超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
グラーフとフォーミュラが主兵装を突撃してくるシロトラ――白騎士へと斉射する。だが、着弾するより先に、機体の纏うオーラによって溶解していた。せいぜいが塗装を剥がす程度にまで威力減衰を起こしている。シャニがロングスピアでブルースザッパーを払いのけるが、先程までとは桁違いの出力に槍の穂先が切り落とされた。槍を捨てて、下がる。背面のマルチチャージャーを起動させて返し刃を避けると同時に武器を切り替えた。
女神狂信者。ハァドライン――同志だと思っていた。他の追随を許さない戦闘能力、指揮官としての有能さ。その全てがシャニにとって憧れだった。
しかし、なんだ? 今の貴方は一体、何者だというのか。
《こりゃあ……強襲班特務隊の名前は返上すべきかね……》
《自信無くすわ、こんなん相手じゃ》
グラーフとフォーミュラの二人は早くも諦めている。当然だ、そもそもにして勝てた試しなどない。それが本気ですらなかったのだから、笑うしかなかった。
ブルースザッパーの刃先が胴体を掠めるだけで、機体表面を覆う新型のエネルギー膜が剥がされる。グラーフはそれに、呆れていた。こりゃあ無理だな、と。
《悪いな、面倒だから一足先にいくわ。あとはよろしくな》
《……グラーフ。“十秒”か?》
《いいや》
十秒――機体の機能停止から復帰にかかる時間。B2AMでは“大破”のスラング。しかしグラーフはそれを否定した。それはつまり――。
《あーあー、もしもーし。レオルド隊長か。すまんな、作戦失敗だ。面倒くさいから先にいかせてもらうぞ》
《グラーフさん!? 何を言って――》
《まー、なんだ。あとは任せたわ。それじゃあな》
一方的に通信を切り、近接兵装のツイングレイブを構えると白騎士の刃と火花を散らす。それも一瞬だけだが、何とか機体の出力は持ってくれる。
《おい、シャニ。テメェこれで失敗したら笑ってやるからな。覚悟しとけってんだ》
《――当然だ。失敗など俺にあるものか! 勝手にくたばれ!》
フォーミュラとシャニは、グラーフを置いて撤退。白騎士の前に立ちふさがるのは、グラーフ単騎。
《このプラネテューヌの為に死ぬつもりか、グラーフ。第三強襲班特務隊》
《ええ、そりゃあ残念ですが。俺は女神パープルハート様の治めるこのプラネテューヌが大好きなんで。覚悟決めさせてもらいますわ――俺のボーダーは、ここまでらしいんでね》
《そうか》
白騎士の手からブルースザッパーが消える。だが、緩やかに広げた両手に再び粒子が集まっていく。
両手に握られるトンファーを構え、足を広げて腰を落とす。
《……アファームド》
《――アンタ何でもありかよ、チクショウが》
《女神のためであれば。これはかつて、俺が上司と呼んだ男の遺物だ。その再現に過ぎん》
《俺を絶望に落とし込んで楽しいでしょうよ……》
ツイングレイブの出力を上げていく。一撃必殺よりも、手数で押してくる選択は恐らく、こちらの武器に合わせてのことだろう。まぁ問題はそもそもにしてこちらの性能を完全に置いていっていることなんだが――グラーフは、それでも教官と呼んだ相手に名前を覚えられるのは悪くないと鼻で笑った。
火花を散らしてエネルギー刃とトンファーが衝突する。出力で負けるのは分かっていた。回り込むグラーフに、白騎士は踏み込んで逆手に持ったトンファーを全力で振りかぶる。
全体重を乗せた棍棒の一撃に、ツイングレイブの頭が砕かれた。逆の手で跳ね上げられるトンファーが、持ち替えた右腕の駆動部を直撃する。
体勢を崩したグラーフの右脇腹と、左肩部を貫き、白騎士は止まった。
《……一撃で、持っていきますか。普通》
他に比べて強固に設計されたはずの防御膜を一撃で吹き飛ばし、その再形成の間に一撃必殺。間髪入れない、まさに瞬殺だった。グラーフの言葉に、白騎士は無言でトンファーを引き抜く。
全身から黒煙と紫電を撒き散らして崩れ落ちる教え子に、ブルースザッパーの銃口を向けて。
《俺は普通ではない》
そして、躊躇いのない引き金がグラーフの頭部を破壊した。胴体を。武装の全てを。リーンボックスへと引き渡さないように跡形もなく。
《……“普通”では、なくなったのだ》
アイエフがプラネテューヌ首都防衛部隊と合流し、指揮を執りながら休憩を挟む。諜報部からの連絡では、国境防衛隊は防衛ラインを放棄。現在撤退中とのこと。
(押し込まれているじゃない。まったく、あいつらと来たら……)
苦虫を噛み潰したような渋い表情に、プラネテューヌ防衛隊は不安そうにしていた。
「気合を入れていくわよ。文字通りここが最後の要なんだから」
「了解です!」
「国境防衛隊のロボット達は?」
「まだ前線で頑張ってくれているみたいだけど、そろそろ限界でしょうね。今に敵の団体がここを目指してくるはずよ」
通過点に過ぎないはずの場所を。だが、そんなアイエフの前にパープルハートが降りてきた。突然の女神の来訪に慌ただしくなる防衛部隊を手で制する。
「あいちゃん、こっちの様子は?」
「前線が崩壊。防衛ラインを下げたところよ。国境防衛隊は撤退、後続と合流して敵部隊を撃退するつもりみたいだけど。怪しいわね。ラステイション側の侵攻部隊もこちらに舵を切って戦力を集中させているみたいだし」
「そう……でも、諦めるわけにはいかないわ。ベールもまだ戻ってきていないもの。まだわたし達の負けが決まったわけじゃないわ」
「ええ、そうね。今の言葉、聞いたでしょ。ここから先は一方通行よ、なんとしても押し返すのよ! わかってるでしょうね!」
パープルハートの言葉に、防衛部隊が深く頷いた。ここで止める。なんとしても。
「ネプ子。今、諜報部から連絡が来たわ。ラステイションの最前線で単独、武装企業と交戦していた組織が敗北。敵の増援多数……」
「……。ノワールなら大丈夫よ」
「そうね。プリンとゲームがあれば元気ハツラツな女神様と違って」
「ちょっと、あいちゃん。みんながいる前でそんな恥ずかしいこと言わないでちょうだい」
「アンタもなに誤解を招きそうなことを言うか!?」
(やだ、お二人ってそういう……)
(諜報部と女神様……有りだな)
(おっぱいデケェ……)
「? な、何故か防衛部隊の結束が強くなった気がするのだけれど、気のせいかしら」
「もう八時間も戦闘してるのに相手の勢いが弱まる気配はないわね。もうここまで来ると逆に清々しいわ」
漢の結束による防衛部隊の士気向上は無視して、アイエフは正面大通りから戻ってくるシュラを見つけた。それを追撃しているのはイエローマッド隊のフランジール。
《たぁぁぁぁすけてくれぇぇぇぇぇぇいッ!!!》
ドヒャアドヒャアとやかましいブースター音と共に、ブンブン飛び回る相手からブースターを巧みに切り替えながらショットガンを撃って最小限の動きで回避しながら撤退してくる姿は、お前のほうが変態だと言いたくなってくる。
「あのー、どうします?」
「ひっじょうに不本意だけど、シュラを援護。飛び回ってる機体を撃墜して!」
「あいちゃん、ここは任せたわ。わたしは別働隊を」
「ええ、任せなさい。負傷者はコンパに手当してもらってるわ、大丈夫よ」
防衛部隊の支援射撃によってフランジールとシュラを離すことに成功。勢いのままに飛び込んできたかと思えば、焼け付いたブースターを強制冷却しながら親指を立てた。
《弾薬満タンでお願いします!》
「向こうに行けッ!!」
《すいやせんっしたー!》
アイエフの剣幕に、防衛部隊が思わず身をすくめる。今まで聞いたことがないドスの効いた低い怒鳴り声だった。
胸に手を当てて、補給地点に向かうシュラを見送る。落ち着いて深呼吸。
左手の魔術刻印を見て、アイエフを手を突き出す。
「“風の後ろを歩むもの”よ――イア・イタガ!」
白銀のリボルバーが左手に顕現し、両手で握りしめて大雑把に照準を合わせる。
「疾走れ――!!」
一発、二発、三発と連射して、反動に手が痺れた。不規則な弾道を描いてフランジールに迫る弾丸は街路樹と街灯を盾にされて防がれる。
《遅すぎますね》
「ぶんぶんぶんぶん、ハエみたいな相手ね。市街地だっていうのにブースター吹かしすぎでしょうが、近所迷惑考えなさいよ!」
その風圧でショーウインドウのガラスが割れていた。後でこの弁償金は全てリーンボックス宛に送りつけるとして……。
《お待たせしました!》
「はやっ!? もう補給済ませてきたの!?」
《十秒チャージ、二時間キープ!》
「栄養剤かっ!」
《右手にリモコン爆弾! 左手にリモコン爆弾! これをこうして――!》
補給地点から戻ってきたシュラは、機体の損傷は程々に修復して、弾薬のみ補給して戻ってくるなり、リモコン爆弾を自分の胴体に貼り付ける。そして、セクシーポーズをしてみせた。小首を傾げたのはウインクのつもりなのだろう。色気、クソもなし。
《おっぱい!!!》
「死んでこいッ!!」
《オッス、イッてきまァァァァす!!!》
アイエフが全力で怒鳴り声を上げた。シュラは全速力で逃げ出す。
防衛部隊の支援射撃の合間を縫うように左右へスイッチしながらショットガンをフランジールへ連射する。だが、掠めるばかりで直撃しない。
《あなた単騎では、勝率はゼロです》
《果たして本当にそう思うかな?》
不敵な言葉を残して、シュラは街路樹でチェインガンの速射を避けると、空になったショットガンに弾丸を“三発だけ”装填した。
《変態っていうのはな数値上で語れないから変態なんだ》
飛び出して一発。クイックブースターで避ける。そちらへ照星を向けて、二発。ドヒャアと再び回避された。そのまま背面に回り込み、マシンガンを向けられる。背中から蜂の巣にされるかに思われたが、シュラがショットガンを肩に担いだ。
あろうことか、見向きもしないクイックドロウ。足元に落ちているガラスの破片から位置を逆算して直撃させた。衝撃によろめくフランジールに、シュラが接敵する。
《まだまだ……まだま――》
《ぅ俺を見ろぉぉぉぉぉぉっ!!》
ショットガンを向けられて、咄嗟にフランジールが回避行動を取る――ガチン。弾切れの音。すでにクイックブースターを吹かした機体に、シュラが組み付いて道路へと倒れ込む。回避重視で相手の銃口を避けるその反応速度の早さが命取りとなった。
果たして、馬乗りになったシュラの右手には、リモコン爆弾のスイッチが――!
《フハハハハハ、これぞゴッドスピードカミカゼ精神!! グッドラック!!!》
《SSDから、光が逆流して――――ギャアァァァァァァァッ!!!》
ピピッ。
盛大な爆炎と、爆発に飲み込まれる二機を、首都防衛部隊は呆然と眺めていた。
「……アイエフさん。あいつ、バカなんですか?」
「ええそうよ。バカなのよ。褒めてるわ」
「今まであんなのに国境守られてたのか……やる気出てきた」
「あんなのに負けてられないでしょ?」
アイエフの言葉に、深く頷く。
誰が負けるか――あんな変人どもに。