超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
鏖花と凶魔。遠距離攻撃の殺戮院。近距離攻撃の鳳凰院。その攻撃性能はエヌラスの持つクトゥグアとイタクァに勝るとも劣らない。常に展開状態で隙を見せないが、その能力を十全に発揮するには距離が必要となる。過剰な破壊力を至近距離に叩き込んで自爆しては意味がない。そうなると自然、両者の性能を封殺するためには倭刀の間合いが最適解となる。
エヌラスの倭刀と邪神の日本刀が幾度目かの衝突。互いの身体を掠めていく切っ先に僅かにだが血が滴り落ちている。
ルウィーの地形を変化させてしまうほどに、焼け野原と化している。居住区を離れて正解だったが、その被害、災害はプラネテューヌにもラステイションにも轟いていた。このまま戦い続ければ間違いなく今まで巡り歩いてきた次元世界同様の災禍に見舞われることとなる。
そうさせないためにも一刻も早く、一分一秒でも早く――眼の前の邪神を殺さなければ。はやるエヌラスとは裏腹に、無貌の邪神は歯噛みしていた。
(ちっ、やはりこの次元では思うようにいかんか……厄介なものだ)
時折身体を蝕む不快感に、仮面の下で表情を渋らせる。守護女神の庇護の下、世界に満ちるシェアエナジーが無意識の内に自らの能力を妨げていた。だが、それでも互いの実力は五分――拮抗しているが、僅かにこちらが勝っている。
ブラッドソウルは、心臓を握り潰す勢いで鼓動を抑えていた。黄金の蜂蜜酒を三本飛んで四本ぶち込んだ全身の魔術回路と生身の心臓が暴走している。その効能が早くも切れつつあった。
異物を流し込まれた全身が危険信号を発し、血涙と流血、吐血の三点セット。耐えきれなくなった毛細血管が片端から弾け飛んでいた。それを急速に修復する銀鍵守護器官の自己再生を遮断して、ブラッドソウルは口を拭う。
保身はいらない。あるのはただ、研ぎ澄まされた刃だけでいい。
(もっとだ……もっと、鋭く……速く――!)
裂けた額から流れる血が一瞬だが視界を塞ぐ、それと同時に邪神が動き出す。ブラッドソウルはプロセッサユニットを盾代わりにしてカウンターで肩口を切り裂いた。しかし、足を絡め取る鎖によって宙に放り投げられ、鏖花の八連装マイクロミサイルが投射される。
「イタクァ――」
狙いを定めようとした左手が、痙攣した。魔術回路の処理速度に肉体がついてこれない。迫る弾頭に防御魔術を展開しようとした瞬間、稲光が駆け抜けていった。瞬く間にミサイルを全て撃墜させて、邪神の目の前に着地する。
浴衣の裾を翻した大魔導師の手には、見慣れない細剣が握られていた。青白く、刀身の一部が欠けたような直剣。その刀身を青白い電撃が奔った。
「貴様!」
「なに。戯れだ」
邪神の日本刀に肩にかけていたタオルを巻きつけて、無造作に腹に押し当てた足で蹴り出す。それだけで後ろへ吹き飛ぶが、日本刀を地面に突き立てて制動をかけながらも凶魔の鎖に足を繋がれたブラッドソウルを地面へ叩きつけた。それを引き寄せようとして、鎖が戦斧によって切り落とされる。
咳き込むブラッドソウルが立ち上がり、そして盛大に吐血した。しかし、その足が邪神へ向かうことだけは止めない。そんな首に当てられる、大魔導師の直剣の刃。
「俺の、邪魔をするんじゃねぇ――!」
「しているつもりなどない。受け取れ」
「あぁ?」
眉をつり上げながら、ブラッドソウルは差し出された剣の柄を握る。軽い――手にしているのを忘れるほど。
「“
そして、もう一振り。今度は赤い直刀。両刃の直剣は、長さはほぼ同じだ。火の粉が舞っていることから、炎属性なのが見て取れる。右手で受け取ると、心臓が跳ねた。まるで二振りの剣から魔力が流れ込んでくるかのような、流入現象にブラッドソウルがたたらを踏む。しかし、胸を締めつけていた痛みが和らいでいくことに、眉を寄せて大魔導師を睨むといつもの涼しい顔で笑われた。
「魂の補強くらいにはなるだろう。せいぜい使いこなせ、くれてやる。たかだが数百人規模の礼装だ。次からは自分で作り出せるようになれ」
無茶を平気で言ってくれる――だが、これならば身体の負担が軽い。二刀流は慣れている。ブラッドソウルが整息して、ホワイトハートが隣に並んだ。
「無理し過ぎだ、馬鹿」
「っせーなバカ女神。隣に立つんじゃねぇ」
「あんだとぉ!? なんだその言い草は!」
ホワイトハートが食って掛かるも、ブラッドソウルは無視する。目元の血と頬の傷口を拭い、邪神と対峙する。
これで三対一。数の不利を、無貌の邪神は鏖花と凶魔によって補っていた。
大鋏の鋸をブラッドソウルが直剣を交差させて跳ね上げる。その下から、小柄な肉体を活かしてホワイトハートが戦斧で鏖花を強打した。その衝撃で持ち上げた戦斧をさらにもう一発、強烈に叩きつける。
「はっ、どうだ!」
「ち……!」
棺桶の表面が僅かにだが歪んでいた。
「さすがに、四女神の一柱だけはあるな。超次元で相手をするのは実に面倒だ」
「だったらどうするってんだ。尻尾巻いて逃げてもいいぜ」
「いいや? ここからルウィーを狙い撃ってもいいがな」
「テメェ……!」
しかし、大魔導師がそれを許さない。飛び蹴り一つで鏖花を損壊させた。
回し蹴りが邪神をさらに押し返す。
「それを、俺が許すとでも? ルウィーの風呂をまだ堪能していなくてな、そうはさせんぞ?」
構える凶魔を、今度は紫色の剣が貫く。32式エクスブレイドの援護――パープルハートがブラッドソウルの隣に降り立った。
「どうやらまだわたしの見せ場は残っているようね」
「ネプテューヌ、お前プラネテューヌはいいのかよ」
「ええ、大丈夫よブラン。レオルド達が頑張ってくれているわ」
傷だらけのブラッドソウルに、パープルハートは何も言わない。それが敵のであれ、自分の傷であれ、この人はこういう戦い方をする人だ。いつだってボロボロで、それでも前に進んで、何度挫けても必ず立ち上がる。
本当に、馬鹿な人――。
「エヌラス、まだいけるわね」
「ったりめぇだ。誰に向かって口聞いてやがる」
強気な口ぶりに、微塵も弱気など見られない。それに、パープルハートは少しだけ頬を緩める。いつものエヌラスだ。普段通りの、知っている態度。だが、それに一人だけ浮かない顔をしている人物がいた――大魔導師だ。
「…………」
「女神が増えたか、些か面倒だな」
「自慢の棺桶はテメェが入る分余ってんだろうな?」
「こいつに入ることになるのは、お前の大事な女神達かもしれんぞ?」
「ぶち殺すぞ」
「貴様が死ね」
本気の殺意同士がぶつかり合い、空気が重くなる。それは呼吸すら辛くなるような互いの殺意によって。
鏖花が軋みながらもまだ無事な機能を展開して銃撃をバラ撒く。それを掻い潜るパープルハート、ホワイトハートに狙いを集中させると、今度はブラッドソウルの一撃が凶魔の装甲を切り裂いた。
それを、無貌の邪神は鼻で笑う。大魔導師は動かない。ならば、ここらが頃合いだ――。
「――“
「!?」
棺が開かれる。殺戮院鏖花の制限解除と同時に、中に収められていた砲塔と砲門が一斉に飛び出した。
同様に、鳳凰院凶魔の制限解除。大鋏、鋸、妖刀の類が五指のようにゆらめく。
禍々しい鋼鉄の異形。殺意の権化。あらゆる生命の根絶を目的とした武装に、守護女神としての本能が危険信号を発していた。
「全機能制限解除。
語りかけるように、鏖花と凶魔に声を投げると。まるで生きているかのようにギチギチと不快な機械音を鳴らして独立した意思を持ってブラッドソウル達へと襲いかかった。
「っ――、これじゃ近づくのも一苦労ね」
殺戮院鏖花が放つ無数の砲撃、銃撃の前には流石の大魔導師も手を焼いているのか、あるいはいつもの面倒くさがりが出たのか、最低限攻撃を防ぐだけに留めていた。
左の鳳凰院凶魔は接近したブラッドソウルとホワイトハートの攻撃を一手に引き受けて、互角に渡り合っている。ならば、正面より相手と剣を交えるか――? だが、無貌の邪神は刀を鞘に納めて右手を持て余していた。その掌に、赤い霧……魔力のようなものを漂わせている。
のっぺらぼうの仮面の先には、ブラッドソウルがいる。それに、嫌な予感がしてパープルハートは咄嗟に叫んだ。
「エヌラスッ!!」
「、――――!」
「もう遅い」
ブラッドソウルの両手の剣が凶魔によって塞がれ、躍り出た邪神の右手が左胸を貫く。
第二の心臓、銀鍵守護器官に触れた手から赤い魔力が流し込まれた瞬間、変神が解除されてエヌラスが悶絶する。地面に倒れ、手にしていた直剣を手放して、左胸を掴んでいた。
無間の魔力貯蔵庫、銀鍵守護器官の性能を逆手に取った、魔力の逆流現象。その流れを変換させるだけでエヌラスの身体を流れる魔力器官は内部より牙を剥く。血管に擦りガラスを流し込まれたような激痛に耐え兼ねて、エヌラスの全身から流血する。
それを止めることなど、ほぼ不可能だ。心臓を止めろと言っているようなもの。のたうち回るエヌラスの血を浴びて、ホワイトハートが激情に任せて凶魔の五指を戦斧でへし折った。大魔導師の天座失墜が鏖花を撃墜する。
「ハードブレイク――ッ!!!!」
一瞬だが反撃に転じようとした邪神の左腕を、大魔導師の投げたタオルが捕縛した。
ホワイトハートの超弩級の戦斧の一撃が、仮面を直撃して吹き飛ぶ。振り上げられた凶魔の残った鋸指を、パープルハートがクリティカルエッジで粉砕した。
「エヌラス、しっかりして! エヌラス!」
「ガ、ァ――――、ッ! テ、メ………ぇ……!」
呼吸が、辛い。心臓の鼓動を握りつぶしてしまいたい衝動に駆られる。銀鍵守護器官に、赤い薔薇のような紋章が浮かび上がり、魔術回路を侵食していた。
無貌の邪神が膝をつく。仮面から欠片がこぼれ落ち、破片が落ちた。鮮血が滴る。
「今のでくたばらねぇのは、流石は邪神様って褒めてやるよ!」
「……ち、侮ったな。だがそいつが助かる見込みなどないぞ。無限の魔力貯蔵庫。そして全身に張り巡らされた魔術回路。その魔力を侵食してしまえば」
「黙れ」
大魔導師の手には、黄金の弓。シリウスを容赦なく邪神へ放ち、魔術防壁で防ぎきった。だが白煙によって視界が遮られる。
「ABRAHADABRA――“ハイパーボリア”・ゼロドライブ」
極々々低温による“焼却”の手刀が防壁を突き破り、邪神の右手が一瞬にして凍結し、砕け散った。大魔導師による
パープルハートの太刀を避けるが、邪神の服が袈裟懸けに裂けた。
「おい、死ぬんじゃねぇぞ……! しっかりしろ、エヌラス! 頼むから――!」
ホワイトハートが肩を揺さぶる。呼吸すら薄くなりつつあるエヌラスに、大魔導師がかがみ込み、右手を鳴らす。目尻に涙を浮かべるホワイトハートを退かして、意識を集中させた。
「つまりは――銀鍵守護器官をどうにかすればいいんだな?」
パープルハートの脳裏に浮かぶ、前世の記憶。強制摘出。それを止めようとするが、大魔導師の手刀がエヌラスの左胸を貫く。
引き抜いた手には、銀色に輝く獅子の紋章。だが、それは――銀鍵守護器官を汚染した魔力を大魔導師が肩代わりするということ。爪が剥がれ、右腕で抑え込んでいる魔力が大魔導師に襲いかかる。しかし、それを意に介する様子はない。左手で右腕を押さえつけ、銀鍵守護器官の暴走を食い止めていた。それでも、やはり無限の魔力貯蔵庫である出力は止められないのか、出血している。視線だけ動かして、呆気にとられているエヌラスを見下ろす。
「――――し、しょう……!?」
「寝ている暇があるのか。さっさと片付けろ。いつまで持つかわからんぞ」
「ッ、お――ォォォオオオオオッ!!!」
足に力を込めて、エヌラスは地面から自分の身体を叩き起こす。二振りの剣を掴み、邪神へと駆け出す。