超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ヌルズ・エクス・モルテスの言葉に、大魔導師は答えない。
魔人鍛造。それこそ大魔導師が行った秘術。次元連結装置の設計と開発。壊次元の崩壊も、何もかも全て。全ての計画の始まりは――エヌラスと出会った、あの日より以前から。
いつからだろう。一体いつから、全てが大魔導師の掌の上だったのか。
「……大魔導師が、エヌラスの生みの親ってこと……?」
「あながち間違いではない。だが、そんな男の願いに応えたのが、こいつだったのが運の尽きだったな、大魔導師――貴様の計画は最初から破綻していた! 次元神の箱庭を壊す為に魔人に手を出したのがそもそもの間違いだ! 世界を救うなど――」
「貴様の見解はそもそも間違えている。
「……なに?」
「助けてくれと願ったつもりもない。救ってくれ、等と以ての外だ。俺はすでに救われた。報われた。助けられた。嗚呼、貴様の目にはそう映るか? 絶望の邪神。この、俺が――助けてくれと叫んでいるように」
大魔導師の口端がつりあがる。
「俺は最初から壊すつもりだった。箱庭を。次元神の完璧な輪廻を。あの掌中の只中にあって、尚も救いを求めるだと? 用意されている舞台から、用意された役者から、用意されたシナリオから、用意された設定の全てから――世界を、救うだと? 貴様も、エヌラスもバカの極みだな。顔だけでなくその見当違いもそっくりだな、ハッハッハ――!」
血に濡れた手で髪をかき上げながら、大魔導師は哄笑した。あの箱庭の世界を救えるはずがないのだ――、どこまでいっても次元神セロンの掌の上だ。
「エヌラス。よく聞け――俺はお前に言ったな。それは、俺が通った道だと」
「……」
「かつて、俺も同じように世界を救おうとした。次元神の存在を知ったその日から、繰り返される世界の輪廻から脱却しようと足掻き藻掻き苦しんだ。だが、何も変わらなかった。何一つ変えられなかった。何もかも、誰一人……お前と同じようにな。ただただ繰り返し、殺し合うしかなかった世界だ」
そうして、総ての可能性を試した。総当たりの結果、諦めたのだ。何一つ救われない世界であるのだと。自分には――次元神の手によって集められた存在には、世界を変える力などなかったのだ。
だから、諦めた。だから縋った。ならば、と祈った。
「だから俺は、助けを求めた。憎悪の空に――正しき怒りを秘めた、ただ一人を」
「…………――」
「神でなくていい。最弱でも構わない。魔人であろうがどうだっていいことだ。一から鍛え直すだけだ――例えそれがどれほどの絶望と困難であろうと、見捨てるものか。投げ出すものか。この俺が、
大魔導師の手に握られていた銀鍵守護器官から、赤い魔力が四散する。白銀の輝きを取り戻した無限の魔力貯蔵庫は小さな宝石となっていた。
「無限に続く箱庭の世界を、破壊してくれ。世界を救わなくていい。ただ、あの舞台装置を破壊するだけでよかった。なのにお前は、俺達を救おうとそれほどまでに愚かな選択をしたのだ。誰がそこまでしろといったバカ弟子が」
「……、見捨てられるかよ。アンタが例え、そんなことを願って! 俺を望んだとしても!」
「だからバカだと言っているのだ、馬鹿者。
「――――――おれ、が?」
「お前に戦い方を教えた。俺はそれだけだ。それ以外などどうでもよかった。どうお前が生きようと構わなかった。好きに生きろ、やりたいことをすればいい。だが――地獄には落ちるな。そこは俺の居場所だ。俺が、望んで落ちた地獄だ。もはや此処以外に俺の居場所はない。分かったら、立て。立ち上がれ、最弱の英雄。……それと、バカな貴様に一つだけ教えてやる」
エヌラスの前に銀鍵守護器官を差し出して、大魔導師は視線だけ向ける。
「今まで、殺し合いを続けてきた俺達が一つの強大な敵を前にして共に戦っている。これを“奇跡”と呼ばずしてどうする。お前が起こした、たったひとつの、ちっぽけではあるが――」
涙を浮かべて、歯を食い縛り――満身創痍であるが、エヌラスは立ち上がった。
アルシュベイトが、ドラグレイスが。ソラが――アダルトゲイムギョウ界の全員が。
超次元の女神達と肩を並べて戦っている。
「……俺には、出来なかった。俺には起こせなかった奇跡だ。誇れ、エヌラス」
「――嗚呼……ああ、もちろんだ。大魔導師」
「無くすなよ。とても小さな、だが無くてはならない“勝利の鍵”なのだからな――」
前が見えない。自分の涙で、鬱陶しくて拭い去る。
銀鍵守護器官を手にして、自分の左胸に埋め込む。
――そうだ。いつだって、勝利の鍵はここにあった。何度繰り返しても、支えてくれた。何度身体が壊れても治してくれた。いつでも、何度でも。幾星霜、繰り返される地獄の中で。
この胸の、勝利の鍵だけは裏切らなかった。いつだって、肝心な時に限って、自分の窮地を救ってくれた。当たり前のように、そこにあった。
もう二度と、失うものか。二度と忘れるものか。
自分を立ち上がらせてくれた、女神たちの笑顔の為に。
「大魔導師……俺の前に立つんじゃねぇ。テメェの背中は見飽きた!」
「ほう? 随分といっちょまえなことを言ってくれる。いつから俺を超えたと錯覚した?」
エヌラスが前に出る。だが、大魔導師はにやけながらその隣に並んだ。――いつだって、向かい合ってきた。向き合ってきた。時には全力でぶつかり、つまらない喧嘩をしたり、殺し合いもしてきた。それでも、肩を並べた事などほとんどなかった。
全てを諦めた男を超えるために。何一つ諦めない男を引っ張るために。
いつだって、平行線を辿っていた。
「貴様には、俺の隣に立つ権利をくれてやる。光栄に思え?」
「ほざきやがれ、大魔導師。テメェを超えてやる日は遠くねぇ!」
『
そして――今。
パープルハートとホワイトハートの前には、二人の師弟が立っていた。
ブラッドソウル。
ネクロソウル。
アダルトゲイムギョウ界の全てを滅ぼそうとした大魔導師が、ゲイムギョウ界を救おうとするエヌラスと共に、絶望へと立ち向かおうとしている。
ヌルズ・エクス・モルテス――絶望の邪神。終焉の凶兆。誰にも望まれないモノ。
「お引き取り願おうか、絶望。俺は貴様を呼んだ覚えなどない」
「ならテメェの隣に立っている俺になんか一言」
「バカ弟子」
「クソ師匠」
憎まれ口を叩きながら、偃月刀と黄金の十字架を構える。そんな二人の隣に、パープルハートは並んだ。ホワイトハートも、唇を尖らせて不満そうにしながらも。
「……大魔導師。てめぇは嫌いだ。だけど、ルウィーの為だってんなら、協力してやる」
「温泉旅行の途中だからな。壊されては困る」
「エヌラス。わたしがついてるわ……いつでも」
「ああ、ありがとよ。それは――負ける気がしねぇな」
四人を前にして、ヌルズ・エクス・モルテスは呆れた白い吐息をつく。
「ほとほと、呆れるバカさ加減だな。無駄だと言っているだろうに――だが」
左手を持ち上げて、自らの顔を覆う。笑みを隠すように。
「今しばらく、貴様らの遊びに付き合ってやろう」
突き出した左手に、黒い霧が収束する。渦巻く神気と瘴気、邪気はやがて小さな結晶体へと形作られていく。
赤黒い双角錐――ゼロクリスタル。
「世に神あらば神を断つ――“
口決を結ぶ。邪神の姿を隠す、赤い血の装甲。鎧武者のような、鮮血の悪鬼――“
「この世に救いなどあるものか! 絶望せよ、いずれ廃り滅び忘れ去られる女神達! しかして希望せよ、地獄の輪廻に囚われた神格者! その輝きこそが自らを殺すのだと知るがいい! 我が名は忌み嫌われた、忘れ去られた。故に名乗ろう! “デッド・エンド・ソウル”と! 俺こそは全てを
ヌルズ・エクス・モルテス=デッド・エンド・ソウルが太刀を手に担いでいる。
その左目が、金色の輝きを灯す。赤と金のオッドアイ。不釣り合いな程に輝きを増す左目に、ブラッドソウルとネクロソウルは眉をひそめた。
その眼は――、次元神セロンの奪われた眼だ。
「テメェ……!」
「ああそうだ。貴様を殺す為だけに、俺は次元神の力を奪ったのだ。抉ったのだよ、この手でな。次元渡航能力を用いて貴様の持つ全ての可能性を殺してきた。貴様の“あり得た”可能性の全てを。総てを。凡てを――この手で、殺し尽くしてきた! 貴様で最後だ、出来損ないの絶望! 偽りの旧神! 疾くと滅び去るがいい、最弱の魔人!」
「だったらテメェにはこの一言だ。――断固拒否だ、テメェがくたばりやがれ! 俺が失うものなんか何もねぇ。だがな、
「まぁ……そういうわけだ、デッド・エンド・ソウル。こいつに負ける俺ではないぞ?」
「あなたが全てを終わりに導く邪神なら、わたし達が倒すわ。超次元の守護女神として!」
「やるぞ、ネプテューヌ! エヌラス! 大魔導師の野郎は放っておくとして!」
「ほう? 小柄ながらに放置プレイとは中々にマニアックだな?」
「テメーは緊張感ねぇのかよ!」
「冗談だ」
静かに笑うネクロソウルが、血塗れのブラッドソウルが、太刀を構えるパープルハートが、戦斧を担ぐホワイトハートが――、最後の邪神と衝突する。