超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
プラネテューヌ上空。剣閃が奔る。光撃が駆ける。既に戦線展開から三時間が経過していた。
「ネプギア、大丈夫?」
「ちょっと疲れてきたけど、これくらいへっちゃら!」
「そう。だけど無理だけはしないでね。危ないと思ったら下がりなさい」
「お姉ちゃんは?」
「これくらいは平気よ」
(やっぱりお姉ちゃんはすごいなぁ。わたしも頑張らないと!)
「早く終わらせてゲームの続きがしたいわ」
「そこだけは譲らないんだ……」
ため息を吐くパープルハートに、アイエフからの無線。現在敵の増援と交戦中。絶え間ない敵の猛攻に最前線を押しとどめている国境防衛隊も苦戦を強いられていた。しかし、教会管轄からの補給を繰り返すことによって何とか留まっている、という状態だ。イストワールが何とか頑張っているが、やはり現状のままでは厳しい。
高速突撃部隊が新たに確認される。相変わらず音速を超えるような馬鹿げたトップスピードで国境を突破。しかし、単騎で突入してくるとはいい度胸だ。
パープルシスターによる迎撃も難なく回避。そのまま突破されるかに思われ、パープルハートが長剣を握り直したところで相手は背面の大型ブースターを切り離した。
二人の女神を前に、宙に停止する白い機体。背中に羽根のような大型のスタビライザーを背負っている。
「あなたは確か……」
《こうして会うのは二度目ですか、パープルハート》
「……ジェラルミン?」
《人をハードケースみたいな名称で勘違いしないでいただきたい》
「あ、ごめんなさい。えっと確か……ジェラート?」
《惜しい》
「……思い出したわ、ジェントルメン!」
「お姉ちゃん、わざと?」
《忘れているようなので改めて自己紹介を。武装企業実働部隊のジェラルドです》
(ジェラートが一番近かったような……)
「それで、あなたが出てきたということは向こうもいよいよ本腰ということかしら?」
《ええ。第一波はここが正念場です。明日以降は今日以上の戦力が投入予定とされています》
「なんですって!?」
「ここまでが……」
《犠牲になったものたちにはそれに見合うだけのデータを収集してくれました》
「――もしかして!」
「どういうこと?」
武装企業は一週間の猶予を与えた。その間、防衛戦の構築に心血を注いでいた。ルウィー侵攻作戦に向けた部隊の構築。そしていざ開戦ともなればプラネテューヌとラステイションの展開した防衛部隊の情報を突破を目論みながら収集。それは彼らがロボットであり、同一サーバーからデータリンクを行っているがゆえにできる即時の情報共有。
《防衛戦の突破口を探っていた、ということです》
「それで、あなたは何のためにわたし達と戦いにきたのかしら?」
《当然です。これでも職務には忠実なものでして。守護女神と一戦交えるべく》
「……気をつけなさい、ネプギア」
「わかってます。なんだか妙な感覚……」
ジェラルドから発せられるオーラは、他の機体とは比較にならない。まるで、そう――守護女神でも前にしているかのような錯覚に陥る。
《それでは》
ジェラルドのライフル弾を避けて、左右から二人が斬りかかる。刹那的な殺人的加速による回避行動、一瞬見失ったパープルハートが目算をつけて長剣で弾丸を弾いた。しかし、手に伝わる衝撃は重く、指先が痺れる。
「ッ……この威力は……?」
《――なるほど、素晴らしい。眉唾ものでしたが、これほどとは……》
「この戦闘力、守護女神に匹敵するわね。どんなチートを使っているというの」
《信じるものは救われる、ですか。強いて挙げるのならば、飽くなき信仰心という他にない》
ジェラルドの弾丸をパープルシスターも防いだ。やはりその威力に顔をしかめている。
「これは、わたしも気を引き締めていかないと」
《これならば、或いは……》
「いくわよ、ジェラルミン!」
《先程名乗ったばかりだと思いましたが、私の気のせいでしたか》
(律儀な人だなぁ。ごめんなさい)
パープルシスターは内心、名前を微妙に間違える姉に代わって謝罪しながらもM.P.B.Lを向けるのだった。
――ラステイション国境付近。南方森林地帯。
突入していたレッドクレスト隊はほぼ全滅。後続の顔見知り達がなんとか生存者を引っ張り出して撤退していく。その殿を務めている機体はガードロボ達を連れて周囲を索敵していた。
《大げさなんだよ、まったく》
《うるせー! こっちだってあんなバケモノだと思っちゃいなかった! データと違うじゃねぇか! 旧型の機体だって話だったのに、部隊は壊滅状態だ》
《それで、機体を捨てて命からがらってことか》
外装……人型ロボットの外殻強化装甲を廃棄して逃げ出したレッドクレスト隊所属の赤いカラーリングのビットは、自らの怒りを表すかのようにその場で何度も跳ねた。しかし、飛行型のガードロボにおとなしく収納されて飛び立っていく。
それにしても、と。殿の機体は振り返る。ラステイションの最前線、無人の森林地帯。この中にひっそりと建てられた施設。アークの守護者。交戦した、という話だが……恐ろしくなるほど静寂に包まれていた。
とてもではないが。これが個人の戦力で成し得る最前線とは思えない。そうでなければ、レッドクレスト隊は仲間割れでもしたとしか考えられなかった。
《いいから早く戻れ。予備の機体を受け取って明日の突入部隊に再編してもらうんだな》
《わかってる!》
《……しかし、静かなものだ》
静かな戦場には近づくな。そんな一見して矛盾した言葉の本質は、しかし。的を得ている。そこは既に戦いが終わった場所なのだから。そして、運悪く彼らは踏み込んでしまった。
その、静かな戦場に。自身の命という火種を灯して。
戦闘領域を離脱しようとする飛行型ガードロボが撃墜される。それに搭乗していたレッドクレスト隊のビットも反応が消えた。同時に撃墜されたと見るべきだろう。残された機体、ブルーミラージュ隊所属のオラクルは森の中をスキャンする。辛うじてセンサーに反応があった。
片膝を着いて、背面に背負ったスナイパーキャノンからは硝煙が漂っている。
右手には緑色のライフル。左手にはショートバレルマシンガンを装備していた。だが、一人で交戦していた以上、残弾が少ないはずだ。機体の各所にも損傷が確認できる。
《相手も無傷ではないか……ならばこちらから仕掛ける》
右手のライフルと左手のブレードのセーフティを解除。森の中へと突入した。
『――ナイルス、敵機体を確認。数は一機』
『わかっているな? 残弾も少ない。機体損傷も無視できない。被弾を抑えて、そのうえで早急に撃破だ。お前ならやれる』
『だけど油断はしないで、確実に。こちらでも敵のデータをスキャンしてみます』
《…………》
ナイルスはオペレーターの言葉を静かに反芻し、コックピット内で頷く。背面のスナイパーキャノンをパージ、その場から離脱する。だが、相手もこちらの位置を把握しているのか追従してくる。
《聞こえるか、死神》
《……》
《どうやらレッドクレスト隊をたった一人で壊滅させたらしいが、手柄は私が貰い受ける。機体の損傷も楽観視できないだろう》
それには肯定の意見だ。右手残弾は三割。左手は一割を切っている。背面武装もレーダーが一本だけ。とてもではないが、全快の機体を削りきるにはあまりに博打過ぎる状態だ。しかしながら、ナイルスは相手の機体を観察する。データによれば属性防御に偏った編成。実弾ならば光学兵器よりも通るだろう。相手の武装も光学兵器に寄っている。
それならば、と。ナイルスは牽制射撃としてライフルを撃つ。外れた弾は森の中に消えていく。距離を詰めてくる相手にマシンガンをばら撒く。すぐにマガジンを空にした大食らいは、大型エネルギーライフルの弾丸に向けて投げる。
『左腕部武装のパージを確認。なんのつもり、ナイルス?』
『いや、待て。近くに補給場がある。そこに向かえ。……おい、聞いているのか? どこに行く気だ』
オペレーターの困惑する表情が目に浮かぶ。だが、相手にも気取られるわけにはいかない。遮蔽物の多い森林地帯を戦場にしているのには理由がある。敵方はそれを知らないらしい。もっとも、知られる前に倒すのだが。
『ナイルス、敵機のデータスキャン完了。そちらに送るわ』
フィオナから送られてくるスキャンデータはやはり、こちらの考えている通りだった。
『敵の増援を確認。ガードロボだ。あまり群がられても厄介だ、そちらも一機残らず片付けてしまえ』
相変わらず無茶な要求を平然と送りつけてくれる。ライフルで迎撃しつつ、目的のポイントに到着する。樹木の密集が他より少ない開けた森の中へ、敵の機体――オラクルは侵入してきた。
その周囲に散らばるレッドクレスト隊の残骸に唸っている。
《ここがお前の闘技場、ということか。いいだろう、その思い上がりをへし折ってくれる》
とんだ思い上がりをしてくれたものだ。闘技場などではない。墓場だ。
ナイルスはすぐさま木々の密集した箇所へ機体を滑らせる。そこへ向けたミサイルも枝に阻まれて思うように当たらない。大型エネルギーライフルで樹木を吹き飛ばすが、外れる。闇雲に撃つだけの残弾もエネルギー容量も無い。ナイルスの目論見通り、オラクルは機体のクールダウンに徹していた。
密集した木々に扮した、武器庫。そのひとつに手を掛けて、ナイルスは内部に隠されているレバーを思い切り引っ張った。
そして次の瞬間、森林地帯が白い霧に包まれる。
《なに!? なんだこれは! チャフか、だがそんなものでは!》
オラクルのレーダーが潰される。頼れるのは自分の視界だけ、連れてきたガードロボも十機以上は連れてきた。単なる時間稼ぎだ。開けた視界では相手の思うツボ。これではナイルスもレーダーが使えないはずだ――オラクルはそう踏んだ。
このチャフに紛れて接近戦を仕掛けてくるはずだ。こちらの動きを制限するほど強力なものではないのが幸いした。
霧の中に、薄っすらと機体の影が映る。呆気ない死神の最期だ――オラクルはブーストを吹かして、隠れていた樹木もろともにレーザーブレードで切り倒す。
しかし、焼き切られた機体のコックピットは空っぽだった。空席となっている。
《――な、に?》
チャフが晴れていく。次々と更新されていくダイアログには連れてきたガードロボの撃墜ログだげが押し寄せてくる。
《馬鹿な。機体も無しにどうやって……》
次の瞬間、レーダーが回復した。急速に接近する反応がある。既にガードロボは全機沈黙。残るは自分だけだ。
オラクルが見上げ、上空から覆いかぶさる影があった。全身が燻った鉄色のジャンク品の寄せ集め――第三世代の廃棄品を組み上げた粗悪品。だが、手にしている銃器だけは新品同然だった。アシンメトリーフォルムの鈍重なブーストチャージによってオラクルが蹴り飛ばされ、森の中を転がる。やがて大木に背中を受け止められ、不意に視線を向ける。
その中は、機械的な配管が無数に繋がれていた。距離もそう離れていない。
《――戦場で、機体を乗り換えたというのか!》
《……》
ナイルスはブースターを全開にしてオラクルを大木に隠蔽させた格納庫の中へ押し込んだ。そこは機体が一つ入るか入らないかの最低限ギリギリのライン。即興の密閉された空間に押し込められたオラクルに突きつけられる両腕の銃口。
ライフルと、大口径のヒートキャノン、バズーカ砲による無慈悲な連射。格納庫で装甲を溶かされ、外殻装甲を貫かれたオラクルはコアとなるビットまで跡形もなく撃ち砕かれた。伸ばした腕を銃口で払いのけ、むき出しのコックピットにライフルを突きつける。
《……――…………イレ、ギュラー…………》
機体を乗り換えたナイルスは、ビットに向けて引き金を引いた。排莢された弾丸が、落ちていた薬莢とぶつかり、合掌のように一度だけ音を鳴らした。