超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
作戦会議をしている女神たちの下へ、ようやくリーンボックス海上から退却してきたアルシュベイトが腰部跳躍ユニットで落下の速度を緩めながらラステイション側からやってくる。その肩部装甲にエヌラスが腰を下ろしていた。
《すまんな、退却に手間取った! みな揃っているようで結構》
「おいこら大魔導師! テメェ俺に当たったらどうするつもりだ! 掠めてったぞ狙撃!」
「避けられなかったら貴様が悪い」
湯上がりの大魔導師に向かってエヌラスが飛び出す。
殴りかかってくるのをひょいと避けて、回し蹴りをするりと躱し、続く二段蹴りを風呂桶で受け止める。ポコンと間の抜けた音。振り回した温泉まんじゅうの箱がエヌラスの顎を強打してひっくり返った。そのまま雪の積もった地面に倒れる。
四女神が目を丸くしていた。エヌラスがまるっきり手も足も出ない。ソラとドラグレイスも驚いていた。アルシュベイトはトライデントから戦況報告に耳を貸している。
《トライデントより通達。ラステイション市街地より敵軍は撤退。追撃戦に移行した。現在はゼロワンの指揮下で部隊の再編及び態勢を立て直している》
「そう。ありがとう、アルシュベイト」
《……? 俺は自己紹介をしていないはずだが。まぁ良い。俺は軍事国家アゴウ国王アルシュベイト。リーンボックス奪還作戦の指揮を請け負っている》
しまった、という顔をするブラックハートだったが腕を組むアルシュベイトは気にしていないようで安心した。
「弾薬の補給、物資の運搬ルートその他は僕の方で全部引き受けるよ。可能な限り裏方に回って楽がしたいからね」
「俺の仕事がないわけだが、帰ってもいいか?」
「風呂行ってくる」
「仕事しろテメーら!?」
「無職の俺に突き刺さる」
「エヌラス、貴方は少し休みなさいよ。というか、なによその怪我」
「敵の精鋭部隊、誰が潰したと思ってやがる。極東支部の連中に聞いてみろ」
倒れ込んでいる雪が溶けている。ルウィーが雪国であることが幸いして強制冷却に一役買っていた。そんなエヌラスを見下ろして、大魔導師は容赦なく足を振り下ろして踏みつける。
「ぶごぉほぁ!?」
「貴様を叩き直してやったのは、そのような無茶をやらせる為ではなかったはずなんだがな? 以前のような調子で魔術を使えば今の貴様の身体でとても耐えられる代物ではないのだぞ。おい聞いているかバカ弟子、そーら重力倍加だ」
エヌラスの周囲の地面が悲鳴を上げていた。当然、爆心地であるエヌラスとしてはプレス機に押し潰されているのと変わりない。問題は物理的に押し返せないことだ。
「大体なんだ、その励起した魔術回路は。忘れたか、エヌラス。無尽蔵の魔力貯蔵庫である銀鍵守護器官はお前にとって、もう一つの心臓だ。分かるな――?」
全身に魔力を張り巡らせるためのもの。魔術回路は魔力の血管。それが熱を灯すほどの燃焼はすなわち、半ば制御を離れた暴走状態。文字通りの
「ついでに言えば、超再生能力も併用すれば攻撃性能も落ちる。攻撃と防御と回復を同時に使えば出力など落ちるに決まっているだろうバカめが。それを全開にして今日一日戦っていたのか? よく身体が爆発しなかったな。そうまでして守りたかったのか、超次元を」
「――――! ――、――――!」
「何を言っているのか聞こえんぞ」
大魔導師の眼は、雪の降る夜に負けず劣らずの冷徹さでエヌラスを見下している。怒っているわけではない。怒りを通り越して呆れている。
「どうせ死ぬなら一人で死ね。他の奴らを悲しませるな」
大魔導師が足を退かすと、縛り付けていた重力も消え失せて、ようやく身体を自由に動かせるようになったエヌラスがフラフラと立ち上がった。恐らく、今日一番の死に目に遭った。
「さて。このバカの面倒など見てもキリがないのでな。俺は風呂で気分転換してくる。何かあっても俺を呼ぶなよ。それではな」
浴衣姿の大魔導師は、それだけ言うと早速手短な温泉旅館へと入っていく。やりたい放題、言いたい放題言って自分は好き放題。
四女神の視線がエヌラスに突き刺さる。それにバツが悪そうに、助けを求めてアルシュベイトに視線を向けた。それに気づくと、静かに一度だけ頷く。
《俺は風呂に入れんぞ?》
「そうじゃねぇ!」
《懐かしいな。一緒に入った風呂で背中を流したではないか》
「……そういやそんなことしたな」
《そのあと、御姫が乱入してきてえらい騒ぎになったが……》
「アゴウの風呂は乱入イベントあるからな……しかも決まって俺が入っている時に限って。混浴でもねぇのに。おかげでそっちで泊まるのも気が休まらない」
しかもバスタオルで隠す気などさらさらない。「おれの背中も流せ!」と満面の笑みで言ってくるものだから色気もクソもないが、スタイルだけは抜群なので心臓に悪い。
しかし。エヌラスは改めて自分の格好を見下ろす。酷い有様だ。これでは説教されても文句は言い返せない。虚勢でしかなかった。
黒髪も血糊で固まっている。確かに、これは一度洗い流した方がいいだろう。だが全身血まみれの客を入れてくれる心の広い温泉旅館などそう見つかるはずがなかった。
「あー、とりあえず。動きをまとめると――」
「僕は裏方。補給ルートと敵の動向の観察、作戦参謀的な?」
「ソラは後方支援。ドラグレイス、お前は」
「俺を頭数に入れるな。せいぜいが奇襲と闇討ちだ」
「なら、遊撃部隊だな。こっちだって数に入れねぇからそのつもりで」
「改めて言われるとムカつくな貴様……」
「アルシュベイト」
《俺はリーンボックス本土に乗り込んで教会奪還並びに本社襲撃を予定している》
「お前単騎駆けする気満々じゃねぇかよ!?」
その豪胆さには、流石のグリーンハートも驚いている。
「ちょ、ちょっとお待ちなさい!? わたくしも同行いたしますわ! 流石に一人では」
《ふむ……華は持たせるべきか。了解した》
「指揮官が最前線突っ込むって大丈夫かよこいつ……」
「しかも一国の王様なのにですか?」
ホワイトハートの疑問、グリーンハートの不安。それをアルシュベイトは笑い飛ばす。
《軍事国家を背負う国王だぞ。俺が一番強い――いや、二番目か? まぁなんにせよ。御姫であろうと、俺はアゴウ最強の座を譲るつもりなど毛頭ない》
王様だから国内で一番強い。つまりはそういうことだ。守護女神はあくまでも国家の象徴であり、それが最強であるかどうかなど二の次。俺が。アゴウで。一番強い。
困ったことに、アルシュベイトはそれを実践した。しかも国民の同意と女神の許可も貰ってアゴウ国王の座を勝ち取った。例え仮に、最前線に単機で突撃しても誰も気に病まない。勝利の凱歌と共に帰ってくると、誰もが信じて止まない。
「おい、ベール。おまえとんでもない奴らと手を組んだんじゃねぇか……?」
「わたくしも段々そんな気がしてきました」
「一応言っておきますが僕らは健全な国王様でーす」
「俺は教会職員だ。一部例外がいるというだけで全員一緒くたにしてもらいたくないな」
「とにかく、各自の動き方はこんなもんか。まずは休もうぜ。っていうか、俺が休みたい」
「確かにそうね。まずは回復に努めましょう。ブラン、エヌラスはどうする?」
「……あのな、ネプテューヌ。なんでそこでこっちに振るんだ」
「だって、あなたの国でしょ? プラネテューヌでは指名手配犯だし、連れて帰れないわ」
「ラステイションでもそうね。一応、私の監視下で協力してもらっていることにはなっているけれども」
「リーンボックスは説明不要でしょう?」
そうなると、消去法でルウィーでどうにかならないか? というのが他の意見。ブランはエヌラスを見る。プラネテューヌで問題を起こした当時からは考えられないほど、丸くなった。本来はこういう人物なのだろう。しかし、全身血塗れなのはいただけない。
仕方ない――。ホワイトハートは一度だけ深く息を吐いた。妥協しよう。
「今日だけ、特別に教会に泊めてやる。ただし、絶対に一人で行動するんじゃねぇぞ。それ破ったら追い出すからな」
「安心しろブラン。無一文で野宿は慣れてる」
「チクショウ! こいつまったく脅しが効かねぇ!」
パープルハートとブラックハートが何度も頷いている。
「うんうん、いつものエヌラスね」
「そうね。人としての尊厳どうのこうのより、自己保存を最優先する辺り。いつも通りだわ」
「これなら安心して、わたし達はお風呂に入れるわ。それじゃあブラン、エヌラスのことよろしくね」
「大丈夫よ、手懐けるのはそう難しくないから。温かいご飯と寝床用意してあげれば大人しくなるし、簡単よ」
「エヌラス。おまえネプテューヌとノワールからペットか何かと間違われてないか……?」
「あながち間違いじゃないのが俺も困ってる」
「否定しやがれ!」