超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
パープルハートも、眼下の危機に歯噛みして救援に駆けつけようと進路を変更する。しかし、殺気を感じ取り、咄嗟に剣で捌く。横から飛んでくる射撃を弾き、剣戟を受け流した。
反転して止まる新たな脅威に、パープルハートは眉を寄せる。
黒いプロセッサユニット。黒いインナー。右手に持っているのは、パープルシスターによく似たマルチプルビームランチャーだが、色合いが黒を基調とした赤い彩色のせいでより攻撃的に見える。
顔をバイザーで隠しているために素性は明らかではなかった。
「……あなたは……」
守護女神――いや、そんなはずがない。ネガティブエナジーないし、アンチエナジーのような嫌な感覚。それは、もう女神ではない。魔人や邪神の仲間だ。ならばきっと、敵だ。
パープルハートは長剣を構え直し、切っ先を突きつける。
「わたしの邪魔をするっていうのなら容赦はしないわよ」
「…………」
不気味なほど無言で、しかし。どこか呆気に取られた様子で宙に制止している。蝶の羽のように広げられたプロセッサユニットからは、赤い鱗粉のようなものが舞っていた。バイザーからかすかに覗く口元が歪む。歯を食いしばるように。
羽根を広げて突貫してくる相手の剣をパープルハートが受け止める。速い――、それだけでなく重い一撃。まるで積年の恨みが込められたかのような、鋭い斬撃。
「くっ……!」
火花を散らし、距離を取った相手に接近しようと剣を構え直す。しかし、相手は銃口をこちらに向けていた。光条を避けながら近づこうとするものの、相手は引き撃ちで接近を許さない。
それならばと、パープルハートは一瞬だけ足を止めた。
「ハァ――ッ!!」
相手の射撃を最小限の動きで回避。全速力で一直線に彼我の距離を詰める。
「っ……!」
息を呑む敵に、剣を振り下ろした。しかし、甲高い鉄の音によって阻まれる。
――二刀流。左手に持つ剣、暗く鈍く輝く紫色の刃。逆手に構えた剣に、パープルハートは一瞬だが気を取られた。
「――その剣は!」
「…………!」
ギリッ、歯ぎしりの音が聞こえてくるほど食い縛り、力任せにパープルハートを押し返す。体勢を整えて、改めて相手の姿を確認する。
黒いプロセッサユニットには、紫色のグラデーションがかかっている。露出の高いビキニタイプのインナーも、どこか見覚えがあった。
薄紫の長い髪も、黒みがかっているが見慣れたもので――まさか、と思う。しかし、そんなはずがない。
「……あなたは、まさか…………ネプギア?」
「ッ――――」
何故なら今、ネプギアはプラネテューヌ軍の負傷者達を避難させている。
「そんな、はず……あなたは一体……?」
「――――が、う…………」
絞り出すような、苦悶の嗚咽。辛うじて出てきた拒絶と否定の言葉。髪を振り乱しながら、頭を抱えて繰り返し叫ぶ。
「ちが、う――違う、違う! 違う違うちがうちがう! そんなはずない、こんなはずじゃない! そんなはずがない! ちがう――!!」
「……なにを、言って。どうしたというの……?」
「わたしは――! わたしが――、わたしのことを呼んでくれるお姉ちゃんなんてもういない! 何処にも! だって、わたしが、この手で――そんな――こんなこと――ちがう――こんな世界――!!」
要領を得ない、錯乱した言葉の羅列にパープルハートは不気味さを感じていた。しかし、その姿があまりにも最愛の妹に似ている。声も、姿も――悪堕ちしているが――苦しんでいる姿に同情してしまう。
「ネプ――」
「“こんな世界、消えちゃえばいいのに”!!!」
「――――――」
その言葉は、よく似た声で言われるのはあまりにもパープルハートにとって衝撃的だった。だから、プラネタワーに向けられる銃口へ反応が遅れてしまう。気を取り直した直後、一目散に相手のマルチプルビームランチャーの射線を遮った。辛うじて大出力の攻撃を防ぎきったものの、パープルハートの表情に安堵の色は見えない。むしろ雲行きが怪しいほどだ。
「っ……邪魔をしないで!」
「何を言っているの! あなたは、一体何者なの!」
「偽物のくせに――!」
「そんな……!」
二刀流の相手から逃げるようにパープルハートは攻撃を凌ぐ。
「バレルスフィア!」
プロセッサユニットの周囲に停滞する光球が隙を見て襲い掛かってくる。
「32式エクスブレイド!」
それを迎撃する剣戟。徐々に詰める互いの距離で、間合いに入ると同時に剣を振るう。衝突して弾かれ、距離を取り、反転すると再び衝突する。
市街地では、避難場所までプラネテューヌ軍の負傷者を運び終えたパープルシスターの前でビルが倒壊していた。その中から吹き飛ばされて地面を転がるのは、重傷を負ったミリオンアーサーだった。その姿を見て、チーカマが真っ先に駆けつける。
「アーサー!? だいじょうぶ!?」
「……チーカマか……すまない、不覚を取ってしまった」
「何言ってるのよ、こんなに怪我して」
倒れたミリオンアーサーに、近づく影がもう一人。
黒い女騎士。二人を庇うようにパープルシスターが前に出る。
「チーカマさん、ミリアサさんを早く避難させてあげてください。今度はわたしがいきます!」
「…………」
だが、女騎士は構えを解いた。まるで興味を失ったように剣を下ろす。
「……つまらん。私は腹が減った」
「なに、を。逃げるつもりか……!」
強がるミリオンアーサーを鼻で笑い、女騎士の背後に黒い霧が渦巻いていく。
「“この世界”のアーサーならば、と思ったが。とんだ拍子抜けだ。これでは割に合わない」
「待ってください! あなたは――!」
「私か? ふっ……そこにいるアーサーにでも聞くのだな」
黒い女騎士はその言葉を残してプラネテューヌから消え去った。
無惨な破壊の爪痕を残して。まるで暴食の竜だ。吹き抜ける風が、乾いていた。
胸を撫で下ろしている暇もなく、パープルシスターは上空を見上げる。そこでは、パープルハートが初めて見る相手の攻撃に悪戦苦闘している姿があった。
「ごめんなさい、チーカマさん。ミリアサさんをお願いします!」
「任せて。これのサポートは慣れてるから」
「これって言うな……仮にもわたしは」
「はいはい王のUTSUWA王のUTSUWA」
ぞんざいかつなげやりにチーカマは聞き流して小さな肩にミリオンアーサーを担ぐと、軽傷の兵士たちの手を借りてどうにか避難する。
それを見送り、パープルシスターが空高く飛行してパープルハートの下へ向かった。
「お姉ちゃん! 援護にきたよ」
「ネプギア――! ありがとう、助かったわ」
「誰だか知りませんけれど、お姉ちゃんをこんな目に遭わせて……許しません!」
M.P.B.Lを向けた相手の様子がおかしい。呆気に取られて、棒立ちになっている。
言葉を失い、怒りのあまりに手が震えていた。犬歯が見えるほど歯を食い縛り、背中を向けると――爆音と閃光を残して戦場を離脱していく。それに呆気に取られたのは、パープルシスターの方だった。
「……あ、あれ? わたしとお姉ちゃんのコンビネーションでやっつけようと思ってたのに」
「ネプギア――」
「きゃっ。お姉ちゃん? どうしたの?」
パープルハートの手が、パープルシスターの頬を撫でる。慈しむように、確かめるように。ゆっくりと頬を擦る。撫でられて、心が落ち着く。くすぐったそうに目を細めるパープルシスターだが、パープルハートの表情は浮かなかった。
「…………、」
「……お姉ちゃん?」
「いいえ。なんでもないわ。少しでも癒やされたかっただけよ」
「わたしで良かったら、いつでも癒やしてあげるね」
「ふふ、そうね。ありがとう、ネプギア……さぁ、ここから巻き返すわよ。だいぶ敵の侵攻を許してしまったようね」
突如現れた二人の脅威によって戦線が崩壊している。今や国境防衛隊が敵の物量に市街地で苦戦しながらも対処していた。
その最前線、シロトラと交戦しているアイエフはと言うと――。
複合機能搭載型両刃剣『ブルースザッパー』は、リーンボックスで更なる改良が加えられて出力の向上と軽量化が図られた。その取組は成功したと言っていい。シロトラは軽やかな剣戟によってシャニとグラーフの近接兵装を払いのけ、接地面積の大きい脚部で踏み留まると、横に跳躍しながら背後のディルとジーンの二機へ向けて三点バーストの射撃を放つ。
舌打ちしながらも回避行動に移り、狙撃と重火力の狙いが逸れる。背面のツインバーニアの可動範囲を切り替え、出力を絞りながら跳躍。足元を通過する弾幕が空を切る。
「あぁもう、チョコマカと! なんて速さよ!」
アイエフが愚痴をこぼしながらも、シロトラを追う。トライアド分隊の連携による援護射撃で動きを制限されているとはいえ、それでも肉薄するシロトラの戦闘能力は、流石は最高司令官というだけある。エネルギーグレネードを放り投げて、空中で狙撃。爆風でこちらの動きを妨げると同時に仕切り直し、エネルギーの充填と状況の把握に一拍の間を置いた。
《どいていろ、貴様ら!》
《シャニの野郎が一抜けしたぞ!》
《わーずりー》
《独断専行とかホントマジ特務隊としてあるまじき愚行》
《じゅーびょー》
《やっかましいわ貴様らぁぁ!!》
強襲部門特務隊所属、シャニ。装甲を犠牲に高水準にまとめられた戦闘用機体、ヤシャの弐番機は改修が行われてより尖った性能としてシロトラへ迫る。突撃銃を連射しながらシロトラを追い掛ける間に、それぞれが弾倉の交換をしていた。
「シロトラの相手をしている間にずいぶん押し込まれたわね……」
《どうしますか、アイエフさん》
「……首都近辺はレオルド達が踏ん張ってくれているおかげで戦線を維持できているけれど、厳しいでしょうね。今入ってきた情報だとプラネテューヌ軍は半壊。新手の仕業ね。この短時間で防衛線を崩壊させるほどのことをしてくれて、まったく頭が痛いわ」
《シロトラはこちらで可能な限り我々が抑えます。アイエフさんは後方へ》
「いいの?」
《元々、自分たちは国境防衛隊です。稼ぎは悪かったですが、誰よりも職務に忠実なつもりでした》
「えーそうね。人にケモナールなんてクソ不味いゲロのような薬物飲ませた恨みは忘れてないわよ」
《あぁぁぁぁ見たかったなぁぁぁぁケモミミアイエフすぁん!!! メッチャクチャ見たかったなぁぁぁ……!!》
「そのままやられてしまいなさいよっ!! あたしは後方に下がるわよ!」
アイエフは戦場から少し離れた場所に停めていたバイクのエンジンを入れて、そのまま道路へ出るとアクセルを全開に教会へと向かう。
これで、純粋にシロトラを相手にするのは自分たちだけだ。ディルは一度だけ残りの弾薬を確認する。
《行くぞ、国境防衛隊。今は俺が前線指揮官だ。目標はシロトラの撃墜だ》
《難易度エース級》
《帰りたい》
《コンビニ行って飲み物買ってきていいか?》
あくまでも、マイペース。何処までいっても自分たちの調子は崩さない。そんな通常運転にシャニがやかましく騒ぎ立てているが、トライアド分隊は完全に無視した。