※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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エピソード257 絶望と怨恨と恐怖と悔恨

 

 無数の銃火器による弾幕。薬莢で足元が埋まるほど引き金を引いた。長刀を携えた機人達がその合間を縫うように邪神へと迫る。迫る。切り結び、そして一刀両断されて二度目の死を迎えていた。過剰な威力である対戦車砲を担ぎ、ロケット弾がまっすぐ飛来するも、信管を切り落とされてあらぬ場所に追突していた。

 

「な、なんなんだアイツは……化物か!? これだけの弾幕の中でまだ立っているだと?」

《邪神であると言ったはずだが! リロードする!》

 重量に任せて叩き切るはずの長刀を、邪神は手にしている刀一つで捌いてみせる。脚部関節の動力部を的確に切り落とし、膝をついた機人を蹴り飛ばす。その足には黒い電撃が纏わりついていた。刀を鞘に収めて、一寸の整息。

 

「……“電磁抜刀(レールガン)”」

《直線上より退避!》

「――“禍月(マガツキ)”」

 隣のラステイション軍を抱えて、アゴウ軍は回避行動に移る。しかし、運悪く回避の間に合わなかった何名かが犠牲となっていた。

 

《各分隊、集合! 一秒でも長くアイツを押し留めるぞ! 可能なら押し返せ!》

 三番隊が近接兵装に切り替えて雪崩れ込む。邪神は“ゆらり”と刀を構えて、押し寄せる殺意を受け流していた。そして、一閃――胴体が切り離されていく。

 

「無駄死にが貴様らの誇りか?」

《くたばりやがれぇぇぇっ!》

 ゼロスリーだけは、唯一両手の長刀で鎬を削っていた。だが、邪神の袈裟斬りを防いだ左手の長刀が真っ二つにへし折られる。即座に捨てて、その場から後退した。

 邪神の足元に撃ち込まれる一発の徹甲弾、ゼロツーからの援護によって命拾いするが、戦況は全く変わっていない。

 一柱の邪神によって、防衛ラインは崩壊しつつあった。相手との格が違いすぎる。尻込みするラステイション軍をアゴウ軍は責めなかった。

 

「勝てるはずがないだろう……」

《その通りだ》

「なら撤退するべきだ」

否定(ネガティブ)。撤退はしない》

「死ぬ気か!?」

《今日。ここで戦わなければ我々に明日はない》

 空のマガジンを交換しながら、ゼロワンは銃口を邪神に突きつけて身を屈める。その頭上を吹き飛ばされた機人の上半身が通り過ぎた。一瞥する暇もなく、引き金を引く。

 

《こちらビースト分隊。遅れた》

《助かる。劣勢だ》

《ふん、邪神を食うほど我々は悪食ではないぞ》

 軽口を叩いて、ビースト分隊が合流するなり煙幕を展開した。

 邪神と言えど生身の相手だ。視覚を塞ぐだけでも効果があるはず――白煙の中に消えた姿を確認してから赤外線に網膜ユニットを切り替える。立ち尽くしている間に、ハンドサインで態勢の立て直しを図るアゴウ軍だが、聴覚ユニットか納刀音をキャッチした。

 腰に手を当てて、邪神は右手を広げるように虚空へ伸ばす。

 

「――征くぞ、殺戮院」

 空間から黒い鎖が飛び出す。それを引き寄せると、棺桶が出てきた。続けて、左手を空間へ伸ばす。

 

「往くぞ鳳凰院――」

 同様に、黒い鎖に繋がれた棺桶が引き寄せられ、邪神の左右に浮かび始めた。

 

鏖花(オウカ)凶魔(キョウマ)――徒花を散らす時間だ」

 一対の棺桶が開き始める。その内部より飛び出す異常な量の銃器と刀剣に、機人達は悪寒を覚えた。

 

「……貴様らの流儀に付き合ってやる」

 右に浮かぶ鏖花より、大型の砲塔が展開される。八連装砲門から小型ミサイルが射出され、ビルを破壊しながら防衛部隊に向かっていく。棺桶の底面より突き出す六連装ガトリングがライフリングを始めていた。

 左側に浮かぶ凶魔が鋸の歯を持つ大鋏を展開する。けたたましい音を立てながら邪神が駆け出す。

 

《こちらバラライカ分隊、間に合ったか!?》

《遅刻だバカタレ!》

 既にラステイション軍でも犠牲が増え始めていた。大鋏によって胴体を切り落とされる者、銃火器によって肉塊と成れ果てる者――人としての原型を留めることすら許さない虐殺の戦場でアゴウ軍はまだ邪神の侵攻を踏み留めている。限界に達したラステイション軍を抱えて撤退する部隊もチラホラと出始めていた。

 

「やめろ、やめてくれ――やめ――!」

 振り回した凶魔によって、一人が圧死する。返り血を振り払いながら、邪神はアゴウ軍に振り返る。

 

「……お前らでは、話にならないな」

《その割に足踏みしているな、邪神様風情が》

 ゼロツーの嫌味に、無貌の邪神が鼻で笑った。

 

「簡単に壊されてはつまらんだろう? そこの教会も、何もかも――」

 ジャラリと鎖を鳴らしながら邪神が踏み出して、数の減らされたアゴウ軍が銃口を向ける。

 戦闘の被害を受けた建物が崩れ落ちていく。しかし、飛び出してくる新手に邪神が初めて後退った。

 

 多目的フォートクラブ、数にして六体。そのうちの一体の背中には、電脳国家インタースカイ国王、琴霧ソラが乗っていた。

 

「まったく、こんな時に限って出てこなくてもいいだろうに……! 空気読んでくれっての」

《クソメガネ!》

《出たなお人好し!》

《もっと早く来れなかったのかメガネ!》

「君らちょっと黙れよ!? 人死んでるのにその空気おかしいからな!?」

 軍事国家の生まれである以上は死体など見慣れている。しかし、ルウィーの防衛拠点からこっちまですっ飛んできたというのにこの仕打ち。やるせない。

 メガネを直しながら、ソラは邪神を見下ろす。

 

「……誰かと思えば、貴様か。電脳国家国王」

「人の仕事増やしてくれる恥知らずな奴が居ると思ってね、すっ飛んできてやった」

「他の奴らに助けを求めたほうがいいのではないか?」

「そうしたいのは山々なんだけれども、お生憎様。手が空いてなくてね。僕で我慢してくれよ」

 フォートクラブ達が一斉に武装を展開して無貌の邪神へと発射する。

 三連装ガトリング二門、六連装マイクロミサイルポッド。口部グレネードランチャー。その全てを鏖花の防壁で防ぎ切る。強襲型フォートクラブが目の前で一台破壊された。

 

「お前が居るなんて、どっかのバカ野郎に連絡入れたらどうなるか分からないからね。女神様が来るまで持ち堪えたら僕の勝ちだ。そんなわけで命張って守ってくれよ、トライデント」

《こちらのセリフだ》

「当初の作戦から変更なしだ」

 アルシュベイトとグリーンハートはリーンボックス奪還の為にプラネテューヌを経由して向かっている。ブラックハートもラステイションに向かってきているが、エヌラスはルウィーでまだ療養中――と称して、ソラは情報操作をしていた。

 邪神の存在はエヌラスにだけ知らせていない。今の健康状態を鑑みれば当然だ。

 どうせやるなら、ちゃんと快復してからぶつけてやろうという魂胆だった。

 

「そんなわけで、厭味ったらしく足止めさせてもらうよ」

「ふん。たかが神格者風情が、一人で俺を止められるとでも?」

「危なくなったら僕は逃げるからそのつもりで」

 軽い調子で言うソラの手には、タブレット端末。その画面をタップして――歪んだ空間から電脳空間に保管しているインタースカイ製の銃器を向ける。

 しかし、眼鏡の奥にある瞳に感情がなかった。

 

「これでも――頭にきているんだ。お前のお仲間がアルシュベイトを殺したんだからな。鋼鉄の戦友の、生前の敵討ちだと思ってくれ?」

 フォートクラブ達が再装填している合間に、更に一台が凶魔のパイルバンカーによって撃墜させられる。だが、口部ワイヤーネットで身動きを封じた。それを見て、すかさずソラは銃を撃った。鏖花によって弾かれ、ガトリングが向けられる。それを横から殴りつけるように逸らしたのは重装型フォートクラブだ。だが、黒い電撃による蹴撃をまともに受けて沈黙する。残り三機。

 

「たかが重機の玩具で足止めなど笑わせる」

「笑い死んでくれたら、僕も後を追えそうなんだけれどね?」

「ちっ」

 その場から突然飛び退いた邪神の足元に転がり込む手榴弾が爆ぜた。

 取り回しの悪い鏖花・凶魔を消すと、腰に差していた刀を抜く。そして、一気に距離を詰めるとソラがタブレット端末を手放して後ろへ下がった。多目的フォートクラブが真っ二つにされて撃沈。残り二機。

 眼前に迫る刀をピタリと止めたのは、青いカードだった。

 

「あーぁー、まったく。嫌になる――開戦(オープン・コンバット)

 電脳空間に保管されていた肉体データから、本来の姿へと。電脳国家国王、琴霧ソラ改め――バルド・ギア。

 

《自分の弱さが、改めて嫌になる》

 白銀の機体色。処理能力に特化されたレドームを左肩に付けた、丸みを帯びている流線型のフォルム。両手に散弾銃を転送するなり、邪神へ向けて二挺が火を吹いた。

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