超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「ふあー、暴れた後のシャワーは最高だな。気分爽快ってもんだ」
エヌラスはベッドに身体を投げ出す。シーツの手触りも程よいなめらかな触り心地。布団もクッションもお世辞にも高級品とは言えないが、それでも馴染みある品というのはとても助かる。
ふと思い出して、九龍アマルガムを後にする際に大魔導師から受け取った改良型D-Phoneを起動させる。特に目立った改良は加えていないようだが、怪しい。起動してみると案の定、見たことがないアプリがインストールされていた。
ハウンドスーツに装備していたドミネーションも機能を大幅に改善。燃費向上の代わりに出力を抑えた汎用モデルにされている。修行を終えた自分の負担を減らすためにより低燃費なものにしてくれたのだろう。細かい気遣いはできるくせに余計なことしかしないのか。
「……どう使えってんだよ、このアプリ」
ホーム画面に映る、プリインストールされたシビュラの託宣外部アプリ。
『シビュラシステム出張所』と銘打たれたアイコンがデフォルメされた脳みそなのは喧嘩打ってるのだろうか。傍目から見たら健康診断ソフトと勘違いされてしまいそうだ。試しに起動してみる。
《こんにちわ、シビュラシステム出張所です。生体認証を開始しまーす♪》
やけに元気な女性のガイドボイスが、画面に円形のサークルを表示させた。それに親指を乗せてみると、間もなくスキャンが開始される。
《登録認証、オッケー! 特例執行官エヌラスさんですね。ドミネーションとの連携開始~》
「……」
アプリの画面には二等身のデフォルメキャラがちょこちょことかわいらしく動いている。あの人はどうしてこう、自分はからっきしに興味がないくせに美少女を大量生産するのか。
沈黙していたドミネーションが起動。ライトが点滅する。エヌラスが握ると、網膜にスキャンされた情報が表示される。指向性音声も所有者にしか聞こえていない。今は計測対象を認識していないからか、セーフティがかかっている。
《アプリのインストール完了。ドミネーションのバッテリー満タン! 残量には注意してくださいね!》
「はいはい」
投げやりな返答をして、エヌラスはアプリを切った。ドミネーションも同様に沈黙する。続けて操作し、アプリ版スカイポもインストールしてノワールを検索。通話――の、前にメッセージを投げてみる。ぽちぽち。
『近況報告。現在、ラステイション防衛隊極東支部。近辺に潜伏していたハァドライン二名確保。教会へ連行済み。確認頼む』
「……こんなものか。後は……」
『そちらの状況が落ち着いたら連絡求む。極東支部の調査も兼ねてこちらに滞在予定』
「よし」
エヌラスは以上の文面をノワールに送信する。続けて、ネプギアに。
『そちらの状況は?』
「……お、返信早いな」
『プラネテューヌの市街地は損害軽微。国境防衛部隊の皆さんとアイエフさんが尽力してくれたおかげです』
『無事なら良かった。この後も敵の襲撃が予想される、激化していくと思うがお互い頑張ろう』
そこまで入力してネプギアに送信した。
『特殊部隊と思われる敵と国境防衛隊が交戦しましたが、撃破には至りませんでした。撤退を許してしまって』
『気にすることはない。国境防衛隊は?』
『皆さん無事みたいです』
(レオルド達も頑張ってるようだな……)
プラネテューヌは心配していたが、杞憂に終わってなによりだ。後は、ルウィー。どうブランに送信したものか考えて、触らぬ神に祟りなし。しかし虎穴に入らずんば虎ちゃん泣いちゃう。意を決してエヌラスは極力丁寧に文面を選んだ。
『そちらの状況を改めて尋ねさせていただいてよろしいですか』
『かまわないけれど。いやに丁寧な文面が気になるわ』
「あー……」
各国は現在、目立った被害は出ていないようだ。人的被害も、戦闘に参加していた軍隊だけで民間人に被害は出ていない。
そんな折、ネプテューヌからスカイポ通話がかけられてきた。
「もしもし、どうした」
《どーしたはこっちのセリフだよー! なんでプラネテューヌの援護に来てくれないのさー! おこだよ、激おこだよー!》
「はいはいサーセンすまんごめんなさいしゃっしゃっしゃーす」
《むむむ~。これは流石のゲイムギョウ界一の寛大さを持つわたしでもイラッとしちゃうよー! エヌラスってば、こんな時くらいは優しくしてくれてもいーじゃーん》
「悪かったな。悪かった。ただそっちには国境防衛隊もいるし、アイエフも、アーサーもいるんだろ? それに比べたらラステイションは軍の練度はともかくとして主力に数えられる戦力が少ないんだから仕方ないだろ」
《むむぅ~、それっぽいこと言ってノワールとあんなことやこんなことしてたら……》
「してる暇あると思ってんのかてめぇはよぉ!」
大魔導師の修行から帰還→ラステイション周辺の警ら→スピカとカルネに指示→ノワールと打ち合わせ→敵の迎撃作戦開始。そして現在に至る。食事も無しにぶっ続けで活動を続けていたことに今更身体が気づいたのか急激に空腹感に襲われた。
ぐぅきゅるるいあいあふたぐんむぐるうなふ。相変わらず人体の発してはいけない腹の虫に、通話越しにネプテューヌが笑っていた。
《あはははは、エヌラスどうしたの。お腹へってるの?》
「うっせ。うっせ。仕方ねぇだろうが、今気づいたわ。昨日から何も食ってねぇ」
《プラネテューヌに来てくれたらプリンごちそうしちゃうんだけどなー?》
「気持ちは嬉しいがプリンで俺の腹は膨れない。お前が食えよ、ネプテューヌ」
《うん! そういえばエヌラス、今何処にいるの?》
「ラステイションの極東支部。プラネテューヌとの国境付近だ。ちょっとした事情でな」
《そっか。……なにかあったらすぐ来てくれる?》
「その時は遠慮なく頼れよ。俺もいざって時は泣きつくから」
らしくもない。こんな弱音を吐くなんて。
守ると決めた。救うと決めておきながら。だが、そんなエヌラスの弱音をネプテューヌはいつもの明るい口調で《いいよいいよ、全然オッケー! どんとこーい!》と受け入れた。それに少しだけ身体が軽くなったような気がする。
《そうなったらエヌラスの弱みがまた一つ増えるもんねー》
「てっめ……!」
ちょっとでも見直そうと思った矢先にこれである。お調子者で楽観的で、マイペースで。それに救われたのは何も初めてではない。
「……ネプテューヌ」
《うん、どうしたの?》
「いや大したこと言う気はないんだけどな」
《うんうん》
「ありがとな。通話、切るぞ」
無言になったネプテューヌを気にしながら、エヌラスはベッドに身体を投げた。睡魔が徐々に意識を奪いつつある。これから食事があるというのに。
(あ……やべぇ、くそ眠い)
今から眠れば間違いなく朝までコース。眠気を引き剥がすために跳ね起きる。そうだ自己鍛錬しよう。倭刀を構えて一通りの型の練習に打ち込むことにした。
それから一時間もしないうちにノックの音。支給されている極東支部隊員制服のアンダーシャツに袖を通し、汗ばんだ身体でエヌラスは無警戒のままドアのロックを解除した。
「飯の時間か、リン――」
「はひ!?」
「…………」
「…………」
女の子、だった。綺麗な金髪を短いツインテールにして、あどけなさの残る顔立ち。胸元の赤い大きなリボンと黒の制服は、露出の激しいアレンジが加えられていた。胸の谷間と南半球がほぼ丸出しである。少々青少年には過激な格好だ。
「えー、と。どちら様?」
「あ、はい! わたし、ラステイション防衛隊極東支部所属のゴッドイーターです! 新米の神機使いです」
「俺はエヌラス。訳あってお邪魔してるんだが……なにか俺に用でも?」
「いえ、リントさんから紹介されて……『第二部隊に編成したいから何とか口説いてきてくれ』って」
「ノーサンキューって伝えておいてくれ……」
「スカウトってすごいことなんですよ。今は第一部隊が活動休止中ですし。慢性的な人員不足でしてー、それでー、あのー……」
なんとか自分たちのPRをしてみようと試みているゴッドイーターを、エヌラスは腕を組みながら見つめる。大胆な衣装に負けず、目を引くのは大きな赤い腕輪をはめられた右手首。リントも着けていたが、隊員証のようなものなのだろうか。
「――あの、聞いてくれてます?」
「へ? あー、悪い。その、赤い腕輪が気になってて聞いてなかった。すまないがもう一回」
「ですからぁ」
コホン、と咳払いを挟んでゴッドイーターは再びラステイション防衛隊極東支部のアピールを始める。
「ここ、ラステイション防衛隊極東支部は慢性的な人員不足に悩まされていて、そこに所属する神機使いの数も多くはないんです。ですので、是非どうですか。今なら高待遇待ったなしですし! わたしも後輩が出来ますし!」
「すまないが、ゴッドイーター。戦闘経験だったら俺の方が遥かに長い自信があるし、戦闘技術に関しても負けないと思うぞ……」
ことさら、戦闘面に関しては誰にも負けないつもりだ。それにたじろぐゴッドイーターだったが、負けじと話を続ける。身振り手振りのジェスチャーをするたびに無防備な胸がたわわに揺れるのが気になって仕方なかった。
「で、でもですよ! 神機、興味ありませんか!」
「そりゃもうめっちゃ気になる。なんなら技術部所属でもいいくらいに」
「奥深いんですよ。特にわたしがオススメするのがバレットエディット!」
「ほう? 詳しく」
「やった。まず、神機が扱える銃身は四種類。アサルト、ショットガン、スナイパー、ブラスト――この四つです。わたしが使っているのはショットガンですね。属性付与のスラッグ弾や状態異常系の散弾とか、拡散範囲の拡大、爆発のタイミング等など……」
「……ちょっと詳しくその資料見せてもらえたり」
「駄目です! 一応神機の重要事項なので、詳細は加入していただいてからになります!」
「くそう……段々その神機に興味湧いてきた」
「おっ。これはもしかして……エヌラスさん、でしたよね? 良かったら神機、実際に見てみませんか? 食事の用意ももう少しかかりますし」
「いいのか?」
「はい! わたしの神機になっちゃいますけど、それでもよろしければ」
「それなら、ちょっと着替えてくる」
エヌラスはハウンドスーツの上着だけを羽織り、その下には極東支部制服のアンダーシャツという着崩したラフなスタイルでゴッドイーターと一緒に整備室へ赴く。
その途中でリントと話し込んでいる機体と、もう一人。雰囲気の緩そうな男性がいた。そちらも第二部隊所属。先程は別々に行動を取っていたようで、帰還して早々に打ち合わせをしているようだ。
「お、ゴッドイーター。調子はどうだ、牙城を切り崩せそうかぁ?」
「もー、リントさん。新米に防衛隊PR活動なんて無茶ぶりさせてぇ……」
「まーまー、そう言うなって。なぁ、ハル」
「あぁまったくだ。オレたちのような手練よりも、多少警戒心の無いキミの方が向いている活動がある。なんたって異性の魅力には敵わない。だろう、そこのお客人」
タレ目がちの目に、黒いジャケット。朗らかに笑いながら握手を求めて、エヌラスはそれに応じることにした。
「女の子じゃないってのは、ちょっと残念だったけど」
「そりゃ、すまんかった。俺はエヌラス」
「俺はハル。気軽にハルさん、とでもハルお兄さんとでも呼んでくれ」
甘いマスクに甘美な誘惑。女性好きなことで有名な極東支部の隊員だが、腕は確かだ。
「アンタはオレと同じ匂いがするな……よかったら、今度酒でも飲みながら語らないか」
「機会があれば。それより、何かあったのか?」
「エヌラス、制服似合ってるぜ」
「そりゃどうも」
「それで、実はさっきの戦闘の影響から一部の山道で土砂崩れが起きた。困ったことにこちらの巡回ルートの一部だ。迂回すれば通れないことはないんだが……こんな時にそんな問題起きなくてもいいだろうに」
「そろそろ日が暮れる。動けるのは明日からになるな、こちらは生身。相手は機械。どうにもならないな」
《可能であれば、自分が除去作業に行きますが。こちらの装備は拠点制圧型ですし》
「いや、それで被害が拡大しないとも限らない。武装企業側の機体が通過するソニックブームの衝撃で更に規模が拡大することも考慮するとなれば、推奨できないな」
エヌラスも交えて、議論を交わす。だが、埒が明かないとすぐに判断したリントは。
「やぁめだやめやめ。飯食って考えようぜ、解散だ解散! また後でな、エヌラス」
そう言って早々に打ち切った。
エヌラスは頭を掻きながら立ち尽くしていたゴッドイーターの下に戻る。
「いや悪い、向こうで話し込んで」
「い、いえ。リントさんとあんなにすぐ打ち解けて、すごい馴染んでますね」
「制服のせいかもしれないな」
「……まるで、隊長みたいです」
「隊長? それって、行方不明の第一部隊隊長のことか? さっきリントから教えてもらったんだが」
「はい。わたしの、憧れの先輩なんです。実は、わたしも第一部隊所属なんです」
「そうだったのか。なんか、悪いな」
「いえ。気にしないでください。隊長は絶対に生きています。生きて、必ず帰ってきてくれるって信じていますし」
笑顔でそう語るゴッドイーターに、エヌラスは一言、謝った。
「気を取り直して、神機整備室に行きましょう」
「そうだな。案内頼む」
「任せてください!」