超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――武装企業本社では、プレジレントが頭を抱えていた。
いやー、まじで? まさか全戦力の半数近く投入していた前衛大艦隊崩壊しちゃう? ほぼ壊滅状態よ? この状態で防衛戦おっぱじめちゃうの? いやいやいや勝てないっしょ無理っしょダメっしょこんなん。兵站も補給も陸路と空路で賄えるし、空中浮遊要塞も健在だからまぁなんとかなるけど、せめてオジサンもーちょっと保たせてくれると嬉しかったなー。この戦争をもっと長く続けたかった。名もなき兵士たちの戦場を、一心不乱の大戦場を、全てを決める評決の日を! ――、なんの話だっけ? まぁいっか!
『社長。大艦隊に壊滅的打撃を与えた大規模魔術砲撃ですが、その発信源を辿ることに成功いたしました』
《ナァーイス、キャロりん。で、狙撃ポイントは?》
『……ルウィーからです』
《…………》
『ルウィーです』
プレジレントがフリーズした。
その一言に、邪神はただ鼻で一笑に付した。
「はっ、これではお前たちの敗北は決定的だな? どうする社長」
《…………あー……》
考える。思考回路がショートしそうなくらい考える。だが、相手もあんな驚天動地な魔術を何度も撃ってくるとは考えられない。考える。
「このまま観戦しているのも見ものだが、些か退屈だな。プレジレント、前線の兵士を下がらせろ」
《なんだって?》
「そうなってしまっては、お前の建てた作戦プランは台無しだ。だからここらで助け舟を出してやろう――“俺が出る”」
そう言って、邪神はローテーブルに乗せていた足を退かすと立ち上がった。そこに置いていた無貌なる漆黒の仮面を手にして。
《Ah……。お気遣いは大いに助かるんだがね。いいのかい? アンタが今までここで静観していたのは》
「問題ない。遅かれ早かれ、俺の手駒を見せた時点で、あちらも勘付き始める。ならば、あれやこれやと模索する時間など無駄にしてやる。こちらから盛大に宣戦布告をしてやるさ」
口元に笑みを浮かべたまま、仮面を付けようとする邪神にプレジレントは尋ねる。
《その仮面は、それでも必要なのかい?》
「……ああ。コレは必要なんだ。コレはな、“俺”が“俺”であるために必要な分厚い面の皮なのだよ」
邪神は仮面を着けた。のっぺらぼうの漆黒。目も鼻も口も無い、顔ですら無い。
「なに、俺のことなど気にするな。それよりも相手の心配をしてやれ? 俺は――俺の眼前敵の全てを
《知ってるか、邪神サマ。戦場にだって
「そんなものは、ない。俺が行くのは戦場ですらないのだから」
《だったらなんだってんだ――》
「――屠殺場だ。俺は全てが憎い。全てが憎らしい。生きる命の全てが、糧の全てを滅ぼし消し去るまで気が済まない性質でな」
そう語る邪神は、顔こそ分からないが、確かに笑っているのが声色でわかる。
「嗚呼そうだ。全て滅んでしまえばいい。消えてしまえばいい。滅び去ってしまえばいい。守護女神も。超次元も。壊次元も――その全てを管理する次元神すら」
《守護女神に、我らの愛するグリーンハート様は含まれているかい》
プレジレントが密かに、背面バックパックコンテナのセーフティを解除した。しかし、邪神の手には既に一振りの日本刀が握られている。
「起こした撃鉄は戻せ、プレジレント。俺とて侠客の礼節はわきまえているつもりだ。無頼漢気取りなどさせてもらいたくはないのだがな?」
《……ハッ、だったら行きな邪神サマ。俺の、俺たちの戦争はまだまだこれからが本番だ》
「それではな。せいぜい、華々しく敗走するがいいさ――武装企業代表取締役」
嫌味を残して、邪神は自らの黒い霧の中へと姿を消した。
プレジレントは無人の社長室を後にして、格納庫へと向かう。
リーンボックスに数ある軍事企業と言えど、このアームドソウルス本社ほどの設備は他では見られない。第三世代の機体製造に注力しているだけでなく、整備と装備拡張諸々を一手に引き受けている軍事産業体制は、三国に引けを取らない。
守護女神にのみ許された飛行能力。単独での戦闘能力。機体の動力源もまた、厄介な代物ではあるが――まぁ致し方ないことだ。
並び立つ武装企業実働部隊、その抜け殻。コックピットハッチが開いたままになっている機体から、ビット達が出て来る。今回の戦闘データをマザーコンピューターに送信するために通路に並んでいた。
それを尻目に、古王は一匹の獣を連れて社長からの待ち合わせ場所へと向かう。
白い毛並みの生き物を肩に乗せて歩く姿は、傍目からとてもシュールな笑いを誘った。しかし二人はそんなことを気にすることもなく、隔壁を前にして立ち止まる。
――武装企業上層部役員、九番格納庫。それは、かつての古巣。彼に与えられた最高権限。
重く開く隔壁。その暗闇の只中に、プレジレントは腕を組んで立っていた。
《ご苦労、古王。やはり戦争は専門家に頼るに限るな》
《つれねぇ仕事をやらせるものだ……所詮大量殺戮だ。違うか? 温すぎるんだよ、やり方が》
「……」
《ハッハッハ、そう言うな! 外の空気はどうだった》
《最高だ。と、言いたいところだが、感じるはずがないだろう?》
『アッハッハッハッハ!』
二人は笑いながらハイタッチ。マニピュレーター同士の重い衝突音に、ナイルスは格好だけ付き合った。
《よぉ、ナイルス。悪いな、こんな手荒な真似をして》
「…………」
《HAHAHA、そう睨まないでくれ。元を言えばお前が悪いんだぜ。俺たちを裏切ってあのオペレーターに付いたお前がな。いいや、お前はそれでよかったのか。そうだよな》
いつだって、心は戦場を求めていた。この生命は燃えるような命の削り合いを願っている。
《さぞ楽しかったろうよ。リーンボックスの誇る一大軍事企業を相手に逃亡生活は。違うかナイルス? お前はそんな刹那的な企業戦争の為に、あのリベルタリア気取りのフィオナと共に逃げ出した。ま、それを面白半分に手を貸した共犯者がそこにいるわけだが!》
《最高に刺激的だったぜ。ま、俺の器じゃ限界があったけどなぁ》
《さて、ナイルス。そこでお前にひとつ聞きたい――自由を手にしたその後に、お前は何が変わった?》
いいや、なにも。なにも変わりはしなかった。戦場を求める心が一層より強く焦げ付いただけだ。
《お前は、何も変わらなかったはずだ。なぜならお前は、自由が欲しいわけじゃない。その自由を手にする戦いに価値を見出していた……だから、フィオナに付き添った。地位も、名誉も――その肩書きも。戦場の渡り烏、最後の鴉。自由の象徴である鳩の正反対、全てを焼き尽くす黒い鳥――“ラストレイヴン”がお前の称号だ》
九番格納庫の灯りが点けられる。照らされるのは、ナイルスの専用機体。
ラストレイヴンの称号に相応しくない、一点の汚れもない純白の機体色。傑作機である第三世代の中でも、性能を突き詰めた異色にして最高傑作。
他の機体にはない特色として、可変機構が挙げられる。超高速戦闘機動を可能にする全身のブースターに、腰部のサブスラスター。武装企業の中で、この機体を乗りこなせる機械は存在しない。乙女の柔肌のように敏感なセンサー。指先の僅かな感触すら反映してしまう反応速度は機体のコア・ビットでは処理能力がパンクしてしまう程だ。
それを扱えるのは、ただ一人……一匹の獣だけ。剥き出しの生命であるナイルスだけに許された、純白の戦機。
「――――」
《懐かしいだろう? お前が置いていった機体だ。もちろん、フルチューンナップしてある。昔と遜色ない性能を発揮する。このままこいつを朽ちさせていくのは、あまりに偲びない。だからな、ナイルス。俺たちと一緒に来い。お前はいつだって戦場を求めていた。今や俺達は四女神の敵だ。大きく袖振って女神達と正面切って衝突できる二度とない機会だ。これを逃すお前じゃあないと思うんだがね? それだけじゃあない。まったくの未知数、異世界の脅威。たった百機でうちの侵攻部隊を押し返した機体達とも、戦える》
《まぁ、それに俺は付き合えないのが残念だがな。また地下室送りだ、ははは》
プレジレントのモノアイカメラがナイルスをじっと見下ろす。膝にも満たない小さな獣だが、その内に秘めた激情は手放すにはあまりに惜しい。
《来いよ、ナイルス。あのオペレーター達の安全は保障する。俺もそんな真似はしたくないんだがね――……はは、そうか。流石だよ、お前は。それでこそだ! 一緒にメチャクチャにしてやろうぜ! ハハハハハハハ、天下泰平世は事も無し! 世に平穏のあらんことを、ギャハハハハハハハハ――!!》