超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
企業連盟本部――社長は相変わらず鼻歌を唄いながらリーンボックスを見下ろしていた。シロトラも柄頭に手を置いて待機している。そして、もう一人。仮面を付けた邪神は仮眠しているのか、ソファーに横になっていた。
《……シロトラ》
《なんだ、プレジレント》
《あー、お前さんはアレか? そっちにつくのか》
《ああ。だが、資金援助の条件だ。お前達に助力する》
《ははは、律儀だな! お前の名前はしっかり名簿に記帳しておくさ! 安心しな》
プレジレントなりの気遣いにシロトラは黙って頭を下げる。
《しかしながら、お前さんは奇妙なモノに好かれるな》
《自分を棚に上げるな》
《ハッハッハ! それはそれ、これはこれだ。気にするな! お前が連れてきたその仮面様々だからな》
ゲイムギョウ界においては得られるはずもない知識の数々。別次元の技術介入にもかかわらずそれらを自分達の技術で再現してみせる企業連盟の技術力には、シロトラも思わず感心してしまった。しかし、それでもなお疑問になるのは――この仮面の邪神が、何者であるか。
《信仰心を自らの力に変換する、信仰心転換器。ゲイムギョウ界でも女神の転換期はあるが、今まではそれを上手く乗り越えてきた。まさか、その事象そのものを機械で再現だなんて……正直な話上手く事が運ぶとは思っても見なかった、ハッハッハ!》
《次の転換期が近づいている今だからこそ、だろうな》
《ああまったくだ。とはいえ、開戦まで残り四日。そうだな、ここは一つ景気づけにパーティーでも開くか! 開戦祝ってのはどうだ、キャロりーん!》
『キャロラインです、社長。いい加減にしてください』
《相変わらずクールだねぇ。どうだい、パーティー開催の案は、グッドだと思わないか?》
『リーンボックスにおいて緊張感を解すという意味合いを兼ねるというのであれば、名案かと思われます。手配しておきますね』
《フゥ~♪ 流石。敏腕秘書官がいると仕事の段取りが早くて助かる!》
『社長が名前を間違えなければ良い職場です』
《手厳しいねぇ……》
肩を竦めて、大仰に首を振ってみせるプレジレント。この男、本当に女神代理戦争の首謀者なのか……? そんな疑念がシロトラの思考を掠め、仮面の邪神が目を覚ました。
のっぺらぼうの、黒塗りの仮面の下から僅かに素顔を覗かせる。
「……なんの騒ぎだ?」
《おお、これは失礼お客人。起こしちまったかな? いやなに、退屈なものでね。ここらで開戦祝のパーティーでも開こうかと》
「妙案だな。任せる」
《当然、VIPであるアンタは盛大にもてなすつもりだ。楽しみに待っていてくれ。そうと決まれば会場の手配だ。場所は――会費は――そうだ料理も――》
早速秘書官と話し込む姿を尻目に、仮面を付け直す。
「……シロトラ。俺は一度あちらへ戻る。なに、すぐ帰ってくる」
《構わんが。どうした》
「こちらも、戦力を整えていたところだ。その支度が済んだ、と聞いてな……俺の敵は多い。アダルトゲイムギョウ界の神格者、ゲイムギョウ界の守護女神……そしてその仲間達。そうとなれば世界を敵に回すと大差ないことだ。それに応じて、俺達も仲間を募っていた」
当然お前もその一人だ。そう言われてもシロトラは無反応を返した。
「首尾は……上々とは言い難いが、それでも上手くいった」
《……どうやって》
「お前と同じだ。誰しも“
プレジレントに一声掛けた仮面の邪神は、黒い霧を残してその場から消えた。
シロトラはただ、柄頭に手を置いたまま立ち尽くしている。
《……あれと正面切って戦争したいとは思わないね、そうだろシロトラ?》
《そうだな……嗚呼。そう思う》
《だがアレが、俺達の愛する守護女神に刃を向けるなら、それは俺達ハァドラインの敵だ。そうだろう?》
《なら俺達がしていることは、なんだ》
《テロさ。テロリズムだ。証明してみせるさ――この戦争で答えを出す》
《……なぜルウィーにだけハァドラインが存在しないのか。貴様は知っているのか?》
《知っているさ。ゲイムギョウ界でそれが記憶にある奴は少ないだろうが。歴史ある国だ、既にそんな連中は粛清済み。俺達の起源、ゲイムギョウ界で最初のハァドライン――知っているかシロトラ?》
《……いや、俺のログには無いな》
《ハッハッハ! そう! 俺達ハァドラインは狂信者! 女神信仰に歯止めの効かない連中ばかりだ! 最初こそ国家防衛の為に尽力していたが、他国の守護女神が台頭し、活躍するに連れて過激になっていった! こんな連中他にいるか? 俺達は必要か? いいやいらない存在だ、不要な存在だ! 女神の作る平和な世界にハァドラインはいらない! だから俺達は、俺達だけで戦争をするのさ! 過去の清算をしよう、シロトラ。過去の遺物にすがるハァドラインは、ここいらでおさらばした方が女神様達の為になる!》
《それで、原初のハァドラインとは?》
《ああ。話が脱線していたか――それだが……》
間を置いて、プレジレントは両手を振った。
《――俺も知らないんだなこれが、アッハッハッハッハ! ギャハハハハハ!》
《……ショック療法を知っているか、プレジレント》
《勘弁してくれシロトラ》
柄頭から放した手でトリガーを握ろうとするシロトラを制止して、プレジレントは両手を上に上げようとするが大きな肩部装甲に阻まれて断念する。
《だが、ゲイムギョウ界の終わりがそんな連中によって過去訪れようとした》
《……というと?》
《――バッドエンドだよ。いき過ぎた信仰心が招いた自壊現象。“誰も望まない終焉”によってな。ゲイムギョウ界のシェアを負の結晶であるネガティブエネルギーが上回った時に“それ”は来る。皮肉な話だ……女神を思う心が、破滅を招くなんてな……その切っ掛けがハァドラインないし別な事象かもしれない。不安の種は取り除いておくべきだとは思わないか?》
《お前の真の目的はソレか》
《ああそうさ》
《しかし、疑問がある。なぜ今、計画を実行した》
《不安だからさ。あの日、別次元の来訪者を見たときからな。以前のように、女神様達だけで戦わせるわけにはいかない。戦わなければ生き残れないと思っている》
あの日、プラネテューヌが崩壊の危機にあった。R18アイランドで新たな国が築かれようとしていた。新たな女神の誕生がゲイムギョウ界のパワーバランスを崩し、危機が訪れた。その時は女神たちが力を合わせて事態の収束に当たり、無事に解決している。
《――今回はその予行演習も兼ねてる》
《あの仮面の男もか》
《どうだろうな? ハハ……ま、そんな話は置いといて今はパーティーだ! 食って飲んで踊って騒いでぶっ放してはしゃいで開戦を祝おうじゃないかシロトラ!》
《俺は飲みも食いも踊りも騒ぎもしない》
《お前もクールだねぇ……》
早朝の九龍アマルガムでは、本日もエヌラスの寝室が消滅していた。今日で四日目となる訓練は、いつもと違う趣向を凝らしている。
二日目――初日の損害を考慮して、アサイラム幹部から逃亡劇を繰り広げる羽目になった。しかも両手は超重力爆弾ダンベル二つを持たされて。例のごとく国内一周。折り返し地点からは大魔導師の狙撃付き。
三日目。本当の地獄だった。
『今日は俺から逃げながら国内一周だ』
『ふざけろください死ね』
冗談抜きで死ぬ目に遭った。当然の如く重り付きで。魔力に反応して爆発するというオマケ付きで。結果、エヌラスはほぼ自前の体力だけで逃げ切った。
かくして今――師弟は互いのこめかみに銃口と弓矢を向けているハードな朝を迎えている。
「おはよう」
「くたばれ」
銃声。爆音。閃光――食堂に現れた二人は既に一戦を交えた後なのか、服がボロ布になっていた。
大きなネプテューヌもクロワールもそれは見慣れた光景なのか、トーストにかじりつく。
「おひゃほう」
「おう」
「ああ」
「まったく毎朝飽きねーよな、二人とも」
『特訓だからな』
同時に席に座るエヌラスと大魔導師の前にも同じようにトーストが並べられる。
「今日の特訓は」
「今日で最後だ。気を抜くなよ」
「重りは」
「今日はいらん」
そう言いながら、大魔導師は無造作にエヌラスのトーストにケチャップを投げた。それを避けるように皿を持ち上げる。
「なんでまた」
「今日は格別だからだ」
ケチャップから逃れたトーストだったが、今度はソイソースが降り注いだ。それを、皿を回転させて防ぐ。空の皿をテーブルに置くと、トーストの端をくわえていた。
「むぐむぐ……黙って飯食わせろよ」
「そら、第三波」
「ふんっ」
今度はケチャップが重力弾で破裂させられる。テーブルクロスの端を持ち上げて防ぎ、皿の端を指で挟むと大魔導師に投げた。
それを剣指で止めると、テーブルに置く。
「もぐ……」
(お、今日はエヌラスが一枚上手――)
クロワールが珍しいと感心した直後、大魔導師が自分の皿を叩いた。トーストがエヌラスの眼前に迫る。それを手に取ると同時にエヌラスのトーストがソースまみれにされた。しかも裏側。触った瞬間、嫌な感触にエヌラスの顔が渋る。
してやったり、と大魔導師がエヌラスの手から朝食をひったくるとトーストが半分にされていた。
「……」
「味濃いんだよ、半分よこせ」
半分折のトーストで大魔導師のトーストを挟み、一口に頬張る。
「…………」
結局、大魔導師が半分となった朝食を口に入れた。
「お前あとで覚えていろ」
「人の飯にちょっかい出すからだ」