超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
プラネテューヌ沿岸、リーンボックスを望む海岸までグリーンハートとアルシュベイトの二人は到着した。ここまで、ほとんど武装企業からの妨害は無かった。どうやら、本気で大魔導師の狙撃による壊滅的打撃が響いているようだ。
「驚くほど静かですわね……」
《ソラからのデータによれば、展開されていた艦隊総数三百。俺とエヌラスで轟沈させた艦がおおよそ三十》
「大魔導師の狙撃では?」
《一撃で二百隻規模だ。それ以外に、津波による損害、渦に呑まれた艦も含めれば、残っている艦隊は三十隻といったところか》
「もう全部大魔導師一人でいいのでは?」
《リーンボックスを沈ませることになるがいいのか?》
「ダメですね。しかし、どうしますか」
ふむ、とアルシュベイトは唸る。網膜ユニットで距離を計測、ズームしていくと、敵の艦隊に動きがあった。主砲をこちらへ向けている。
《グリーンハートは直上、高高度よりリーンボックスへ帰還。そのまま教会を目指してくれ》
「あなたは?」
《どうやら俺の歓迎会があるらしい》
背面武装ラックが持ち上がり、片刃型長刀を掴んだアルシュベイトが不敵な一言を残して遠方を見つめていた。それに視線を続かせると、砲煙が見える。グリーンハートはすぐに上昇し、アルシュベイトの言葉通りに高高度よりリーンボックスを目指した。
踏み込み、長刀を下からかち上げる。飛んできた砲弾が着弾、至近弾二発――うち一発は、超重量の長刀によって斬り落とされた。
《今の一撃、宣戦布告とみなした! 正面より臨ませてもらおう!》
腰部跳躍ユニットの推進剤を吹かし、アルシュベイトが残存艦隊へと突撃を開始する。駆逐艦による主砲を着弾予測から回避して、網膜ユニットで忙しなく周囲の状況を索敵。洋上に浮かぶ残骸の多い方角へ進路を変更。相手もそれを追撃してくる。
ひん曲がった鉄骨、辛うじて浮かぶ艦橋、油の浮かぶ海面を蹴り飛ばして、アルシュベイトが跳躍した。その水柱を見て着弾確認――安堵したのも束の間、背面飛行から海中の状況を確認した鋼鉄の脚部が“着艦”する。
その衝撃によって、再び浮上を開始する轟沈した軽巡艦。船体を軋ませながら、海中の残骸と衝突を繰り返して。その甲板でアルシュベイトは長刀を突き立てる――“剣礼”の傍ら、膝立ちから中隊支援火器である《トーネード》を手にする。
軍事国家アゴウでは標準的な狙撃銃であるが――そのサイズは、機械人類にリサイズされている。採用されている弾薬も、弾種も、全て機人専用に調整されている。以前は、数が十分に用意されていなかった為に採用が見送られていた。だが、今となってはアゴウの標準火器となっている。
それだけ、犠牲を払ってきた。それだけの機人が今、アゴウには参入している。
一度は命を失い、護国の為に機械の身体を得た戦士達。
アルシュベイトはバイポッドを展開してその場に伏せる。網膜ユニットと
当てにくい的よりも、確実に当てられる的を狙う。百発百中の狙撃は“人間時代”でも群を抜いて驚かれたものだ――。アルシュベイトは感傷と共に引き金を引いた。
徹甲弾によって海面ギリギリの装甲を撃ち抜かれた駆逐艦に、更に数発撃ち込むと、アルシュベイトは立ち上がって長刀を掴んで跳躍ユニットを点火。再び沈み始めた軽巡洋艦から離脱。
《何をしている、次弾装填急げ!》
《第二ブロック被害甚大! 浸水してるぞ!》
トーネードの弾丸を撃ち込まれた駆逐艦が徐々に動きを鈍らせていく。無力化を確認したアルシュベイトは進行の勢いを止めず、他の艦よりも一回りも二回りも大きな敵艦へ着艦した。
平坦な甲板は、滑走路も兼ねている。空母、ではあるがそこにあるべき戦闘機は見当たらなかった。
《……》
アルシュベイトに背中を向けている白い機体。羽根を広げたスタビライザー、標準機体のジェラルドは振り返ると、機体表面を覆うエネルギーシールドを展開する。
《そちらの軍には、規範というものが無いのですか?》
《逆賊相手に礼節など不要、と教えているのでな。何か不満があるのか》
《我々を国家に仇なす逆賊と?》
《貴様らの愛国心は妄執に取り憑かれた侵略行為だ。違うか》
《……なるほど。生きやすいものですね、羨ましいものです》
右手のライフルを突きつけるジェラルドに、アルシュベイトは長刀の切っ先を突きつけた。
《そのような得物で私と、武装企業役員ナンバー5であるこのジェラルドと交戦を?》
《なら貴様はその豆鉄砲でこの軍事国家アゴウ国王、アルシュベイトに太刀打ちできると?》
《随分と自信があるようで》
《なら道を譲るか、臆病者》
ジェラルドがライフルの引き金を引くと同時に、アルシュベイトが弾丸を切り払う。サイドブースターで視界から消えるジェラルドに、その場で反転しながら長刀を振るう。二度弾丸が切り払われる。
《なっ――!?》
《浅ましいものだな、ジェラルド》
弾丸に合わせて振るわれる長刀――本来は、そのような使用用途は想定されていないはずだが――アルシュベイトは左肩の武装ラックから突撃砲を持ち出すと、引き金を引く。こちらも機人専用に調整されている為に、生身の人間相手に使用されるのは躊躇われる口径をしている。
《貴様らに愛国心があるだと――この程度でか。こんな程度で、己の愛の証明などと、女神への愚弄にも程がある》
《貴方に何が分かる! 我々ハァドラインの、何が!》
《ああ聞き及んでいるよ。女神信仰の狂信者とな。どれほどのものかと期待したが……》
だが相手は同じ機械。アルシュベイトは躊躇なくジェラルドに向けて突撃砲を撃つ。
《ならば、改めて問おう。ジェラルド。武装企業役員ナンバー5。貴様らの弾丸と凶弾、なにが違うというのだ》
《…………》
《見返りを求めての信仰か》
《違う……》
《他者を傷つけてでも得るべき信仰か》
《違う――》
《ジェラルド。貴様も機械の身体ならわかるだろうに》
突撃砲の反動を苦もなく抑えつけ、潮風ひとつ感じない身体。
鋼鉄の指先。鋼の体躯。機械の脚。余すところなく、その身体は凶器で満ちている。
《俺達機械は――
《――、それでも私達は。女神グリーンハート様を愛しているんだ!》
《うつけ者が! ならばそう叫ぶだけでいい! 愛を叫ぶのに銃などいらんッ!》
《だが、この想いが届かなければどうする!》
《届かぬからと銃を手にした貴様の負けだ!》
ジェラルドがライフルの弾倉を撃ちきった。
《届かぬならどうするかだと? 勝ち取るだけの話だ。俺はそうした。実行した、そして――最強の称号を女神直々に参拝した。それがどうした》
《それは、貴方の詭弁だろうに》
《詭弁だろうが妄言だろうが戯言だろうが、実行しない貴様が言えた言葉ではないだろう》
《…………それは勝者の言葉だ》
《いいや、敗北から立ち上がった敗者の言葉だ》
――女神の姿をひと目見たその時から、心奪われた。なんて強い生き方をする人なのだろう、と。誰よりも強く、誰よりも輝かしいその生き方にアルシュベイトは虜になった。だから、誰よりも強くなろうと誓った。何度敗北しても立ち上がると。
最強であろうとしたのだ。国の誰よりも強く在ろうと。
守護女神の愛した国を、愛したものを共に守る為に。
《強い方だ、貴方は。どうやら私では勝てそうにない》
《ジェラルド。ならば武装企業代表取締役へ取り次いでくれるだろうか、俺とて時間が惜しい。手短に済むならば、それに越したことはない》
《……社長は、リーンボックスの中でも指折りの曲者ですよ。それに挑むと?》
《もとよりそのつもりだ。狂信の首謀者、相手にとって不足なし! 軍事国家アゴウ最強の国王アルシュベイトが面会を所望していると伝えておけ》
ジェラルドは銃口を下げて、傷一つつけることの叶わなかったアルシュベイトの隣に降りる。そして、手を差し出した。握手に応じて、アルシュベイトは言葉もなくリーンボックスへと直進する。遠ざかる背中を見て、ジェラルドは社長へと通信を繋いだ。
《申し訳ありません、社長。私の手に余る相手です。貴方にお譲り致します》
《本気で言っているのか、ジェラルド?》
《ええ。ご要望でしたら追撃いたしますが、相手は貴方に面会を所望しております》
《ハッハッハッハッハ! そうか! そうか、そうかそうか! ギャーッハッハッハ! それほどの相手、俺に譲ってくれてありがとう、グッジョブだ! ジェラルド、次の役員会議じゃお前にボーナスでも出しておくか》
《光栄です》
《まぁ、俺達に“次”なんてないんだがね。引き続き洋上の瓦礫除去作業に移ってくれ》
《了解いたしました、ではそのように。明後日までには》
プレジレントとの通信を切り、ジェラルドはアルシュベイトの言葉を繰り返す。
《……愛を叫ぶのに銃は必要ない、か。だが、こうでもしなくては我々に存在意義などない。私たちは戦うために生まれたのだから》