超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――本日の戦闘開始から六時間が経過。現在昼を回った遅めのランチタイム。ラステイション軍、並びにプラネテューヌ軍の必死の抵抗が功を奏したのか、武装企業の足が滞る。思うようにいかない戦況に、さしものプレジレントも首を傾げていた。おやこれはどうしたことだ? 予定と違うぞ? 数だけ揃えたところでダメだったか? うーんこりゃ参ったなーハッハッハ。――まぁいいか。思考を切り替える。しかし、社長室でソファーに腰を下ろしてくつろいでいる邪神はそうではないらしい。
「……プレジレント。様子がおかしいようだが?」
《いやぁ、ハッハッハ。返す言葉もない》
「……手伝ってやろうか」
《いやぁしかし、いいのかね?》
「俺が出るわけではない。まずは、小手調べだ。それでどうにかなるようなら、俺はこのまま高みの見物を続けるつもりだ」
無貌の邪神は口元に笑みを貼り付けて、指を鳴らした。
パキン、と小気味良い音を立てて、呼び出される二人の魔人――邪神の手によって汚染された存在がプレジレントの前に現れる。
黒い騎士甲冑の女騎士。
黒いプロセッサユニットを纏った少女。
「まずはプラネテューヌだ。行け」
「……フッ」
鼻で笑った女騎士は、黒い霧の中へと消えていく。
黒いプロセッサユニットを纏った少女は、無言で同じようにその場を去った。
「ラステイションの陥落は、そう難しくない話だろう? 社長」
《……本当は好きじゃないんだ、こういうのは。柄にも無い――キャロライン》
『お呼びですか、社長?』
《例の兵器を用意しておいてくれ》
『了解いたしました。屋上に用意しておきます、ご武運を』
《それじゃあごゆっくり。お客様》
プレジレントは壁面のパネルを操作し、社長専用エレベーターへ乗り込む。
無貌の邪神は、漆黒の仮面を見つめていた。その口元はやはり、笑っている。
「お前は果たして、どこまで耐えられるかな? 絶望の魔人……“偽りの旧神”」
プラネテューヌ教会周辺、戦闘空域。女神パープルハートが戦闘ヘリを撃墜し、パープルシスターは市街地に侵入してくる機体をレオルド達と共に迎撃していた。そこにはミリオンアーサーも肩を並べている。
敵はアイエフの率いるトライアド分隊との衝突を避けて、迂回する形で首都へ侵攻してきた。横からの奇襲に、イストワールは冷静に対処した。プラネテューヌ軍の迅速な対処により、その被害はまだ最小限に留められていた。
――その鉄槌が振り下ろされるまでは。
それは、唐突に巻き起こった。順調に敵の撃破を続けていたネプギアとミリオンアーサーの二人がアイコンタクトで互いの功績を認め合っていた、直後。
敵の増援を諸共に蹂躙する黒い光が、市街地を駆け抜ける。二人は辛うじて避けることに成功したが、巻き込まれたプラネテューヌ軍の過半数は負傷者多数。甚大な被害を被った。
「な、なんだ今の攻撃は!? 明らかにこれまでのロボット達と違うぞ!」
「気をつけてくださいミリアサさん! こんな攻撃が出来るのは」
女神に類した、魔人、邪神。神様の類だ。
ガチャリ――ガチャ。騎士甲冑の擦れる音を鳴らしながら、それは歩いてやってきた。絶望の鐘が近づいてくる。死神の足音。無慈悲な王の、残虐な鉄槌を――。
黒い長剣を右手に握りしめて、小柄な女騎士は破壊の爪痕を踏み鳴らす。足元に転がる、味方であるはずの残骸を踏みにじりながら。
剣を地面に突き立てて、目元を隠すバイザーから覗く口元は確かに笑っていた。
「ふ……脆い。脆すぎる。脆弱にも程がある」
「お前の味方ではないのか。この兵器達は」
ミリオンアーサーの問いかけに、女騎士はただ薄ら笑いを返す。それは、自分以外の弱者を認識すらしていなかった。
「味方など、何処にもいない」
その手で潰された残骸には目もくれず、女騎士はただ歩み寄る。ゆっくりとした歩調で、威風堂々と。その歩みを阻む全てに鉄槌を下さんとする威圧感と共に。
「……ネプギア、ここはわたしが食い止める。時間を稼いでいるうちに負傷した兵士達を」
「でも、それではミリアサさんが」
「アレを相手に、わたし自身どれだけ持つかわからないが……なに、王たる器の見せ所だ。頼めるだろうか」
「わかりました。すぐ戻ります。動ける方は手を貸してください!」
パープルシスターの言葉に、痛みを堪えながらも負傷者に肩を貸して避難を始める。チーカマも微力ながら、手を貸していた。
ミリオンアーサーはエクスカリバーの切っ先を黒い女騎士に突きつける。その表情は険しい。悠然と破壊された大通りを歩く騎士に、どこか違和感を覚えていた。
「名を聞かせてもらおうか」
「語るまでもない。自分の胸に手を当てて、問うてみるがいい――“アーサー”」
「――!? なぜ、わたしの名を……」
「いくぞ」
歩みを止め、女騎士は剣の柄を両手で握りしめる。互いの間合いにはまだ遠い。距離にして百メートル余りある。一歩、二歩と駆け出し、跳躍。女騎士は黒い剣を上段に振り上げた。
その直後、剣を隠すように風が舞う。次の瞬間――弾丸のごとく空中で“撃ち出された”女騎士はミリオンアーサーを剣の間合いに入れていた。踏みしめたアスファルトを砕きながら、眼前で剣を振り抜く。その剣圧だけで髪の毛が数本、切り飛ばされた。
――反応できたのは、奇跡に近い。相手の動きが直線的であったからこそ辛うじて避けられたものの、ミリオンアーサーはエクスカリバーを振るう暇すらなかった。
返し刃を受け流し、足を狙った切り払いを切っ先で受け止める。火花を散らし、互いの距離をつかず離さずのまま保つのが精一杯だった。
まともに一撃を防ごうものなら、その破壊力を受け切れる自信がない。
「っ――!」
この実力は、外の世界のブリテンでも有数の剣の腕だ。むしろ今まで出会ったことすらない。
ただただ蹂躙する。一撃の破壊力によって全てを粉砕する。だが、そこに無骨さはない。むしろ究められた美徳すら感じられた。断罪の刃。無慈悲な制裁、独裁――裁きの鉄槌。
刃同士を叩きつけて、鍔迫り合いに持ち込むことに成功するが、ミリオンアーサーはエクスカリバーをあらん限りの力で押さえつけていた。相手は涼しい顔で微動だにしていない。口元に背筋が寒くなるような薄ら笑いを浮かべたままだ。
「……ふん」
女騎士はつまらなさそうに鼻を鳴らすと、ミリオンアーサーの足を蹴る。その痛みに体勢を崩され、膝を着いた。だが、その刃が肩口から脇に抜けるのは時間の問題だった。歯を食いしばってエクスカリバーの腹で防いでいたが、今度は胸を蹴り飛ばされてビルに叩きつけられる。
背中から全身を突き刺す衝撃に、肺の酸素が吐き出された。
「――えほ、ゲホッ……! ッ!?」
咳き込むミリオンアーサーの背中を寒気が突き刺す。それに従って横に転がり込むと、女騎士の振るう黒い剣がビルを剣の風圧だけで薙ぎ払う。その細腕のどこにそんな力があるのか、支えを失った建物が倒壊していく。
土煙に飲まれる相手を見て、ミリオンアーサーは胸に手を当てて呼吸を整えていた。
(なんだ、あれは……なんだ、あの、騎士は――――!)
土煙をただの一振りで払いのけ、無傷で歩み寄る女騎士にミリオンアーサーは後退った。
あんな力、女神でなければ何だというのか。そうでなければ、破壊神か。魔神か、邪神か。
いずれにせよ、ろくでもない存在に違いない。そうと思わなければ、プレッシャーに押し潰されてしまいそうだ。
「貴様、一体……!」
「……私の名を問うたな。剣を交える前に」
剣――女騎士の手にある黒い剣。それは、確かに見覚えがある。とても、馴染みのある形をしていた。そう、ちょうど
「知らぬ存ぜぬは、通じない。知らぬならば答えよう。我が竜の息吹によって」
黒い剣を放り投げて、左手に持ち替える。そして、開放される魔力の渦にミリオンアーサーは背筋が凍った。
反転する極光。光すら呑む貪欲な竜の
地面がひび割れるほど力強く、下段から振り上げる――その剣の名を叫びながら。
「偽典宝具解放――。受けるが良い、裁きの時だ」
“エクスカリバー”と、黒い女騎士は吼えた。