超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
最前線の戦況は常にキャロラインによってモニタリングされている。
ラステイションの国境越えを狙った先遣隊はほぼ全滅。壊滅状態と言ってもいい。無数の反応を余さずチェックしていたキャロラインの吐息に、プレジレントは状況を尋ねる。
『驚きました。我々の戦力をあれほど投入しておきながら、ルウィーへ到達した戦力は一割も満たしていません。恐るべき相手です』
《そうでなきゃ面白くない》
『わかっているんですか、社長。撃墜された戦力は』
《知っているさ。戦場に行くんだ、片道切符は常だろう? そうと知っておきながら戦うことを止められない》
『……そうでしたね。貴方は、そういう御方でした』
《プラネテューヌ側はどうだい?》
『同じく難航していますが、ラステイションほどではありません。そちらへ戦力を寄せますか』
《各自の判断に任せるさ。古い友人の言葉を借りるなら――好きなように生き、好きなように死ぬ。それが俺達のやり方だ》
暫しの沈黙を挟み、通信が入ってきた。キャロラインがすかさず回線を開く。
『こちら本社。どうかしましたか?』
《――こちら、レッドクレスト隊! グリムリーパー隊はまだか!》
『彼らは教会で待機を命じています。援軍はありません』
《クソ! ――ああ、クソ! 何なんだアイツは! 至急増援求む! 何なんだよアイツは!》
『落ち着いて、状況を――いえ、その必要はありません。こちらで確認しました』
無線の相手は現在、ラステイションの国境付近。運悪くブラッドソウルの魔術によって出撃直後に撃墜され、陸路から国境越えの為に進軍していた。そこで、特別ボーナスの相手に遭遇してしまったのだ。
これは僥倖と欲を出したのが運の尽き――。
『社長』
《なんだい、キャロりん》
『……よろしいのですか? 彼と交戦中の部隊がいるようですよ』
《構わないさ。しかし、生きてたか》
《悠長なことを言っていないで、管制室、援護してくれ!》
『先程も言いました。貴方達に援軍はありません』
《――こちらグリムリーパー隊。どうした》
『グリムリーパー。黒の国境付近で苦戦している部隊から救援要請が来ています』
《なるほどな。相手は?》
《――くそ、助けてくれ! “死神”だ! あんたらもご同類だろう!?》
《
『ええ、恐ろしい相手です。企業合併に際して離反した一部の反逆者。レジスタンスの残党でしょう』
繰り返される救援要請に、キャロラインは鬱陶しくなってきた。このまま通信を切ってしまおうかと考えた矢先にプレジレントが指示を出す。
《泣き言を言わないでくれ。士気に関わる。撤退は許可できない》
《俺達を見捨てるというのか!? 既に部隊は壊滅! このままでは――》
《あ、そうなんだ……で?
《――――クソッタレ! チクショウ! 何だってんだコイツは……!》
無線越しの戦場から響くドンパチの音が徐々に少なくなってきている。静寂を挟み、そして。
《イレギュラーめ――――!!》
それを最期に、無線が途絶える。反応も、救援要請もプツリと。
社長は顎に手を当てて、考え込むフリをした。
《……前時代の遺産。アークの守護者。色々呼び名はあるが……一番は、首輪つきか》
『我々の追跡の手を逃れ、当時の精鋭四十九名による追撃すらも退けた彼ですか……』
《惜しいやつを手放したものだ、我々も》
『ですが、所詮はただのケダモノです。敵うはずが』
《俺はそうは思わん。アイツは――》
プレジレントは、当時の映像記録を思い出す。誰しもが笑った。ラステイションの地下から拾われた死神を。
誰よりも守護女神を強く思っていた。誰よりも強く在ろうとした。その適性能力が最低値であったとしても、彼はその戦いの最中で頭角を表していったのだ。
失われたナンバー9。その空席に座ろうという者は居ない。厄災を示す不吉の九番は、今でも席が空いている。
誰よりも強く在り続けた。誰よりも守護女神に強い想いを抱いていた。守護女神に挑もうという気概すら感じられた。高く買っていた、それだけに離反した際は専属オペレーター諸共に消してしまおうと思っていたが……結果は散々だった。用意した精鋭部隊は全滅、役員五名による強襲も失敗、これ以上の損害は割に合わないと切り上げていなければ今頃は経営に壊滅的打撃を受けていただろう。
《ナイルスは、俺達とは違う。あれは正真正銘、全てを焼き尽くすまで止まりはしない》
『自らもですか?』
《ハハハ、どうだろうなぁ! グリムリーパー隊、教会で待機続行だ! 勝手なことをしてくれるなよ?》
《了解。教会で待機する》
もはや、彼を笑う者など誰もいない。いまや、武装企業内で彼の活躍を知らない者はいない。
黒い渡り鳥。戦場を求め彷徨う赤と黒の機体――グリムリーパー隊のカラーリングモデルとなった、ナイルス。
前時代の遺産。イレギュラー。アークの守護者。天敵。首輪つき。死神。様々な逸話を残していった。今まで戦場を求めていたはずだ。だが、アークの経営難になりふりかまってもいられなかったのだろう。哀れなことに。
それが今、自分たちに向けて牙を向けている。かつて伝説を築き上げた九番が。
『後続の部隊が彼に挑もうとしているようですが……よろしいのですか社長』
《本作戦の目的はあくまでもルウィーだ。ま、程々にな》
『止めないのですね。悪戯に戦力を消費するだけでは?』
《それも戦争の醍醐味だろう、キャロりん! ギャハハハハッ!》
『キャロラインです』
簡潔に、素っ気なくそれだけ述べると通信を切られた。
静まり返る社長室、振り返ればそこには無貌の邪神。仮面を着けたままソファーに体重を預けていた。シロトラもまた、本社で待機している。
「……苦戦しているようだが?」
《始まったばかりさ! これからジリ貧の泥沼になろうが、一発逆転されようが楽しんだもの勝ち! 戦争ってのはそういうものだろう?》
「否定はしないがね」
《シロトラ。お前さんはいいのかい?》
《プラネテューヌに侵攻した部隊は、中々苦戦しているようだな。いいことだ》
《ブルーミラージュ隊も国境越えは厳しそうだ。そうでなけりゃ面白くない!》
プレジレントが手を叩く。鈍重な音が室内を揺らし、無貌の邪神はその仮面の下で笑った。
「事と次第によっては、俺が手を貸してやってもいい」
《いや。アンタは大事なお客様だ。VIPだ、手を煩わせるとあってはこちらの評判に関わる》
「構うものか。食事の席に招待をいただいた。その恩くらいは返す礼儀を持ち合わせている」
《邪神の割に常識的だねぇ。もっとこう、ぶっ飛んでいたかと思っていたんだが》
雑談を交えていると、キャロラインから新たに通信が入ってくる。
《どうした?》
『遅れていた部隊が到着したようです。どうされますか?』
《予定通り前線投入だ。遅れた分仕事してもらう》
『了解しました。では――イエローマッド隊はプラネテューヌ侵攻部隊へ合流を。遅れてきただけの成果を期待しますよ』
「……一個旅団の戦力を用意しておきながら、女神一人片付けられないとはな」
《ハハハ! なんならゲイムギョウ界全部投入しても難しい話だ! 俺達はむしろ善戦してるじゃあないか!》
「黒の守護女神一人にあれだけの戦力を差し向けておきながらな」
ゾディアック隊は既に半数が撃墜され、反応が途絶えている。プラネテューヌとラステイションの国境沿いに進軍していた部隊からも通信が途絶え途絶えだ。噂されている新種のモンスター達によって進軍を阻まれており、思うような戦果を挙げられずにいる。
プラネテューヌ国境では防衛部隊を相手にしていた先遣隊がトラップによって全滅したという話だ。まったく度し難い、シロトラは呆れている。
《プラネテューヌ侵攻部隊はピクニック気分か?》
『いいえ。国境防衛部隊によって仕掛けられたトラップによって半数が打撃を受け、支援砲撃による戦力の分断、狙撃による確実な撃破。指揮しているのはプラネテューヌ諜報部。後はお分かりですね? 貴方の元部下達による戦果です』
《よくやっているようだ。俺が出なければならないほどか?》
『これ以上我々に被害が出るようであれば、やむを得ないかと』
《ならば出撃の用意をしてくる。せいぜい戦果を期待することだな》
シロトラは剣を携えて社長室を後にした。
戦争は始まったばかりだ。ハァドラインによる女神代行。代理戦争は今のところ三女神に軍配が上がっている。
グリーンハートの姿が見えないことだけが気がかりではあるが、プレジレントはどんな派手な登壇をしてくれるのか楽しみで仕方がなかった。
プログラムによって仕組まれた戦場など、なんの面白みもない。破天荒、支離滅裂、それでいて――嗚呼、荒唐無稽な鋼鉄の戦場が面白い。戦争こそエンターテイメント。戦場こそが最高の娯楽。
鬼が出るか蛇が出るか。どちらにせよ、やったもん勝ちだ。
《キャロり~ん。前線部隊に指示ー。例の装置、起動を許可する》
『了解しました。全機、
そうだ。戦争はまだ始まったばかり。焦ることはない。
愛しのグリーンハートが不在ならば、今しばらくは自分たちがリーンボックスを守らなくてはならないのだから――。
《…………?》
プレジレントは、何か今。自分が致命的なエラーを吐き出したような気がしたが……彼は狂っていた。狂ったフリをしていたのかもしれない。そのエラーを流して一刻を争う転々とした戦況を眺めることにした。