超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
アーク制圧部隊が投入されるラステイションの密林地帯。プレジレントからの降伏勧告に、フィオナとスミカは従うしかなかった。主戦力である彼は、大破した機体諸共輸送ヘリによって吊り下げられてリーンボックスへと移送されていく。
ガードロボたちによって拘束された二人のオペレーターの前で、アーク最下層。旧文明の遺産であるクラインの壺が紐解かれていく。
それは、ラステイション創立まで時代を遡る――。
かの時代。技術者達は、自分たちの手で女神を作り上げようとした。人工的な女神の創造。それこそは未知への探求、飽くなき思想の実現のために。だが、出来上がったものは全てを排除するだけの存在。ラステイションの意向に背く全てに刃を向ける管理者。監視者――九番目の試験機。それは、忌み嫌われた番号としてのみ呼ばれた――“ナインボール”と。
それらを女神ブラックハートは危険人物として。危険物として封鎖した。事実上の計画停止を余儀なくされて、彼らは解散した。しかし、水面下では個々人の開発として計画は続行。
それこそが、クラインの壺。古王の前には分厚く、巨大な鉄の扉が厳重な三重ロックによって閉鎖されていた。興味もなければ趣味でもないが、追加報酬が出るというのなら仕方ない。二つ返事で引き受けた。
《開けろ》
引き連れていたサポートメカ達がハッキングによって電子ロックを解除していく。赤く点滅していたランプが緑色に切り替わる。
ひとつ、ふたつ――みっつ。全てのロックを解除、古王がアクセスすることで鉄の扉は軋みながら、埃を落として開かれていく。アイアン・メイデンなどという言葉もあったな。そんなことを思いながら、古王は明かり一つ無い壺の中へと踏み入っていく。
そこに安置されていたのは、全身を無数のメンテナンスケーブルに繋がれた機体。
傑作機の第三世代に狂気の思想を詰め込まれ、それを実現するためだけに設計された怪物。
誰が呼んだのだろうか――“ハァドラインの戦乙女”と。
《回収だ。リーンボックスに持っていくぞ》
古王が近づき、周囲をスキャンする。サポートメカ達が次々とケーブルの接続を断っていき、機体の電源を入れないように細心の注意を払いながら作業を続けていた。
両手にはライフル。背面武装にはロケット砲を担ぎ、四脚タイプの機体。この戦乙女こそ、もっとも恐れられた箱入り娘であるというのだから、古王は鼻で笑った。まるで眠り姫だ。うんともすんとも言わない静かな鉄の塊に、背を向ける。
この機体の暴走を止めるために、かつて七人の精鋭が死に物狂いで挑んだという。
《こちらは作戦完了だ。これより帰投する》
『了解しました。すぐに回収班を向かわせます。アークで待機してください』
《つまらない任務だ。他に無いのか》
『貴方は特例でこれまでの反逆行為に目を瞑っているということをお忘れですか? 単独行動を起こせば、どうなるかお分かりですね?』
古王のコックピット。機体の核となるビットには、赤いリングが巻きつけられている。
遠隔操作で起動可能な電磁パルス装置。
『理解しているのであれば、その場で待機を。首輪付き』
《…………》
秘書官からの侮蔑たっぷりな言葉に、古王は機体の首を横に振る。その名前で呼ばないでくれとでも言いたげに。
それは、アイツの名前だ。アイツだけに許された忌み名なのだから。
プラネテューヌ国境防衛隊とシロトラとの激戦は、戦線が押し込まれるほどに劣勢を強いられていた。加えて、増援を引き連れたイエローマッド隊のフランジールが合流。前線で指揮をしていたディルは戦況の不利を悟るや否や、即座に防衛ラインの撤退を命じる。
《レオルド! そちらの防衛戦力と合流する! こちらはもう持たない! イエローマッド隊が来ているぞ!》
《了解ッス。ゴウさんの支援砲撃ポイントまで誘導してください!》
《それができれば苦労はしていないが、やれと言われたらやるしかあるまい!》
現在、市街地周辺。多少の被害は目を瞑ってもらうほかあるまい。アイエフからの説教を覚悟してディルは自分の顔を叩く。気合を入れて指揮する。
《強襲班! 敵機の足止めを頼む! シュラ、先んじて撤収と同時に弾薬の補給及びトラップの設置だ! ジーンは強襲班の援護を!》
《お前はどうするつもりだ、ディル》
《当然》
双門機関砲の銃口を起爆虫に向けて掃射して薙ぎ払う。連鎖爆発していく起爆虫の中から飛び出してくるシロトラの刃を、機関砲を盾にして防ぐ。引き寄せて、タックルで吹き飛ばすとすぐさま追撃して距離を取った。
《支援射撃だ》
《……、先に死ぬなよ》
《来週発売のエロ本買うまで誰が死ぬか》
それを買いに行かされるのはレオルドなのだが――敢えてジーンはツッコミを入れずにスコープを覗き込んだ。
フランジールが単騎、シュラを追撃するために突出する。シロトラはそれを無視してシャニのロングスピアと刃を合わせていた。
《流石、強襲班特務隊だけはある》
《これも貴方の教鞭の賜物です、シロトラ教官》
《俺はもはや、貴様らの戦闘教導官ではない。プラネテューヌへ刃を向ける敵だ》
《戦場でありながら、質問をよろしいでしょうか。教官殿》
シャニが身を引くと、それと入れ替わる形でホバー型脚部のフォーミュラが間に滑り込むようにしてシロトラにセミオートライフルを突きつける。それをブルースザッパーで難なく切り払いながら《許可する》とだけ短く告げた。
《今まで貴方は誰よりもプラネテューヌを敬愛しておりました。その貴方が、何故、今こうして女神パープルハート様へと叛逆を?》
《…………》
《黙秘、ですか》
弾倉の交換を見て、シロトラは距離を詰めてくる。恐ろしいほどの速度で。しかし、グラーフが横槍で速射式の電磁加速砲を足元へ撃つ。機動力を削ぐ為に狙いを定めたが、背面のブースターで宙に跳んで避けられた。
《――俺は、悪い夢を見ていたのだ》
シロトラの静かな言葉。だが、それに込められた感情に、機械でありながらシャニ達は寒気を覚えた。感情を欠いた電子音声でありながら。
《俺は悪い夢を見ていたのだ。その中で、お前たちが俺に生きがいを与えてくれた。出自も定かではない、目的も不詳。何のために造られたのか分からない俺に――教導官としての生き方を与えてくれた。感謝している。言葉にしても、語りきれる事ではない……》
《シロトラ教官……》
《だが――違うのだ》
シロトラの身体から放出されるオーラがあった。それは、見たことのないエネルギー反応を検出している。
ゲイムギョウ界に存在しないエネルギー反応。レオルド達の搭載しているニュードでもない。
《……思い出したのだ。俺は。自分が何のために造られたのか。自分が誰のために造られたのかを。だから俺は、プラネテューヌへ刃を向ける。お前たちにこうして刃を向けるのは、教え子達への最後の教導だ》
開いた左手へとエネルギーが収束し、輪郭が徐々に徐々にハッキリとしていく。それはやがて四角錐のクリスタルを形作った。
異常なエネルギー反応検出に、教会のイストワールも眉を寄せ、顔をしかめる。
シェアエナジーではない、未知のエネルギー……いや、歴史に葬られたこの反応は――。
「……黒歴史の、シェアエナジー。ですが、どうして――――」
イストワールの脳裏に、ノイズが走る。記憶にないはずの言葉。風景。人物たちが言葉を交わしていく。
「彼は、一体……?」
シロトラの手に浮かぶクリスタル。女神たちの持つシェアクリスタルではない。アンチクリスタルとも異なる、似て非なる結晶体。レオルド達の原動力であるニュードも、稀にだが固形物として結晶化する時があるが、それでもない。
存在しない、未知のクリスタルは緩やかに回転していた。
《……ゲット・レディ》
そして、シロトラはクリスタルを握りしめる。それを自らの身体に埋め込み――白い機体色に着色されていく。
《俺は――俺の所属はプラネテューヌ“教会騎士団”ゴッドフリート所属。機体ナンバー747。コードネーム、
白い機体色は、トリコロールカラーに彩られていく。機体から放出される青いオーラに、シャニ達が後ずさる。
《……――嗚呼、そうだ。俺は、悪い夢を見ていたのだ。悪夢のような日々だったのだ》
《シロトラ、教官……貴方は、一体……?》
《俺は――俺の守るべきものなど、とうの昔に滅んでいた。どうしてそれを忘れていようか》
自らの身体を確かめるようにシロトラは左手を見つめた。空虚な掌には、何もない。空を掴むことすら、虚しいだけで。その言葉に隠された真意など、シャニ達は分からないままだった。
《だが――だが、もはやそんなことなど、どうでもいい。俺には、ただ一人女神が微笑んでくれればいいのだ。あの方を守るために。あの方を救うために。あの方に刃を向けるのであれば、俺は全てに反逆する。あの方が望むのであれば、俺は! 俺の全ては――!》
感情を露わにするシロトラから狂気じみた信念が溢れる。
《我が忠義の為に。滅べ、プラネテューヌッ!! 女神パープルハート!》
《――シロトラ教官……!》
それは、完全なる決別の言葉。シャニ達に向けられた、手向けの言葉だった。