超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――あの日。アルシュベイトは死んだ。アダルトゲイムギョウ界を脅かす邪神の襲来で。
戦って、死んだ。アゴウで。剣姫の眼の前で。守護女神を庇って、死んだ。
その日から、ずっと悔やんでいた。“なぜ”と“どうして”という悔しさばかりが彼の顔を見る度に胸を苦しめる。
なぜ――僕はあの日、彼と共に戦ってやれなかったのだろう。
どうして――僕はこんなにも弱い王様なのだろう。
だから、エヌラスが彼を機械人類として蘇らせようと提案した時は疑いもしなかったし、人道的なものとか倫理観とか、どうでもよかった。ただ、悔やむばかりで、少しでもアルシュベイトの贖罪になれば、と。それがどれだけ彼の死を冒涜しようとも。
泣きながら謝った僕に、アルシュベイトは笑って言ったんだ――《気にするな》と。
俺の弱さが、俺を殺したのだ。お前が涙を流す理由にはならない、とも。
――そんなはずが、あるものか。
そんなことがあるものか。僕が殺したんだ。
あの日、キミと一緒に戦えなかった僕の弱さがキミを殺したんだ。
いつもどおりの日常を。パルフェ通りの喫茶店で帳簿とにらめっこをして、頭を悩ませていた僕の弱さが憎い。
邪神。魔人。アダルトゲイムギョウ界を蝕むゆるやかな死。それから目を背けて、普段通りの毎日を選択した。
どうか――どうか、僕を許さないでくれ。アルシュベイト……鋼鉄の戦友よ。
ラステイションの空を舞う一人の機体。その銃火を弾きながら、自由落下しながらも互角に渡り合う無貌の邪神。
飛行ユニットから展開されるマイクロミサイルポッドが一薙ぎで払われる。爆風に煽られて、ビルの屋上に着地するなり、バルド・ギアの機銃が掃射された。駆け出して射線から逃げ続けるが、目の前の高層ビルを一閃する。徐々にスライドして傾いていくビルを足場にし、駆け上がって高度優勢を取ると飛行ユニットの主翼を切断した。だが、至近距離で撃ったビームサーベルが掠めたのか、黒服の袖がほつれる。
着地して、トライデント分隊の近くで停まると、入れ替わるようにフォートクラブが作業用アンカーを射出して壁面に引っ掛ける。それを足場にして、トライデント分隊が落下してくる邪神へと飛びかかった。
ゼロスリーの乾坤一擲、ゼロツーのゼロ距離射撃、ゼロワンによる死角からのグレネード。その全てを鏖花・凶魔によって凌ぎ切ると、三人をまとめて蹴り飛ばし、棺桶でふっ飛ばした。
《くそったれ、反則だろうがトンデモ兵器め……!》
あまり人の事は言えないが、ゼロスリーはビルに身体が埋まって身動きが封じられている。それに鏖花がガトリングのライフリングを始めていた。しかし――その砲身が光速の一閃によって切断される。
「よく持ち堪えてくれたわ、アゴウの皆! あとは任せなさい!」
《よーぉ、女神様。わりぃ助かったわ! どぉりゃああ!》
力任せにビルの壁面から身体を引き離すと、ゼロスリーはゼロツーに受け止められた。先程の衝撃で腰部跳躍ユニットが破損したようだ。それだけでなく、電撃によって動力が幾つかやられたらしい。そのまま膝をついた。
「随分と人様の国で好き勝手してくれたみたいじゃない。その御礼はたっぷりとしてあげるわよ!」
「たかが、守護女神が一人で何をしにきた? お前に俺が殺せるものか」
「言ってくれるじゃない」
「それにな――」
不意に、無貌の邪神はブラックハートから顔を背ける。その視線の先には、ラステイション教会――ルウィーがあった。
「お前たち女神の殺し方を。神格者の殺し方を俺は誰よりも知っているぞ?」
「言ってくれるじゃない」
「――あの男の殺し方もな」
パリ――。
黒い電撃が邪神の足元に集まる。不気味な威圧感に、ブラックハートは眉を寄せた。バルド・ギアも両手に新しく
《こちらが援護します、やれますか》
「当然よ。私を誰だと思ってるのかしら」
散弾銃と突撃銃による火力支援。それを凶魔の大鋸で弾き、鏖花の八連装ミサイルで反撃する。だが、その全てをブラックハートは大剣で切り払い、邪神へ迫った。手にしていた刀で一度大剣を捌くと、返す刀でプロセッサユニットの翼を損傷させる。
「っ、やってくれるじゃない!」
ブラックハートを睨む、凶魔の大鋏。咄嗟に後ろへ飛び退り、火花を散らして閉じられる鋏に背筋が寒くなる。こんなもので挟まれた日には――、倒れているラステイション軍の兵士達のようになってしまう。だが、恐怖よりも怒りが勝った。
「――――、ハァァァッ!!」
「頭にきたか? お前の国を守るために“無駄死に”した人間を見て」
バルド・ギアの大量に展開される銃撃とフォートクラブによる火力支援。そしてゼロツーによる狙撃も加わっていながら――無貌の邪神は立っていた。ブラックハートはますます歯を食いしばる。これだけの戦力がいながら、互角どころか遊ばれていることに頭にきていた。
「言ったはずだ。女神の殺し方も、神格者の殺し方も俺は誰よりも知っているとな――」
邪神が刀を納める。そして、全身を黒い電流が迸った。
電磁抜刀術――、だが、その矛先はブラックハート達ではなく、あらぬ方角を向いている。
一体どこを狙って……? しかし、ゼロワンだけはその方角に“なにが”あるのか理解した瞬間、跳躍ユニットの推進剤を全開にして止めようと突撃していた。
「――“禍月”」
《やめ――――!》
そして、ラステイションが切り裂かれる。無惨な斬撃の痕を残して――。
「………………」
《――――》
鼻で笑った。邪神は、その一撃を鼻で笑っていた。崩れ落ちる残骸、倒壊していく建物。死体すらも消滅させる無慈悲で冷酷な、見当違いの一撃が葬ったのは――ラステイション防衛部隊の拠点。
負傷兵達を、運んだばかりの……。
「さて――? 今ので“何百人”救えなかっただろうな?」
今度こそ、ブラックハートは怒りに身を任せて大剣を振り下ろした。掛け値なしに、殺意を込めて。しかし、羽根のように軽々と避けるなり凶魔のパイルバンカーを射出する。大剣を盾にして防ぎながらかいくぐり、サマーソルトキックで死角から蹴り上げた。
《バカ、突出し過ぎだ!》
ゼロワンからの叱咤の声も聞き流して、ブラックハートが邪神に差し迫る。
その仮面に大剣の切っ先を突き出すが、同時に凶魔による大鋏が首を捉えていた。不意に身体を引っ張られて体勢を崩す。ゼロワンの左腕が大鋏の鋸によって火花と共に切断されていた。しかし、蹴り飛ばして距離を取る。それでもまだ前進しようとするブラックハートを引き止めるとバルド・ギアも肩に手を置いてなだめていた。
「アイツは――! アイツは、私の国の兵士を――!」
《気持ちは分かる。俺とて同じだ。あそこには俺に音楽プレーヤーを貸してくれた兵士もいる》
「だったら」
《だが、それがヤツの狙いだ。信仰心無き神格者など、もはやただの偶像でしかない》
「ッ……!!」
神殺し。女神を殺す為に。だから――
「……だからって、その為に。戦えない人達まで殺すっていうの」
《その通りだ。奴がラステイションに侵入してきた時点でこちらの敗北は決まっているようなものだ》
《教会を狙わないだけ、まだマシだろうな。電磁抜刀で狙撃されたら流石に止められない》
一度抜き放てば止めること叶わぬ神速の抜刀。しかし、電磁抜刀術……? ブラックハートは邪神を睨む。
全身黒尽くめの、黒髪――そして、日本刀。電磁抜刀術を扱う邪神に、どうしてか。
「どうして、貴方がエヌラスと同じ電磁抜刀術を扱えるの」
《……エヌラスも同じ剣術を? いや、そんなのは見たことがない》
「――――え?」
ゼロワンが不意に答え、ブラックハートの言葉に、初めて無貌の邪神は苛立ちを露わにした。
「――この、俺が。あの男と同じであると? 非常に不愉快だな。嗚呼、その見解は……この俺にとってまさに、禁句と言っていい」
仮面に手を伸ばし、無貌の邪神が初めて素顔を晒す。
怒りのままに大剣を構えていたブラックハートは、その顔を見て、驚愕に満ちた表情で呆然と立ち尽くした。
トライデント分隊も、言葉を失っている。
バルド・ギアですら拡張装備の転送を躊躇するほど――だが、邪神だけは笑っていた。
「腹が減るから、あまり使いたくはないんだがな……次は、最大火力だ。防いでみせろ?」
刀を左側に浮かぶ凶魔に
「――
呆気に取られ、気づいたときにはすでに遅かった。
「
背中につくほど振り上げた刀が振り抜かれる。禍月とは比べ物にならない、まるで光の柱でも振り下ろすかのような斬撃が視界を焼いて――ラステイションは陥落した。
教会を見上げて、邪神は仮面を付け直す。倒れているブラックハート、トライデント分隊、辛うじて直撃を免れたバルド・ギアは機人状態を解除、人間体に戻ってまだ戦闘の意思を見せているが、身体を蝕む黒い電流に膝をついた。
「お、まえは――――!」
「貴様らに興味はない。俺はルウィーを落としに行く」
電脳空間との接続障害に、ソラは歯噛みする。そして、振り回された凶魔によって殴打されて昏倒した。
歩み去ろうとする邪神の足元で、ノワールが起き上がろうとしている。その頭を邪神は電撃を纏った脚で踏みつけた。
「ぁぐ……!」
「お前を殺してもいいが……女神は俺の取り分ではないのでな。今は見逃してやる」
「待、ちなさ……」
再度、頭を踏みつけるとノワールの意識は闇へ落ちていく。それをのっぺらぼうの仮面で見下ろしたまま、無貌の邪神はラステイションを堂々と通過してルウィーを目指した。