超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
首都にまで侵攻してきた敵部隊は逃げ惑う民間人には目もくれず、まっすぐラステイションの教会を目指す。目標そのものはルウィーだが、まずはその邪魔な障害である相手を無力化させるには教会の制圧が必要とされた。とはいっても、まっすぐルウィーまで目指した機体は既にエヌラスの手によって撃墜されていたのだが。
一握りの部隊はホワイトハートの戦斧によって残らず粉砕されている。
ラステイション首都にまで侵攻した部隊はビルの壁面を蹴り、防衛部隊の上空を飛び越えた。路肩に駐車されている自動車を蹴り飛ばして、ラステイション教会は目前となっている。
《このまま教会を襲撃する、遅れるなよ》
先頭を走る軽量二脚型が後続の機体にアイコンタクトを送った。
ラステイション教会最終防衛ラインを目前にして、曲がり角から一人の男性が分厚いメモ帳に視線を落としながら歩いてくる。それを止めようとしたラステイション軍だったが、その後ろ腰に下げている武装に、躊躇った。
夜空を見上げる。キレイな月だ――そして、接近してくる敵の侵攻部隊を前にしてメモ帳を閉じる。目深に被った帽子を直し、擦り切れた厚手のコートの裾の汚れをはたき落とす。
「おい、アイツ止めなくていいのか? 巻き込まれるぞ」
「知らないのか。あの格好は、狩人だ。夜にのみ姿を現し、朝日とともに何処かへと消える」
「まさか……“獣狩り”か? 初めて見るぞ」
だが、相手は機械だ。例え獣狩りを生業としている狩人だとしても――。
「…………」
一度だけ、狩人は鼻柱まで覆うマスクを引き上げてポケットから奇妙な杭を取り出した。それを地面に突き立てると、次の瞬間、落雷が地面を一直線に走る。直撃を受けた後続の一体がショートした回路から黒煙を上げて、道路を派手に転がった。
《一人ブレイクダウンだ! マヌケめ!》
《放っておけ。アイツを片付けるぞ!》
残る四機。それぞれカラーリングが異なる部隊は、重量逆関節の赤い一機が突出した。壁面を蹴り上げて、上空でホバーによって停滞するとスナイパーライフルによって狩人を狙い撃つ。その場から飛び退き、銃弾を回避するだけでも驚異的な身体能力だ。
(こちらのライフルを、
枯れた羽根が特徴的な帽子を押さえながら、後ずさる狩人に向かって、武器腕を展開させた派手なカラーリングの標準二脚が突っ込む。
《行くぞぉぉぉぉぉっ!!》
「……」
後ろ腰に左手を伸ばす。構えるのは、短筒。相手が突っ込んでくる瞬間に、引き金を引く。弾丸の衝撃に、僅かにだが動きが鈍る。その隙を突いて、狩人は機体を踏みつけて跳躍した。
敵の背後に回り、中折式の短筒から排莢する。水銀の弾丸を装填して、横からの一機のレーザーブレードを回避した。多数を相手に、対等の立ち回り。ラステイション軍首都防衛部隊は息を呑んでいた。
「……あれが、ヤーナム・シティの狩人か」
「ああそうだ。血に酔って、血に狂い、月光の導きと共に現れる……ラステイション辺境の地とはいえ、バカには出来ない」
とはいえ短筒だけで立ち回るには火力不足なのか、追い込まれつつある。逃げ場を失い、壁に背を預けた狩人に、再び武器腕の機体が大型のブレードを振り上げる。
獲った――! 確信と共に振り下ろすブレードに、狩人は壁面を駆け上がった。哀れ、慢心の一撃は宙を空振り、狩人は右腕を後ろ腰に下げたノコギリのような刃を持つ鉈へ手を伸ばした。
壁を蹴って、機体の首へ刃を振り下ろす。波打つ鉈の刃が接続ケーブルを傷つけ、断線させていく。視界が奪われていく機体にしがみついて、狩人は更に短筒を突きつけて弾丸を撃ち込むと暴れる機体から離れた。
《チクショウ! どこ行きやがった! どこ逃げやがった!》
《貴様! 誰に向かって攻撃している!》
同士討ちを始める二機には目もくれず、上空から狙撃してくる赤い逆関節の機体目掛けて狩人は駆け出す。だが、どう取ってもその上空まで届くはずがない。
ラステイション軍首都防衛部隊は互いに頷くと、銃器を構えて狩人を援護する。上空の機体めがけて一斉に引き金を引いた。
《くっ、邪魔をしてくれる……! だがどう足掻いても貴様らの》
ただの銃器で装甲は撃ち抜けない。――しかし、狩人は違った。再び壁面を駆け上がる。恐るべき身体能力で重力に逆らい、高度を取ってから街灯目掛けて跳躍。そして、ノコギリの刃を引っ掛けて身体を引き上げる。赤い機体の脚部を掴み、上り始めた。
《き、貴様!? 何を――! 離れろ!》
「……」
機体を壁面に激突させて振り払おうとするが、狩人の手はしっかりと掴んで離さない。短筒をモノアイカメラに向けると引き金を引いた。視界を奪われ、ついでにと火炎瓶を取り出すと着火して頭部に投げつけると胴体を蹴り出して落下する。道路を転がり、狩人は態勢を整えた。
撹乱、陽動、同士討ち。敵わない相手に対する対処法は手慣れた動きだ。既に混戦状態となった侵攻部隊は残り二機まで減らされている。
コートの裾を露払いすると、狩人は内ポケットから輸血パックを取り出してストローを刺して飲み始めた。
その後方では、ロケット砲によって侵攻部隊が撃沈している。
「おーい、獣狩り! 助かった、感謝を!」
「……」
その言葉に狩人は背中を向けたまま、握り拳を見せると歩いて去っていった。
「そういえば、あの狩人はなんで首都にまで来ていたんだ?」
「……さぁ? 助かったんだからいいだろ」
――実は輸血パックに扮したジュースを買いに来ただけで、彼は完全に巻き添えを食らっていた。おつかいの途中だったのだ。
リーンボックス海上大艦隊は、火の海に飲まれている。沈没した艦船から溢れる重油が、エヌラスの魔術によって引火、地獄のような有様となっていた。
都合、五隻目のギガフロート。その甲板ではエヌラスを取り囲む武装ヘリがライトで照らしながら旋回を続けている。即座に撃墜される三隻が爆発、炎上しながら乗り込んでくる機体と共に沈んでいく。
「うぉぉりゃあああぁぁぁっ!!」
アトラック=ナチャで機首を絡み取られ、力任せに振り回される輸送ヘリ。その進路上の機体やドローン達を巻き込んで大破していくと、エヌラスは引き寄せてアトランティス・ストライクで蹴り飛ばして乗り込んできた重量二脚もろとも水没させる。
周囲を取り囲んではいるが、決して近寄ろうとはしない。その周りには撃墜された機体が無数に転がり、ドローン達も鉄くずとなって辺り一面に散らばっていた。
底知れない破壊力、計り知れない闘争本能、まるでゲイムギョウ界そのものを破壊しそうなほど破壊の限りを尽くす残虐さ――あまりに危険すぎるイレギュラーに、武装企業は攻めあぐねていた。たった一人。生身の人間、素のままの人間如きに蹂躙されている。
肩で息を整えながら、エヌラスは霞む視界に一層顔を険しくする。
――思い出す。血と硝煙と鋼鉄の香りに満たされる戦場。
四方から攻め込んでくる機人兵団。軍靴を鳴らし、銃器を携え、燃え盛る愛国心と忠誠心で止まることのない行軍。
「――――、っ……」
違う。ここは軍事国家アゴウではない。自分が今やっていることは、ゲイムギョウ界を守るための破壊――違う。敵陣の強襲は、現状打破の為にしていることだ。決して、そう。決して自分の破壊衝動を抑え込むための行動ではない――!
嗚呼、だが――聞こえてくる。魂にまで響く咆哮が。違う。この声が聞こえてくるはずがないのに。
鋼鉄の戦友。幾多の世界線を越えて、背を預けて――救えなかった一人。護国の鬼神。無限の輝望を背負う、国王が。
その声を振り払うように、バルザイの偃月刀を召喚してエヌラスは駆け出す。目の前の敵に切りかかり、分厚い装甲をバターのようにスライスする。
違う――違う。違う――、これは、俺のためではない。大好きな女神達の為の――。
混濁する意識が、どうしても酷似した記憶を引き出す。
鮮血に染まる大地。誰一人残らない世界でただ一人、キンジ塔に向けて歩み出す。振り返るのが怖い。倒れている仲間達に、どんな顔をすればいいのか分からない。信じてくれ。どうか、これだけは……。
俺は、お前たちを救ってやりたかったんだ――。
《チェェェストォォォォオオオオオオッ!!!》
魂の咆哮。
聞き慣れた、聞き飽きた電子音声。
聞こえてくるはずのない、戦友の叫びに、エヌラスは手を止める。目の前で切り倒したガードロボが、紫電を吐きながら崩折れていく。
背後でも、鉄を無理やり叩き割る斬撃音が腹の底まで響いてきた。
振り返らなくてもわかる、圧倒的な存在感。
――だが、振り向くのが怖い。そんなはずがないのに――――。
《――――エヌラス、待たせたな! これより軍事国家アゴウはリーンボックス奪還作戦へと参加する! 後は我らに任せよ!》
「……、カ野郎。来るのがおせぇんだよ、アルシュベイトォッ!」
それでも、無理に笑ってみせる。――お前の前で、誰が弱音など吐くものか。
振り返りざま、バルザイの偃月刀とアルシュベイト専用に鍛造された片刃型長刀が交差し、同時に接近していた敵機を両断する。
《来るなり、随分な歓迎だな》
「うっせバーカ、ハーゲ! 他の奴らはどうした!」
《誰がハゲだバカ! 心配するな、ベールからの情報によって既に他の三国へ増援として送り込んでいる! 後は貴様を連れて戻るだけだ。最前線まで殴り込むとは、バカは貴様だ》
「あんだとコラァ、テメェの援軍が来るの遅いせいでこうなってんだろうが責任取れやボケナスハゲェ!」
《四の五の言う前に、ここから撤退するぞ! 掴まれ!》
アルシュベイトの伸ばした手にエヌラスが掴まり、そのまま大きく張り出した肩部装甲に腰を下ろすと、炎上するギガフロートから飛び出す。腰部スラスターの推進剤を点火して、対岸まで一息に撤退していく姿に追撃しようと飛び出した機体は、一機残らず黄金の矢によってハリネズミとなって海中に没していく。