超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――リーンボックス武装企業本社。執務室。
プレジレントは各部隊の報告書を適度に目を通して流し読みしていた。機械の身体というのは便利なもので、スキャンさえしてしまえば後から記録を引っ張り出して読み返すことがいつでも出来る。人間と違って脳内フォルダが物理的に搭載されているというのは、段違いの処理速度を発揮してくれた。
《おーう、さすがレッドクレスト隊》
『社長、よろしいですか?』
《なんだーい、キャロりん》
『訂正は無粋ですね。第二次編成が完了いたしました。突入部隊の編隊はいかがいたしますか』
《SSD搭載機体は前線に随時投入、少しでも多くデータ収集が最優先だ。多少の犠牲は目を瞑る。プラネテューヌはシロトラを筆頭に。ラステイションには、死神部隊を投入だ》
『些か、早すぎるような気がしますが?』
《神のお告げって奴かね。コソコソ嗅ぎ回ってるやつがいるらしい。ならこちらから先手を打つのが有効だろう?》
『では、そのように。ゾディアック隊はどうされますか? 出撃可能なものは二機だけです』
《ハハハ! さすがは黒の守護女神! 姉妹愛には俺たちゃ敵わないな! 待機だ!》
『了解しました』
プレジレントの仕事ぶりは、有能かつ、的確であるが、それゆえに切り捨てる非情さも即決だった。使えるものは使う。ダメならば切り捨てる。置いておく。
『社長。アンサーに待機させているジョッシュからの報告です。現在の限界高度を維持し続けるのは困難である、とのことです』
《そりゃいけない。稼働エネルギーの一部をカットするように伝えてくれ》
『了解しました』
《なんたって我らが敬愛するグリーンハート様のシェアエナジーで浮遊している要塞だ。今回の作戦の要でもある。そいつが落ちたら……ま、笑って誤魔化すか! ギャハハハハ!》
『お言葉ですが社長。現時点でも、教会狙撃は可能であると推論できますが。実行に移さないのは何故ですか』
《あそこにはこちらの弾薬が大半積んである。今しばらくは自衛に回すのが賢明だろう?》
アンサー。空中ライブ庭園。ベールが5pb.ちゃんのために建設していた大型会場は、武装企業の手によって浮遊要塞と化している。高所より、主砲で他国の教会を狙撃することも可能ではあるが……プレジレントはこの戦況を楽しんでいた。
《知ってるかーい、キャロりん。どれだけ残業しても俺には残業代が支払われないって》
『ええ、存じています。――聞こえますか、アンジー』
『……はい、聞こえています』
キャロラインからの呼びかけに、サポート管制AIは無機質な声で応える。
『現状、ゾディアック隊は待機を命じられています。よって、一時的に貴方を死神部隊のサポートへ回します。よろしいですね?』
『承諾しました』
『それでは任せましたよ』
プレジレントは、信仰心転換装置……システム・シェアドライブの成績を確認する。正規軍を相手にして上々の結果を出しているようだが、思った以上の戦果を挙げるものはいなかった。
所詮は“
《…………キャロりーん》
『今度から私の名札でも下げておきますか? なんでしょうか、社長』
《アーク侵攻部隊編成、こっちで直接指示するからリストを送ってくれなーい? 今すぐー》
『わかりました。少々お待ちを』
間もなくして送信される電子名簿欄から、目的の名前を選ぶ。
――その機体は、かつてナイルスが離反する際に面白半分で手を貸したという危険人物だ。自らを《ただの戦争屋》と評したほどに。
ノワールの寝室では、ベッドに腰を下ろしたエヌラスの膝の上に頭を乗せてくつろぐ黒の姉妹が休んでいた。両足が占領されて身動きができないが、連行した機体の解析状況に目を通している。
「ふむ……」
機体構成としては、鹵獲した二機を解体してみた結果。機体のコアフレームに、ビットが収納されていた。独自の改良が加えられていたこと、それを取り外したところ機体の主電源が沈黙したことから、間違いない。独自規格の関節部。頭部・腕部・脚部。背面武装・左右腕・肩部武装・内蔵武器……とまぁ、共通規格だらけの武装ラックにはエヌラスも驚いた。レオルド達は背面に背負ったバックパックによって兵装を切り替えている。共通点があり、酷似しているがやはり別系統の機体構成だ。
「ところで、ノワール。俺の太ももで寝心地良いのか? あんまり良くないと思うんだが」
「うるさいわね。落ち着くんだからいいでしょ! ユニだって」
「……ドキドキして、落ち着かない」
太ももに頭を預けて、顔を埋めながら、寝間着姿のユニはゆっくりと息を吸い込む。
「だ、そうだが……?」
「うるさいわねぇ! いいからじっとしてなさいよぉ!」
「そんな怒る元気あるのかよ」
起き上がったノワールの声が上ずっている。しばらく睨みつけてきたので、頭に手を置くとそのまま太ももに押し付けた。髪を梳くように撫でると、唸っている。
「うぅ…………うぅ~……!」
「……嫌ならそう言ってくれよ?」
「そうじゃないけどぉ……」
「猫かよ。気まぐれでこっちの思うとおりにならないくせにかわいさ極振りで全部許されちゃう生き物」
「…………にゃー」
「お、お姉ちゃん……?」
ユニが困惑して、エヌラスを見上げる。
顔を手で隠し、赤くなっていた。それを見て、意外な表情をすることに二重に驚く。
「…………」
「エヌラスさん。照れてるんですか?」
「うん……」
「……ちょっと意外です。前は、そんな素振り見せてくれませんでしたから」
「あの時は……。まぁ、色々と限界だったんだ。できれば忘れてくれ」
「ふふ。ちょっとできませんねー」
悪戯っぽく笑い、舌を小さく出すユニはまるで小悪魔だ。
「あーんな風に弱っちゃってるところ、無防備に見せてくれて。ごちそうさまです」
「ノワールー、お前の妹ちゃん小悪魔っぽーい」
「あら、それを優しく受け止めたのは誰だったかしらー?」
「……ノワールさんです……その節は大変お世話になりました……」
詰んだ。エヌラスに勝てる要素が無い。
「えいっ」
笑みを浮かべたノワールが抱きつき、上半身のバランスを崩したエヌラスはベッドに倒れる。胸板を枕代わりにして落ち着いている顔を見ると、自然と頬が緩んだ。
ユニも恐る恐るといった様子で見下ろし、やがて遠慮がちに右腕を枕にして寝転ぶ。女神サンドによって完全に身動きを封殺された。チェックメイト。
「おーいノワール。おまえ……ユニまで」
『だめぇ?』
「んんんん……!!」
どうにでもしてくれ小悪魔系女神さま。エヌラスは五体投地。好きなように甘えてくれ、甘やかしてやるから。二人の頭を撫でると、くすぐったそうに姉妹揃って似たような反応を見せた。それに胸が充足感で満たされていく。
「あーもー、甘えんぼめ。二人まとめてかかってこい、こんにゃろめ」
「あら、いいのかしら。そんなこと言って」
エヌラスの胸板を枕にして、ノワールが寝そべる。顔を近づけて、含みのある笑みで見つめてきていた。
「エヌラス……」
「……なんだ、ノワール」
「好きって言ってもらえないかしら」
「……ちょ、っと。心の準備させてもらっていいか?」
「だぁめ。言うまで寝かせないわよ」
「お前も疲れてるんじゃなかったのかよ」
「あなたの困り顔見ていたらそんなのどうでもよくなってきたわ」
「俺の顔には疲労回復の効果でもあるのか!」
「あるんじゃないですか? あたしも聞きたいですし」
「俺の味方……」
残念ながら、いない。ずいっ、と二人はエヌラスの身体を捕まえて顔を近づけてくる。こればかりは覚悟を決めるしか無い。正直な話、明日に響くようなことだけはしたくなかった。例えどれだけムラっと性欲を持て余していても。
「わかった。一回だけだからな。ノワール、大好きだ」
「…………ん、ふふ。ありがと。わたしもよ」
「エヌラスさん」
「わかってる。ユニも好きだ」
「――――……はい。なんか、思ったより、恥ずかしいですね。こういうの……」
「二人分言わせられて恥ずかしさ二倍なんだが……」
「じゃあこれはそのごほうびってことで。チュッ」
ノワールはエヌラスの頬にキスをすると、照れ隠しなのかより一層頭をすり寄せてくる。そんな頭を撫でて、指で髪の毛先をくるくると弄ぶ。
「ノワール」
「なによ。わたし、もう寝るんだけど……」
「じゃー、これはおやすみのキスだ」
「ん……」
軽い口づけを交わし、エヌラスはそれで眠ろうと身体を投げ出すが……ユニが少しだけ目尻をつり上げて見下ろしてくる。
「あの。あたしには、ないんですか?」
「……欲しいのか?」
「お姉ちゃんばっかりズルいです。なんて、思っちゃいけませんか?」
「わかった。ユニ――ほら」
頬に手を添えて、撫でながら額に唇を当てる。それで今日は満足してくれたのか、少しだけふくれっ面で「……まぁ、いいです」と呟いて胸板に頭を預けた。
「……ねぇ、エヌラス。もう一回」
「一回だけだ……」
「ねーぇ~……」
「…………甘えんぼの欲しがりさんめ。何回だ、何回欲しいんだ」
ノワールが頬を赤らめて――小さく指を三本立てる。呆れたため息をつく。
こんな姿、他の誰にも見せられない。そんなことをお互いに考えて――口づけを交わした。