超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
剣姫と大魔導師。この二人が同じ場所に立っているというだけで事情を知る者達は冷や汗を流している。生きた心地がしない。睨み合うだけで周囲の空気が張り詰めていく。息苦しい状況に落ち着かないエヌラスやムルフェストだが、マリーだけは教会を見上げていた。
ベールをさりげなく引き寄せて、エヌラスはスタンスを組み直す。足を広げ、腰を落とし、重心を下げる。つま先から踵までしっかりと地面と水平に。
腕を組んだまま仁王立ちの剣姫と気だるそうに睨む大魔導師。
「さて。ゲイムギョウ界の守護女神が、何用だ? エヌラス。お前も無為に連れてくるような真似はしないだろう」
「俺はユノスダスで待ってろと言ったはずなんだけどな……」
「アダルトゲイムギョウ界に来るということは、それなりの理由があってのことだろう」
「……実は、わたくしの治めているリーンボックスがハァドラインという狂信者に占領されまして」
「おれもその話は道中、耳にした。しかし、良いのではないか?」
「まったくよろしくありませんわよ!?」
「おれも経験者だ。第三帝都の国民達が反旗を翻して、あろうことか、守護女神であるおれに対して刃を向けてきた」
「その後、どうなりましたの?」
「最初こそ威勢がよかったものの、旗色が悪くなるなり白旗を挙げてな。そんな腑抜けた連中など、おれのアゴウには“いらん”――だから、おれが、一人残らず片付けた」
「――――!」
「反逆の徒とはいえ、それが己の意思ならば、結果がどうあれ死しても通す義理くらい連中にあると思っていたのだがな」
従属を良しとする、反旗もまた己の意義主張ならば良しとする。御姫はアゴウを心底愛している。国民を余さず愛している。だからこそ、己に刃を向ける者であれ、赦してしまう。しかしそれを途中で投げ出す者には容赦しない。その結果が、アゴウ第三帝都の壊滅。反逆に与する者。国家に仇なす逆賊。その意思を投げ出した者、その尽くを自ら粛清した。
「刃を向ける。反逆の狼煙をあげる。それにはそれ相応の理由があるはずだ。ベール。お前は自分の国を占拠されたと言ったな。なら、お前自身の手でどうするか決めているのか?」
「わたくしは……」
「おれの首を取るというのであれば、おれは喜び勇んで奴らの前に立つ。止めるためではないぞ? それが、本気なのかどうかだ。命を捨ててでも取りに来るならば良し。おれも本気で相手をする。だが、我が身かわいさに投げ出すのであれば、士道不覚悟。二度はない」
それが、軍事国家アゴウ。不退転の進撃。迷い、立ち止まるならばまだ良い。だが、道を引き返すことだけは、あってはならない。
ハァドラインは。アームドソウルスは、一体何を思って決起したのだろう。
何故、反逆者として立ち上がったのか。ベールは何も知らない。
「つるちゃん。今回の件は……首謀者に、わたくし自身の手で聞き出しますわ」
「うむ、それがいい。だが相手は自らの狂信者。おれではあるまいし、心苦しいだろう。ゆえ、軍事国家アゴウはベールに全面協力しようではないか」
「い、いいのですか!? そんな……簡単に」
「おれの友達なのだ。当然だろう。おれの国だ。文句は言わせん!」
下手な男より男らしい。しかも有無を言わせない。軍事国家の守護女神とはこうあるべきなのだろうか、ベールは一瞬思い悩んだが……自分にはとても真似できそうにない。
「うむ、そうと決まればアルシュベイトのやつには兵の用意をさせねばな」
「……おい」
絶対零度の警告。たった一言の呼びかけだけで空気が凍りつく。剣姫とベールの間に流れていた和やかな空気が一瞬にして冷水を浴びせかけられた。
「こちらとあちらの移動には誰の許可がいると思っている」
「お前には聞いていない。勝手に使わせてもらうぞ」
「ほう。人の国に無断で押し入った挙句にその言い様か。傍若無人とはよく言ったものだ、天下の大うつけ」
「ならばお前は、天性の愚か者か?」
口を開けば、ああ言えばこう言う。剣呑な空気にロメロがさりげなく距離を取ろうとするが、エヌラスが耳打ちした。
(離れると逆に危険だ。合図したら全力で教会の玄関に向かって走れ)
(わかった)
そして、今度はベールに耳打ちする。
(ベール。テメェ後で覚悟しとけ。ぜってぇ許さねぇからな)
(なぜですの!? というより、つるちゃんはなぜ大魔導師と仲が悪いのですか?)
(執政も方向性も真逆だからだよ! 主義主張が世界一周して衝突してるようなもんだ!)
(ムルフェスト! マリーは頼む!)
(やだ、めんどい。キミが運べばいーじゃん?)
(テメェも後で覚えとれよおんどりゃあ!)
「大魔導師。おれはお前が嫌いだ」
「御姫。俺は、お前が嫌いだ」
「お前の言う覇道を認めるわけにはいかん」
「お前の往く王道が何より気に食わん」
「言葉を交わしたところで平行線だ」
「ならばどうする? アゴウの守護女神」
「当然よ。こうする――」
剣姫の手が動く、拳が大魔導師の鼻っ柱に打ち込まれ――それを防いでいた。それを払いのければ、魔術を使うよりも先に動いている。正拳二段突き、防御を打ち抜いて、わずかに揺らいだ身体に強烈な蹴撃を見舞う。大魔導師の身体が吹っ飛び、空中で反転すると音もなく着地した。
「どうした、大魔導師。寝ぼけているのか? お前はいつもそうだな、立ち上がりが遅すぎるぞ、この遅漏」
「――――ふっ。ふっ、ふっふっ……はっはっはっは」
笑っていた、空恐ろしくなるほど無邪気に笑っていた――“あの”大魔導師が。
笑い声一つで背筋に氷柱を突き立てられるのはこの人物くらいのものだろう。常人ならば気絶ものだ。エヌラスは、笑い声が途絶えた瞬間にベールとマリーを抱きかかえる。
「ふぇ?」
「あら?」
(
そして、地面をありったけの力で踏みしめた。
「ハハハハハ――! ……不愉快だ。死ね」
「最初からそう言え。戯けめ」
爆音を置き去りにして、エヌラスは体当たりで玄関に滑り込み、ロメロとムルフェストも走ってきた。
開け放たれた玄関から見える光景は、一瞬にして大惨事と化している。大魔導師の放つ呼吸をするような気軽さで連発される魔術の中を、ただ凛とした笑みを浮かべて切り抜ける剣姫。もはや神業の応酬。激闘どころか私闘による死線の連続。エヌラスは見なかったことにして扉を閉めた。その後でベールの頭にげんこつを落とす。
「いたいですわ!?」
「馬鹿お前! 馬鹿! バカベール! おっぱい女神! 何をどうすりゃアダルトゲイムギョウ界の不発核爆弾持ち歩いて地雷原に突入できるんだ!? もういい、お前こっち来い! お仕置きだ!」
「え、えぇ、えぇぇぇぇ!?」
「いってらっしゃーい」
「外のアレ終わるまで出られねぇしな」
ムルフェストとロメロの諦めの境地に達した言葉の後、教会が震動した。
――チェェェストォォォォォオオオッ!!!
剣姫の一喝が空気を震わせている。建物の崩れる音、甲高い金属音、ガラスの割れる音。爆発音。あと何故か粘着質な音。おそらく異界の触手とか大魔導師が召喚しているのだろうが、ブチブチと乱暴に引き千切られている音から察するに、剣姫が斬っているのだろう。
玄関ホールに座り込んでいる三人に、教会メイドが歩み寄る。
「よろしければ、客室をご案内させていただきますが」
「おねがいしまーす」
「頼むわ……」
「わーい、ただ飯だー」
「ムルフェスト様は別料金でございます」
「ひどくなぁい!?」
「冗談です。ではこちらへ」
「おーい、サヤ! ただいま! ちょっと来てくれ!」
「おっかえりーエヌラス。なになに、どうしたのー? あ、おいしそうなお姉さんだ」
「手伝ってほしいことがある」
「いいよー。えへー、よろしくねお姉さん」
「え、え、え? わたくしに一体ナニをする気ですの?」
「しっかり期待してんじゃねぇよ!? 俺が風呂いってくる間、サヤには――――を、頼んでおきたいんだが、できるか」
「うん、おっけー。じゃあ部屋で待ってるね」
「というわけで、ベール。がんばれ」
エヌラスは、サヤとベールを同じ部屋に放り込んで最低限の着替えを持って大浴場へ向かう。今日だけで半年分は戦った気がする。心身共に疲弊しきった身体には熱いお風呂と温かいオフトゥンが最適解。
「疲れた……死ぬほど疲れた……風呂入って飯食ってやることやって半日寝て……」
ゲイムギョウ界に戻って、ノワール達と連絡取って、情報整理して……こんなハードワークな一週間初めてだ。しかし、人間やろうと思えばできるもので、まだ時間に余裕がある。
それなら開戦の日付までにこちらも作戦が立てられる――そう考えながら、エヌラスは大浴場の扉を開けた。
「あ、エヌラス」
「……なんで混浴イベントを週二の割合でこなさなきゃならないんだ…………!」
そこでは、一足先にお風呂で汗を流していた大きなネプテューヌが一糸まとわぬ姿で入浴している。誰も入ってこないからと油断してバスタオルすら身体に巻いていなかった。