超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
別行動を取り、リーンボックス教会を目指すグリーンハートはようやく到着して――言葉を失った。
教会が、あろうことか違法改造されている。白く、神々しさすら感じられる教会はもはや要塞と違法改築待ったなし。ミサイルやらマシンガンやらトーチカやら……手当たり次第に武装されている状態となっていた。
その護衛につけられていたグリムリーパー隊が、三機。
狙撃型逆関節。教会のてっぺんでスナイパーカノンを構えている。
重装型タンク。アームドビットを引き連れて待機していた。
そして――青い機体。左手にマシンガン。右手には高出力エネルギーライフルを持っていた。
《来たか。女神グリーンハート》
「あなた達……これは一体、どういうことですか説明してもらえますか」
《ご覧の通り。我々が教会を占拠させていただいた。もちろん、それらしく改造も》
「趣味が悪いですね、これでは教会というより――要塞ではありませんか」
ホワイトハウスならぬブラックハウス。笑いもこみ上げてこない。ただ呆れるばかりだ。
「武器を捨て、投降するというのであれば猶予は与えます。御一考のほどを」
《…………》
グリーンハートの慈悲深い言葉に、しかし。グリムリーパー部隊は武器を構えた。機体の中にはまだ武器を捨てるか迷っている者達も多い。
「……何故ですか」
《グリーンハート様。貴方は確かに、我々の敬愛するべき方だ。信仰するに相応しい女神……ですが、ならば。和平協定が結ばれた今――我々は、一体どこへ行けばいい? 私たちはリーンボックスが軍事国家であった頃に造られた。時代は変わった。人々は闘争を求めてはいない。だが私たちは違う。私たちは――戦う為に生まれた。戦うためだけに造られた。そんな私達に、貴方は何処へ行けというのか》
それは、戦闘用に造られた機械らしからぬ独白。けっして高度な人工知能の技術力だけでは成し得ない到達点。
「あなた達、感情が……?」
《そんなものはない。だが、疑問だったのだ。人々が平和を求めるのならば。もしも我らの存在が不要であるのならば。一体、私達は何のために生まれたのか。答えてくれ、グリーンハート。リーンボックスの守護女神。我ら狂信の偶像よ》
「……いかに平和な時代が訪れようと、あなた達は必要なのです。何のために戦うのか。それが最も大事なことではないのですか?」
グリーンハートが長槍を突きつけて屋上に陣取る機体を差す。だが、相手からは投降の意思が見られない。
《そんな私達の居場所を奪ったのは、他でもない貴方だ。和平協定を結んだあの日、我々は裏切られた。少なくとも、そう判断した》
《貴方にそのつもりが無かったとしてもよ。私達には此処しかないの。戦場だけが、私達の居場所だった。だけど、それを、貴方は――》
《だから我々はプレジレントと共に武装蜂起した。決起したのだ。我々の戦いは、我々ハァドラインのやり方で決着をつけるのだと》
「その為に――こんな無謀な作戦を?」
《女神グリーンハート! 貴方が我々を不要と言うのならば、せめて! 貴方自身の手で我々を裁いてもらいたい! 愚かな反逆者として! 醜い愛国者として! その手で決着を!》
「……わかりました。わたくしとてリーンボックスの守護女神、全力であなた達の反逆に決着をつけさせていただきます!」
その言葉に、グリムリーパー隊は顔を見合わせ、頷いた。
これでいい。これでいいのだ……、我々の愚かな反逆も醜い愛国心も、戦うための存在も何もかも、もはやこのゲイムギョウ界には不要な存在。
守護女神に、国民に必要とされないのであれば、せめてその清算くらいは後腐れのないものであってほしい。それは、そう――歴史に残る惨劇を引き起こした事件の加担者として。晴れやかな女神の未来に福音を。
《…………おーい、クソメガネさーん。まだかよぉ、はよなおせよぉ》
《メガネさーん、早く治してくれませんかねー》
《すまない、インタースカイ国王……我々の力が及ばないばかりに》
「よーし、そこのゼロスリーとゼロツーは後回しだ。ゼロワンだけ先に直そう」
ラステイションの駐屯地。そこでは、包帯だらけの琴霧ソラがあぐらをかいてノートパソコンを広げていた。
邪神との交戦によってインタースカイのマザーコンピューターと接続障害が発生し、現在は大幅に通信機能制限が発生。その復旧作業には時間を要する。だが、現状でアゴウの機人達をメンテナンスできるのはソラだけだ。機人調整用のタンクと医療用フォートクラブも用意できたのは三機が限界だった。次元間光速通信回線もその速度が大幅に低下、アダルトゲイムギョウ界から引き出せる物資も当初の三割に満たないレベルで深刻な障害が発生している。
ステラが今頃てんやわんやと頑張っている姿を思い浮かべて少しだけ心和ませながら、ソラはキーボードを叩く手を止めない。
全高六メートルの医療用フォートクラブは機人調整用に設計されているが、レスキュー作業にも適用される。三機中、二体はラステイションの各所で人命救助に駆り出されていた。一体はソラの近くでトライデント分隊を治療している。ワンハンドレッドの機人は、修復可能、つまりは生存者が二十名を切っている。ほぼ壊滅していた。それ以外は邪神との交戦によって全員が死亡している。
ソラは手元を動かし、ゼロワンの各所の損傷を見ながら考えていた。そもそも、機人の動力源は何か? それは、簡単に言ってしまえば“魂”あるいは“精神力”である。ではそれが何処に格納されているか。
「…………神経伝達ケーブル、何箇所か切れてるね。こちらで確認できる損傷としては、右腕から左脚。左手は親指を除いて動かないようだけど、他にあるかい。ゼロワン」
《目立つ損傷はそれくらいだろうか? 私としては戦闘に支障が出なければ、外部装甲の修復作業は後回しでもいい》
「そうはいかない。人体で言えば傷ほっぽってるようなものだからね」
僕みたいに、と付け加えてソラはフォートクラブの治療プログラムを入力する。動く診療ベッド、野外医療ベッド等等……アゴウの機人達からはあまり良い呼ばれ方をしていない医療用フォートクラブ。ソラが知っている限り一番酷い名称が『公開処刑ベッド』だ。
――公開処刑。公衆の面前で身動きを封じられてあられもない姿を晒しながら移動することからそう呼ばれている。なんだそのマジックなミラー号的な。
「というかだね、君ら。誰のおかげであの状況で生き残れたと思ってるんだ。僕が全力で拡張装備展開して防御してなかったら完全直撃コースだったんだからな? いや、あわよくば僕だけでも逃げれたんだけど……」
《やーっぱてめぇチキンじゃねーか。はよなおせ鳥メガネ》
《そういう恩着せがましいムーブメント、嫌われますよ?》
《インタースカイ国王、可能であれば跳躍ユニットの連動経路も見てくれないか? 多少、収まりが悪いというか……》
「よーっし決めた。ゼロツーとゼロスリーは明日まで放置だ。てめぇらいい加減にしろ? 誰が設計して誰の国の部品使ってると思ってるんだ」
外部装甲。皮下装甲。人工筋肉。神経伝達ケーブル。跳躍ユニット連動経路。アゴウ製の部品だけでなく、インタースカイの電子機器も使用されているだけではなく、なんと九龍アマルガムからも部品提供されている。
当初、その企画を持ち込まれた時は剣姫も渋い顔をしていた。それもそうだ。剣姫は、生きることを良しとする。それゆえに、死者を蘇らせるに等しい機械人類計画を非難した。
“見損なったぞ、エヌラス。お前がおれのアゴウをそのような目で見ていたとは!”
しかし、相手が相手だけに、アルシュベイト達はそれを覚悟していた。邪神を相手にするともなれば人の身体では限界があるのだと――ならば、例えどれだけ命の冒涜であろうとも、強く在りたい。それは一度は死を迎えた後に。
結果として、剣姫は機械人類計画を承諾した。但し、希望した者が死んだ後に限定して。
犯罪国家九龍アマルガムでも外道の中の外道の下衆の極み、魂魄転写。それは、人間の魂を機械の部品に“焼き付ける”という技術だった。生きた人間の百パーセント、その魂を焼き入れてしまえば使い物にならなくなる。だが、エヌラスはそれを可能とした。
たった一度だけ。魂を焼き入れることに耐えうる器を。それが、機人達の核となる“
エヌラスがその技術を何処で手に入れてきたのか。どれだけ尋ねても口を閉ざすばかりだったが、一度だけ口にした。――刀鍛冶から学んだ、とだけ。
ソラとしては、それが一体どうやって機械人類に繋がるのかまっっっったく理解出来なかったが、そう語るエヌラスの横顔が、とても辛そうで、泣きそうで、消えてしまいそうなほど弱々しかったのを覚えている。
なぜか、胸が苦しくなった。
どうしてか、見せたことない顔にとても罪悪感を覚えてしまった。
自分は、とてもひどいことをしてしまったんじゃないのかと。
今でも思い出す。こうして機人達をメンテナンスしていると、自分も共犯者である事を。
「…………すまない。ごめんよ、トライデント。アゴウの皆。僕のせいだ」
《突然どうした、インタースカイ国王? 謝罪は要求していないが》
「生前死んだ君達を、こうして再び機械の身体にして、また戦場に連れてきた。僕はいまだにその事を後悔している。機械人類計画に加担したことを。例えどれだけ君たちから同意を得られたとしても、僕は……自分が、間違えたんじゃないかと思ってる。自信がないんだ」
外部装甲を外し、内部装甲を開く。その中に詰め込まれている人工筋肉と、基礎骨格。フレームに内蔵されたケーブルを慎重にピンセットで取り外すフォートクラブ。その手元の映像はソラのノートパソコンに拡大されて表示されていた。機械の手術も手慣れたものだ。
「痛覚もない。感覚もない。食べることも眠ることも出来ない。その手に愛する人を抱くことも出来ない。君たちはアゴウの軍人だったが、それ以前に人間だったんだ。休暇で楽しむ趣味もあったはずだ。僕は、それを……」
《……後悔はしていない。と言えば嘘になる。私は、音楽が趣味だった。下手くそなギターを弾いたり、カラオケで仲間と笑いながら夜通し歌ったり。楽しかった》
嗚呼やはりそうなのか、とソラがうなだれる。《だが》と、ゼロワンは動かない右腕を見つめて続けた。
《機械の身体も悪くない。痛覚もない。感覚もない。食べることも眠ることも愛する人を抱くことも、歌うことも出来ないのは事実だ。それでも私は、今の身体が気に入っている》
《ああまったくだ。どっかの国王様は自由に切り替え出来て羨ましいこって。全力で叫んで、全力で突っ走って、全力で動いても、痛み知らず疲れ知らずってのは最高に気分がイイぜ》
《ゼロスリーの熱血バカな意見はともかく。自分も気に入ってます。冷え症だったもんで》
《――死んだように生きるより、私は、自分の心が生きているのだと実感している》
「……ありがとう。三人共」
《貴方の判断を、我々は自身の保身による独断とは思っていない。むしろ今、こうして良心の呵責に悩まされている貴方を見てこう判断した。“英断”であったと》
ソラはメガネを外して、熱くなる目頭を押さえる。
《おー? 泣いてんのかメガネ国王?》
《隊長、国王泣いちゃいましたよ》
《私のせいか!? それよりも早く機体を復旧させていただきたいのだが》
「決めた、ゼロツーとゼロスリーはそのまま朝まで放置してやる。ゼロワンだけ特急で快復させたらリーンボックスに向かってくれ」
《はは、私一人ではどうしようもない。そっちの二人も嫌々言いながら直してくれ。インタースカイ国王。琴霧ソラ》