※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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エピソード256 ご機嫌なミュージックに不協和音

 

 

 

 

 パープルハート達が湯舟に浸かり、身体を休める。バスタオルを身体に巻いて、ルウィー名物の『ドッカンキー温泉』で束の間の休息を堪能していた。

 

「それにしても、ベール。向こうにいる間、なにかあったかしら?」

「そうですね。アダルトゲイムギョウ界を短い間でしたが、見てきました。ユノスダス、九龍アマルガム、アゴウ……ネプテューヌ達が歩いた場所を」

「インタースカイは行く機会がなかったのかしら?」

「そうですね。そちらも個人的には足を伸ばしたかったのですけれども」

 アゴウが思いの外アグレッシブ・マッシヴ・エネルギッシュな国であった為に、回っている暇がなかった。しかし、パープルハートとブラックハートも守護女神が存命している軍事国家アゴウは見たことがない。九龍アマルガムは割愛。語るに及ばず。

 

「あそこがエヌラスの救おうとしている次元であると思うと、守護女神として辛いですわね」

「……そうね。少しでも手を貸せればいいのだけれども」

「考えても仕方ないでしょ? 今はまず、自分たちの事を片付けないと」

 ブラックハートがバスタオルで身体を隠しながら立ち上がると、髪を洗い始めた。

 オーソドックスな露天風呂。年季の入った施設だが老朽化の兆しは見られない。管理人が昨今のニーズに合わせて常に最新の設備を導入している為に、今では手軽に親しめる本格露天風呂としてルウィーに広く親しまれている。それを女神様達が利用するということで貸し切りにしてくれた管理人には感謝してもしきれない。

 

「さて、アルシュベイトとわたくしがリーンボックス本土へ上陸するという作戦ですが……なにか異論はありませんか、ネプテューヌ。ノワール」

「わたしからは無いわ」

「そうね、わたしもネプテューヌと同意見よ」

「本当にいいんですの? アルシュベイト一人で」

「いいのよ、アレは本当にシャレにならないくらい強いから」

 塔争の最中で正面衝突した軍事国家アゴウの守護者、護国の鬼神。最強の軍神。過分なく、次元最強の信仰心を一手に背負った愛国者。国民の総意によって支えられた剣戟の重さ、不撓不屈の信念を持って振り下ろされる撃鉄。結局、撃破することだけは叶わなかった。

 国を愛し、女神を愛し、守ると誓い――国と共に滅んだ忠臣。エヌラスの好敵手にして無二の

戦友。

 

「そういえば、ベール。私とネプテューヌはアゴウの守護女神と会ったことないけれども、どんな女神だったの?」

「そうね、それはわたしも気になるわ。教えてもらえる?」

「……軍事国家で誰よりも男らしい方でしたわ」

「女神なのに?」

「え、女性よね?」

「ええ。わたくし達とおんなじ守護女神。ですが、なんといえばいいか……」

 とかく、男らしい。あのアルシュベイトですら振り回され、大魔導師ですら手を焼き、ユウコですら頭を抱える超絶一代問題守護女神。それが、軍事国家アゴウの守護女神、剣姫。

 アゴウの全てを愛し、愛され、弱さを捨てた不退転の決意と進撃。己の手で国の未来を切り開かんとする絶対勝利の女神。

 

「例えるなら、生まれた時より覚悟完了、ステータス筋力系に極振り。殺られる前に殺る。見敵必殺を体現しているかのような」

「それ、世間一般的に暴君とか言われるやつじゃないの?」

「それが、アゴウの皆様に聞くと……「それがいい」「御姫最高」「万歳三唱」「国の為なら死んでもいい」と口々に言うばかりで」

「愛されてるわね……」

「洗脳の間違いじゃないの……?」

 最後に一言だけグリーンハートは付け加えた。

 

「会うのは構いませんが、お付き合いになるには覚悟が必要ですよ」

「そ、そんなに? ちょっと会ってみたい気がするわ。これが終わったら、わたしもアダルトゲイムギョウ界に少し足を伸ばしたいわね」

「なにバカなこと言っているのよネプテューヌ。終わったら事後処理が待ってるんだから、女神の仕事はこれで終わりじゃないのよ」

「いーすんがなんとかしてくれるわ」

「はぁ……言うだけ無駄ね」

 ブラックハートが髪を洗い終えて、泡を流す。パープルハートも身体を洗い始め、グリーンハートはその背中を流し始める。

 そんな、束の間の平穏――。

 

 

 

 

 ――ラステイション南部。鋼鉄機人最前線(マシンナーズフロントライン)によって押し返された武装企業の傭兵部隊とドローン集団は、散り散りになってリーンボックスへと撤退していった。予定されていた回収ポイントまで機体を捨ててまで逃げ出す。だが、それを無慈悲にも撃ち抜いていくゼロツー率いる第二部隊。目と鼻の先で回収ヘリを貫くゼロスリーの投擲した片刃型長刀。ゼロワンの指揮によって完成する包囲網。トライデント分隊の連携によって一体残らず撃墜されていく。

 静まり返る海上大艦隊では、ようやく事態の収拾の目処が経ったのか、残存戦力をかき集めて再び陣形を組み始めていた。

 海上からラステイションとプラネテューヌの変わらぬ威光を眺める一柱の邪神が立っていた。甲板に吹く潮風で黒い髪が暴れるが、身だしなみを気にしている様子はない。

 

「…………」

 その顔は、無貌の仮面で覆われている為に表情は窺えない。左手に刀の鞘を握り、空いた右手はぶらりと垂らしたまま。

 そんな邪神に電子音声を向けるのは、武装企業役員ジェラルドだった。先程の壊滅的打撃から艦隊の再編を引き受けて、やっとの思いで陣形を組める。撃沈された船体は現在も回収作業の最中だ。

 

《貴方は我々武装企業にとって、特別な客人だ。その貴方を戦線に送るとあっては》

「構うな。俺が、好きでやっていることだ。貴様ら機械に借りを作ったままは気に入らん」

《……言われていたとおり、侵攻部隊には撤退命令を。コレでも残っている連中は、貴方の好きにするといい》

「そうさせてもらう――それでは、達者でな。狂信の愛国者諸君」

 邪神は、ラステイションへ向けて姿を消した。

 ジェラルドは水平線に頭部カメラを向ける。

 夜明けだ。おそらくは、これが自分たちにとって最後の……。記憶端末に焼き付けるようにジェラルドは水平線から昇る太陽を眺める。

 

《手は休めるな。海洋上の廃棄物は全て除去する。なんとしても本社だけは守り抜け》

 指示を飛ばしながら、青空に浮かぶ浮遊要塞へ視線を移す。

 女神グリーンハートのシェアエナジーによって浮遊する要塞。その高度維持が難しいということは、我々の信仰心が不足しているということ。

 しかし、ともさえジェラルドは考える。搭載された新機能、信仰心転換装置。これは本当に正しいものなのか? 我らの信仰心を機体性能に上乗せするということは……我々こそが、信仰心の低下の要因になっているのではないのか、と。

 

《……夜が明けた。来るか、三国の守護女神――グリーンハート様……》

 

 

 

 ラステイション軍と合流し、指揮の統率と部隊の管理を引き受けたゼロワンにソラからの無線。それは、プラネテューヌに多目的フォートクラブを動員する旨の通達だった。それは助かるがこちらにも何体か回せないかと進言すると、すぐに追加で手配すると返答される。

 心強い。まさか自分たちが国王達と肩を並べて脅威と共に戦うことになるとは思いもしなかった――邪神が相手では自分たちは足止めするのが精一杯だ。神格者ではないと話にならない。

 

 だが、しかし。戦場の常は、いつだって最悪の事態に備えることだ。

 

 ラステイション防衛部隊の第一防衛ラインから、死刑宣告。

 

《こちら、ラステイション防衛部隊第一防衛ライン! 聞こえているか、機兵団長!》

《それは私のことか? ああ、聞こえている。どうした》

《敵が接近中だ。何なんだ、アイツは……不気味な野郎だ……》

《……詳細を求む。相手は、なんだ?》

《黒尽くめの――――》

 無線が途切れる。引き裂かれるように、不快な電子音を最期にして。

 そして、首都からでも観測できる雷鳴一閃。薙ぎ倒されていく樹木が焼き切られていた。

 電磁抜刀の爪痕。第二防衛ライン崩壊。生存者ゼロ。

 

《……我々では無理だな》

 あくまでもゼロワンは合理的に結論づけた。それに誰もが賛同する。

 アレは、かつて“ここにいる全員が命を落とした”相手だ。機械の身体を手にしたところで、死の恐怖を克服したわけではない。

 銃を持つマニピュレーターが震える。それを目の当たりにしただけで後退しそうになる。だがその恐怖を飲み込む。

 

《――総員、傾聴! これより我らが相手にするは、世界崩壊の引き金である!》

《ゼロワン、具体的に説明を求める》

《邪神だ! アダルトゲイムギョウ界の脅威、軍事国家アゴウの敵である! コレ以上の説明は不要と思う。諸君、改めて問いたい。我々の死に場所は何処だッ!》

 最前線。最前線――最前線の戦場。士気に衰えは無い。退く訳にはいかない。

 

《よろしい! 我らの墓標は最前線だ! ならば臆するな! 前に出るぞ! あれは我ら勝利の女神の宿敵である! これより我らは神罰の代行者となろう! 一度は捨てた命だ! それを惜しむ我らか!》

 否。断じて否! 生まれた命を祖国に捧げ、機械の身体に押し込められた今、成すべきことはただ一つ。

 

《よろしい、ならば我らは前に出る! ラステイション軍の皆様にこれ以上被害を出させるなよ! 最後に一つだけ言わせてもらう》

 コホン、とゼロワンはそこでわざとらしく咳払いの仕草を挟んだ。

 

《――誰かご機嫌なミュージックは流せないか?》

《テメェの喉自慢でも披露してやりな、トライデント隊長!》

 ゼロスリーからの言葉に、部隊内で失笑がもれる。ラステイション防衛部隊もその通信を横で聞いていたが、顔を横に振るばかりだ。

 その中の一人が、ポケットを探ると音楽プレーヤーを差し出す。

 

「トライデント隊長殿。良かったらこれを」

《これは?》

「ゲイムギョウ界の誇るスーパースター、5pb.ちゃんの新曲だ」

《感謝する。――良い歌声だ。これほど魂の踊るレクイエムもないな》

《ケッ、死ぬのはどうせ最前線だ。おい、隊長殿。オープンチャンネルでガンガンに垂れ流してやろうぜ》

《死ぬ予定はキャンセルしておけ、ゼロスリー。俺は彼女のライブに行きたくなった》

《隊長の奢りなら自分も付き合いたいくらいです》

《ずりぃなぁ、人がこんなやる気出してるってのに。まー……奢りなら考えとくぜ?》

 歌姫の声が、無線越しに戦場に響き渡る。

 そして、絶望の警鐘がラステイション軍の前に立ち塞がった。

 黒尽くめの邪神。滴り落ちる鮮血を振り払って、ラステイション・アゴウ連合軍の前にその姿を現す。

 

「――――当方の一身上の都合により、一切を(みなごろす)……異論は無いな?」

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