超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――九龍アマルガム教会前は燦々たる光景と化していた。焦土、或いは焼け野原。国家を代表する国王と、唯一の守護女神の衝突。それは一国を崩壊させかねない勢いで怒涛の衝撃を連続させていた。もはや地下帝国は世界大戦の真っ只中もさることながら、住人は安全な場所と思われる隅っこで身体を震わせるばかり。
「――シリウス」
「生温いわぁ!」
無数の矢が降り注ぐ。大魔導師の放つ黄金の矢を、己の拳、肉体一つで正面より粉砕して切り抜ける剣姫。天性の身体能力は流石守護女神。超次元とは比べ物にならないほど、奇跡の力を引き出している。アゴウを消滅でもさせない限りは剣姫に勝つなど不可能だ。だがしかし、それを前にして未だ負けず劣らず、敗北を知らない神格者は大魔導師ただ一人。
空中で衝突した二人が地面へと着地する。土煙をあげながら対峙し、大魔導師の手には黄金の十字架。剣姫の手には日本刀が握られている。互いに、開いて手のひらにクリスタルを浮かべていた――。
《…………――――――御ぉぉぉぉぉぉ姫ぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!》
「むっ」
「……」
九龍アマルガムに響き渡る機会音声。それは、他でもないアゴウ国王アルシュベイトの声紋だった。悲鳴じみた叫びと共に二人の間に割って入るなり、大魔導師に頭を下げる。
《すまぬ、大魔導師! こちらの監督不足だ!》
「……ああまったくだ」
《詫びの品だ。受け取ってくれ》
「……天下御免焼き饅頭か」
《カステラも付けるぞ》
「…………お前の顔を立ててやる」
《言葉もない》
アゴウの特産品を二つ、受け取った大魔導師は渋々といった様子で手を下ろした。しかし、アルシュベイトの介入に剣姫は頬を膨らませて子供のように駄々をこねる。
「おい、アルシュベイト。何故邪魔だてするか! おれとアイツの決着はまだ――」
《だまらっしゃい! お前は自分が何をしているかわかっているのか!》
「国を代表して大魔導師に喧嘩を売った。それがどうした!」
《戦争でもしたいのかお前は!?》
「知るか馬鹿! 迎えに来るならもっと早くに迎えに来い! 今更おれを止めに来るとはアゴウの兵はもっと鍛え直す必要があるな」
《今以上に鍛錬を積めと》
「応。おれのお忍びに気づかんとはまったくたるんでいる。まぁそれはいい。赦す。そんなことよりもだ、アルシュベイト。聞いて驚け、おれに女神の友達ができた」
《…………》
アルシュベイトが何か言いたそうに低い声で唸りながら大魔導師に視線を移す。それに天下御免焼き饅頭の封を開けていた大魔導師は、頷いた。一つ頬張りながら。
「本当の話だ」
《……そう、か。それは……よかった、な?》
「応! おれは初めて女神の友達ができた! それが嬉しくて嬉しくてたまらない! して、事情を聞けば祖国の危機らしい。ゆえにおれは助けたい。兵を動員しろ、アルシュベイト」
《おい》
「それとフォートクラブが欲しいらしいからな、一台くれてやれ。なに、どうせ持て余しているだろう」
《おい御姫》
「そうと決まれば早速アゴウに戻って手はずを整えねばな。大魔導師、ベールには後日来るように伝えておけ。絶対だぞ。ボサッとするなアルシュベイト。おれは腹が減った。うむ、いい運動だったな。うんうん」
《……御姫。俺に言うことはないか?》
「無いッ!!!」
断言した。清々しい開き直りだった。原因を追求するのもバカバカしくなるほど。アルシュベイトは再び大魔導師に視線を向ける。
《……すまぬ……すまぬ……》
「城にでもくくりつけておけ」
「おう? 城ごと持ってくればいいか? 負ける気がせんな」
元からだが、と付け加えて剣姫は笑った。大魔導師が焼き饅頭を頬張っている間にアルシュベイトは剣姫を背中に乗せると、再び頭を下げて跳躍ユニットを点火して去っていく。
大魔導師は目に見えて不機嫌だったが、一通りやるべきことをやって、支度を済ませた。
それらは翌日、エヌラスの手元にまとめて投げつけられる。具体的には第一宇宙速度で。
超次元へと一足先に戻ってきたエヌラスはラステイションの廃工場区画、リフォームを頼んでいたスピカとカルネのもとへ向かう。ハンティングホラーも九龍アマルガムでリフレッシュしてきたのか、いつもよりエンジンの調子が良い。軽快なハンドリングと駆動音にストレスの無いドライブで到着した我が家。もとい、工房事務所。
外観には手を加えず、内装を大幅に改造した。違法改造? 魔改造? 男の浪漫だと一言に蹴して、空間を拡張してある。その為、見た目以上の快適な空間が内部には広がっていた。
第一玄関を開けた先に、リビング。家具はまだ揃えていないが、最低限ソファーぐらいは用意してある。……問題は、そこで早速メイドが二名ほどぐぅたらと仕事をサボっていることだ。
「……あぁ~、夢のマイホーム……」
「このままエヌラス様が帰ってこなかったら私達の家にしちゃおうか、スピカ姉」
「そうですねぇ、それもいいわねぇ。さすが愚昧。たまにはいいこと言うじゃな――」
「家主が帰ってきたわけだが言うべき言葉はそれで最期か?」
「ほぎゃぁぁぁぁぁっ!?」
悲鳴を上げながらソファーから転げ落ちるスピカとカルネ。だが、すぐさま姿勢を正して服装の乱れを直し、咳払いを一つ。
「お、おかえりなさいませエヌラス様!」
「ご飯にします? お風呂にします? それとも」
「作戦会議の時間だオラァ!」
挨拶代わりにカルネはぶん殴って地面に倒しておく。スピカは頬をつねっておいた。
「いふぁいれふ、エヌラスひゃま」
「ふん。リフォームご苦労。進展は?」
「六割ほどかと。内装自体は既に終えていますが、電力供給やライフライン形成に些か手間取っています」
「十分だ。後は俺の方で適当やるさ。こっちの近況は?」
「はい。数回に渡る守護女神による威力偵察によって敵の前衛艦隊に打撃を与えてはいましたが焼け石に水ですね。着々と相手方は戦力を充実させています、それも十四時間前の話ですが」
つまり、この一週間はネプテューヌ達なりに戦っていたらしい。だが、相手の戦力差が桁違いだ。開戦まで残り一日。今日が最後の平穏となる。
ひとまずは、ノワールと連絡してみることにした。
《もしもし!?》
「ノワール、今ちょっといいか」
《忙しいのよ、後にして!》
一方的に切られた。ちょっとへこむ。エヌラスはそのままアイエフに電話を入れる。
《もしもし、エヌラス?》
「アイエフか。俺だ。今ゲイムギョウ界に戻ってきたところなんだが、近況を教えてくれないか? いや、忙しかったら別にいいんだが……」
《ちょうどよかったわ。今ノワール様が最後の威力偵察、もとい敵の前衛艦隊と交戦してるみたいよ。にらみ合いを続けている今のうちに少しでも戦力を削ろうという魂胆ね》
「……いま? 現在?」
《ええ。ネプ子達と一緒に何度か叩いてはみたんだけど、リーンボックス領土まで突破は一度も叶わなかったわ》
それであんなに切羽詰まった声か。エヌラスは事情を把握した。
「それで、ノワールは分かったが、ネプテューヌやブランは?」
《ネプ子は相変わらず。今は教会でゲームしてるわよ》
「こんな状況下でか……」
《ブラン様は敵の目標がルウィーだと知った以上、防衛ラインに尽力してるみたいよ。国民も極力避難させているみたい。それで、ベール様は?》
「ああ、ちょっと遅れてくる。相手の出方が分からない以上はこちらも下手を打てないな」
《特にラステイションはね。諜報部で詳しく調査した結果、アームドソウルスから離散した子会社がラステイションにあることが判ったわ》
「その会社の名前は?」
《“アーク”よ。どうするつもり?》
「残り一日しかねぇが、自分の足で見てくる。時間持て余すよりマシだ」
《変ないざこざ、起こさないようにね》
アイエフに釘を刺されて、苦笑して返すと通話を切る。踏んでいたカルネに視線を下ろすと、何故か熱っぽい瞳でこちらを見上げていた。よだれまで出ている。正直気持ち悪い。
「うへへへへぇ、エヌラス様。もういいんですかぁ?」
「スピカ、こいつきもいんだが」
「知っています。ですがエヌラス様? それの姉なんですよ私……」
「悪かった……」
「スピカ姉はなにも悪くないじゃないですかご主人様! 責めるなら! 私を! 激しく!」
「黙っとれおんどりゃぁああああ!!」
「ストンピングンギモヂィィィィ!!!」
少し洒落にならないヴァイオレンスな躾をしてから、エヌラスはハンティングホラーでアークへと向かうことにした。