※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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エピソード247 戦禍の破壊神、再来

 ナイルスを失ったラステイションに、敵の侵攻部隊が本格的に乗り込んでくる。プレジレントが放った一撃を号砲と見て、武装企業は両国に対して惜しみなく戦力を投入していた。それでも練度の高いラステイション軍は防衛ラインを維持し続け、襲撃を受けていた補給部隊も敵を退けることに成功する。

 ブラックハートは息を切らしながらも、敵の侵攻を最前線で引き止めていた。しかし、その休みなく攻めてくる武装企業の物量に限界が見えつつある。

 

「――エヌラス、そっちはどう!?」

《取り込み中だッ! 後にしろ!》

 怒鳴るなり、無線を即座に切ったエヌラスに苛立ちながらも、ブラックハートは各地に用意した補給所で身体を休めた。

 陽が傾きつつある。前線に用意したテントで、体力と気力の回復を図る。女神化を維持し続けるのも限度があった。遠くから、まだ銃撃音が聞こえてくる。それだけではない、機械の稼働音と爆発音もだ。

 

「……ハァ」

 水分補給と、簡単なマッサージ。軽食を済ませて、ノワールは気を取り直して再び飛行するとラステイション全域の状況を確認する。当初より敵の物量に押し込まれており、首都まで目前となっていた。

 

(こちらも大分厳しい状況ね)

 ここまで押し込まれて、敵の侵攻を許したことにブラックハートは気を引き締める。これ以上でかい顔をさせてたまるものか――、ここはラステイション。女神ブラックハートの治める国なのだから。だけど、どうしても敵の物量を前にすると心が挫けてしまいそうになる。

 空高くから見つめるリーンボックス。その海上に展開する大艦隊。武装企業。防衛ラインを突破して、占拠された教会を奪還して……この事件の黒幕を……。

 頭が痛くなってくる。

 

(しっかりしなさいブラックハート、女神でしょ! こんなことで滅入ってちゃいつまでたってもネプテューヌに勝てないんだから!)

 ペチペチと自らの頬を叩き、鼓舞する。そして、首都付近からの救援要請に駆けつけた。

 

 

 

 極東支部付近での交戦は、ブラッドソウルの手によって決着がついた。突入してきたグリムリーパー隊の過半数が物言わぬ鉄くずとなって撃沈している。だが、決して無事ではない。

 プロセッサユニットは半壊。本人も負傷して顔の半分が流血によって赤く染まり、体にも乾いた血液で真っ黒なシミが出来ていた。鬱陶しそうに拭った顔の傷も、火傷と裂傷で痛ましい。

 それでも――それでも、まだバルザイの偃月刀を担ぎ上げる。戦いへの執念には鬼気迫るものを感じていた。リント達は長丁場の戦闘から、一歩身を引いている。

 

「……なんてカオしやがるんだよ、おい。あれじゃあどっちがバケモノだか」

 血まみれで、それでも得物だけは手放さない。歯を食い縛って、敵の胴体から剣を引き抜く。全身に銃痕を残しているが、その傷跡だけは真新しい皮膚が覗いていた。

 

「テメェで最後だ。逃げられると思うんじゃねぇぞ……」

 管制AIからの無慈悲な撤退命令を、しかしグリムリーパー隊は誰一人成し遂げることはなかった。最後の一機も至近距離から撃ち込まれたクトゥグアとイタクァによって胴体を消し飛ばされている。無慈悲に振り上げた足が断鎖術式を起動。アトランティス・ストライクを頭部から叩き込まれて、足までひしゃげた。

 

《――――なるほど。把握しました》

「……誰だ、テメェ」

《ハァドライン、アームドソウルス秘書官。キャロラインと申します。お見知りおきを?》

「面拝んだその瞬間にケツからレイジング・ブルぶち込んでやる」

《恐ろしい冗談です。昨日より、異常なまでに撃破されていた我々の精鋭ですが……なるほど。貴方のせいでしたか。今この瞬間から、貴方は私達の敵です》

「鈍感な秘書官様だな。最初から俺はテメェ等ハァドラインの敵だよ」

 通信機能を破壊して会話を打ち切る。ブラッドソウルはそこでようやく変神を解除した。

 ひどい目眩を起こして、倒れそうになる身体を踏み留める。濁流のように全身を巡る血液を落ち着かせて、一歩踏み出した。

 

「おい、大丈夫かエヌラス! おまえまったく、こんな無茶な戦い方してたらぶっ壊れるぞ」

「……」

 とっくにぶっ壊れてる身体だ。その傷を優しく撫でて、癒やしてくれたのは守護女神達だ。出会ってなければ、ここまでまともに戦えていない。

 リントの心配する言葉に、思わずエヌラスは笑ってしまった。

 

「大丈夫だ、リント。俺はそう簡単にぶっ壊れたりしない」

「おまえ……」

「あいつら全員ぶっ壊すまで、俺は倒れるわけにはいかないんだよ。ここはもう大丈夫だな?」

「ああ。流石にここまでやりゃあ、敵も諦めてくれるだろ……休んでいけよ」

 エヌラスの腕を掴んで止めようとしたリントが、思わず手を引っ込める。

 沸騰したヤカンでも掴んだかのように条件反射で。その手を呆然と見下ろして、エヌラスの顔を睨みつける。平気な顔で立っていられる体温じゃない――それどころか、正気を保っていられるはずがない。

 

「エヌラス……」

「大丈夫だ、リント。俺は、大丈夫だ」

 平然とした風を装って、リーンボックスの方角へ向けて歩き出す背中を呼び止めることができなかった。

 

「あ、あのエヌラスさん! わたしは……?」

「ゴッドイーターはリントの指示に従ってくれ。お前を武者修行に連れて行くのはまだ先だ」

 神機使い達は、一人最前線へ赴くエヌラスを見送る。

 リントは自分の手を見つめていた。あの時も、自分は第一部隊隊長の腕を掴んだ。だけど、その手を振り払って一人で……。

 

「嫌なこと思い出させてくれるな……お前ら! 補給と休憩を済ませたら周辺の警戒だ! 気を弛めるなよ!」

 気を取り直して、負傷者を担ぎながら道中で携帯食料を頬張って神機使い達は撤収していく。今日の戦果や、活躍などの雑談に花を咲かせながら。ゴッドイーターだけは不安そうな表情をしていた。

 

「どうした?」

「いえ……エヌラスさん、引き止めなくてよかったんですか?」

「本人が大丈夫だって言ってたんだ。大丈夫だろ」

 リントは、焼けた右手の指先を隠すようにポケットに入れて歩く。

 

 

 

 リーンボックス海上大艦隊――第一次防衛ライン兼ルウィー侵攻作戦最前線艦隊。

 昼夜を問わず、その艦隊では大中小さまざまなロボット達が作業を続けていた。損傷した機体の修理、支給される兵器の製造。突貫作業とはいえ、侵攻作戦の要となる大型ブースターの建造は手を休める暇など無い。

 送り出された機体の帰還率は二割を切っている。なんとか戻ってきた機体も、辛うじてビットだけだったりする。

 武装企業ギガフロート。海上に浮かぶ護衛艦隊に取り囲まれた装甲空母は、リーンボックスの臨時空港としても活用されるが、その本質は機体を射出するためだ。より小型のフロートベースもあるが、そちらは強襲揚陸艦としての側面が強い。

 内蔵工場では、慌ただしく機体のパーツを取り替えられていた。サポートメカ達が火花を散らす勢いで駆け回っている。

 ――そのギガフロートが、衝撃に襲われた。艦内警報。敵機接近。現在交戦中。

 守護女神? いや、そんなはずがない。首都侵攻部隊によって敵陣の強襲などしている暇など無い。ならば、我らの愛するグリーンハート様か? だが、そうではない。ロボット達は顔を見合わせ、そして甲板から艦艇を撃ち抜く魔力砲撃で一斉に退艦用意を始めた。

 

 最小限の対空砲を搭載した初期に建造された武装企業、ギガフロートの甲板には、大穴が開けられている。

 護衛艦隊を無視して着艦したエヌラスがドラッグシガーをキメて神銃形態を接射した。大艦隊のど真ん中。四方八方、見渡す限りの敵陣の中枢。厳重に警備されていた空母の沈没は時間の問題だ。

 短くなった三本目のドラッグシガーを吐き捨てて、エヌラスは甲板を駆け出す。隣に浮かんでいる護衛艦の艦橋にアトラック=ナチャを貼り付けて、巻き取りながらガラスをぶち破って突入する。

 艦橋は、無人だった。だが、忙しなくコンソールの動く音だけが響く。ギガフロートと連動した無人艦隊ならば、エヌラスは笑う。たった一発、掌をメインコンピューターに添えるだけ。

 

 

 

 その緊急警報は機体のメンテナンスを受けていたプレジレントの耳にすぐ届けられた。

 

《どうした、人がリラックスタイムを満喫している時に》

『社長。ギガフロートが撃沈しました』

《わーぉ、最高にクール。どうしたんだい、キャロりん? 目覚めに悪いな》

『続けて防衛艦隊十隻大破。フロートベースが三隻余り撃沈。敵襲です』

《……相手は?》

『アンノウンです。まったく未知なる敵勢力となります』

《オーケーオーケー。歓迎しよう。数は?》

『単機です。生身の人間が、たった一人で乗り込んできました。とはいえ、あの戦闘能力は人間の規格からあまりに外れていますが』

 プレジレントは、すぐさま執務室へとエレベーターで移動した。

 そこでは、相変わらずソファーに身体を預けてテーブルに足を投げ出した客人がつまらなさそうにしている。

 その隣では、ポテト山脈とハンバーガー軍団を貪り食っている女性がいた。

 

《敵襲だそうだが?》

「俺が知るものか」

「私は腹が減った。もぐ」

 期待するだけ無駄だと悟る。というかレディ? その小さな身体のどこに消えていくんですか五十人前はありそうなジャンク山脈が。

 

《そうかそうか。静観するかい?》

「俺が顔を出せば、あれは血相変えて此処まで乗り込んでくるぞ。それどころかリーンボックスの教会すら破壊しかねないが……それでもいいのなら、俺が出る」

《オーケー、待機していてくれ。これっくらいのハプニングが無けりゃ戦争ってのは楽しくならない! ハプニングは最高のエンターテイメントだ!》

 夕陽が落ちていく。ゲイムギョウ界に夜の帳が下りる。だが、戦火だけは煌々とリーンボックスの海を照らしていた。

 戦禍の破壊神――その大艦隊の只中にあって尚も燃え尽きない闘争本能と、殺意の逆鱗を機体に突き立てながら、ただ吠える。ひた吼える。

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