超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ユノスダスでは、休暇を貰ったベールが街の散策に出かけていた。街の警らも慣れてきて、アイルがいなくても一人で大半の仕事が片付けられるまでになった。というのも、守護女神としての仕事とさほど差がないのが要因。
――事は一時間ほど前に遡る。今日も仕事を頑張るぞい、と意気込むベールの下にユウコが尋ねてきた。
「べるちゃーん、ちょっといいかな?」
「はい? なんですか、ユウコさん」
「お給金どうぞ。少ないかもしれないけど」
「はい?」
「今日はお休み! ゆっくりユノスダスでも観光してみるといいよ!」
「あの、ユウコさんは……?」
「ごめんねー、上半期決算しなきゃいけないから忙しくて。べるちゃんってそういうのやらないの?」
「い、いえそういうのはちょっと、お店の方々にお任せしていますわ……」
給金袋を持ったまま固まるベール。流石にそんなことをしていたら一日では足りない。
「そうなんだ。いいなぁ。ほら、うちって商業国家の名前を冠しているわけだし? そういうところはキッチリしておかないといけなくてさ。特にお隣。インタースカイはうちの商店街でも売上伸ばしてるし。九龍アマルガムに売上持ち逃げされたりしてないかのチェックもあるからね」
「は、はぁ……エヌラスから連絡はありましたか?」
「うんにゃー? ないよー? 携帯壊れたって言ってたし、そんなすぐ連絡はないと思う」
「ちょっと心配ですわね」
「うーん、気持ちは分かるんだけどもうちょっと我慢してね。時間が押してるから私はこれで」
「ええ、それでは」
「遅くなる前に帰ってきてねー、いってらっしゃーい」
(なんだか見送る姿がお母さんじみてますわね)
しかしそれを言うとユウコが微妙な顔をするので言わぬが吉。
そんな、ユノスダス国王からの粋な計らいによって出来た自由時間。一日限りのフリータイムをベールは満喫するべく、こうしてユノスダスの街を一人歩いている。
和洋折衷、見境ないと言ってしまえばそれまでの混合した街は不思議と違和感がない。純和風でなし、洋風でもなければ中華風でもない。九龍アマルガムとはまた違った意味合いでなんでもありとなっていた。
ベールの足は自然と喫茶店通りに。インタースカイ国王は、相変わらずオープンカフェでひとり、ティータイムに興じていた。
「こんにちは、ソラさん」
「こんにちわ、ベールさん。今日はお休みですか?」
「ええ。今朝突然、休暇を言われまして……こうしてユノスダスの観光を」
「そうでしたか。ま、見ての通り今はお店も空いているので一休みしていったらどうです? 歩くのも大変でしょうし」
「そうさせてもらいますわね。なにかオススメありますか?」
「じゃ、パルフェと紅茶で」
ソラは手元のタブレットを操作して、ベールに席に座るよう促す。腰を下ろして一息つくと、すぐにティーセットが運ばれてくる。
「注文届くのが早い気が……」
「うちはそういうのがウリなので。電子伝票で集計してるんですよ」
登録されている品名と数量、テーブル番号。一部手書きの部分もあるが、デジタルだけで解決できない部分をアナログで補っている。一部のスタッフは手書き伝票にこだわっているが、そこは楽な方、好みな方で良いらしい。
「ユノスダスの観光と言われましても、こう人が多くて活気のある街ですとどこから見て回ればいいのか戸惑いますわね」
「それでしたら、うちで無人タクシー出しますよ?」
観光要所巡りの為に、人員輸送用フォートクラブを改良したタクシーがある。その電子制御もソラのタブレットひとつですぐ空きを呼び出せると聞いて、ベールは驚いていた。そんなに便利なタブレットなのかと。それに、苦笑しながら。
「ま、便利な分まわりからの誤解も多いんですけどね」
気苦労をにじませたため息を吐いた。そういうことならば、お言葉に甘えて。ベールはソラの提案に乗ることにした。
休憩してお腹を満たしたところで、ベールは道路沿いに留まるフォートクラブを見つめる。
非武装状態のフォートクラブは前足に高速移動用のフロントタイヤを内蔵し、背中には六人まで座れるシートを背負っていた。天候不良の際でも利用できるようにドーム型の防護壁が展開できるようになっている。通常の観光案内ではオープンしていた。
ユノスダスの活気も肌で感じられるようにという配慮からである。シートの前にはカーナビのようにタッチパネルモニタが付属。
「これはおいくらほどで?」
「いや、非売品ですので」
「しょんぼりですわ」
(諦めてなかったのかーフォートクラブ買うの……)
タクシー代は、初回無料というソラの厚意により、心配する必要がなくなった。
のんびりと走り始める輸送用フォートクラブの背に揺られ、ユノスダスの観光を再開したベールを見送り、ソラはタブレットを弄り始めた。そこに、外線着信。相手はアルシュベイト。
「もしもし。どうしたんだい、アルシュベイト?」
《ソラか。俺だ。うむ、聞いてくれ。一大事だ》
「またまた。そんな大げさな。何かあったのかい?」
《御姫がいないのだ……》
「そりゃあ――あっはっは、一大事だ!?」
思わず笑って聞き流し――いや事実聞き流しておきたかった。笑って聞かなかったことにしたかった――そうになった言葉にソラは青ざめた。
「ちょっと待ってくれアルシュベイト!? なんで!? どうしたらいなくなれるんだ!?」
《ああそれが俺にもまったくわからん! 護衛の者に聞いてもいつの間にかいないと口を揃えていうばかりだ! 今は厳罰中だ!》
憤慨している姿が目に浮かぶ。だがしかし、それどころではない。ソラは出来る限り平静を務めながら、状況を整理するために、ひいてはアゴウの守護女神を特定するために問い詰める。
「いなくなったのはいつ?」
《今朝からだ。少なくとも就寝するまでは護衛のものが確認している》
「具体的には?」
《朝食を摂っていた姿を見たものがいるが、少数だな。それからパタリと》
「なにか伝言は?」
《……無いな!》
「そっか、手がかりなしか! うん、ちくしょう! 特定しようがないぞコレ!」
いつものことながら――気まぐれが過ぎる。女神の気まぐれというのはいつもいつもこうだ。心配しているアルシュベイト達のことなど知ったことかとぶっちぎって置いていく。まるで子供のように。手がつけられないのだ。
「百人前肉じゃが作ったと思ったらすーぐこれだよ! どうにかしてくれよキミのとこの守護女神だろうが!」
《ええいやかましいわ! こっちとて頭を悩ませているのだ! それはそれとしてすまんな!》
「どういたしまして! 同じ被害者だからね!」
ちなみ百人前肉じゃがは国民の皆様と美味しくいただいた。まさか丸一日食い通すハメになるとは思わなかっただけに、胃袋への負担が今も残っている。一週間は和食がいらない。夢に白い米が出てきたくらいだ。
「それでどうするんだい。問題起きたら即対策でいいかい?」
《阿呆かお前は。どんな天変地異を連れてくるかわからんぞ!》
「有り得そうで怖いから思っても言わないでくれないか!?」
しかし、一体どこへ行ったというのか。
輸送フォートクラブでユノスダス観光をしていたベールだったが、何やら街の方が騒がしい。喧騒から離れた車道をのんびりと走っていたフォートクラブに飛び出してくる人影。
歩道から跳躍して、背面座席に着地したのは長身の美女。セミロングの金髪、赤目。服装はラフなパンツスタイル。息を切らしている。
「きゃあ。な、なんですの!?」
「ぜー、ぜー……ごめんね! 今ちょっと鬼みたいな人と鬼ごっこしてて!」
「どういう状況なのですか!? そういうのは追われているというのでは?」
「えーとえーと、とにかく説明が面倒だからなんか色々と察し――もう来てる、足はっや!」
視線の先には黒髪の女性が汗を流しながら笑っていた。
「あっはっは、逃げるとはひどいなまったく! だがいいだろう、おれはそういうの、大好きだからな!」
「ひー、なんであんな元気なの! お願い! 見知らぬ巨乳の美女さん、助けてください!」
「そうは言われましても」
言っている間に、ぐんぐん距離を詰めている。ジャンプして街灯を足場にして住民を飛び越えるとフォートクラブの背中に着地した。
腕を組み、得意げな顔で鼻で笑う。
「ふふん、このおれから逃げられるとは思うなよ。月の眠り姫」
「なんで追いかけてくるの!?」
「ならばなんで逃げる!」
「追いかけてきたからだよ!?」
「あ、あのぉ。お二人とも、落ち着いて下さいまし?」
『……誰?』
「こちらのセリフですわ!?」