超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
展開したリーンボックス海上前衛艦隊。総数にして三百隻以上。武装企業艦隊四十隻以上。本土防衛戦線部隊二百余り。教会周辺地域も武装企業による防衛部隊によって厳重に警備されている状態。起動した空中ライブ会場、アンサーも中継拠点として上空でスタンバイしている。
これらの情報は、プラネテューヌ諜報部が観光客としてリーンボックスへ直接乗り込んで調査した結果報告から得られたものだ。大胆不敵なその偵察に相手方からの動きは何一つなかった。余裕の現れか、それとも慢心か。いずれにせよ、敵の規模は尋常ではない。
その全てが侵攻戦を仕掛けてくればプラネテューヌないしラステイションは無事ではないだろう。しかし、目的はあくまでもルウィーだ。
夜が明ける。武装企業本社、社長室から見下ろすリーンボックスも見納めとなる。
《~~♪》
プレジレントは鼻歌を唄いながら眼下の景色を眺めていた。
展開している部隊。警備している機械。上空を旋回している戦闘ヘリ。戦闘機。ガードロボ。戦闘ロボット。その武力を誇示する光景は、戦闘用ロボットとして開発された自分たちの本懐。生まれ故郷のようなものだ。人間の郷愁の思いとはこういうものなのだろうか――プレジレントは笑う。形式上の感情表現ではあるが、それに苦言を呈するものが一名。専属オペレーターのキャロラインだった。
『――おはようございます、社長』
《オハヨー、キャロりーん。どうだい目覚めは?》
『ええ、社長の鼻歌がモーニングコールとなりました。不愉快です』
《素直だねぇ》
戦闘可能な実働部隊――数えるのもバカバカしくなる総数だ。よくもまぁこれだけ揃えたものだと我ながら感心してしまう。
大地を埋め尽くす鋼鉄の戦線。
『レッドクレスト隊。ブルーミラージュ隊、配置につきました。いつでも出撃できます』
《……あー、ひとつ足りないようだが? 前線部隊は確かもうひとつなかったか》
『自社の実験兵器の配備に手間取っているようですよ』
《ハハハ変態技術者共は手に負えないねぇ!》
『お言葉ですが貴方の社員です』
《返す言葉もない。ところで、私の“スーツ”を知らないか?》
『現在最終点検中です。万が一にもありますので』
もしも――いや、確実に三国の女神はこの本社へと突入してくるだろう。この物量、総力を前にしても。女神とはそういう存在だ。どれほどの研鑽を重ね、どれほどの策を張り巡らせても必ず突破してくる。何故なら、彼女たちは超次元の希望。どのような絶望が押し寄せてこようとも必ずそれを撃退してきた。だから今回の自分たちも女神の手によって撃破されていくのだろう。
――しかし、どうしてか。プレジレントはそうは思わなかった。万に一つも勝てる見込みのない大規模テロリズムを企てておきながら、自分たちが女神に負けるとは考えられない。それは、自分たちが女神以外の“なにか”によって敗北するだろうと予感していたからだ。
それこそが、イレギュラー。不確定要素の存在。起こり得ない可能性の権化――。
《…………》
空を見上げる。清々しくなるほど突き抜けた青の天外。その先に浮かぶ合同開発された衛星――それは、何も一つではない。観測衛星。
自分たちは管理されている。何者かによって。監視されている。だが、管理者は黙して語らない。それが何者であるのか。それが何のために存在しているのかすら、誰も疑問にすら思わなかった。
『社長。そろそろお時間です』
《――了解だ。キャロライン、俺達の戦争を始めよう》
『寝ぼけているんですか、社長』
《そうでもなければこんなことしないだろう、ギャハハハハハッ!》
やかましく豪快に笑うプレジレントに、キャロラインは苦笑する。
『期待していますよ、社長――』
それはどこかの次元世界。一人の邪神が瓦礫に腰を下ろしていた。無貌の邪神に歩み寄るのは、同じく黒一色の少女。
「……調子はどうだい?」
「ああ。完全に、とまではいかないが……」
虚空へ向けて手を伸ばす。握りこぶしを作ると、その先にあった瓦礫が消滅した。腕に走る紫電の感覚に、邪神は頷く。
「六割、八割は快復したところだ。ここまで快復すれば十分だ」
「向こうが遊び呆けていてくれたおかげだ」
「まったくだ。こちらもいい息抜きになった」
「キミの持つ次元渡航能力。そしてオレの持つ夢想具現。その二つを利用した洗脳――という言い方はよくないかな?」
コロコロと笑う少女に「いいや」と邪神はそっけなく応える。
「“可能性”の話だ。選ばれなかった“
「戦力は多いほうがいいに決まってる。オレ達に敵は多いんだろう?」
「そうだな」
「おかげで……オレ達の共犯者がこんなにも増えた」
振り返る少女の視線に、邪神もまた視線を向ける。
黒い甲冑を着込み、顔をバイザーで隠した騎士。
禍々しくも神々しい毛並みの巨獣。九本の尾を毛づくろいしている。
その黒い隊列にあって、異彩を放っているのは白い騎士。シロトラが肩を並べている。
さらに、もう一人――。
「これだけいれば、超次元を落とすことなど簡単だろう?」
「壊次元の介入がなければな。こいつらだけでも女神達は相手にできる」
「……うまくいかないと?」
「女神とは、奇跡だ。奇跡の存在だ。異質なのだ。それを消すには、世界の同意が必要になる。言うなれば生きた事象、概念。――“
「耳が痛い」
邪神の言葉に、少女は肩をすくめる。
「まぁいいよ。今回の戦争で、どれだけ動けるかテストだ」
「宣言しておくが――あの武装企業は敗北する」
「知ってるよ。キミがどれだけ知恵を貸し与え、技術を与えようと、所詮は機械だからね」
「……さて、そろそろ時間か。シロトラ。戻るぞ」
《了解した》
「他のは連れて行かないのかい?」
「まだ待機させておけ。戦況によっては投入する」
「わかったよ。オレはここでキミの帰りを待つことにするさ」
邪神とシロトラが黒い霧の中へと消えていく。そして、残された少女達と獣が一匹。
「……キミ達は、誰にも望まれなかった結末の存在。負の存在。オレと、おんなじだ」
自嘲するように呟き、少女はやはり笑う。こんなにも滑稽なことはない。かつては脚光を浴び賞賛されていたはずなのに、今はこんな次元世界の“どん詰まり”みたいな掃き溜めに押し込められた。
復讐を成せるのであれば、なんだっていい。なんでもいい。
――誰でもいい。
《こちらレッドクレスト隊! いつでも出撃できます!》
《ブルーミラージュ隊、配置完了。いつでもどうぞ》
『聞こえますか? ゾディアック隊。あなた達の任務は敵地への突入、女神たちを相手取ること。生還できる可能性は著しく低いですが、健闘を』
《こちらゾディアック隊。任務了解》
『リーンボックス本土防衛はマザー、並びにアブラ艦、グレートウォール、アンサーに一任。あなた達はルウィーを目指してください。もちろん、ラステイションとプラネテューヌの両女神による妨害があるでしょう。その際は、任意です。女神と一戦交えるのであればお任せします』
《光栄なことだ》
『それでは――これより作戦名『V・デイ』を発令します。武装企業による総力戦です。対価に見合う成果を期待していますよ』
リーンボックス中に鳴らされるサイレン。作戦の発令を受けて、海上に展開している空母で待機していた突入部隊の背面に接続される外付けの超大型ブースター。使い捨ての突貫品。整備不良を渡された機体は……ご愁傷様、戦場で運に見放されたと思ってもらう他ない。
『それでは――全機、メインシステムモード起動。データリンク開始。戦闘モード起動』
キャロラインの号令によって沈黙していた機体達が一斉に稼働を開始する。俯いていた機首を上げて、遥か地平線を見据える。
作戦目標、ルウィー教会への到達。及び、ホワイトハートの撃破。
『聞こえますかグリムリーパー部隊。あなた達は教会で待機です』
《死神の名が泣くな》
『ご安心を。前衛部隊が全滅後、あなた達が最前線へ投入予定ですので。存分に』
《了解。待機する》
『社長。以上でよろしいでしょうか?』
武装企業本社、リーンボックスを見下ろしているプレジレントは腕を組んだまま朝焼けのゲイムギョウ界を眺めていた。
まさに壮観、絶景。求めていた戦場がここにある。
《パーフェクト。言うことなしだ。それじゃあ、始めようかぁ! おっと一つ言い忘れていた》
『他になにか?』
《任務成功した暁にはボーナス支給だ! 励めよぉ戦争屋ァ!》
『ボーナス支給は初耳ですが?』