超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――九龍アマルガム上層都心。犯罪心理計測システムによる治安都市。犯罪国家と聞いていただけに気を引き締めていたベールは肩透かしを食らっていた。つるちゃんはフォートクラブを停車させて、頭を撫でている。
ムルフェストは身体を大きく伸ばして腰に手を当てていた。
「うん、平和!」
「そうですわね。犯罪国家と聞いていたのですが……」
「上層はあくまでも仮の姿。本性は地下」
誰が言ったか地下帝国。治安国家はその蓋でしかない。
「ふむ、待たせた! では行こうか!」
「つるちゃん、どちらへ?」
「もちろん、地下の方だ。九龍アマルガムは上下二層の国家によって成り立つ。とはいえ、教会が存在するのは地下帝国。表層など所詮はおためごかし、地下を見ればベールも目を剥くぞ」
「あら、そう言われてしまうとわたくしとしては期待度が高まってしまいますわよ? とはいえ、犯罪国家と呼ばれているのだけはいただけませんが」
「仕方ないじゃーん? 合法違法問わない方法で利益出して成り立っている国なんだから」
「うーむ、おれとしてはそれに異を唱えたいところだが……」
言葉を濁らせて、つるちゃんが視線を逸らす。その目にはどこか憂いを込めて。
「つるちゃん?」
「つまらんことを話していないで先を急ごう。あまり表立って騒ぐと捕まりかねん。こっちだ」
「それにしても、どうやって地下帝国まで?」
「地下に繋がるエレベーターがある。一部は教会関係者しか使えない代物だが、抜け道のようなものがあってな。おれはよく使っている」
「……それ、犯罪なのでは?」
一般的にそれは不法侵入、或いは不法入国というものなのではなかろうか。ベールのそんな疑問に、つるちゃんは快活な笑みを浮かべていた。
「犯罪国家相手に違法の是非を問うなど、無粋の極みぞ。おれは気にせん!」
「本当に惚れ惚れするほど男らしいですわね……」
「なんで女の子なんだろうね」
ムルフェストもそれに続く。ヒョイヒョイとビルの合間を通り抜けて、徐々に深く暗い路地裏に向かっていくつるちゃん。
人目につかなくなってきた道にベールが一抹の不安を覚え、思い出したように手を繋いだ。
「はぐれると困る」
「……不覚にもキュンときましたわ」
「はは、惚れるなよ?」
「惚れそうになりますので、こういったものはお控えくださいませ?」
心臓に悪い出来事にドギマギしながらも、つるちゃんの案内のもと、どうにか無事に地下帝国への不法侵入が成功する。
地下帝国。犯罪国家、その本性。肌にまとわりつく瘴気、鬱蒼とした空気、拭いきれない不快感と違和感。ベール達の前に広がる光景は、九龍アマルガムの都心。大通りを外れた寂れた街の一画からだった。
周囲を見渡して、つるちゃんは「……うむ」と頷く。
「はて。おれが以前来た時とは違う区画のようだな?」
「えー、知らない場所? まーた座標ずれてる?」
「そのようだ。まったく困りものだな。こう頻度が高く座標をずらされると」
「そんな気軽にズレますの? というか大問題ではなくて?」
「細かいことを気にするな、ベール。大きい胸が負けるぞ」
「そこに胸の大きさは関係ないのでは!? そういうつるちゃんも中々大きいですわよ?」
「ふむ、おれのか? 気にしたことはないな。サラシとかで押さえているが」
サラシ!? ブラジャーではなくて!? ベールの視線がムルフェストに向かう。こちらも程よいサイズだが……。
「あ、私はノーブラだから」
「着けましょう!?」
「えー、めんどい」
ぐぅたらお姫様は流石格が違った。
閑散とした区画を歩いているうちに、人通りが増えてくる。見慣れない入国者に一瞥するものの――。
「ひぃ!?」
「うわ、やべ――!」
「くわばらくわばら……」
「やべーぞにげろ!」
「ヰグナイィィィ!」
人々は、三人の姿を見るなり背を向けて逃げ去っていく。……正確には、つるちゃんの顔を見た瞬間だが。
当人は気にした風もなく、眉を寄せて首を傾げていた。
「あの、つるちゃん。わたくし達避けられてませんか?」
「人見知りなのだろう」
「いや、絶対逃げてるってあれ。主にキミの顔見て」
「心当たりなど皆目見当たらんが。まぁいい。とりあえず教会を目指そう。大通りに出れば分かる」
つるちゃんの言うとおり、活気のある方角へ向けて歩く。大通りに出た瞬間、真っ先に目についたのが惨憺たる有様。街の至る場所が破壊されており、けが人、死傷者が街中に溢れていた。それに付け込んだ火事場泥棒の姿に、ベールが眉をつり上げる。
「まぁ、なんて恥知らずな……! これはお説教ものですわね」
「や、そういう国だから。ゴミのポイ捨て当たり前、落ちてる財布は懐に。いちいち気にしていたら街を歩くのだけで一生終わっちゃうよ」
「ですが――」
「ムルフェストの言うとおりだ、ベール」
「つるちゃんまで」
正義感の強い人だと思っていただけに、ベールは落胆しかけた。だが、つるちゃんは拳を掌に打ちつけて骨を慣らしている。
「つまるところ――道行く不埒者を拳で粛清したところで、文句は言われまいな! そこの貴様ぁ、止まれぇ!」
「ああ、つるちゃん!? ああ、一般市民の方!?」
「あー、犯罪者が空高くー」
止める暇もなく、ひったくりが宙を舞った。目につく犯罪者を片端からちぎっては投げ、掴んでは投げ飛ばし、飛び蹴りで暴力団をなぎ倒しては正座させている。
「止めなくてよろしいのですか、ムルフェストさん」
「止められるとお思いでしたらどうぞ、ベールさん」
ま~無理だろう。現に今、目の前で突っ込んでくる大型乗用車を空気投げですっ飛ばしている。ちょっと信じ難い光景に思わずベールは目頭を押さえた。
なんとなく、エヌラスが言っていた言葉の意味が解った気がする。ゲイムギョウ界の常識が全くと言っていいほど通用しない世界だ。ユノスダスはその点、超まとも。お金にうるさい以外は常識的だったのだろう。
ベールは今更後悔していた。どうしてあのユウコのもとから離れてしまったのだろうかと。
「わたくしが浅はかでしたわ……」
「まーまー、ここもいいところはあるよ?」
「どこがですの! この見るからに罪状を煮詰めたような鍋の底のような街の!?」
「やりたい放題できるところとか。色んな意味で自由だし」
「ま、まぁ確かにそれは羨ましい限りですが……公序良俗というものもありましてよ?」
少し目を離した隙に、つるちゃんは大通りの不埒者を成敗し飽きたのか、はたまた相手がいなくなったのか戻ってきた。犯罪者の跋扈していた道はあっという間に敗戦国のような光景に様変わり……いや、これはこれでどうなのだろうかと思うが、犯罪が吹き荒れるよりはマシかとベールは自分に言い聞かせた。
「首から『私は粗相を働きました』という看板を引っさげてやろうかとも思ったが、手間だったので勘弁しておいた!」
つるちゃんは額のいい汗を拭いながら満面の笑みで告げる。それは勘弁しておいてやってくれと本気で思った。
「さて、寄り道と準備運動はこれぐらいにして教会へと向かおうとするか」
「これで、準備運動でしたか……」
「あーやだなー教会行くの……すっごいやだなぁ……」
げんなりとした様子でつぶやくムルフェストに、そういえば、とベールは思い出す。九龍アマルガムを治めている国王のことをよく知らない。
確か――大魔導師。あらゆる魔道、あらゆる超常を超越した国王。常に暇潰し、常に退屈している黄金の怪物。ムルフェストも似たようなものだが、そんなに嫌なのだろうか?
「嫌ですの? むーちゃん」
「むーちゃん? いっつみー?」
「ええ。ムルフェスト、というお名前をかわいくアレンジしてみましたが、いかがですか?」
「むーちゃん。いいね、気に入ったかも。で、大魔導師だけど。私は苦手かつ面倒かつ相手したくなーい。アダルトゲイムギョウ界最強の一角だし、戦ったところで何の利益もないよぅ」
救いがあるとすれば、大魔導師本人も面倒がってまともに相手をしないくらいだろうか。ただし、万が一興が乗ると――えらいことになる。例えば、一週間ぶっ続けで戦闘させられたり、例えば街を破壊し尽くす程の損害だそうがお構いなしに戦闘したり、或いは――おもしろ半分で殺されかけたりする。悲しいことに全部エヌラスの体験談。
教会へと続く道を歩く間もつるちゃんはベールの手を取って歩いていた。先頭のつるちゃんが思い出したように振り返る。
「そういえば。ベールはエヌラスとはどういった関係だ?」
「……どう? どう、と聞かれますと返事に困りますわね」
「心も身体も繋がった関係とか?」
「……ふふ」
「む、ベールの含み笑い。まさか図星か。であればおれは嬉しい」
「何故ですの?」
「エヌラスはおれも懇意にしているからだ。あいつはいい奴だ、うん」
まさか、つるちゃんも――? 一瞬だけ考えたが、どうもそうではないらしい。
「おれの作る料理を文句のひとつも言わず平らげてくれるからな! おれは好きだぞ」
「そちらの方でしたか……ん?」
疑問符をあげるベールが詳細を聞くより先に、頼みもしないハプニングがモーニングセットばりの気軽さで舞い込んでくる。それが犯罪国家九龍アマルガム。
みんな大好き地下帝国迷物、破壊ロボが出現した。頼みもせずに加速する被害額、ビルが何棟も倒壊していく下からせり上がって現れるブサイクなドラム缶に申し訳程度の手足を付けた破壊ロボの出現に、ベールは見てみぬフリをする。