※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

382 / 814
エピソード213 自己中心的をポジティブシンキングに言い換えるとそれはマイペース

 教会から見える限り、街の被害は甚大なようだ。ビルが三枚おろしにされている様が見える。気のせいでいなければ随分と距離が近い。

 

 偃月刀を誘導しながら街の区画を移動する。

 

磁気加速(リニアアクセル)!」

 バルザイの偃月刀はまるで制御を失ったプロペラのようにめちゃくちゃに回転しながらエヌラスへ迫る。それをジャンプして避けると、街灯を蹴って軌道を変更する。それから一瞬遅れて街灯が切断された。再び車道を走る。

 縦回転の偃月刀が車を真っ二つにしながら追ってくるが、エヌラスは一目散に駆け抜けていた。徐々に気温が下がり、肌寒くなってくる。上を見れば、白い軌跡が見えた。そして、氷柱の雨霰。

 

「つぉりゃあ!」

 減速しないまま、雑貨屋に突撃する。店の棚を盛大になぎ倒し、床に倒れるボロを着た不審者に、店主が激昂していた。

 

「お前なにを考えて――」

「いいから伏せろ!」

「何言ってんだ! いいから弁償」

 言っている間に、店の中を一陣の風が吹き抜ける。そして、店主の胴体が輪切りにされた。マネキンのようにゴトリと落ちる姿にエヌラスは舌打ちをもらしながら立ち上がり、割れずに残っていた窓ガラスを破り、白銀の景色へと飛び出す。

 切断された氷柱の断面は水鏡のように綺麗で、鋭利に切り揃えられていた。それを足場に、軽やかに駆け出している美少女――もとい、ドラゴンがいる。建物の屋上ではアトラック・ナチャが忙しなく八本の脚を動かして驚異的な速度で追従してきていた。

 

 神獣、魔獣、怪異を引き連れた災厄の渦中。エヌラスは先陣を切って九龍アマルガムのとある場所を目指して走り続ける。磁気加速による疾駆は、ドラゴンの脚力ですら追いつけない速度を保っていた。超電磁抜刀の応用、つまりは地面から自分を撃ち出して加速している。体幹制御も楽ではないが、そのスピードに追随してくるのが丸ノコのように回転する偃月刀。空気抵抗すら切り裂いて迫る切れ味は、触れたもの全てを刻まんとする勢いだ。

 

 暗黒森林地帯を抜けて――エヌラスは、魔導プラントへと駆け込む。入り組んだ配管、瘴気に寄せられて集まる魔導生物。あらゆる超常現象、魔道の産物が頼みもしないのに押し寄せてくる光景には、従業員も顔を青ざめさせて一目散に逃げ出した。

 

「ハハハ、どこへ逃げる気だ!」

「――――っし、魔力濃度良し。瘴気良好。こっから反撃の時間(ペイバックタイム)だ!」

 エヌラスが舗装された道を滑り、ブレーキを掛けながら魔道プラントの入り口に陣取る。手には倭刀。整息して、構える。

 一番手の偃月刀を、刃を添わす形で軌道を僅かに逸らす。背後で配管を何本も切断する音が反響してくる。二番手、ドラゴンの飛び蹴りを防ぐ。後ずさるが、ここが勝負どころだ――歯を食いしばり、手を伸ばす。

 手に大きく、柔らかい感触。胸を鷲掴みにしたエヌラスに、ドラゴンの顔が紅くなる。

 

「き、貴様何を考えてるんだ!?」

「テメェら殺すことしか考えてねぇ!」

 引き寄せて、足払いを仕掛けながら背後に投げた。そこに戻ってきた偃月刀が直撃する。いくらドラゴンと言えど、バルザイの偃月刀の斬撃をまともに受ければ無傷ではすまない。防いだ腕に走る一筋の切り傷。

 後続のアトラック・ナチャには牽制の火球を投げておく。それを蜘蛛の跳躍力さながら、跳んで避けると尻から糸を無数に吐き出す。エヌラスは切り落とされた配管の山に身体を滑り込ませて、糸を防いだ。

 

『ギッ!?』

 吐き出した糸を引き寄せようとするも、配管同士が絡まって身動きが取れない。すぐさま糸を切り離して、アトラック・ナチャは自らの足で接近してくる。イタクァは上空高くから見下ろして、翼を大きく広げた。

 

(ここまで、狙い通りだ! 後はぶっつけ本番、ぶっちゃけどうにでもなりやがれッ!)

 一瞬のタイムラグ、息を吸い込み、可能な限り銀鍵守護器官の回転数を上げる。後は、全力で相手取るだけだ。

 アトラック・ナチャが切り捨てた糸を手繰り、エヌラスは配管ごとまとめて偃月刀に向けて投げる。安々と切断しながら偃月刀はエヌラスの肩を掠めて通過していった。細切れにされた配管を足場にしてドラゴンが足にブレスを纏わせて、飛び蹴りしながら接近してくる。クトゥグアの炎で打払い、倭刀で首を狙う。しかし、僅かに頭をずらして歯で受け止められた――次の瞬間、噛み砕かれる。

 

「ぷっ。今のは美しくないな」

 破片を吐き捨てながら、ドラゴンが笑みを浮かべ……エヌラスは足元に力場を形成していた。全身に奔る紫電。シェアエナジーを含めた電撃を、地面に向けて叩きつける。足元で転がっていた配管が宙に舞った。その間を繋ぐアトラック・ナチャの糸。回転する偃月刀は巧みに軸を傾けて避けながらエヌラスへ向かって一直線に飛んでくる。その背後、ドラゴンが拳を燃やしながら突っ込んできていた。

 大黒柱の太いパイプが切り落とされたのか、魔道プラントの至る所で負荷が掛かり、行き場のない圧力が噴き出している。

 

 エヌラスは偃月刀が一瞬、回転を鈍らせた隙を見て掴む。まるで暴れ馬の手綱を握ったような感覚を、力づくで押さえ込みながらドラゴンに向けて切っ先を突き出す。腹部を貫通して、熱い竜の血を浴びながら、更に体重を掛けて地面へと縫い付ける。吐血しながらドラゴン・ブレスを吐き出そうとする頭に脚を振り上げた。

 

「断鎖術式起動――! “アトランティス・ストライク”――ッ!」

「ハッ――ハッァ、ッハッハ!」

 頭を踏み潰し、それでもまだ生きている。腐ってもドラゴン、生命力はモンスターの比ではない。柄を力強く握り込み、クトゥグアの熱を流し込む。身体の中から燃焼させられる焦熱地獄は偃月刀を掴んでいるエヌラスも同様だ。指先が痺れるように痛み、感覚が無くなっていく。

 

「竜殺しの英雄なら、他を当たりやがれェェェーーーッ!」

 ドラゴンの腹から頭に向けて斬り上げ、振り抜いた偃月刀をアトラック・ナチャに向けて投げつける。自らの制御を失った刃はふらつきながらも、自制を取り戻すと同時に腕の鎌を切り落とした。

 絶叫する化け蜘蛛に向かってエヌラスは磁気加速で急速に距離を詰めて、脚に配管を絡ませる。急な寒気に、空を見上げれば無数の氷塊が降り注いでいた。その主であるイタクァも落下してきている。ダウンバースト。

 魔導プラントが崩壊する。溢れ出す瘴気、無秩序な魔力。それは白い濃霧のように地表を覆った。

 

「スゥ――――」

 刹那の整息、野太刀を召喚する。右肩に担ぎ上げる。アトラック・ナチャの足元、真下で構えていた。右肩に担ぐように刀の背を当てる。武者上段。

 自らの糸に脚を絡み取られるマヌケな蜘蛛はいまい。しかし、そこに無数のガラクタが付属していれば話は別だ。片腕は切り落とされ、脚は無数の配管で邪魔されて動きを封じられている。そして、巨体であることを逆手に取られて足元に陣取られていた。

 エヌラスが吼える。魔導プラントより溢れた無数の魔霧。その全てを自らの制御下に置かんとする無謀、無茶、無理を強いる身体が悲鳴をあげたが、ねじ伏せる。野太刀が鈍く、青く、稲妻を纏う。

 

鍍装(エンチャント)――蒐窮(エンディング)!」

 相当無茶をすることになるだろうが、今此処でまとめて仕留めなければ後が無い。霧の中を雷が走る。それを一手に引き寄せて、エヌラスは抜刀した。

 膂力と野太刀の勢いでアトラック・ナチャを下からかち上げながら、霧に触れたイタクァを同時に捕捉。

 

「DAAAAYDARAAAAA!!!」

 天空へと向けた光の奔流に呑まれるアトラック・ナチャ。そして、イタクァも自らエヌラスが放った電磁抜刀術の中へ飛び込む形となって消滅していく。過負荷に耐え切れなかった回路の出力に、全身から出血しながらもエヌラスは立ち上がった。

 偃月刀が再三、正面から突っ切ってくる。それを無造作に打ち払い、一歩踏み出す。そして二度と戻ってくることはなかった。

 左手には白く焼けた魔術刻印。廃墟に広がる蜘蛛の糸の上を歩く足取りは軽い。手を何度か握り直し、息を吸い込みながら頭の中でイメージした形を手元に召喚する。

 

 バルザイの偃月刀――。大きく歪んだ三日月型の刃を持つそれは、同時に魔術師の杖として触媒にもなる。かつてこれを振るっていた大魔導師は自らの背丈ほどの長さで扱っていたが、エヌラスが手にしたバルザイの偃月刀は片手で取り回せる程の長さだ。

 廃墟と化した魔導プラントを後にして、エヌラスは九龍アマルガムの居住区へと戻る。

 

「……いやー、甚大な被害被ってるが被害総額いくらだろうな。最高記録叩き出しちゃおうかな俺」

 今更ながら頭の痛くなる話だ。コンクリートミキサーをぶちまけたような大惨事、大惨状に阿鼻叫喚。元から治安の悪い国柄ではあったが、今回は輪にかけて酷い。それでも、奇跡的に被害を免れた区画と、比較的被害の少なかった区画では通常運転だ。恐ろしい。

 顔を拭えば、恐ろしいほど真っ赤に染まる手首。ふと気になってウインドウを覗き込めば、流血していた。血涙、鼻血、額からと顔面大惨事にエヌラスは他人事のように笑ってしまう。

 

(うーわ、やべぇ。なんだこの出血量。やりすぎたか……?)

 だが、身体は不調どころか絶好調。今なら空もトベルハズー、とまで考えて。自分がランナーズハイになっている自覚が出てきた。この調子でいけば軽く死ぬ。致死量の瘴気と魔力霧の濃度を吸い込んで無事でいられるはずがない。

 エヌラスはひとまず休憩しようとぶらぶら歩いていたが、何故かバッタリとマリーと出会ってしまった。黒細工時計商店でジッとしているものだと思っていたが、手にはパンが詰め込まれた紙袋を抱えている。

 

「あ、さっきのエヌラスだ」

「さっきのマリー、何してんだ」

「え? お腹が空いたからお買い物してきたんだけど」

 この状況下で、買い物!? どういう神経しているんだ。むしろ何よりその度胸が凄い。エヌラスが言葉を失っていると、首を傾げていた。

 

「なにか変だった?」

「この状況で御飯買いに行く度胸が信じられない……」

「顔、真っ赤だけど大丈夫?」

「どういう意味で取ればいいんだ、その言葉」

「顔洗った方がいいよ? あ、パン食べる? ちょっと買いすぎちゃって」

「俺の話を聞いているようで聞いてねぇな!?」

 しかし身体は正直なもので、空腹を訴えてくる。ぐるるるん。

 それを聞いたマリーが口元を隠しながらコロコロと笑う。

 

「折角だから、一緒に食べない? お腹空いてるでしょ?」

「時計の修理はいいのか?」

「うん。また明日来てくださいって言われたから」

「そうか……なんか俺もどっと疲れたわ……」

 ひとまず、今は休憩だ。大魔導師の用意した残り二匹。

 鬼が出ようが、蛇が出ようが驚かない自信がある。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。