超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ラステイション首都防衛部隊は早朝より侵攻してくる無数の無人機を相手に東西奔走。その上空では縦横無尽に飛び回る女神ブラックハートが次々と撃破していた。ブラックシスターも地上から進軍してくる敵陣を撹乱している。
ただ一人、エヌラスだけはラステイション極東支部近辺から確認される少数精鋭の伏兵を潰しに向かっていた。
「ハァァァッ!!」
先日、エヌラスが教会に連行してきた機体はラステイション技術部による寝ずの解析結果によって搭載されていた未知の装置を発見。その中身は、以前見たシェアエナジー横取り装置に似ていたが細部が異なる。
「ユニ、そっちはどう!」
「敵の勢いは変わらない! コレだけの戦力、よくも揃えたものね……!」
苦い顔をしながら、ブラックシスターは後続の無人機を撃ち抜いた。
ラステイション軍の兵士達も疲弊しつつある。弾薬の補給も追いついていない。
「このままじゃ、物量で押し切られる……」
「弱気にならないの! ここで敵を食い止めなきゃルウィーだけじゃなくてラステイションの危機なのよ!」
「わかってるけど!」
こんな時に、破壊神という不名誉な肩書を持つ男は別働隊の相手をしていた。救援要請を出そうと一瞬だけ考えるが、ブラックハートは目の前のロボットを袈裟懸けに両断する。
(この程度、なんでもないわよ。この程度――!!)
剣を握る手に力が入るが、一度大きく息を吸い込むと吐き出してリラックスした。
「さぁ、いくらでもかかってきなさい! 黒の守護女神の力、嫌というほど味あわせてやるんだから!」
ブラックハートの剣閃は止まることを知らず、その勢いはラステイション軍ですら見惚れるほどだった。それが士気の向上に繋がり、敵の侵攻を押し返す切っ掛けとなる。
(ネプギアは大丈夫かしら……、今はそんなこと心配している場合じゃないわね!)
ブラックシスターが定めた照準から、敵機が撃墜。一機、二機、三機――確実に敵の戦力を削いでいった。
極東支部では、少数精鋭のロボット達を相手にしている。国境越えを目論んだ敵機だが、その実力は神機使い達を翻弄した。
「クソ。さてはこいつら、ランカーか!」
「リント隊長、ランカーってなんですか?」
「一定の功績が認められた上位者どもだ! 全部で何体だ。おい、無理せず下がれ! 怪我するまではいいが、俺達はくたばったら替えは利かねぇんだぞ! ロボット共と一緒になるな!」
『了解!』
ゴッドイーターを引き連れて、雨宮リント達が臨機応変に対処しているものの、敵機の異常な性能に足止めが精々だった。
ひとり、エヌラス――ブラッドソウルを除いて。
「オォォォォ――ッ!!」
バルザイの偃月刀二刀流。右にクトゥグアを、左にイタクァの異なる属性を付与させていた。グラビティ・アクセルによって不規則な軌跡を描きながらも、最高速度を一切緩めない異次元の機動戦闘を繰り広げて一方的に撃墜していく。
「うひゃ~……敵にだけは回したくないっすね! っとぉ」
ハルは敵の攻撃をかいくぐり、金色のバスターブレードを機体に叩きつけた。その威力によって敵はバランスを崩し、装甲が破壊される。重装甲二脚を足場にして、一撃離脱。それと入れ替わるようにしてリントのロングブレードが頭部の接続部を断ち切った。
「よくやった、ハル!」
「いやぁリントさんに比べ――」
そんな二人に向けて、何を思ったか引き金を引くゴッドイーター。その射撃から逃げるようにその場から離脱する。散弾をまともに受けた重量二脚は衝撃で倒れた。
「あぁっぶねぇな!?」
「なんでわたしの射線上にいるんですか?」
「そんなのこっちが聞きたいくらいだ! おい、コウタ! こっちの援護に回れるか!」
《無茶ばっか言ってくれないでくださいよ! こちらが援護してほしいくらいっす!》
無線を繋いだ矢先に、この泣き言だ。
上空から落下してくる敵の残骸。
「くたばり、やがれぇぇぇぇっ!!!」
ブラッドソウルがタンク型の胴体にバルザイの偃月刀を突き刺したまま落下してくる。相手を引きずりながら着地して、崖に激突して止まった。黒煙と火花を散らしながらも、まだ戦闘を続けようとする機体にブラッドソウルは逆手に構えたバルザイの偃月刀を突き刺す。コアごと切り裂き、足蹴にすると次の獲物を求めて飛翔する。その戦い方には敵だけでなく味方からも恐怖されていた。
交戦開始から銀鍵守護器官の回転数は、ほぼトップギアに入れたままだ。そのせいか、魔術回路が開きっぱなしになっており、顔にまでその紋様が見て分かるほど浮き上がっている。
「クトゥグア! イタクァ! 神銃形態!」
ブラッドソウルが偃月刀を投擲し、空いた両手にはそれぞれ異なる拳銃を握りしめていた。続けざまの魔術行使によって、精鋭部隊の後続が大半迎撃される。
「っし、こっちはこれで打ち止めか! 次はてめぇ等だ、覚悟しやがれ!」
地上で神機使い達と交戦している機体に向かけて、ブラッドソウルが偃月刀を担いだ。その勢いのまま一機を頭部から一刀両断。リント達に背中を預けて包囲網を突破する。
「おい、ゴッドイーター! 遅れるなよ!」
「あ、はい! 頑張ります! ……すごい撃墜数だなぁ……」
足元に転がるビット、ガードロボ。大型の盾を構えたタンク型ドローン。精鋭部隊の護衛に付けられていたメカはほとんどエヌラスが単騎で撃墜していた。
残り四機――。赤と黒のカラーリングで統一された機体は、離れた場所から静観していた。
《グリムリーパー部隊、全機へ通達。システム・シェアドライブ起動――せん滅せよ》
《聞いたな? システム・シェアドライブ起動開始》
《全シークエンス起動を確認。異常なし……》
サポート管制AIからの通達に、グリムリーパー部隊は従う。
機体から溢れ出す威圧感。それにはリント達すら冷や汗をかいた。生きた心地すらしない、心臓に刃を突きつけられているような寒気すら覚える。
「なんだってんだ、この気迫は……嫌な感じだ」
「あーまったくですね。まるで修羅場に居合わせたような気分です」
リントの言葉に、ハルは軽口を返した。ゴッドイーターは固唾を飲み込む。その気迫を正面から受け止めて、息が詰まる。
しかし、ブラッドソウルだけはそれに負けず劣らずの威圧感と鬼気迫る表情で歩み寄った。
「テメェ等、何者だ。なに積んでやがる」
《貴方にはその質問を行う権限がありません》
管制AIからの無機質な返答に、ブラッドソウルは口端をつり上げる。
「答えないってなら、仲良く壊して、その後でゆっくり中身を見せてもらうさ。覚悟しろよ」
「……こわぁ」
ゴッドイーターが思わず声をもらした。前線を突っ切り、文字通りの切り込み隊長としてブラッドソウルは敵の銃弾の雨へと突入していく。
プラネテューヌ国境防衛隊。アイエフの率いるトライアド分隊は相変わらずの軽口と変態発言とメチャクチャな連携で敵を翻弄しながら着実に戦果を挙げていた。いっそ台無しになればアイエフも頭ごなしに怒鳴りつけてやれるのだが、地形を活かした戦略とそれぞれの特性を十全に発揮した作戦は何も言ってやれることがない。それが尚更腹立たしいのだが、飲み込む。
「イストワール様、各国の状況はどうなってますか?」
《ラステイションでは順調に撃破しているようです。戦果報告にエヌラスさんの名前が挙がっていますね。ひとりで全部落としてしまうような勢いです》
「そうですか。諜報部もリーンボックスの様子を逐一監視していますが、相手は防衛戦力の一部を侵攻部隊に編成しているみたいです。しかし、海上に展開した武装企業では追加の建造を行っているせいか……」
《一方的な防戦を強いられている状態ですか……今の状態ではジリ貧ですね》
「こうも戦況を膠着状態にさせられてしまうと、厳しいですね。いっそのことこちらから打って出ますか?」
《それもいいのかもしれません。しかし、その間に戦線を維持できるかが……》
ネプテューヌ達女神をリーンボックスへ向かわせたとして、ルウィー侵攻部隊を止められるだけの戦力は無い。
「せめて、敵の装置だけでも解析できれば……」
《……そのことですが。どうやら彼らから、シェアエナジーに類した反応が確認されているようです。疑似的なシェアエナジーを獲得し、自身の力にしているとしか考えられません》
「守護女神の力を何だと思ってるのよ、変態共は……」
呆れるアイエフの後ろ、土嚢の向こうで大爆発が起きていた。
《いぇーーーーーい!!! 指向性地雷と浮遊機雷とジャンプボムとリモコン爆弾フルセットおーいえー!!》
《流石は死炎兵装!》
《くそ外道》
《なんだとテメェ等、頭部にベアリング弾全部当てるぞ泣くぞおうおうおう!》
シュラとディルとジーンの三機は相変わらずやかましい。それでもちゃっかり敵の先行部隊は残らず撃墜していた。
「……待って、前線の部隊から入電。高速で接近してくる反応が――嘘でしょ、単騎で? たった一人で突破してきたっていうの?」
アイエフの神妙な面持ちから呟かれる言葉に、喧騒がピタリと止んだ。
《全機、持ち場に着け。逃すな、確実に落とす》
《果たしてやれるか? 相手はあの教官殿だぞ……?》
《やるんだよ! レオルド、聞こえるな。シロトラ教官が現在こちらへ向けて進行中だ。先日の特殊部隊まで相手をしてやれるかは分からん。そちらの戦力をこちらに回せるか?》
《了解ッス! グラーフさん、フォーミュラさん、お願いします。あ、シャニお前勝手に行くなっておーい!》
言うことを聞かない優等生問題児が一人いるようだが、戦力は多いに越したことはない。
「切り札が早すぎるわ。どういうこと?」
《元々敵はどれだけ一大企業と言えど一国の会社。その戦力を三国へ分散、突入させている時点で敗北は決定的です。それならば最初からどちらかに狙いを定めて戦力を集中させれば、陥落は容易いはず》
「………………」
《ですが、それはあくまでも頭数の話。シロトラ教官は実質、一人で武装企業からプラネテューヌの進行を食い止めてました。その為のB2AMだったはずなんですが……なんの皮肉なんですかねぇコレは。今やシロトラ教官が、こちらに刃を向けるとは》
「だーかーらー!! なんで最初っから真面目モードでやらんのかアンタ等は!! というかそんな冷静に戦況分析できてたらこっちだってこんな苦労してないわよ!」
アイエフの非難轟々をシュラはどうどうとたしなめつつも、怒られてちょっと気持ちいいとか考えたりしていた。
接敵まで六十……三十……、敵機の甲高いブースター音が近づいてくる。
戦闘領域に突入。互いの姿を目視する。
全身がまるで白無垢のように染め上げられた、機械の騎士。唯一にして絶対の、エネルギー無効化を搭載した女神の天敵。誰が、何のために作り上げたのか。正体不明の総司令官。
《――――》
ただ、戦場で視線を交差させる。その右手には、両刃の多機能型大型実体剣。
首都防衛に回されていたシャニ達が合流するのと同時にシロトラは剣の切っ先を突きつけた。
《アームドソウルスの侵攻に一日とはいえ、よく耐えた。俺からの褒美だ、実戦の名誉を与えてやる》
「……出たわね、元B2AM総司令官。今の貴方は指名手配犯、こちらから遠慮する理由はないわ。行くわよアンタ達。国境防衛隊なんだからここで食い止めなさいよ」
《勿論です、アイエフさん。いくぞ、お前ら。弔い合戦だ》
《弔い合戦だと? 一体、誰のだ》
《セインだ。忘れたとは言わせんぞ、シロトラ――》
ディルの言葉に、全員が無言で主兵装を構え直す。女神パープルハートを天に仰ぎ見る戦場でかつて同好の士が火花を散らした。