超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ラステイション防衛隊極東支部。特殊なモンスター『アラガミ』を討伐する為に特別な装備を使用している。
教会で読み漁った資料の中で見たが、中々興味深い。そちらは後ほど機会を見て研究するとして……さて、どうするか。ブラッドソウルは腕を組んで様子を見ていた。
右目を隠すほど伸ばした黒髪の男性。極東支部の所属だろう、バスターソードの神機を振るってモンスターを殴り飛ばす。仲間に指示を出してできるだけ近づけないようにしていた。包囲網を突破するための算段をつけているのだが、事態は一刻を争う。仕方なく共闘することになった武装企業のロボットも弾幕を張っているが長くは保たない。
《チクショウ、ツイてねぇ……ツイてねぇよ……》
「ごちゃごちゃ弱音を吐くな! ええいクソッタレ、どうなってんだこの量は……!」
「――おーい、そこの奴ら! 大丈夫か!」
不意に、上から呼びかけられる。それに顔を上げれば、見たことがないプロセッサユニットを展開した男性がいた。女神に似て非なるその姿に、第二部隊隊長を任されている男性は安堵のため息を吐き出す。
「大丈夫じゃねぇ、こっちは負傷者多数。助けてくれるか!」
「あいよ、任された! イア・クトゥグア!」
右手の魔術刻印が真っ赤に輝く。神性の炎熱を灯して、真紅の自動式拳銃をアラガミの群れに突きつける。赤い軌跡を描いて着弾、そして爆発と閃光。そこには下級アラガミが本能的に死を直感する別次元、外宇宙の荒ぶる神がいた。神獣形態・クトゥグアの咆哮だけでアラガミの群れは逃げ出そうとするが、気性の荒いクトゥグアはその背中に向かって飛びかかっていく。
ポカンと口を間の抜けた顔で開けていたラステイション軍極東支部の下へ着地するブラッドソウルだが、銃口を武装企業のロボットに向けた。引き金に指をかけたまま。
「そっちの連中はハァドラインの機体だな」
《ま、待ってくれ! 俺達は協力してたじゃねぇか! ノーカウントだ、ノーカウント! なぁ、そうだろう!? アンタ達からもなにか言ってやってくれ!》
「まぁ成り行きだしなぁ」
「そうよねぇ」
「敵であることに違いないし……」
《ツイてねぇ……》
「見逃してやってもいいが、自己紹介。おら、名乗れこの野郎。消し飛ばすぞ」
ブラッドソウルの破壊力を目の当たりにした武装企業の機体は、パッチと名乗った。無口な近接仕様の機体は真改。武装を解除させ、拘束する。そちらの二人は教会に連行するとして。
ブラッドソウルは変神を解き、改めて向き直ると手を差し出した。第二部隊隊長は自らを雨宮リントと名乗り、握手する。お互いの近況を話し合い、警戒を解すと肩を組み合った。
「ハッハッハ、いやぁ助かったぜアンタ。うちの部隊に欲しいくらいだ」
「いや俺なんてホントまだまださ。それよりも、そっちの使っている武器は興味深いな」
「それなら極東支部に来てくれれば技術部が見せてくれるさ。俺達もこれから戻るつもりだ」
「負傷者を運ぶなら手伝うが」
「それなら大助かりだ、悪いな。助けてくれた上に手伝いまで」
「気にしないでくれ。今はラステイションで世話になってる身だからな」
エヌラスが負傷者に肩を貸して立たせる。治療魔法で怪我の痛みを和らげるくらいはできるがそちらの魔術は専門外だ。リントはそれに考える素振りを見せて、頷く。
「ああ、アンタかぁ」
「なにがだ?」
「なに、女神ブラックハート様に懇意にしてもらっているお相手ってのは。恋人か?」
「……はぁ!?」
「あ、ちょ、ぎゃぁぁぁぁうぉぉぉあああ!?」
割りと重傷人に肩を貸していたエヌラスが驚きのあまり手を放してしまった。支えを失った負傷者が転んだ拍子に怪我をぶつけて絶叫しているが、恋人というフレーズに固まっている。
「えー、あー、恋人? っていうか、なんだろうな、いや……改めて言われるとすげぇ気恥ずかしいんだが……」
「照れるな照れるな。それほど親密な仲なら、相応の理由があるんだろ? ただし、泣かせるような真似したらラステイション軍からメチャクチャ恨まれるぞ~」
「呪われるのは慣れてるし恨むなら好きにしてくれ。俺も負ける気はないからな」
「心強くて頼りになるこって! ますますウチに欲しい人材だ、志願してくれたらすぐ採用してやるし、口も利いてやるが」
「いや、いいよ。それより怪我人を……大丈夫か!?」
「アンタ……アンタら……!」
恨めしい声をつぶやきながら、ラステイション防衛隊極東支部の隊員を大至急、拠点まで運ぶことになった。
極東支部拠点、通称「サテライト」ではアラガミから守るための城壁が築かれている。その周囲は険しい山岳地帯となっており、付近の街などの警護も引き受けている。最近問題視されているのが、環境の変化に伴う感染病。その治療法は現在も遅々として進んでいない。原因不明のその症状は赤い雨に触れた者が発症するとされていた。
エヌラスはサテライトの病室に負傷者を担ぎ込み、リントの案内によって支部長の部屋へと足を運ぶ。
「やぁ、君かい。第二部隊の窮地を救ったという人は。ありがとう、彼らは我々の貴重な戦力だからね」
「いえ、そんな。偶々通りがかっただけで」
「それでも助けてくれたことに変わりはないからね」
「支部長、自己紹介」
「おっと忘れていた。私としたことが。私は支部長のサカキだ。よろしく」
「俺はエヌラス。ラステイションで世話になってるフリーの……」
はて、自分の職業をなんと名乗ればいいものか……。便利屋、ではない。何でも屋、は怪しいような気がする。工房を構えているから技術者、というのも何か違う気がする。
「あー……魔道、探偵……?」
「どうしてそこ疑問形なんだい? まぁいいさ。それで、リント君から聞いたけれど我々の使う武器に興味があるようだね」
「えぇ、まぁ」
「それなら、こうしよう。こちらは技術情報を提供する。君は我々に協力する。そうすれば女神様の悩みも解決できる、一石二鳥だと思わないかい?」
「えーっと、この状況下で?」
「うむ。ここはちょうどプラネテューヌとの国境と近い。それゆえにここを狙って侵攻してルウィーを目指す敵も少なからずいるだろう。大々的な戦争となれば伏兵は常に危惧しておくべきだからね」
支部長というよりは参謀のような作戦の慧眼に、エヌラスは狐のような印象を受ける。だが、その案には賛成の意思が大きい。その条件を呑むことにした。
「よし、決まりのようだね。今日は泊まっていくといい。部屋を用意しておくよ」
「そこまでトントン拍子に用意されるとちょっと怖いんだが……」
「うちの支部長の厚意に甘えておけ。アンタも見たところ疲れてるようだし」
「そうか? ……いや、そうだな。今日は世話になる」
「それじゃこっちだ。ついてきてくれ」
一礼して支部長室を後にする。
リントの案内でサテライトの紹介をされるが、通路の片隅に機材が寄せられているのがつい目に入ってしまう。
「ああ、悪いな。汚くて」
「俺の部屋も似たようなものだ、気にしていない」
「言えた義理じゃないが掃除はこまめにした方がいいぞぉ?」
「そうなんだけどな……俺、生活能力無いんだ……」
炊事洗濯まるでダメ。特に料理は壊滅的。掃除は出来なくはないが、得意というほどでも。洗濯も出不精なもので、魔術で済ませてしまう。
「ここが客室だ。壊さないでくれよ? さっきみたいな魔術で」
「大丈夫だ、寝ぼけてぶっ放すような事はしない。襲撃でもされなければ……」
エヌラスは不意に、案内された客室の隣の部屋に視線を向けた。誰かが使っていた部屋なのだろうが、その扉にプレートが下げられている。
「隣の部屋は?」
「第一部隊隊長の個室だ」
そんな重要人物の隣の部屋など恐れ多くて使えない。大丈夫なのだろうか? そんなエヌラスの疑問に、リントは腰に手を当てて深く息を吐いて応えた。
「……現在、行方不明だ。とある討伐任務を受けてからな、帰還していない」
「それは……悪かった」
「いや、なに。アイツは生きてる。それだけはハッキリ分かる。そう簡単にくたばるような奴じゃあない。なにせ今まで奇跡みたいなこと起こしてきた奴だしな。飯が出来た頃にまた来る、それまでゆっくり休んでくれ」
リントはその言葉を残して立ち去る。室内を見渡し、エヌラスは真っ先にベッド――へ、行こうとしてシャワーを浴びることにした。ハウンドスーツのネクタイを緩め、シャツのボタンを開ける。その直後、ノック音にドアを開けた。
「俺としたことがな、着替えを忘れてた。ほら、アンタの分だ。サイズは大丈夫だろ」
「お、おお。何から何までありがとう。ちょうどシャワー浴びようと思ってたところで」
「間に合ってよかった。パンツ一丁で歩かれても困る。なにせ若い奴らもいるしな」
「はは……」
エヌラスは着替えを受け取り、シャワーを浴びることにする。
(……今日は、色々あったな。とりあえず風呂上がったらノワールに連絡して、といってもアイツは忙しいか。事後処理とかあるし、だが何も言わずにいても怒られるしなぁ)
頭から熱湯を浴びながら、軽く汗を流す。武装企業は第二次編成に時間が取られるだろう、それに作戦会議も含めれば、多く見積もっても六時間。戦力に物を言わせて大幅に短縮の可能性がある。気は抜けない。
連発した魔術のツケで心臓の鼓動が早鐘を打っている。大きく呼吸を吸い込み、落ち着かせていくがクールダウンが間に合わない。左胸の銀鍵守護器官。獅子の入墨が鈍く輝いていた。手を当てて回転数を下げていく。それに伴って、感覚を取り戻しつつある全身の神経が痛みを訴えていた。
「いだだだだだ……痛覚遮断なんてやるもんじゃねぇな……」
銀鍵守護器官の超回復力に痛覚遮断を併用した状態。致命傷でもなければ戦闘続行可能という我ながら馬鹿げた決戦仕様。そのおかげでハイスコア更新となったが、悲しいことに誰も褒めてくれない。戦争なんてそんなもんだ。
全身の治療を含めて、ストレッチを始める。まずは精神を落ち着かせる瞑想から。シャワーの音が遠ざかる頃に、ゆっくりと息を吐いて呼吸を整える。
サテライトを歩きながら戻ってきた部隊と状況を確認し合っていたリントの下に、一人の少女と積み荷を担いたロボットがやってきた。
新米の神機使いと、B2AMのロボット、運搬業者を引き受けたドバルだ。ラステイションの市街から遠く離れ、モンスターの襲撃も頻繁にあることから中々運搬を引き受けてくれる業者がいないことから、元ハァドラインのドバルが現在ラステイション軍の監視の下で定期便を運んでいた。
「おー、戻ったか新入り」
「はい! ゴッドイーター、無事に帰還いたしました!」
《いつもご贔屓にしていただいております。こちらにサインを》
「お前さんも毎度ご苦労様。モンスターの襲撃はなかったか? 最近ますます多くなってる」
《小型の群れを率いる中型モンスターが数頭。こちらで迎撃は可能な範囲でしたので》
ドバルの背面バックパックに担がれているのは双門の炸薬機関砲。小型の榴弾を採用し、数をばら撒く制圧型の連装榴弾砲。強力な衝撃波を発生させるインパクト・ボム。そして、折りたたみ式の迫撃砲。その武装は運搬業者というよりも拠点制圧型に特化させられている。だが、何よりも脚部。無限軌道の履帯を履いている走破性能は悪路も安々と移動する。当人も敵意は無い。
腰部に繋いでいた積み荷の接続ラックを外し、中身をリントが確認すると蓋を閉じた。
「おーい、手の空いている奴らを何人かよこしてくれ!」
「リントさん、何か変わったことはありませんでしたか?」
「ん? あぁ特には……いや、あるな。実はな――」