超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「……わたくしとしては、見ないふりをしたいところなのですが。なんですか、あちらは?」
「九龍アマルガム迷物破壊ロボ」
「破壊ロボだ」
「なるほど。……って、納得できる代物ではありませんわよ!?」
ゲイムギョウ界であんな巨大なロボットが暴れた日には大損害だ。ベールが指を差した次の瞬間には破壊ロボが一条の光線によって破壊される側のロボットと化している。
「おー、壊れてる壊れてる」
「今のはエヌラスの魔術ですわね」
以前よりも格段に威力が増している気がする。男子三日会わざれば刮目して見よ――とは言うが、一体どんな修行を積めばああなるのか。
つるちゃんに手を引かれるままに、ベール達がエヌラスがいると思われる方角に向けて進むと、案の定そこにはエヌラスとロメロ、そしてマリーがいた。
連続した魔術の使用で無理やり促進された代謝の副作用からか、エヌラスの髪が伸びている。鬱陶しそうに前髪を退かすと、エヌラスが苦い顔でベールと視線を合わせた。
「ぅヶ”……」
心っ底、嫌な顔を浮かべる。汚物とか、ゴミとか、生ゴミでも見下ろすような表情で。そんなエヌラスのことなどいざ知らず、つるちゃんは満面の笑みを浮かべながらベールの手を引いて近づいていく。
「おーい、エヌラス。お前に客人だ! おれが護衛を務めたのだ、褒めろ!」
「あーはいはいとてもありがとうございますちくしょうくそが」
「むぅ、素直に喜べんな。ところでその怪我はどうした? 重傷だが」
「特訓中だ」
「そうか、なら仕方ないな」
「さっき終わったばかりだ」
「さっき? というと」
螺旋砲塔を撃ったのがその証拠のようだ。魔術砲撃によって道路までもが焼け焦げている。
「あー……火力の調整間違えてな。ちと洒落にならんことになった」
「まったく、
「仕方ねぇだろ、面倒だったんだ」
「だからって手に入れたばかりの魔術を全開でぶっ放すか、普通。子供じゃねぇんだから」
「うっせ! うっせ、これ以上まともに相手してられっか!」
エヌラスの頭を乱暴にワシャワシャと撫で回すロメロの手を振り払う。
「なんだ、人が心配してやってんのに」
「よけいなお世話だ。ベール、お前もなんで来た」
「わたくしも音信不通なのが気になって、つい。頼もしい協力者もおりましたし……」
「それとこれとじゃ話がちげぇ。ユノスダスから絶対に出るなって言っただろうが。まったく、ゲイムギョウ界の女神ってどうしてこう自分勝手なんだ……」
「……わたくし、怒られてます?」
「わかりやすく怒ってるつもりだ」
小声で「よりによってその二人かよ……」とぼやくなり、現実逃避をするかのようにマリーに向き直る。
「エヌラスってモテるね、美男美女に囲まれて」
「ロメロも含めてか?」
「冗談キツイぜ」
苦笑いを浮かべながら、二人で手を叩いた。
(マフィア物でこういう義理兄弟の熱い友情……わたくしとしては断然そちらもいける口ですけれど……エヌラスの周りはこういったネタが尽きないですわね)
「む、ベールどうした。よだれが出ているぞ? お腹空いたのか?」
「はっ! べ、べつになんでもありませんわよ、つるちゃん! じゅるり!」
「よだれ拭け、よだれ。ニトクリスの鏡を起動前に潰しちまって今さら罪悪感でてきたっつうの……なんでこんな大所帯で戻らにゃいけないんだ」
「おう、おれも教会に立ち寄ろうと思っていたところでな――」
つるちゃんの言葉に、空気が凍りつく。場の空気が固まった。心臓も一瞬止まった。マリーとベールだけが事情を飲み込めず、首を傾げている。
冷や汗をダラダラと流しながら立ち止まるエヌラスとロメロ。ムルフェストも遠くを見つめていた。
「正気か」
「おれは本気だ」
「おいベール。なんでコイツ連れてきた。なんでお前こいつと一緒に来た。お前コレが誰だか分かってて連れてきてんのかって知るわけねーよな。アダルトゲイムギョウ界において核爆クラスの厄ネタ引っさげて九龍アマルガム来るとか、世界崩壊手前クラスだぞ」
「いくらなんでもそれは言い過ぎではなくて!? つるちゃんは確かにレベル上げで物理カンストしているような方ですけれども!」
「あ、お前さては自分の身分とか全部自己紹介してねぇな!? おい、自己紹介改めてしてみろつるちゃん!」
「む、そう言われては仕方あるまい……」
息を吸い込み、自分のことを指差しながらつるちゃんはベールに向けて改めて自己紹介を始める。不安の混じった視線と共に。
「――何を隠そう、このおれこそはアダルトゲイムギョウ界唯一の守護女神。軍事国家アゴウの
「……守護、女神?」
「応ッ!」
腰に手を当てて、屈託のない笑顔を浮かべる。だが、その顔がすぐに曇る。
「すまぬ、ベール。言うべきだろうと思ったのだが、この俺の身分ゆえに下手に素性を明かせなかった。ゆるしてくれ」
「……いえ、それならわたくしもおんなじですわ。何を隠そう、わたくしもリーンボックスの守護女神、グリーンハートですもの」
「――ほ、ほんとか!? ほんとうに守護女神なのかベール!」
「ええ。本当ですわ。とはいえこちらで証明するには少し厳しいかもしれませんが」
「ああ、お姫。ベールは守護女神だ。俺が言うんだから間違いない」
エヌラスからの言霊に、つるちゃん――剣姫はベールのことを上から下まで見つめる。そんな相手の手を取って、微笑みを返す。
「ええ、ええ。ですからだいじょうぶでしてよ、つるちゃん。わたくしも、あなたも同じ守護女神。こうしてお会い出来て光栄ですわ」
「――そうか。ベール、おれが守護女神と知っても、友達でいてくれるか?」
不安の入り混じった剣姫の表情に、ベールは優しく微笑んで「はい」とだけ答えた。手を取り返すと、剣姫が目尻に涙をためて笑みを浮かべる。
「そうか。そうか――! おれは初めてだ、守護女神の友達ができたのなど。とても嬉しいぞ、ベール!」
「うんうん、美しきかな女の友情。男どもの出張る暇なし甲斐性なし」
「殴るぞムルフェスト」
「この人でなし!」
ムルフェストからの非難に、エヌラスは伸びた髪を鬱陶しそうにしながら聞き流した。
教会に剣姫を連れて行くのだけは勘弁したい。なにせ――そう、なにせ、犬猿の仲どころの話ではないのだから。
不倶戴天の敵。三千年の怨敵。決して相容れることはない水と油。なのに、剣姫はこうして九龍アマルガムに足を運んでいる。ろくでもないことになるのは目に見えているのに、飽きずに懲りずにこうして訪れているのは何故か?
「なんだってお前は性懲りもなくくるかね」
「きまっておろう、エヌラス。おれと大魔導師の問いに答えがまだ出ていないからだ」
「お前と大魔導師の衝突だけで軽く死人出るんだけどな……まぁうちの国だからいいが」
「エヌラス? それはよろしいのですか?」
「馬鹿言うなベール。九龍アマルガムにおいては、死人は生者より価値がある」
「どういうことですの!?」
そんな言葉があるにもかかわらず、相変わらず九龍アマルガムは罪人跋扈。溢れかえる犯罪者で成り立っている。国内の執政は大魔導師が一手に担っているとはいえ、この惨状には流石のベールも一言申したい様子。死人もけが人も完全放置、火事場泥棒当たり前。犯罪国家と聞いてはいたがこれほどまでとは。だが、ベールが改めて周囲を見渡してからエヌラスを見つめる。
これほどの醜悪を極める国政を担っていたとなれば。
「なんだ、ベール」
「いえ。あなたがそんな性格であるのも合点がいったというだけですわ」
「なんでだよ!?」
そんな騒動を引き連れながら、エヌラス達は教会に戻ってきた。大魔導師の見立てでは二日は戻ってこない算段だったのが、わずか一日で終えて帰ってきた様子に眉を寄せている、しかしその隣に立つ女性を見て「ああ」と一人で納得している。
「帰ってきたのか」
「あれで全員だな?」
「まぁ、そうなるな。しかしながら――見せ場くらい用意してやれ」
「無茶言うな師匠」
「……それもそうか」
マリーに手を差し出す大魔導師に対して、エヌラスは即座にその手を払い除けた。
「触るな」
「――お前の女ではあるまい?」
「てめぇのでもねぇだろうが――」
両者の間に漂うのは確かな殺意と緊張感、だがそれに大魔導師が鼻で笑うと手を下げる。大きなネプテューヌは運動後の汗を流すために大浴場へと向かっていた。
「見慣れない顔ぶれもいるようだが、自己紹介は省く。面倒だ」
「おう、おれが居ることに関しては言及なしか、大魔導師」
「…………おい、エヌラス」
「俺に聞くな」
大魔導師の、心なしか機嫌の良い表情が一瞬にして消え失せる。腕を組んで仁王立ちする剣姫に向ける表情はあくまでも空気に徹していた。