超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ユノスダス教会へと戻ってきたアイルが、校門前で立ち止まる。
「ユノスダス教会警備職員、アイル! ただいま戻りましたー! ほらほらベールさんも。あ、警備職員研修性ですね」
「わかりました。では……ユノスダス教会警備職員研修性、ベール! ただ今戻りましたわ!」
校門を抜けて二人は教会の中へと戻ってきた。そこでは職員たちが山のような書類を持って異動している。その最後尾、寝起きのユウコがダンボール箱を持って続いていた。
「あ、おっかえりーお二人さん!」
「おはようございます、国王様!」
「ユウコさん、おはようございますわ」
「うむ。寝起きでまだちょっとねむねむだけど。昨日片付けた書類置きっぱだったから今のうちにまとめておかないと。あ、食堂の方はすぐ開けられるようにしておくから、それまでに今日の報告書提出しておいてねー」
「ユウコ様ー、早くー」
「はいはーい。それじゃみんな行こうか」
ユウコを見送った後、アイルとベールの二人はオフィスで報告書の作成に取り掛かる。日付と名前と、いくつかの項目にチェックを入れて、その他備考欄に詳細な報告を記入する。
デスクに座ったベールは慣れた手つきでキーボードを叩き、アイルは赤縁メガネを着用して報告書を記入すると、プリントアウトして手書きでサインを入れた。
「後はこれをユウコ様の執務室に置いておくだけです」
「全員分に目を通すんですか?」
「勿論ですよ。こう、端っこ持って……バラバラバラーって感じで」
吸血鬼特有の身体能力を有効活用した速読。誤字脱字、チェック漏れは今まで一度も見逃した事がない。それはユウコにとっても自慢のようだ。
「さぁ、それより今日の夕飯が楽しみです! ユウコ様直伝の献立ですからね、食堂の美味しさは保証しますよ」
「それは楽しみですわ。もうお腹と背中がくっつきそうでした」
お腹が鳴らないか心配していたが、杞憂に終わった。大食堂に辿り着いたベールの眼前に広がる光景。食堂を切り盛りしているのは、他でもないユウコだった。書類を片した後、身だしなみを整えて厨房に。そこから始まる国王様の業務その一。
みんなのご飯作り。
「はーい、みんなおつかれさま。順番に並んでねー、喧嘩しないでねー。食券買った人から並んで並んでー」
割烹着に三角巾、食堂のお母さんがそこには立っていた。髪の毛は邪魔にならないようにアップにまとめたうなじが眩しい。
本日の献立は純和風。白い炊きたてご飯に焼き魚、野菜の煮物、胡麻和えほうれん草。そして味噌汁。具材は豆腐とわかめ。疲れた身体にほっと染みる献立。
「おかわりあるからねー、早い者勝ちだよー!」
『はーい!』
「それじゃみんな」
『いただきますっ!』
席について食事を始めるユノスダス教会職員の顔ぶれをベールがざっと眺める。
ケモミミ職員が多数。普通の人間も見受けられるが、ユウコが吸血鬼である以上は同種族も混じっているだろう。
(それにしても、平和ですわね)
女神という職務を放棄しての、一国民として扱われる今の環境が新鮮に感じられる。リーンボックスが大変なことになっているが、今の自分に出来ることと言えば開戦の期日までに万全の準備を整えること。ユノスダスで装備を買い揃えたり、インスピレーションを得たり、今後に備えて交流を深めたりと。
「べるちゃん、どう? お口に合う?」
「国王様ー、おかわりくださーい!」
「はいはーい! ――へいお待ちー!」「山盛っ!」
「それで、どう?」
「ええ、とっても美味しいですわ。食べていて胸が撫で下ろされると言いますか、安心する味つけ……おふくろの味、とでも言いますか」
「あはは、よく言われちゃうんだよね。うーん、そんなに私の舌ってあれかな、年寄りかなぁ。若いんだけど……」
みんなからはお母さんと言われる一方で本人はそれにちょっぴり悩んでいるようだ。決して悪気はないことを理解していても、そこは気になる乙女心。だが、この上なく割烹着スタイルが似合っていてふとした拍子に口からお母さんと言いそうになってしまう。
「悪気はありませんのよ?」
「わかってるよぅ。今日は慣れない警備のお仕事もして疲れただろうし、この後は自由でいいよ。あ、でも街に出る時は一言言ってね。誰か護衛つけるから」
「女神ですのに?」
「そ、女神様でも。何が起きるかわからないからねー」
「例えば?」
「んー? 例えば――月の支配者、月面国家ナナイトの国王にとっ捕まって面白おかしい一夜を過ごして翌日寝坊になったり」
「なんですかそれ!?」
「いるんだよぅ、そういうのが。私と同じ吸血鬼だけど階位で言えばあっちが上。もし見つかったらすぐ私に言ってね、フライパンで黙らせちゃうから。あとニンニクで作った十字架とかニンニクエキスの注射器とかニンニクのたまり漬けとかぶっかけておくから」
「発想のそれが明らかに嫌がらせでは?」
今日は疲れているので、ベールは極力早いうちに就寝することにした。
ベール不在のゲイムギョウ界。プラネテューヌではアイエフが諜報部から得たデータを元に、現在リーンボックスに展開しているハァドラインの戦力を換算していた。その総数、驚くことにプラネテューヌ、ラステイション、ルウィーの総合戦力に引けを取らない。質はともかく、戦いは数だ。その中に含まれている人間が居ないというのが尚更に大きい。つまりは、リーンボックス国民に被害が出ないということ。打撃を受けるのはあくまでも軍事企業だけ。
「ロボットだけで言うなら、確かにプラネテューヌの比じゃない数です」
「それならラステイションだって負けてないわよ」
「確かに、技術力で言うならプラネテューヌもですが。ハァドラインとは掛けた時間があまりに違います。向こうは計画自体がかなり早い段階から用意されていたのに対し、こちらに残された猶予は残り五日。多く見ても六日が関の山。その間、戦力を減らすにしてもこちらの有効な戦力は女神だけ」
「すまない、ネプテューヌ。敵の戦力が海上に展開していなければわたしも手を貸しているのだが……」
対策会議室――もとい、プラネタワーの一室。ミリオンアーサーは申し訳なさそうにしていたが、それを誰が非難できようか。そこが問題なのだ。海上に防衛戦が展開されている以上、飛行能力がなければ突破すら叶わない。かといって船で対抗しようにも、轟沈は免れない。
「それなら、わたしやユニちゃん、ロムちゃんやラムちゃんのみたいに遠距離攻撃で……」
「それも厳しいんじゃない? 魔法ならともかく、光学兵器に対する防御性能も持ち合わせているみたいだし」
「それなら、海を凍らせるってのはどうかしら? それなら少なくとも相手の足は止められるわよ?」
「ノワール。それを維持できるだけの魔力を、わたしのかわいい妹達にやらせるつもり? あんな機銃の嵐の中で。それこそ嫌よ、断固拒否だわ」
「うんうん、ブランの言うとおりだよー。嫌な汗かいたもん。スリリングってレベルじゃねー弾幕だったもん。芸術性なかったけど」
「ええ。弾幕は火力が正義なのよ……」
魔法による防御の薄さを艦隊の数でカバーしている。それに付け加えて、小回りの利く機動部隊。管理者五人組。
「ラステイションの方では例の宣戦布告からすぐに防衛戦の用意を始めたけれど、二人は大丈夫なの? あ、別に心配しているわけじゃないわよ。確認よ、確認」
「ルウィーでは問題ないわ。念のために国民の避難誘導も順調に済んでるわ」
「プラネテューヌでも特に問題はないと思うけどなー。ほら、うちの教会職員はみんなぐぅ有能だからね!」
「ネプ子がしっかりしていないから、アタシがやってるんだけどね。まぁいいわ。ノワール様、プラネテューヌでも避難誘導は呼びかけていますし、それに――」
「それに?」
現在、教会で身柄を確保しているB2AMの残党。本人達の意思を尊重して、今はイストワールの監視の下、機体の改修中だ。その資金源は、リーンボックスの企業連盟からである。敵に塩を送るだけの潤沢な余裕を見せつけられているが、背に腹は変えられない。――余談だが、ネプテューヌがその資金を自分のお小遣いに回せないかとイストワールに申し出た結果、ゲーム禁止令が出されそうになったのは少し前のお話。
「“彼ら”もやる気があるようですし、何とかなるかと」
「そう。ネプテューヌはともかく、アイエフが言うなら大丈夫そうね」
「なにそれー。わたしだってやる時はやるんだよー!」
「そういえば、プルルートは……?」
「ぷるるん? 向こうに急いで戻って行っちゃった」
R18アイランドの旅行から帰ってくるなり、ピーシェを連れて神次元へ戻っていった。なんでも、急を要する事態が発生したとイストワールからの報告だ。そちらも気がかりではあるが、今は自分達の世界を何とかしなければ。
「相変わらず、問題は山積みね。でもなんとかなるわよ、わたし達なら」
「ええ、そうね。……気がかりなことと言えばもう一つあるわ」
「なにかしら」
「ハァドラインのロボット達。妙じゃなかったかしら? 変に硬い、というか女神のシェアエネルギーに対して抵抗力を持っていた感じで」
「……言われてみれば、そうね。ネガティブエネルギーで動いている感じじゃなかったわ。あれはどちらかと言うと……シェアエネルギー?」
「まっさかぁ~? そんなのがあるんだったらわたし達女神のお株大暴落だってば」
「ネプテューヌは女神としての自覚が無さすぎなのよ!」
そこいらの量産型ロボット達が女神に匹敵するパワーを得られるパーツなんて開発された日には、それこそ女神代理戦争が激化する。