超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
武装企業、アームドソウルス本社屋上。リーンボックスを遥か見下ろせる一大軍事企業の功績は、軍用兵器の開発に甚大な貢献をしてきた。しかし、その影で軍用廃棄物も大量に抱え込んでいるのもまた事実。それらを再利用することで作り上げられた狂気の兵器群。その一部はプレジレントの私物として専用倉庫へ保管されている。
屋上は、潮風を妨げるものなど存在しない殺風景なヘリポートとなっていた。だが、その外周に伸びるシャフトは、地下深くに保管されている兵器群の直通搬送路として設計されている。
《キャロり~ん、今日のドレスコーデは?》
『本日のお召し物は、こちらで如何でしょうか?』
キャロラインの通信に、屋上へ運び出されるのは巨大なコンテナボックス。全長はプレジレントの巨体を覆い隠せるほど。見上げるような鉄の棺が開き、中から冷気が溢れ出す。
《おーっと、コイツぁ最高だ。二十一連装多薬室弾頭射出装置――》
『ようは、ムカデ砲ですね』
《核弾頭採用という法案だったが》
『条例違反により撤廃されております』
《ハハハ! いいねぇ最高だ! これならラステイションと言わず、ここからルウィーの教会だって狙撃してみせるさ!》
高笑いをしながらプレジレントはコンテナに背中を向けて近づく。キャロラインの操作によってサブアームが展開する。背面の接続部へ無理やりコネクタをくっつけると、その重量に思わずバランスを崩しそうになっていた。《おっとっと》と言いながら、プレジレントは前のめりに重心を整える。
あまりに巨大な砲塔。あまりに異質な発電筒は冷却装置も兼用されている。稼働させるだけでも機体が熱暴走で炉心ごと“イカれてしまう”ほどイカした兵器。通称、ギガキャノン。なお――ごく一部の社員達からは“社長砲”と呼ばれているらしい。
『社長。貴方の機体では一発が限度です。狙いは慎重にお願いします』
《たった一発ぽっちとは寂しいことを言ってくれる! 二発でも三発でもとぶっ放したいところだ!》
『元々それは、扱えるように設計はされていないことをお忘れなきように』
《頭からすっぽ抜けてた。さぁーて、オジサン頑張っちゃうかぁ!》
野太い機体の指を組み合わせて、プレジレントはヘリポートの中央で立ち止まる。
起動するギガキャノン。展開される砲身は、全長を超えて余りある。下部に展開したバイポッドを叩きつけるようにして固定。
左肩後方の発電筒と冷却装置が起動する。その電磁波によってプレジレントのシステムが多大なエラーを吐き出していた。
『――機体に深刻なエラーが発生しておりますが?』
《いつものことさ》
ノイズ混じりの警告に、茶目っ気たっぷりの愛嬌でプレジレントは答える。
砲身に光が灯る、熱暴走を起こしているのかと思われるほどの熱気が空気を歪ませていた。
――毎度ながら思う、この兵器開発した技術部は変態集団か? はたまた何を思ってこんなもの作っちゃったの? 馬鹿なの? いや褒めてるよ? うんうん。やっぱり戦争ってすごい。人類の可能性開拓しちゃう。
プレジレントの頭部カメラが映し出すのは、ラステイションの教会。その周囲ではブラックハートが損傷したプロセッサユニットを押していまだ継続して侵攻してくるドローンを撃破し続けていた。
《――最高だ》
高揚感から思わず、そんな人間のような感情を込めて呟いてしまう。自分は機械なのに。
銃声。砲声。たった二人だけの戦場で、無数の弾丸が戦場を駆け抜ける。
ナイルスの機体制御に、戦争屋――古王は難なく付いてきていた。元より、今の機体は急ごしらえの間に合わせ。それで対等に渡り合っているだけでも技量の差は歴然だ。
クイックブースターを左右に吹かすことで射線を遮る。相手の機動力には相性が悪いと見たのか武装をパージした。
逆関節型の機体は、装甲こそ薄いが近接戦において厄介なことこの上ない。その軌道から、バッタと蔑称するものもいるが、今となっては古いスラングだ。
左脚部前面に装着されているシールドを展開。接地面積を増やすことで無理やりブレーキをかけながら、ナイルスは素早くブースターの噴射口を切り替える。
ショットガンの衝撃で機体が揺れるのと、古王が蹴り飛ばされるのは同時だった。
《やるな、ブーストチャージを決めてくるとは……やっぱりお前は最高だ、相棒》
相棒になった覚えなど無い。ナイルスは大木を足場にして、左右へ射線を引っ張る。古王もその視認性の悪さと地の利の不利は理解しているのか、深追いはしてこなかった。
格納されていた武器庫から、パルスマシンガンを引き抜くとリコンを射出する。すぐさま反応があった方角へ銃口を突き出して警戒しながらも近づく。だが、相手は第三世代――最も機体性能に優れた企業連盟の傑作。こちらは第四世代、性能を犠牲に小型化と生存性能を高めたもの。遥かに乗り慣れた第二世代の機体を乗り捨てたことを今さらながら悔やむ。惜しいことをした。
《ナイルス、聞こえてる? 周辺に敵影は無し。その機体だけよ》
フィオナがようやくオペレーターとして機能する。今の今まで防衛機構に手を回していて支援が遅れたのだろう。しかし、ナイルスは気にしなかった。
古王との交戦。かつての仲間……と、呼んでいいものかどうか非常に曖昧で微妙な関係。なにせ、フィオナと共に武装企業から抜け出す際、こちらの姿を見るなり――《面白そうだ》の一言で雇い主に引き金を引いた輩だ。本当に、短い間だけ共に戦った。それなのに、どうしてか古王はナイルスを《相棒》と呼んでいる。
戦場で出逢えば、こうして互いに撃鉄を叩くだけの関係なのに。
《――ナイルス! 気をつけて、リーンボックスから高エネルギー反応検出!》
《まずいぞ、避けろ!》
耳鳴りがするほどスミカからの命令にナイルスは回避行動を取ろうと機体を操作するが、如何せん急ごしらえの機体は駆動系に難があった。だから、メインブースターを全開にして古王に二度、正面から蹴りを入れるのが精一杯だ――。
《沖から、光が……!》
国境を越えた狙撃、砲撃と呼ぶべきか。光の帯がナイルスの機体を撫でていく。直撃は免れたが、左腕が消し飛んだ。コックピットがエラーメッセージとシステムエラーで真っ赤に染まる。耳障りな警告音が遠く聞こえた。なんとか機体を復帰させようと試みるが、完全に今の一撃によって機体は制御系統が壊れている。
ノイズ混じりの頭部カメラには、ショットガンとライフルを構える逆関節の機体が映っていた。無慈悲にも銃口を突きつけて。脚部、右腕とこちらの戦闘能力を完全に奪う。
《……聞こえるか、回収班。ナイルスを確保した。アークの制圧は完了だ》
古王は、さもつまらなさそうに呟いた。その決着が自分の手で行われなかったことだけが唯一の不満のようだ。
ナイルスはコックピットハッチを開けて脱出しようかとも考えたが、それも叶わないほど機体が死んでいた。
《首輪付き――俺と来い。刺激的にやろうぜ……》
その言葉に、ナイルスは無言で返した。
ギガキャノンの砲口から、白煙が漂っている。一発限りの狙撃は、見事着弾した。性能に問題はないようだ。
『――社長?』
しかしまぁ、この冷酷無比に背筋が寒くなるような秘書官殿からの一声にはさしものプレジレントも言葉を濁す。
『狙う相手が、違うようですが?』
《あー、はー……手元が狂ったんだ》
『面白い冗談です』
《いやぁ、ハッハッハ! だがこれでアークの主戦力は撃沈。ナイルスは確保、連行。一石二鳥じゃあないか!》
『一発限りと仰ったことをお忘れですか?』
秘書官は理解を示さず、明らかに不機嫌な口調でプレジレントを責め立てていた。
《……勘弁してくれ、キャロりん。これにはちゃんとした理由があるんだ》
『なるほど。それでは、後ほど。ゆっっくりと、お聞かせいただきましょう。早めに整備を受けてください』
《やれやれ、これだから旧機体は……キャロりん、俺の機体は乗り換えちゃいけないか?》
『その必要があれば考えておきましょう』
まったく、これではどちらが社長だかわかったものではない。