が多いので――ああやっぱりいましたよ、インタースカイ国王様。暇しているんでしょうかね?」
昼下がりの喫茶店の立ち並ぶ通り。その中の一軒、オープンカフェテリアで優雅な昼休みを満喫している青年がいた。
メガネをかけて、白いシャツを羽織って、テーブルの上に広げているのは電脳空間に保存してある仮想タブレット。画面をタップすればその中で演算処理が行われる、いわば王様専用高性能パソコンといったところだ。
「あー、ハローハロー。どうもインタースカイ国王様。暇してます?」
「キミはなんというか、相変わらず失礼だな。一応、僕もユウコに並ぶ国王様なんだけど?」
「暇してます?」
「暇じゃないよ。執務中、見てわからない? こう見えて多忙なんだ」
アイルを追い払うように“しっしっ”と手で遠ざけようとするが、見慣れない女性の姿を目の端で捉えて訝しむ。
「そちらの女性は?」
「ナンパですか。モテないからって」
「うるさいよキミは。一々引っかかる言い方をするなぁ」
「はじめまして。わたくし、ゲイムギョウ界の守護女神の一人、ベールですわ。貴方は?」
「僕は電脳国家インタースカイ国王、琴霧ソラ。と言っても今は仮の姿ですので」
「あら、そうなのですか?」
「有事の際は本来の姿をお見せしますよ。そんな機会に恵まれないことを祈りますが」
こうしてアダルトゲイムギョウ界の国王に出会ったのはソラで二人目だ。しかし、言われたとおりに見れば見るほどに目立たない。特徴らしい特徴がメガネくらいだ。
「あの、なにか?」
「なんでもありませんわ」
「まぁいいです。悪さしたらユウコ様に即座に通報するからな、変なことするなよ」
「他国で不敬罪適用外なの感謝しろよキミ……」
「知るかメガネこの野郎め。さ、ベールさん。メガネは放置で向かいのカフェに行きましょう」
「そこ、うちの直営店なんだけど」
「パルフェも美味しいお店ですけど、やっぱり私としてはドーナツ! 盛り合わせでお昼は十分ですよ!」
ソラの言葉を無視してアイルは向かいの喫茶店へ。ベールはそういえば、と思い出したことがあった。
「ソラさん。一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「僕で答えられるものなら、どうぞ」
「ミニサイズのフォートクラブはおいくらほどで……」
「えー、と。そういうのは相場調べてみないと……新品中古ありますし、色とか装備とか…、っていうか何に使うんですか」
「プレゼントしようかと」
「女神様って何考えてるかわかんないなぁ……」
「アゴウにも守護女神がいるとか――」
「すいません、名前出さないでもらえます?」
会話を遮るようにソラは制止した。迅速な対応に、ベールは思わず頷いてしまった。
「と、とりあえずフォートクラブの相場調べておくのでお昼どうぞ」
「ええ、わかりましたわ……」
首を傾げて、アイルの後を追う。
(どうしてそんなに嫌われているのか、ますます気になりますわ。ですが、ユノスダスからは出られませんし……かといって守護女神がこちらへ来るとも限りませんし。せめて挨拶くらいはしておきたいですわ)
まさか街のど真ん中で切り合いを始めるような人でもないだろう――。
ベールが喫茶店で優雅にランチタイムを過ごしている頃、九龍アマルガムでエヌラスは酷い目に遭っていた。
「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」
重い。重い――。重すぎる。担いだバーベルが、時間が経過するごとに重量が加算されていくことは説明を聞いていたが、それがよもやこれほどとは思わなかった。
最初こそただの重りだった。重石だった。荷物を持って走る、過酷なトレーニング程度だとは思っていた。しかし、戦闘するとなれば話は別で。
小刻みなステップを挟んで接近してくる短刀メイド。第二チェックポイントの爆撃メイド。第三チェックポイントの銃撃メイド。ここまで各自を小一時間で切り抜けてきたが――とにかく、キツイ。足だけではない。上体も悲鳴を挙げ始めていた。なにせ片腕を使うにはこのバーベルを片手で担いでいなければならない。それも時速十キロ以下になればブラックホールに消える奴がいる。
このトレーニング考えた大魔導師は一度自分でやってみればいいと思う。エヌラスは切に願いながら銀鍵守護器官で加速しながら次のチェックポイントを目指した。
「や~っほ~、お待ちしてましたご主人様ぁ~!」
「お前のご主人様になった覚えはねぇ!」
「じゃ~、私の“未来の”ご主人様、旦那様ぁ! お覚悟!」
「俺の将来設計ぶち壊しになる前にぶっ壊してやる!」
第四チェックポイント。立っていたのは、偃月刀を持ったメイド。さしずめ斬撃メイドといったところか。ミニスカメイドの華奢な身体と不釣り合いな凶器。満面の笑みに返り血をアクセント、なんか足元に生首転がってる気がホワイ。エヌラスは玉のような汗を流しながら続く第四チェックポイントで激闘を演じ始めた。
「おいっちにーさんしー」
「にゃーにゃーさんしー」
「小腹が空いてきたな」
教会では、敷いたマットの上でおおきなネプテューヌがサヤの手を借りて有酸素運動中。腹筋を鍛えていた。大魔導師は腕を組んで突っ立っているだけである。何しろ教会周辺は閑散としている。これが普段であればちらほらと人通りも見られるのだが。
「ふーっ……」
仰向けになった大きなネプテューヌが大きく息を吐き出す。豊かな胸が上下する。身体を起こそうとして、不規則な地面の揺れを感じ取った。段々と揺れる幅が大きくなっていき、サヤと大魔導師も気づいていたが“いつものこと”なので慣れている。
「あ、破壊ロボ」
「次のチェックポイントあれでいいか」
「う、うわぁ……エヌラスが聞いたら泣きながら怒りそう……」
実はこの人なにも考えてないんじゃないだろうか? そんな大きなネプテューヌの疑問をよそに、大魔導師は電話を始めていた。