超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
リーンボックスの港へ着地したアルシュベイトは、周囲の状況を確認する。敵影、無し。むしろ大艦隊の展開とは裏腹に、港町は平和そのものだった。通常業務に精を出しているリーンボックス国民の皆様が素っ頓狂な顔をしている。
《不躾ながら、失礼。武装企業本社はどちらの方角ですか》
「え、あぁ……それなら、ほら」
フォークリフトに乗っていた作業員が指し示すのは、リーンボックスの中でも一際目立つビル――ビル? と言っていいものなのか非常に危ぶまれる物体。
大口径主砲。六枚の甲板。リーンボックスの軍事産業の大半を担っているという武装企業本社は、名前に偽りがなかった。本社ビルがすでに臨戦態勢を整えている。周囲の子会社とは連絡橋によって連結されており、そのシルエットはさながら“沈黙した要塞”のようだ。
静かな威圧感を放っているが、老朽化が最近では問題になっている。その年季がまた一役買っていた。
「あそこの、中央が本社ビル。しかし、グリーンハート様も先程教会の方角へ向けて飛んでいきましたけれども……」
《此度の件、私はあくまでも協力者という形で同行しています。もし、よろしければ武装蜂起から、どう過ごされていたかお聞かせいただきたい》
「え? ああ、構いませんけれど。特にこれといって。俺達の生活はいつもどおりでした」
「そうそう。まぁ、あの教会占拠放送は驚いたけれども。その後すぐにアームドソウルスの社員たちが『これはあくまでも予行演習であって、我々が突発的に行ったものである』って」
《ふむ……》
会社の悪評など気にしない性質なのだろう。そんな言い分でリーンボックスの国民が納得するとも思い難いが――。
「グリーンハート様が他の三女神に戦争ふっかけるようなことはしないだろうし」
「そうそう。条約も結ばれてるしな。武力によるシェアの争奪は禁止って」
「それにグリーンハート様ならなんとかしてくれるだろうと信じてました。武装企業がいかに強大な組織とはいえ、三国と戦争するなんていくらなんでも無理ですよ」
アッハッハと笑いながら作業員達は武装企業のあまりの無謀さを笑っていた。どうやら、杞憂らしい。アダルトゲイムギョウ界とは違うのだな、とも。それが羨ましくもあり、寂しくもあった。
《情報、感謝する》
「ところで、あなたは?」
《軍事国家アゴウ“国王”アルシュベイトだ。武装企業代表取締役との面会が楽しみだ》
会釈して、離れたところから跳躍ユニットで港を後にする。その背中を見送った作業員達が間の抜けた顔をしていた――今しがた会話していたロボットがまさか一国一城の主であるとは思うまい。
リーンボックス市街の生活は、驚くほど平和だった。通常運転、通常業務。だが、街のあちこちで見かけられるロボット達の数が普段よりも多い。アルシュベイトの姿を見かけると安全装置を外しはするが、警告のみに留めている。だが、包囲されても視線は武装企業本社ビルを見上げていたアルシュベイトだったが、周囲を取り囲んでいたロボット達が離れ始めたことでようやく周りを見渡した。
そこへ、武装を外した状態の機体が一機。ゾディアック隊の生き残り、ナンバー5だった。
《お待ちしておりました。貴方がアルシュベイト国王ですね》
《確かに。そちらは》
《私は武装企業実働部隊ゾディアック隊所属、ナンバー5のレオ。貴方を迎えるようにと仰せつかっています》
《良い社員に恵まれているな。こちらとて負けてはいないが》
《ご謙遜を。そちらの軍事力には驚かされています。……ところで、護衛は?》
《必要ない。俺一人だ》
《……随分と無防備な》
レオの指示に従ったロボットが二体、アルシュベイトの左右から銃口を構える。だが、ライフルを掴むなり反対側に投げ飛ばして長刀で二体まとめて叩き斬った。
《満足か?》
《――これは、とんだ失礼を》
《構わんさ》
武装していないことだけが悔やまれる――これほどの強敵、他にいるものか。
本社ビルに案内しようとした矢先、社長からのプライベートチャンネルが繋がれる。その内容に頷き、アルシュベイトにそちらを向くように指を差した。
網膜ユニットの望遠レンズの倍率を最大化させる。本社ビルの社長室。窓際に立ち、腕を組んだプレジレントが立っている。
モノアイカメラと網膜ユニットの視線が、遥かな距離を隔てて衝突していた。今だ見ぬ強敵を先んじてひと目だけでも見ておきたい、それがプレジレントのビシネスにおけるマナー。
言葉よりも先に。銃口よりも先に。何よりもまず、相手を見たい。
プレジレントはアルシュベイトを一目見たその瞬間に感じた――武神の彫刻だと。
アルシュベイトはプレジレントを一目見たその瞬間に感じた――狂信の首謀者。はたして己のその見解は正しいものか。
《――キャロライン。テレビの用意を》
『本気ですか、社長?』
《ああ本気さ。千載一遇、いいや――二度とない機会だ。機械だけにな、ギャハハハハ!》
『面白くない冗談です。では、放送の用意を進めておきます。会場はどちらに?』
《なにを言っているんだ、キャロりん。生放送に決まっているだろう! 俺と、アイツの出会いから別れまで驚きのドキュメンタリー映像でゲイムギョウ界中に放映するのさ!》
『了解しました。――セッティングが完了しました。いつでも放送できます』
《ハハ、手が速くて結構! 仕事が速くて大満足だ! 電波ジャックもお手の物だな!》
『貴方の無茶に付き合わされてばかりでしたので、これくらいは』
キャロラインの言葉に、プレジレントは大笑いした。機械でありながら、自己学習人工知能でありながら、感情の起伏がある。それは設計されていないプログラムから得た自我。果たしてそれは暴走しているのか。
《なら、こちらから堂々と宣戦布告を申し上げようじゃないか。キャロりん、カウントよろしく頼んだ》
『わかりました、社長。くれぐれも、口を滑らせるような真似は止してくださいね?』
《口にチャックが付いていればよかったんだがね》
プラネテューヌに、ラステイションに、ルウィーに――リーンボックスに、プレジレントの放送が響き渡る。社長室からの生中継。短時間でゲイムギョウ界の電波ジャックが完了したのも、予めキャロラインが下準備を開戦した日から進めていたおかげだ。
濃紺の機体色。左肩には星条旗柄――を、模した撃墜数のエンブレム。背面に背負った一対の大型バックパックコンテナ。それに挟まれる形で大出力スラスター。
『よーぉ、ゲイムギョウ界のみんな! ハッピーライフをエンジョイしているかい? 俺は武装企業代表取締役、マーイ、ネーム、イーズ……プレジレントッ! おっと、
いつものおちゃらけた様子で、プレジレントは話を切り出した。それが、ゲイムギョウ界全てにおける敵対行為でありながら。グリーンハートも教会を目前にして、その放送に足を止めた。
『さて、まずは各国の健闘を讃えようじゃないか! まずはプラネテューヌ! うちの特殊部隊のひとつであるイエローマッド隊が壊滅だ! 流石、国境防衛隊は仕事が違うな! もちろん女神パープルハートとその妹も! お次はラステイションだ! ゲイムギョウ界トップシェアを誇る女神ブラックハートはさぁすが、撃墜数が違う。驚いているよ。立派なものだ』
モニターに映し出される重量型機体はその鈍重な外観から想像つかない軽快さでジェスチャーを交えて歩き、動き、諸手を叩く。
『うちのレッドクレスト隊もブルーミラージュ隊もおしゃかだ。いやはやまったく、どっからそんな戦力引っ張り出してきてるのか今度是非教えてもらいたいね! 最後はルウィーだ! 聞こえてるかーい、女神ホワイトハァートッ! ゲイムギョウ界大陸横断キャンペーンは前人未到だったろう? 刺激的だったが、残念なことにそちらへの侵攻作戦は届かずじまいだ、失敗に終わったと言っていい! お疲れ様だったな、守護女神諸君! こうして今日も俺達のゲイムギョウ界は平穏無事、世は事も無し!
とても機械とは思えないハイテンション。その放送を見ていた人々がモニターに釘付けにされている。
プレジレントはカメラに背中を向けていた。
『……そして、リーンボックス――――』
静かに口火を切る。振り返り、カメラに向けて大股で近づいてきた。
『俺達の愛するリーンボックス、俺達の愛する女神グリーンハート様! まずは、おかえりなさいだ! 教会はちょいとばかりうちの連中が占拠しちまってるが、そこはそれ。どう取り返してくれても構わない。説得も良し、武力行使も良い! 俺としては惚れ惚れする鮮やかさで取り返してくれると信じて止まないぜ! ハァドライン、アームドソウルス、
拳を突き上げて高らかに宣誓し、プレジレントは一拍の間を置く。
『と、いうわけにはいかない。なぜなら俺が戦っていない。武装企業代表取締役である、この俺がまだ残っている。俺達は負けていない。俺達の魂はまだ負けていない、燻ってばかりだ。何故だ? それはなぜか――答えは至極単純だ。
違うか、そうだろう! そのはずだ! お前だってそのはずだ、アダルトゲイムギョウ界最強の国王、アルシュベイトッ! 別次元から遥々リーンボックスへよく来てくれた! 俺達はお前を歓迎するぜ、盛大にな! 一目見た瞬間から惚れちまった! なんて野郎だ、お前は! ハハハハハハハハ――――!』
プレジレントの放送を、アルシュベイトは腕を組んで聞き入っていた。
『俺と面会を所望しているらしいな? だったら、いいぜ。来いよ、ここまで! お前にその力があるなら……証明してみせろ。その“最強”の称号ってやつを!』
指を鳴らす。次の瞬間、カメラにノイズが走った。リーンボックスに異変が起きる。
あらゆる兵器群が隊列を組んで市街を、上空を、武装企業の全てがアルシュベイトへ牙を向いた。
『当社自慢のイカした商品を紹介するぜ! まずはこいつだ、アブラ艦! 驚きの動く生産工場だ。中身を開けて驚くなよ? お次はグレートウォール! 防衛戦力でこいつに敵う防壁は無いね、自負してる! 装甲列車! 当社の最速最強安心安全設計だ! 轢き殺されるマヌケなやられ方はしてほしくないな』
本土防衛戦力を一身に向けられたアルシュベイトは腕を組んでいたが、首を横に向ける。――街灯を目にして、長さを測っていた。
『そして、アンサー! 見えるかい、あの浮遊要塞! 本当は空中ライブ会場として式典向けに用意された施設だったが、悪いな。あまりに魅力的だったもので改造させてもらった。ちなみにどうやって浮かんでるかは企業秘密だ! それとゲイムギョウ界トップアイドル、スーパースター5pb.ちゃんの新曲もよろしく! この戦いが終わったらライブで心を癒やしてもらうといい、魂が震える素敵な歌声だ! チケット販売は――まだ先か。残念だ』
その辺りを弁えている点、テロリストである以前にビジネスマン根性が窺える。
『そして――最後はコイツだ。軍事企業アームドソウルス最高傑作――武装企業の始祖鳥』
重く、鈍く、ゆっくりと――武装企業本社ビルが稼働を開始した。連絡橋を補強する鋼鉄の担架。連結された子会社から展開される砲台の数々。
本社ビルが“立ち上がる”姿は眠りから覚めたかつての威光。
和平協定が結ばれるより以前、武力によるシェアの争奪の時代。リーンボックスの防衛戦力の筆頭として挙げられたその名前は。
『時代遅れと笑うがいいさ。俺達の原点だ――要塞企業、武装要塞、移動砲台。偉大なる母のお目覚めだっ! グランドマザーウィル! 予算の都合で改装に手が回ってないせいで会社の老朽化が著しくてね、リフォーム会社は随時募集中だ。言い値を出すぜ!』
手を叩き、プレジレントは締めくくった。
『俺はここで待ってるぜ! 逃げもしない。隠れもしない。男らしく、正々堂々と真っ向から来てくれ! 面会希望なら正面エントランスから受付カウンターを通してくれよ? 予定は空けておくからな』
そして、リーンボックスの街に設置されている監視カメラがアルシュベイトの姿を映した。それに街頭の大型モニターを見て、自分が映っている姿を確認してから監視カメラを探す。間もなく見つけると、静かに、だが確かに、深く頷いた。
背中の武装ラックを持ち上げる。長刀を手にすると、街灯を切り落とす。そこからさらに頭を切り落として、手頃な長さに切り分けた。一メートル弱。短槍、槍投げに適した長さ。
レオが何をしているのか理解出来ずにいると、本社ビルに向けていた。予告ホームラン、からの――逆手に持ち直したアルシュベイトが踏み込む。
《――チェェェェストォォォォオオオオオオオオッッ!!!!》
そして、唸りを上げて街灯が本社へ向けて投擲された。踏み込んだアスファルトはヒビ割れ、アルシュベイトの咆哮がガラスを粉砕し、風圧の勢いで砂塵が舞う。
百、二百、三百……本社ビル社長室。防弾ガラスを打ち破り、プレジレントは自分を掠めて天井へ突き刺さった街灯を見て。アルシュベイトを見て――二度見して。
残心。その後に自分を映している監視カメラに指を突きつける。
『今のは俺流の宣戦布告だ。貴様の挑戦、正面より受けて立つ』
そして、サムズダウン。
『そこで待っていろ。武装企業代表取締役、プレジレント。叩き落としてやる』
長刀を担ぎ、アルシュベイトは歩み始めた。不退転の進撃に偽りなし――。
武装企業の兵器群を前にしても臆する理由など何処にもない。
墓標は此処だ。いつだって
俺の愛が死んだ日が、俺の命日なのだ。
アルシュベイトが駆け出す。今だ刃を交えぬ宿敵を目指して、最前線の戦場を。