超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
episode0 導入
戦いが起きていた。世界を戦禍に巻き込みながら、その中を走る一人の男がいた。右手に剣を携え、左手に銃を構えて、ひた走る。その先にあるのは黄金に輝く綺羅びやかな塔。憎らしく見上げて“彼”は全身を苛む苦痛を歯噛みして飲み込む。
「止まれ!」
「この先は――」
「退・き・や・が・れェェェェッ!!」
塔を守護する者達を蹴散らし、吹き飛ばし、彼は扉を破壊して突入する。神聖な塔に荒々しく踏み入る姿はまるで悪党そのものだ。だが、それは間違いではない。今の彼はまさしく悪の道を往く鬼神だった。
世界をより良くするための計画が塔の最上階で行われている。それを阻止するために彼はその力を振り絞って塔の階段を駆け上がっていた。
立ち塞がる警備兵達をなぎ払い、走る。走る。走る――全てが手遅れになる前に。
塔の最上階に辿り着いた時には既に満身創痍だった。だが、その眼に宿した闘志と決意に微塵も揺らぎはない。
巨大な装置を前にして集まるのは――この世界を守護する使命を帯びた同志達。共に笑い、共に語り、時には剣を交え、戯れ程度に争いながら競ってきた。
だがしかし、今だけは違う。明確な敵意と殺意を持って向かい合う。かつて友と呼んだ者達と望まぬ刃を交えることとなろうとも。
「エヌラス! 貴様、何のつもりだ!」
「――そいつは……!」
あらゆる次元への通り道を拓くシステム。異次元への開拓、未知なる邂逅。それは無限の可能性を秘めている。だからこそ、この世界のあらゆる技術を結集して作り上げた。より良い世界に導くために。次元を超えたシェアエネルギーを得るために。
全身を一分の隙もなく鎧で覆った騎士が背中の大剣を抜き放って彼――エヌラスと火花を散らす。身の丈を越える鉄塊を片腕一つで押し留める。
「この計画に最も力を注いできたのはお前ではないか! 血迷ったか、エヌラス!」
「そこを通しやがれ、ドラグレイス! 全てが手遅れになる前に!」
「それは出来ん相談だ!」
二人は激しく打ち合う。だが、やがてドラグレイスに軍配が上がる。吹き飛ばされるも、受け身を取って素早く体勢を整えたエヌラスが左手の銃を撃つ。銀色のリボルバーから放たれる弾丸は、常識ではありえない不規則な軌道を描きながらドラグレイスに向かっていく――それが鎧に風穴を開けることはなかった。
空中で全て霧散したからだ。破片だけがパラパラと虚しく散っていく。
「っ――、アルシュベイトォォォッ!」
騎士の背後、銃口から漂う硝煙。銃身を切り詰めたカービンを肩でしっかりと固定した軍用ロボ――アルシュベイトの正確無比な銃弾が、機械らしく正確なまでの射撃技術をもってしてエヌラスの弾丸を全て撃ち落としていた。大きく張り出した肩と後ろ腰に背負ったブースターの独特なフォルムから、それが戦闘用であることが伺える。
《どういうつもりだ、エヌラス! 邪魔立てするな!》
「テメェまで俺の邪魔をするんじゃ、ねぇぇぇぇ!!」
《お前……!》
高く突き上げた掌が光に包まれ、その手には光り輝くクリスタルが浮かんでいた。それを見たその場にいた全員が息を呑んだ。
《本気か――やるぞ、ドラグレイス!》
「わかっている。お前たちも手を貸せ!」
装置にシェアエナジーを送り込んでいた残りの者達が武器を展開する。
《何のつもりか知らないが、世界を繋げるこの装置は命に代えても守ってみせる》
「エヌラス……どうして?」
各々が武器を構えて、エヌラスと対峙する。
「理由は言えねぇ。説明する時間も、今はねぇんだよ! そいつは破壊させてもらう! 今ならまだ間に合うんだよ!」
塔の最上階で巻き起こるのは、また戦禍だった。国を治め、守護する者達が全力で衝突した余波が外にまで溢れる。やがてそれは徐々に被害を増やしていった。
一人。また一人と変神していく。エヌラスの力は他の者達を遥かに凌駕している、しかし最上階に至るまでの道中で体力を大幅に消耗していた。だが、彼らが命懸けで守る装置の破壊こそが目的であったエヌラスは、最後の最後で一瞬の隙を突いた。
銀のリボルバーから放たれた六発の弾丸が不規則な軌道を描いて、巨大な次元連結装置のエネルギーパイプに風穴を空ける。シェアエネルギーが漏れ出し、それに気を取られている間にエヌラスの右手には転送された赤いマグナムが握られていた。
「コイツで、まとめて消し飛べェェッ!! 神銃形態!」
「しまッ――!?」
《ドラグレイス、退避だ!》
「離脱するぞ!」
爆炎。閃光――そして、静寂。
残されたのは破壊の爪痕だけ。崩れ始めた黄金の塔から逃げ出すのは各国の親衛隊達だった。落下してくる塔の瓦礫に潰されないように頭上を見上げながら逃げ惑っていた彼らの前に着地する人影がある。
ひとつは、竜を模した西洋鎧を着込んだ騎士。
ひとつは、燻った鋼鉄の人型兵器。共に、損傷を負っていた。その姿を見るなり彼らの臣下は自らの命が危機に晒されていることを忘れて駆け寄り、身を案じる。
「ドラグレイス様! ご無事ですか!?」
「ああ……」
《アルシュベイト隊長!》
《仔細無い! 総員、離脱だ!》
崩壊していく塔の最上階には、戦禍の破壊神であるエヌラスだけ――崩壊していく中で頑強なシールドによって原形を留めている次元連結装置を前にして、歯噛みする。
遅かった。間に合わなかった。手遅れだった。後悔と憎しみだけが手に残る。どうしてもっと早く気づくことが出来なかったのか……涙が頬を濡らした。
既に装置は起動している。それも不完全な形で。どれほどの悪影響を及ぼすのか、エヌラスは知らない。だが、この世界に未曾有の危機が訪れることだけは必至だ。
「……チクショウ……チクショウ……!」
拳を叩きつける。何度も。何度も。取り返しの付かない過ちを犯した。もう全てが手遅れだ。
「こん、チクショウがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
鬼神の咆哮が塔を崩壊させていく。
夢を抱いていた。
希望を抱いていた。
輝く未来を描いていた。
全てが絶望で塗り潰されて襲い掛かってくる。だがしかし、それでも胸の中に“
虚無感が重くのしかかる。それを押しのけて彼は立ち上がった。
どんな荒唐無稽でもいい。世界を滅ぼしてでも構わない。
「……――俺は、絶対に諦めねぇ……っ! 笑顔で終わる“
世界の崩壊が始まる。それを止めることができるのは、最後の一人だけ。
その日、全面戦争の火蓋が切って落とされた。
最後の一人を決める為のサバイバルバトル。