超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――リーンボックスからの信号弾に、ハァドライン達は撤退命令の指示を受けた。既に残り四機まで撃墜されたゾディアック隊は、全機損傷。
《ここまでが限界か……》
「はぁ、はぁ……なによ、逃げる気?」
肩で息を整えながらブラックハートは大剣を突きつける。強気な口ぶりとは裏腹に、撤退命令には感謝していた。これ以上戦闘を続ければ街の被害も増大していく。避難済みとは言え、街の被害は抑えたい。
(こいつら……、わたしがここまで追い込まれるなんて、それこそありえないわ……どういうことよ)
《我らとしても、もうひと押しといったところか……だが、命令とあっては従うしかない》
「背中を見せたら撃ち抜いてやるんだから!」
《……ナンバー1、すまない。頼めるか》
《――ヴ、ア……ヴォォォアアアアア!!》
「なっ、どこに!?」
ゾディアック隊ナンバー1――最初期の生産計画からシステムにエラーを抱えていた機体は、しかし、仲間の意図を汲み取ってラステイションの教会へと向かっていく。ビルの壁面を蹴ってブラックハートを飛び越え、ブラックシスターの射撃も一瞥しながら避けて一直線に。
腕に装着している大型パイルバンカーで市街地を破壊して、土煙をあげて距離を取る。その隙に残るゾディアック隊は撤退を始めた。
ここで確実に撃墜するか、それとも――ブラックハートは一瞬だけ戸惑い、ナンバー1の撃破を最優先にする。ラステイションの市民を見殺しにするわけにはいかなかった。
「ユニ、アイツを追いかけるわよ! これ以上の接近を許さないで!」
「わかってる!」
一方、上空ではブラッドソウルが撃墜スコアを最速で更新している。輸送ヘリ、武装ヘリ、高速突撃隊、戦闘ドローン。そのことごとくを過剰な破壊力を持つ魔術でせん滅していく。無尽蔵の魔力貯蔵庫、銀鍵守護器官から発せられる熱量によって身体から白煙が漂っている。
《撤退だ! 撤退する!》
(ようやく撤退かよ、これ以上来たら俺の方が溶けちまう……)
ブラッドソウルの周囲に浮かぶバルザイの偃月刀、総数にして八本。両手にも握りしめた偃月刀を含めて十本。それを維持するだけでも相当な魔力を消費し続けるが、さらにそれを巧みに操るともなれば――以前からは考えられないほどの消費量に脳が茹だっていた。まるで熱病にでも冒されたかのような全身の熱を、歯を食いしばりながら堪えている。
殿を務める敵部隊を偃月刀の連動斬撃でなぎ払い、遠ざかる敵影に深く息を吐き出す。それだけでも白い吐息が出てきた。風に流されて消えるそれに、ドラッグシガーを取り出そうとすると指の感覚が鈍い事に気づく。後で吸おうと思い、ブラッドソウルはブラックハートに通信を送った。
「ノワール。そっちは――」
《敵が一体、教会に向かって一直線に走ってるわ! もう、なんなのよアイツすばしっこいったらありゃしないんだから!》
「あー、援護は必要か?」
《さっさとしなさいよ!》
「へぇいへい。イタクァ!」
白銀の回転式拳銃をぶっきらぼうに構え、おおよその狙いをつけて撃つ。後は勝手に狙ってくれる。だが、そこの魔術制御を誤ればあらぬ方向へと四散する。
ブラッドソウルの撃った弾丸、四発。それは市街地を突き進むゾディアック隊ナンバー1の肩部と脚部に命中して機動力を削ぐことに成功した。タイミングが悪かったのか、着地間際に着弾したせいで道路を転がる。
《ゲ、ガ――ヴ、ゥ……ガァァアアアアア!》
それでも、立ち上がろうとする乳白色の機体の左腕部がブラックシスターによって撃ち抜かれた。倒れそうになる身体を踏み留めて、メインブースターを点火する。急速接近する生体反応にナンバー1が振り返る。
大剣を振りかぶったブラックハートに右腕の大型パイルバンカーを引いて、相打ちとなった。
「っ……! この衝撃、やっぱりただの機体じゃないわね……!」
《グゥゥ……》
獣のように唸り、パイルバンカーを再装填する。だが、今度は上空からの魔力反応に後ろへと下がる。地面へと突き立てられる偃月刀を避けてブラックハートがナンバー1の胴体を貫いた。
「こぉ、のッ! いい加減に倒れなさいって!!」
《ガ……グ、ヴゥ……ッ》
機体のコアを貫かれて、ナンバー1は黒煙をあげながら沈黙する。その反応の消失に、ゾディアック隊は沈黙を貫いた。捨て石として選んだ味方だが、確かに仲間だったのだ。
ブラックハートは倒れる機体を見下ろして、安堵する。既に首都まで侵入を許し、今も教会職員達は撤退命令に背いた敵を押し留めていた。
「ブラックハート様!」
「首都防衛部隊ね。こちらの様子はどう。被害状況は!」
「はっ、上空を通過する敵影はほぼ皆無でした。しかし、あの協力者は一体……?」
「余計なことを詮索しないで。貴方の職務を果たしなさい。状況報告!」
「は、はい!」
「残っている敵は全部撃墜! 一体残らずよ!」
「お姉ちゃん、わたしも」
「ユニは先に教会に戻って! 書類を仕分けておいてもらえる、わたしはこっちが終わったら戻るわ。そこ、グズグズしない! ここから一番近い部隊の救援に向かうわ!」
プロセッサユニットの翼を広げて、ブラックハートはラステイション首都防衛部隊の案内を聞くなり移動を開始する。ブラックシスターは言われた通り、一足先に教会へ戻ることにした。
(そういえば、エヌラスさんは?)
空を見上げても、そこには既に相手の姿はなかった。撤退する敵を追跡しているのだろうか……いや、あり得る。ブラックシスターの脳裏には逃げ惑う敵を凶悪な笑みを浮かべながら追い詰めるエヌラスの姿があった。しかし、そこまでするような人では……ない――はずである。
エヌラスはラステイション国境付近、防衛ラインの近隣に配置しておいたスピカとカルネの様子を見に来ていた。
二人の周りには敵の残骸。そして、その戦果に引きつった笑みを浮かべて距離を置いている防衛部隊の皆さん。その頂上で拳を空高く突き上げているのはバカメイド二号、カルネ。
「私がナンバーワンでぇぇーすっ!」
「どぉりゃぁああああ!!!」
「ごほうぶッ!!!」
「あらエヌラス様」
真横に吹っ飛んでいく愚妹には目もくれず、スピカが会釈する。しかし、鼻を鳴らすと怪訝そうな表情を見せた。
「こっちはどうだった」
「……えぇ、ご覧の有様です。上空からの突入部隊とは別働隊で海上から侵攻してくる敵の大部隊がいました。ええ、過去形ですがなにか?」
「い、いやよくやってくれたよ。ラステイションの防衛部隊も、損害の方は」
「けが人が多少。そちらは私どもの方で手厚い看護をこれから」
「朝までしっぽり!」
「夜明けまで寝てろ!」
「あびとうございまぶっ!」
ゴギャンッ!
カルネの頭部から人体が発してはならない金属音。ブラッドソウルは周囲を一通り見渡して簡単に状況を把握するとその場は二人に任せ、プラネテューヌとラステイションの国境付近を警戒する。高速飛行中にルウィーのホワイトハートとも連絡を取り合った。
「ブラン、そっちは」
《予想以上に敵の数が少なかったおかげで被害はほぼ無しだ。そっちで数を減らしてくれたおかげだな。こっちに到着する頃にはボロボロだった》
「そりゃそうだ、誰が大暴れしたと思ってやがる」
《ノワールから聞いてるけれども、破壊神さまさまってことか》
「破壊神は返上したかったんだがな、今回限りは復活の血祭りだ」
機械から血が流れるかはともかくとして。ともあれ、ルウィーの損害は軽微。しかし敵が撤退したことに疑問を抱いているようだ。相手は機械、加えて大量の戦力を抱え込んでいるにもかかわらず。
「戦争仕掛けると言っても四六時中戦闘するわけじゃないからな。今回は先遣隊と見るべきだろう。こちら側の戦力を測る為にな。次からは手強くなるぞ」
《へっ、関係ねぇ。どれだけこようが叩き潰すだけだ》
「おっかねぇな……問題は、防衛ラインの穴を抜けてルウィーに突入された場合だな。そこを突かれると流石にまずい」
《そこまでプラネテューヌとラステイションの戦力は低くないはずだろ?》
「そうなんだが、国境になると厄介だ。そこで」
《どちらにも所属していないお前の出番ってことか、エヌラス》
「ああ。そういうことだ。とはいえ俺もさっきの敵陣をせん滅するのに相当魔力使ってな。しばらくクールダウンさせてくれ」
《おい、防衛戦じゃなかったのかよ》
「段々敵を撃墜するの楽しくなってきてな……」
《お前、本当にあたしらの味方なんだよな……?》
心外な。ちゃんと味方ですとも。ブラッドソウルは改めてホワイトハートに伝えておく。
両国の国境付近、荒れ果てた山岳地帯の上空で制止すると、眼下に広がる奇妙な光景に首を傾げた。
「……どうなってんだ?」
ラステイション軍と思わしき部隊と、武装企業のロボット達が背中を預けて周囲を取り囲むモンスターの大群と敵対している。